2007年12月11日

マッコイ・タイナー『フライ・ウィズ・ザ・ウィンド』

flywiththewind.jpg

今日は肉弾派ピアニスト、マッコイ・タイナーの69歳の誕生日です。
マッコイ・タイナー(本名 Alfred McCoy Tyner)は、1938年12月11日、ペンシルヴァニア州フィラデルフィアで生まれました。

マッコイはもう宿命的にジョン・コルトレーンとの絡みで語られてしまうわけですが、この『フライ・ウィズ・ザ・ウィンド』が録音されたのは1976年。トレーン没後10年を経て、マッコイはとうとう後世に名を残す決定的名盤(迷盤?)を吹きこみます。

なにしろ「風とともに舞え」ですからね。ゴージャスなストリングスをバックにした豪華絢爛の一大絵巻(笑)。音数多すぎ、楽器多すぎの圧倒的なボリューム感。聴いているこっちが気恥ずかしくなってしまうくらいのオーバーアクション。腹を抱えて笑わずにはいられないほどのキメキメな曲調とアレンジ。いやー、ホントに満腹です。

でも、これ、実に壮快なんですよ。気分がスカーッと晴れるというか、嫌なことがあった日なんかにこれを聴くと、頭が真っ白になって、どこへでも好きなところに羽ばたいていける(笑)。この気持ちのよさは、他のアルバムからは絶対感じることができません。
ジャズは演るほうも聴くほうも少なからず頭を使う音楽ですが、肉体派マッコイは違います。実に無邪気で、ノーテンキ。むずかしいことはな〜んもありません。そこがなんともたまりません。

ご存じ、中山康樹さんが『ジャズの名盤入門』(講談社現代新書)で「名盤がヘタッていく過程を知る」と述べていて爆笑しましたが、「風化しつつも数年に一度は聴かずにはおれない抗いがたい魅力がある」との言葉に私も一票!
一見ド派手なのに、実はどこを切っても金太郎飴的なマッコイのノリは、続けて聴いたら確実にダレます。でも、たま〜に聴きたくなるんだよね〜(笑)。このゆる〜い感じが、マッコイのマッコイたるゆえんだと思います。

 

McCoy Tyner "Fly With The Wind"
(Milestone M 9067)

Hubert Laws (flute, alto flute)
Paul Renzi (piccolo, flute)
Raymond Duste (oboe)
McCoy Tyner (piano)
Linda Wood (harp)
Ron Carter (bass)
Billy Cobham (ds)
Guilherme Franco (tambourine) #2

with strings:
Stuart Canin, Peter Schafer, Daniel Kobialko, Edmund Weingart, Frank Foster, Myra Bucky, Mark Volkert (violin)
Selwart Clark, Daniel Yale (viola)
Kermit Moore, Sally Kell (cello)

Arranged by McCoy Tyner
Conducted by William Fischer

Produced by Orrin Keepnews
Recorded by Jim Stern
Recorded at Fantasy Studios, Berkeley, CA; January 19-21, 1976

[Tracks]
01. Fly With The Wind McCoy Tyner (music)
02. Salvadore de Samba McCoy Tyner (music)
03. Beyond The Sun McCoy Tyner (music)
04. You Stepped Out Of A Dream Nacio Herb Brown (music) / Gus Kahn (lyrics)
05. Rolem McCoy Tyner (music)

[Links: Hubert Laws]
Hubert Laws (Official Website)
>> ウィキペディア / Wikipedia / allmusic
[Links: McCoy Tyner]
McCoy Tyner (Official Website)
McCoy Tyner Discography Project (@ Jazz Discography Project)
Journey of The Soul: The McCoy Tyner Discography
>> ウィキペディア / Wikipedia / allmusic
[Links: Ron Carter]
Ron Carter (Official Webiste)
>> ウィキペディア / Wikipedia / allmusic
[Links: Billy Cobham]
Billy Cobham (Official Website)
>> ウィキペディア / Wikipedia / allmusic
[Links: Guilherme Franco]
>> ウィキペディア / Wikipedia / allmusic

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2007年06月15日

アート・ペッパー『ウィンター・ムーン』

wintermoon.jpg

今から25年前の今日、アート・ペッパーがこの世を去りました。生涯のほとんどをドラッグとの闘いに費やし、引退と復帰をくり返しながら、容姿のみならず、音楽性まで一変させて、最後の瞬間まで命を燃焼し尽くした男 Arthur Edward Pepper, Jr. は、1982年6月15日、カリフォルニア州パノラマ・シティで脳溢血のため亡くなりました。享年56歳。

