
スタン・ゲッツのコンコード・レーベル第2弾。ドラマーは前作と同じヴィクター・ルイス(曲によってビリー・ハート)、ピアノはジム・マクニーリー、ベースはマーク・ジョンソンという、当時のレギュラー・バンドによる録音です。『ピュア・ゲッツ
ボサノヴァの大ヒットによってチヤホヤされた60年代。しかし、その後は一度ミリオンセラーを放った者の宿命がつきまといます。いい作品をつくっても売れない。そりゃそうです。ジャズ本来のマーケットはそんなに大きくないのですから。でも、レコード会社はそうは思わない。だから、せっせとコマーシャル路線のアルバムをつくるよう要求します。
そうして、ゲッツのふだんの音楽活動と、商品としてのアルバムに乖離が生じます。レギュラー・バンドでは、ゲイリー・バートン、チック・コリア、スタンリー・カウエル、ミロスラフ・ヴィトウスら、生きのいい若手を次々と迎え、ゲッツ自身もフレッシュな音楽を展開していたのに、それがなかなか商品として流通しない。大金と名声を手にしたにもかかわらず、自分のやりたいことができないもどかしさ。ゲッツはしだいに心の闇を抱えるようになります。
80年代になって、当時はまだマイナー・レーベルにすぎなかったコンコードと契約を交わしたのは、ゲッツ流の「ストレート・アヘッド回帰宣言」です。自分はまっとうなジャズで生きていくしかないという悟り。そして、ほんとうの自分らしさを取り戻した喜び。1991年に亡くなるまでの10年間、ゲッツは最後の、そして力強い炎を燃やし続けます。
1曲目の〈オン・ジ・アップ・アンド・アップ〉。あまりの若々しさに、出だしから圧倒されっぱなしです。ゲッツ、おそるべし。
マイルスゆかりの2曲、〈シッピン・アット・ベルズ〉(Bell's というのはハーレムにあったバーの名前。sip は「お酒などをチビチビ飲む」こと。パーカー時代のマイルスの作品です。ソニー・クラークの人気盤『クール・ストラッティン』にも収録)と、バド・パウエル作曲の〈テンパス・フュージット〉(『マイルス・デイヴィス Vol. 1』のバージョンが有名です)。ゲッツらしからぬ選曲ですが、これがまたいいんです。
何度か共演したエヴァンスの〈ヴェリー・アーリー〉も演っています。
Stan Getz "Pure Getz"
(Concord Jazz CJ 188)
Stan Getz (tenor sax)
Jim McNeely (piano)
Marc Johnson (bass)
Victor Lewis (drums) #1, 2, 4, 7
Billy Hart (drums) #3, 5, 6)
Produced by Carl E. Jefferson
Recorded by Phil Edwards, Ed Trabanco
Recorded at Coast Recorders Studios, SF; Jan 29, 1982 (#1, 2, 4, 7)
Recorded at Soundmixers, NYC; Feb 5, 1982 (#3, 5, 6)
[Tracks]
01. On The Up And Up (music: Jim McNeely)
02. Blood Count (music: Billy Strayhorn)
03. Very Early (music: Bill Evans)
04. Sippin' At Bell's (music: Miles Davis)
05. I Wish I Knew (music: Harry Warren / words: Mack Gordon)
06. Come Rain Or Come Shine (music: Harold Arlen / words: Johnny Mercer)
07. Tempus Fugit (music: Bud Powell)
[Links: Stan Getz]
Stan Getz Discography (by Riccardo Di Filippo, Luigi Maulucci & Nicola Rascio)
Stan Getz Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Jim McNeely]
Jim McNeely's home page
[Links: Marc Johnson]
Marc Johnson (@ ジャズCDの個人ページ by K. Kudo)
[Links: Billy Hart]
Billy Hart Homepage (by Jeremy Jones)
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