2007年12月27日

マイルス・デイヴィス『1969マイルス』

1969 Miles.jpg

マイルス&芋づる式ピアニスト特集の続きです。
本来ならここで『イン・ア・サイレント・ウェイ』(記事はこちら)、『ビッチェズ・ブリュー』(記事はこちら)と来て、ジョー・ザヴィヌル特集へとなだれ込むべきなんですが(2か月前に亡くなってしまったんですよね、ザヴィヌル。ご冥福をお祈りします)、どちらもすでに紹介済み。ですから、とりあえずチック・コリアで行けるところまで行って、その後ザヴィヌル特集へと移りたいと思います。

マイルス・コンボに参加していた時代のチックは、ある意味かわいそうな存在でもあります。
せっかく憧れのマイルスに抜擢されたのに、自分の名前がクレジットされたオフィシャル盤がほとんど出ない。スタジオには何度も足を運びますが、キーボード奏者はたいてい自分一人ではなくて、前任者ハービー・ハンコックや新参者ジョー・ザヴィヌルの間にはさまれて、あんまり目立たないんです。
日々のライヴ活動ではレギュラー・キーボード奏者なのに(現在、発掘物のブートレグが大量に出回っています)、正式にリリースされるアルバムでは、その他大勢のなかの一人にすぎない、というのがチックの置かれたポジションでした。

60年代末にマイルスが率いていたのは、ウェイン・ショーター、チック・コリア、デイヴ・ホランド、新加入のジャック・デジョネットからなるクインテットでした。公式盤が1枚も残されなかったことから、ついた名前が「ロスト・クインテット」。今回紹介する『1969マイルス』にしても、1993年に日本で初めて陽の目を見た作品なので、純粋な公式盤とはいえません。

じゃあ、この時代は見るべきものがなかったのかというと、そんなことはありません。
取り上げられる楽曲こそ、〈マイルストーン〉〈ラウンド・ミッドナイト〉といった懐メロ(失礼!)がまじっていますが、耳を奪われるのは〈イッツ・アバウト・タイム〉(『イン・ア・サイレント・ウェイ』に収録)や〈マイルス・ランズ・ザ・ブードゥー・ダウン〉〈サンクチュアリ〉(1か月後に収録される『ビッチェズ・ブリュー』に収録)といったできたてホヤホヤの新曲です。
私の大好きな〈フットプリンツ〉が古臭く思えてしまうほど、ここでのサウンドは変化を遂げています。そして、それが見事にハマっているんです。

たとえば、1曲目の〈ディレクションズ〉。一聴して「なんじゃこれは???」のオンパレード。でも、これがやがて快感に変わってくるんです。
ジャックが完全にぶち切れてます。デイヴもベース版シーツ・オブ・サウンド(笑)で対抗します。暴力的なまでの音の氾濫に、私はなす術もありません。ただ口をあんぐり開けて聴き入るだけです。
ウェインがテナーを吹いていますが、これはご愛嬌。完全にかき消されています。そういえば、『フットプリンツ:評伝ウェイン・ショーター』(ミシェル・マーサー著、新井崇嗣訳)には、こんな記述が載っています。

「電化の波が押し寄せてきてからは、テナー・サックスは巨大なエレクトリック・サウンドの下に完全に埋もれてしまった」とウェインは言う。「大半のロックバンドでは、テナーは単なるバックアップのひとつにすぎない。シンセサイザーと一緒になって、ちょっとしたアクセントを加える役割しか与えられていないんだ」。そこでウェインは、電気的に増幅された音にかき消されず、自己の存在をしっかりと主張するために、楽器をテナーからソプラノ・サックスに持ち替えることを決意する。

ウェインのソプラノ・サックスがはじめてお目見えしたのは『イン・ア・サイレント・ウェイ』ですが、なるほど、そう言われてみれば、電化サウンドのなかでもはっきり聞き取れる度合いでいえば、ソプラノのほうが数段勝っているようです。個人的には、これは発見です。ウェインのソプラノに対する見方が変わりました。



Miles Davis "1969 Miles: Festival De Juan Pins"
(Sony SRCS 6843)

Miles Davis (trumpet)
Wayne Shorter (soprano sax, tenor sax)
Chick Corea (electric piano)
Dave Holland (bass, electric bass)
Jack DeJohnette (drums)

Recorded live at La Pinède, Juan-les-Pins, France; July 25, 1969

[Tracks]
01. Directions Joe Zawinul (music)
02. Miles Runs The Voodoo Down Miles Davis (music)
03. Milestones Miles Davis (music)
04. Footprints Wayne Shorter (music)
05. 'Round Midnight Thelonious Monk, Cootie Williams (music) / Bernie Hanighen (lyrics)
06. It's About That Time Miles Davis (music)
07. Sanctuary ~ The Theme Wayne Shorter (music) ~ Miles Davis (music)