ペッパー没後四半世紀を飾るにふさわしいのは、なんといっても最後のスタジオ録音作『ゴーイン・ホーム』ですが、これはすでに紹介済み(「追記」に共演者ジョージ・ケイブルスのインタビューを追加しました。ここをクリック)。そこで、今回は最晩年(80年代)のもう1枚の傑作、『ウィンター・ムーン』をとりあげます。

ジャズ・ミュージシャンなら誰でも一度は演ってみたいというストリングスとの共演。ヴァイオリンやチェロが奏でる甘美な旋律に身を委ねて、思いのままにプレイするというのは、たしかに気持ちのいい体験なのでしょう。とくにペッパーのような極上のバラード吹きにとって、ウィズ・ストリングス作品は夢の舞台となり得ます。

オープニングは、ペッパー自作の〈アワ・ソング〉。わきあがってくるこの感動をどう表現したらいいのでしょう。この世のものとは思えない旋律美、そこはかとない寂寥感、そしてある種の諦観。絞り出す一音一音に、激動の人生の1コマ1コマを重ね合わせるような、どこまでも深い表現力。けっして饒舌とはいえない淡々としたプレイだからこそ、そこに込められた多くの思い、そこに至ったペッパーの来し方に思いを馳せずにはいられません。いつまでも聴いていたいと思わせるペッパーの、頂点をなすバラードのひとつだと思います。

唯一クラリネットで奏でられる〈ブルース・イン・ザ・ナイト〉。バスクラじゃなくてクラリネットというところが、その昔、アルトの軽やかな音色で一世を風靡したペッパーらしくて好きですが、このクラリネットも深い。どちらも西海岸を中心に活躍するビル・ホルマンのアレンジですが、あくまでペッパーを引き立てるひかえめな編曲に思わず感謝。うまいです、この人(それと比べると、ジミー・ボンドのアレンジはクサいね、はっきりいって)。

 

Art Pepper "Winter Moon"
(Galaxy GXY 5140)

Art Pepper (alto sax) except #6 (clarinet) #6
Stanley Cowell (piano)
Howard Roberts (guitar)
Cecil McBee (bass)
Carl Burnett (drums)

with strings
arranged and conducted by Bill Holman #1, 4, 5, 6
arranged and conducted by Jimmy Bond #2, 3, 7

Produced by Ed Michel
Recorded by Baker Bigsby, Wally Buck
Recorded at Fantasy Studios, Berkeley, CA; September 3-4, 1980

[Tracks] 
01. Our Song Art Pepper (music)
02. Here's That Rainy Day Jimmy Van Heusen (music) / Johnny Burke (lyrics)
03. That's Love Art Pepper (music)
04. Winter Moon Hoagy Carmichael (music and lyrics)
05. When The Sun Comes Out Harold Arlen (music) / Ted Koehler (lyrics)
06. Blues In The Night Harold Arlen (music) / Johnny Mercer (lyrics)
07. The Prisoner (Love Theme From "The Eyes Of Laura Mars") y Karen Lawrence, John DeSautels (music)

[Links: Art Pepper]
Art Pepper Discography Project (@ Jazz Discography Project)
The Art Of Pepper
[Links: Howard Roberts]
Howard Roberts: Jazz Guitarist (by Mike Evans)

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2006年12月26日

ビル・エヴァンス『アイ・ウィル・セイ・グッドバイ』

evans_iwillsaygoodbye.jpg

エディ・ゴメスとのデュオ『インチュイション』に『モントルーIII』、男性歌手トニー・ベネットとの2人きりの共同作業『ザ・トニー・ベネット&ビル・エヴァンス・アルバム』ときて、続くアルバムがソロ作品『アローン(アゲイン)』とくれば、アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』じゃないけれど、「エヴァンス・トリオもついに解散か!」と思うじゃないですか。ところがどっこい、ゴメスはまだグループにとどまり、エリオット・ジグムンドという新たなドラマーも加わって、トリオはライヴ・パフォーマンスを続けていたのでした。

ジグムンドがエヴァンス・トリオに参加したのが1975年初頭。以来、正式な録音がないまま、2年以上の時間を過ごした彼の胸中やいかに。おなじみピーター・ペッティンガー著、相川京子訳の名著『ビル・エヴァンス:ジャズ・ピアニストの肖像』(水声社)によると、

バンドに入って二年間、一度もレコーディングをしたことがなかったのは、彼の作るアルバムが私が含まれていないある種の特別プロジェクトものだったからだ。エディとのデュオ・アルバム、ケニー・バレル、フィリー・ジョーとハロルド・ランドとのアルバム(引用者注:『クインテセンス』のこと)、トニー・ベネットとのアルバム。いつもアルバムが発売されると、自分だけが疎外されているような気がしたものさ。神様、彼とレコーディングできる機会はいつか訪れますか? と考えていたよ。

ああ、かわいそうなエリオット・ジグムンド。でも、彼の忍耐が報われるときがやってきます。トリオによる久しぶりのスタジオ作品『アイ・ウィル・セイ・グッドバイ』は、エヴァンスのファンタジー時代に幕を降ろし、晩年の美の結晶、ワーナー・ブラザーズ移籍第一弾『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング』へとつながる重要な作品です。

1977年5月録音の『アイ・ウィル〜』と同年8月録音の『ユー・マスト〜』。この2枚は、双子のような関係にあります。発売された会社こそ違いますが、メンバーは同じ、録音場所も同じカリフォルニア、タイトルにミシェル・ルグランの曲をもってきたところもいっしょです。出来はさすがに『ユー・マスト〜』に一歩譲りますが、なかなかどうして『アイ・ウィル〜』にも捨てがたい味わいがあります。

エヴァンスはリリカルな演奏のなかに刺のある音を忍ばせる名人で、一筋縄ではいかないところが彼の大きな魅力となっていますが、この双子のエヴァンス盤には、刺がありません。じゃあ、ふぬけた演奏かというと、まったくそんなことはない。毒はないけれど、ハッと耳を奪われる瞬間はいくつも訪れます。耽美的。この時期のエヴァンスにふさわしい言葉です。美しいとしか表現しようのない、エヴァンス晩年の境地です。

エヴァンスをあらためて美の探求に向かわせたルグラン作の〈アイ・ウィル・セイ・グッドバイ〉。名盤『処女航海』に収録されたハンコックの〈ドルフィン・ダンス〉。そして、ジョニー・マンデルの〈シースケイプ〉。う〜ん、美しすぎる。この音楽に言葉はいりません。黙って聴き入ってください。

このアルバムがリリースされたのは、1980年1月。エヴァンス没年に当たるその年、このアルバムは79年録音の『ウィ・ウィル・ミート・アゲイン』とともに、グラミー賞に輝きます(1980 Best Jazz Instrumental Performance, Soloist)。

 

Bill Evans "I Will Say Goodbye"
(Fantasy F 9593)

Bill Evans (piano)
Eddie Gomez (bass)
Eliot Zigmund (drums)

Produced by Helen Keane
Recorded by Bruce Walford
Recoprded at Fantasy Studios, Berkeley, CA; May 11-13, 1977

[Tracks]
01. I Will Say Goodbye Michel Legrand (music)
02. Dolphin Dance Herbie Hancock (music)
03. Seascape Johnny Mandel (music and lyrics)
04. Peau Douce Steve Swallow (music)
05. I Will Say Goodbye [take 2] Michel Legrand (music)
06. The Opener Bill Evans (music)
07. Quiet Light Earl Zindars (music)
08. A House Is Not A Home Burt Bacharach (music) / Hal David (lyrics)

[Links: Bill Evans]
The BILL EVANS Webpages
Bill Evans's Discography
Bill Evans Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Eddie Gomez]
Eddie Gomez (建設中?の Official Website)
Eddie Gomez (@ ジャズCDの個人ページ by K. Kudo)
[Links: Eliot Zigmund]
Eliot Zigmund: Jazz Drummer (Official Website)

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ビル・エヴァンス『アローン(アゲイン)』

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1968年のヴァーヴ盤『アローン』以来、7年ぶりの純粋ソロ作品『アローン(アゲイン)』です。この年の9月13日、エヴァンスに待望の息子エヴァンが生まれます。そのせいか、陰気で重苦しいエヴァンスにしては珍しく、すがすがしい作品にしあがっています。