[Links: Miles Davis]
Miles Davis (Official Website)
Miles Ahead: A Miles Davis Website (by Peter Losin)
Miles Davis: Missing Links (by Thomas Westphal)
Miles Davis Discography Project (@ Jazz Discography Project)
>> ウィキペディア / Wikipedia / allmusic
[Links: Wayne Shorter]
ウェイン・ショーターの部屋 (by Y. Yamada)
Dr. Morf's Wayne Shorter Page
Wayne Shorter Discography Project (@ Jazz Discography Project)
The Complete Wayne Shorter Discography
>> ウィキペディア / Wikipedia / allmusic
[Links: Chick Corea]
Chick Corea (Official Website)
Chick Corea Discography Project (@ Jazz Discography Project)
>> ウィキペディア / Wikipedia / allmusic
[Links: Dave Holland]
Dave Holland (Official Website)
>> ウィキペディア / Wikipedia / allmusic
[Links: Jack DeJohnette]
Jack DeJohnette (Official Website)
Jack DeJohnette Homepage (by Piotr Marek, Jr.)
Jack Dejohnette Collection (by ANTAIOS)
Jack DeJohnette Complete Discography を目指すページ (@ 東北大学モダンジャズ研究会)
>> ウィキペディア / Wikipedia / allmusic

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マイルス・デイヴィス『キリマンジャロの娘』

fillesdekilimanjaro.jpg

マイルス・デイヴィスのもとに去来したピアニストの特集、ハービー・ハンコックのところで終わっていましたが、久しぶりに続きを(待ってくれていた人、ごめんなさい)。

話は1968年の夏に戻ります。
マイルス・イン・ザ・スカイ』(記事はこちら)以来、電化路線で試行錯誤を重ねていたマイルスは、早くも6月にはハービーにエレクトリック・ピアノを、ロン・カーターにエレクトリック・ベースをもたせて、『キリマンジャロの娘』の制作に取りかかります。
ところが、エレクトリック・ベースに馴染めなかったロン・カーターが6月にグループを脱退。後任は一時ミロスラフ・ヴィトウスがつとめたようですが、すぐに本命デイヴ・ホランドをロンドンから呼び寄せます(6月にイギリスへツアーに出たマイルスが現地でホランドに遭遇した。この話は『お城のエヴァンス』のこの記事で紹介しました)。
ハービーは8月31日、恋人ジジと結婚して新婚旅行でブラジルへ。ところが現地で食中毒になって、帰るに帰れない。マイルスには事情を説明したようですが、マイルスはハネムーンを延期するための仮病だと受け止めた。そこで、代役としてチック・コリアをスタジオに呼びます。そして、チックがそのままレギュラー・キーボードの座におさまるのです。

ここにきて、ついにマイルスの60年代黄金のクインテットは終焉を迎えます(トニーが去るのはこの年の12月、ウェインは1969年末までグループに残りました)。
でも、しょうがないんですね。どんなにすぐれたグループでも永遠には続かない。とくに前身に前身を重ねたマイルスにとって、この面子でできることはすべてやり遂げたという思いがあったはずです。だからこそのメンバー変更なのですが、実際、このアルバムで「新しさ」を感じさせるのは、ハービー&ロンがいた6月のセッションではなく、チック&デイヴの9月のセッションのほうなんです。

ジャケットの女性は、当時マイルスがつきあっていた歌手ベティ・メイブリー。5曲目の〈マドモワゼル・メイブリー〉は彼女に捧げられた曲です。
ベティはこの年の9月にマイルスと結婚(マイルス42歳、ベティ23歳のとき。年の差なんと19歳。ただし1年で離婚しました)、ベティ・デイヴィスとして何枚かのアルバムを残しています。

 

Miles Davis "Filles De Kilimanjaro"
(Columbia CS 9750)

Miles Davis (trumpet)
Wayne Shorter (tenor sax)
Herbie Hancock (electric piano) #2-4
Chick Corea (electric piano) #1, 5
Ron Carter (electric bass) #2-4
Dave Holland (bass) #1, 5
Tony Williams (drums)

Produced by Teo Macero
Recorded by Frank Laico, Arthur Kendy
Recorded at Columbia 30th Street Studio, NYC; June 19 (#3), 20 (#2), 21 (#4), September 24 (#1, 5), 1968

[Tracks]
01. Frelon Brun (Brown Hornet) Miles Davis (music)
02. Tout De Suite Miles Davis (music)
03. Petits Machins (Little Stuff) Miles Davis (music)
04. Filles De Kilimanjaro (Girls Of Kilimanjaro) Miles Davis (music)
05. Mademoiselle Mabry (Miss Mabry) Miles Davis (music)

[Links: Miles Davis]
Miles Davis (Official Website)
Miles Ahead: A Miles Davis Website (by Peter Losin)
Miles Davis: Missing Links (by Thomas Westphal)
Miles Davis Discography Project (@ Jazz Discography Project)
>> ウィキペディア / Wikipedia / allmusic
[Links: Wayne Shorter]
ウェイン・ショーターの部屋 (by Y. Yamada)
Dr. Morf's Wayne Shorter Page
Wayne Shorter Discography Project (@ Jazz Discography Project)
The Complete Wayne Shorter Discography
>> ウィキペディア / Wikipedia / allmusic
[Links: Herbie Hancock]
Herbie Hancock (Official Website)
Herbie Hancock Discography (by Christian Genzel)
>> ウィキペディア / Wikipedia / allmusic
[Links: Chick Corea]
Chick Corea (Official Website)
Chick Corea Discography Project (@ Jazz Discography Project)
>> ウィキペディア / Wikipedia / allmusic
[Links: Ron Carter]
Ron Carter (Official Website)
>> ウィキペディア / Wikipedia / allmusic
[Links: Dave Holland]
Dave Holland (Official Website)
>> ウィキペディア / Wikipedia / allmusic
[Links: Tony Williams]
Tony Williams Discography (by ANTAIOS)
>> ウィキペディア / Wikipedia / allmusic

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2007年12月26日

『オスカー・ピーターソンの世界』

The Way I Really Play.jpg

オスカー・ピーターソンの世界』は、彼の大ファンであるというMPSの社長ハンス・ゲオルク・ブルナーシュワーのプライヴェート・スタジオで収録されました。エンジニアでもあるブルナーシュワーがみずから手がけた録音は、異様なまでにクリアで音の粒立ちがくっきりとしていて、まるで眼前でピーターソンがピアノを弾いているかのような錯覚に陥ります。
拍手が聞こえるのは、スタジオにお客を入れて録音されたから。そのことが、さらに臨場感を高めて、音の洪水を全身で浴びる快感があります。あ〜、気持ちいい〜。サイコー!

1曲目〈ワルツィング・イズ・ヒップ〉。これぞピーターソンともいうべき豪華絢爛なピアノが楽しめます。あまりのド派手ぶりに忘れがちになりますが、これ、ワルツなんです。ソロの途中で4拍子になったりしますが、3拍子でここまでノリノリの演奏ができなんて、やっぱりピーターソンはすごい!
ボビー・ダーハムも大活躍で、熱気あふれるドラム・ソロを聴かせます。ライヴなだけに、こりゃ盛り上がるわ。

5曲目〈不思議の国のアリス〉。ビル・エヴァンスやデイヴ・ブルーベックの演奏で有名ですが、こういう愛らしい曲を演らせても、ピーターソンはうまいです。
それにしても、とにかくよく指が動く。録音がよくて、細かな音まで拾ってあるから、余計にそう思うのかもしれませんが、この曲でこれだけ音数を多くして、しかもそれが違和感を生まないというのは奇跡に近いと思います。

全部聴くとお腹いっぱい。大満足のピーターソン盤です。

 

Oscar Peterson "The Way I Really Play"
(MPS 15180)

Oscar Peterson (piano)
Sam Jones (bass)
Bobby Durham (drums)

Produced and Recorded by Hans Georg Brunner-Schwer
Recorded at Hans Georg Brunner-Schwer Studio, Villingen, West Germany; April, 1968

[Tracks] 
01. Waltzing Is Hip Ray Brown, John Wayne (music) 
02. Satin Doll Duke Ellington, Billy Strayhorn (music) / Johnny Mercer (lyrics) 
03. Our Love Is Here To Stay George Gershwin (music) / Ira Gershwin (lyrics) 
04. Sandy's Blues Oscar Peterson (music) 
05. Alice In Wonderland Sammy Fain (music) / Bob Hilliard (lyrics) 
06. Noreen's Noctorne Oscar Peterson (music)

[Links: Oscar Peterson]
Oscar Peterson (Official Site)
Oscar Peterson: A Jazz Sensation (@ Library and Archives Canada)
Oscar Peterson Discography Project (@ Jazz Discography Project)
Jazz Giant : The Oscar Peterson Discography
>> ウィキペディア / Wikipedia / allmusic
[Links: Sam Jones]
>> ウィキペディア / Wikipedia / allmusic
[Links: Bobby Durham]
>> ウィキペディア / Wikipedia / allmusic

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