聴きどころは、13分半を超える〈ピープル〉。この曲で、エヴァンスは心の赴くままに鍵盤をかき鳴らします。寄せては返す波のように、気持ちの高ぶりと落ち着きの間を行ったり来たりするエヴァンス。もしかしたら、これは即興演奏ですらないのかもしれません。弾いているのは、ほとんど同じフレーズです。それが、ときにはあふれるメロディーとなって押し寄せ、またあるときには引き潮のようにサーッと引いていく。

全体として揺りかごのようなゆらゆらした印象を与えますが、典型的なのは後半、演奏が何度か途切れる場面です。7分前後から徐々に盛り上がり、クライマックスを経て一度は大団円を迎えるかと思わせますが(8分3秒)、ふたたび鍵盤に向かうエヴァンス。さらに、いまひとたびの盛り上がりを経て、今度こそ終わりかと思わせておいて(10分3秒)、それでもピアノから離れようとしないエヴァンス。切れ味で勝負するエヴァンスにしては珍しい思い切りの悪さです。言いたいことを言い尽くしていなかったのか、それとも、演奏中に得られた高揚感を失いたくないと思ったのか。私は後者だと勝手に解釈しています。

 

Bill Evans "Alone (Again)"
(Fantasy F 9542)

Bill Evans (piano)

Produced by Helen Keane
Recorded by Don Cody
Reocrded at Fantasy Studios, Berkeley, CA; December 16-18, 1975

[Tracks]
01. The Touch Of Your Lips Ray Noble (music and lyrics)
02. In Your Own Sweet Way Dave Brubeck (music)
03. Make Someone Happy Jule Styne (music) / Betty Comden, Adolph Green (lyrics)
04. What Kind Of Fool Am I Anthony Newley, Leslie Bricusse (music and lyrics)
05. People Jule Styne (music) / Bob Merrill (lyrics)

[Links: Bill Evans]
The BILL EVANS Webpages
Bill Evans's Discography
Bill Evans Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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ビル・エヴァンス&エディ・ゴメス『インチュイション』

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1974年8月、ドラマーのマーティ・モレルがトリオを脱退します。ツアーに明け暮れるジャズメンのつねとして、音楽活動と家庭生活を天秤にかけざるをえないわけですが、カナダ人女性と結婚したばかりのモレルは生活をとりました。過去6年にわたって熟成に熟成を重ねてきたトリオ。気心の知れたモレルの抜けた穴を埋める人材がそう簡単に見つかるはずもはく、エヴァンスとゴメスはしばらく2人だけで活動を続けます。

全編ゴメスとのデュオ形式で収録した初のアルバム『インチュイション』。長年ともに演奏してきた仲間だからこそ、なにも考えずに「直感」でわかりあえる。エヴァンス最大の理解者であるゴメスとの共同作業は、本来なら待ちに待った作品となるはずでしたが、そうならなかった理由ははっきりしています。エレピの存在が「エヴァンス大好き、ウフッ」という感情移入を妨げているからです(笑)。

エヴァンスとエレクトリック・ピアノの出会いは遠くヴァーヴ時代にまでさかのぼります。系列の MGM に吹きこまれた『フロム・レフト・トゥ・ライト』は笑うしかない珍盤ですが、続くコロンビア時代の『ザ・ビル・エヴァンス・アルバム』では、この楽器に対する傾倒ぶりを見せつけてファンの顰蹙を買っています。

エヴァンスにエレピは似合わない。これが一般の認識だと思うのですが、実際のところはどうなのでしょう? このアルバムには、アコースティック、エレクトリック、それぞれの演奏が収められています(一部、両者を使っている)。というわけで、聴き比べをしてみましょう。

エヴァンスがエレピだけで通したのは、自作曲〈ショウ・タイプ・チューン〉と〈アー・ユー・オール・ザ・シング〉。これ、どうですか? エヴァンスといえば変幻自在のタッチがすぐに思い浮かびますが、エレピのサウンドは、彼の微妙な手の動きを再現できていないようです。鍵盤に乗せる指の重さ、鍵盤を押しこむ力加減、指を離すタイミング、ペダル操作による余韻や陰影、そういった、ひとつひとつの細かな要素の集積がエヴァンスをエヴァンスたらしめていると思うのですが、残念ながら、電気を通した音にそれを感じることはできません。

では、エヴァンスはエレピ独特の奏法を生み出したかというと、そうともいえないと私は思います。「エヴァンス、かくあるべし」という固定的なイメージの影響は否定しませんが、彼のエレピに必然性はほとんど感じられません。「わざわざエレピで演奏する必要はないんじゃないの?」というぬぐいがたい違和感は、アコースティックを弾くときとレパートリーがほとんど変わらないことにも原因があるようです。エレピにしかできない表現を追求するわけでもなく、たんなる代用品として、あるいは、珍しいオモチャとして、エヴァンスはこの楽器と戯れたにすぎない。そう思います。

この違和感は、彼の一世代後のピアニストたち、60年代半ば以降にマイルスのグループに参加したハービー・ハンコック、チック・コリア、ジョー・ザウィヌルには、まったく感じられないものです。いまやアコースティック一本のキース・ジャレットでさえ、マイルス時代のエレピ演奏に違和感を覚えることはありません。むしろ、あの時代のあの演奏にアコースティック・ピアノで挑んでいる姿を想像するほうが違和感がある。必然性というのは、そういうことだと思います。

と、ひととおりエレピの演奏を聴いたうえで、トラックナンバーを「1」にあわせてみましょう。私の好きな〈インヴィテイション〉が入っています。深みのあるアコースティック・ピアノの響きにあらためて驚くはずです。そうそう、これでこそエヴァンスです(笑)。アルバムの最後を飾るのは、同じブロニスラフ・ケイパー作の〈ハイ・リリー・ハイ・ロー〉。やさしく、たゆたうように演奏されたこの曲は、自殺した元恋人(内縁の妻)エレインに捧げられています。

 

Bill Evans, Eddie Gomez "Intuition"
(Fantasy F 9475)

Bill Evans (piano, electric piano)
Eddie Gomez (bass)

Produced by Helen Keane
Recorded by Don Cody
Recorded at Fantasy Studios, Berkeley, CA; November 7-10, 1974

[Tracks]
01. Invitation Bronislaw Kaper (music) / Paul Francis Webster (lyrics)
02. Blue Serge Mercer Ellington (music)
03. Show-Type Tune Bill Evans (music)
04. The Nature Of Things Irvin Rochlin (music)
05. Are You All The Things Bill Evans (music)
06. A Face Without A Name Claus Ogerman (music)
07. Falling Grace Steve Swallow (music)
08. Hi Lili, Hi Lo Bronislaw Kaper (music) / Helen Deutsch (lyrics)

[Links: Bill Evans]
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2006年12月18日

ビル・エヴァンス『シンス・ウィ・メット』

evans_sincewemet.jpg

70年代の幕開けと同時にヴァーヴを去ったエヴァンスは、71年、大手コロンビアと契約、エレクトリック・ピアノに浮気して物議を醸します。73年、今度は西海岸のファンタジーと契約、ここにはリヴァーサイド時代の恩人オリン・キープニュースが副社長兼ジャズ部門の責任者としておさまっていました。

同じ年、エヴァンスはネネット・ザザーラと結婚します(8月5日)。披露宴が行われたのは、エヴァンスがマイルス・グループ在籍時にコロンビア主催のパーティが開かれたプラザ・ホテル(そのライヴは『ジャズ・アット・ザ・プラザ』に収録されています)。この結婚の裏には実は哀しい物語が隠されているのですが、それについては、『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング』で書きました。

公式な録音こそ行っていませんでしたが、エヴァンスは毎年、定期的にヴィレッジ・ヴァンガードに出演し続けていました。オーナーのマックス・ゴードンがエヴァンスに
新しいハウス・ピアノの選定を依頼、エヴァンスが日本のヤマハを選んだというエピソードも残っています。

ヴァンガードでの久しぶりのライヴ盤『シンス・ウィ・メット』は、過去5年にわたって熟成を重ねてきたエディ・ゴメス&マーティ・モレルとのコンビネーションの最高到達点を記録したアルバムです。トリオのメンバーとして、最長の期間をともに過ごしてきた3人がくり出すインタープレイは、まさに円熟の極み。スコット・ラファロ在籍時のような、食うか食われるかという「殺気」はありませんが、長い時間をかけてひとつの音楽を練り上げてきた者どうしだけが共有できる一体感がここにはあります。

アルバム・タイトルともなったエヴァンス・オリジナルの新曲〈シンス・ウィ・メット〉は、新妻ネネットが曲名をつけました。2人の出会いを意味していることは、いうまでもありません。

サイ・コールマンが同名の劇のために書いた〈シーソー〉。エヴァンスお気に入りの作曲家、アール・ジンダースの〈サーリーン・ジューレ〉。アルメニア語で「山から流れる水」の意味だそうです。アルメリア人だったジンダースの奥さんが名付け親だとか。

 

Bill Evans "Since We Met"
(Fantasy F 9501)

Bill Evans (piano)
Eddie Gomez (bass)
Marty Morell (drums)

Produced by Helen Keane, Orrin Keepnews
Recorded by Michael De Lugg
Recorded live at the Village Vanguard, NYC; January 11, 12, 1974

[Tracks]
01. Since We Met Bill Evans (music)
02. Midnight Mood Joe Zawinul (music)
03. See-Saw Cy Coleman (music) / Dorothy Fields (lyrics)
04. Sareen Jurer Earl Zindars (music)
05. Time Remembered Bill Evans (music)
06. Turn Out The Stars Bill Evans (music)
07. But Beautiful Jimmy Van Heusen (music) / Johnny Burke (lyrics)
08. Elsa Earl Zindars (music)

[Links: Bill Evans]
The BILL EVANS Webpages
Bill Evans's Discography
Bill Evans Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Eddie Gomez]
Eddie Gomez (建設中?の official website)
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2005年01月25日

アート・ペッパー&ジョージ・ケイブルス『テテ・ア・テテ』

teteatete.jpg

昨日アップした『ゴーイン・ホーム』と同日録音を含む、アート・ペッパー&ジョージ・ケイブルスのデュオ作品『テテ・ア・テテ』です。この作品では、ペッパーは本職のアルトに専念しています。

『ゴーイン・ホーム』より前の録音でありながら発売が後になったのは、5月のスタジオ・セッションの1か月後の6月15日にペッパーがあの世へ旅立ったことと無関係ではないはずです。彼の死を悼むアルバムには、どうしてもあの〈家路〉が必要だった。その気持ち、わかります。だって、泣けますもん。

でも、この『テテ・ア・テテ』は、けっして残り物の寄せ集めではありません。たとえば、冒頭の〈虹の彼方に〉。ペッパーのけっこうハードな無伴奏ソロからはじまりますが、最初は何の曲か、わかりません。それが開始32、3秒あたりから徐々に弛緩して38秒でついにテーマが顔を出します。そこに寄り添うように入ってくるケイブルスのピアノ。心の中に一気に温かいものが広がります。曲の終わりも、ペッパーのソロで〆かな、と思わせておいて、最後にふたたびケイブルスがやさしくサポートに入ります。この間合いがすばらしい! 曲を終えた後に思わず漏れる「オーライッ」の声もほほえましい名演です。

『ゴーイン・ホーム』のライナーで、未亡人となってしまったペッパー夫人のローリーがケイブルスを評して「ミスター・ビューティフル」と書いていますが、そのとおり、この人のピアノの響きは美しい。黒人としては恵まれた環境で育ったようですが、クラシックの素養が随所に感じられる知性的なピアノです。

タイトル曲〈テテ・ア・テテ〉は、フランス語で「2人だけのナイショ話」といった意味(英語でいえば「Face to Face」かな?)。気を許しあった2人だけの魂の交流。いいなあ。

 

Art Pepper, George Cables "Tete-A-Tete"
(Galaxy GXY 5147)

Art Pepper (alto sax)
George Cables (piano)

Produced by Ed Michel, Laurie Pepper
Recorded by Baker Bigsby, Wally Buck
Recorded at Fantasy Studios, Berkeley, CA; April 13 (#4), 14 (#1-3,5,6), May 11 (#7), 1982

[Tracks]
01. Over The Rainbow (music: Harold Arlen / words: Edgar Y. Harburg)
02. Tete-A-Tete (music: George Cables)
03. Darn That Dream (music: Jimmy Van Heusen / words: Eddie DeLange)
04. Body And Soul (music: Johnny Green / words: Edward Heyman, Robert Sauer, Frank Eyton)
04. The Way You Look Tonight (music: Jerome Kern / Dorothy Fields)
05. 'Round Midnight (music: Thelonious Monk, Cootie Williams / Bernie Hanighen)
06. You Go To My Head (music: J. Fred Coots / words: Heven Gillespie)

[Links: Art Pepper]
Art Pepper Discography Project (@ Jazz Discography Project)
The Art Of Pepper
[Links: George Cables]
George Cables (Official Website)

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2005年01月24日

アート・ペッパー&ジョージ・ケイブルス『ゴーイン・ホーム』

goinhome.jpg

若い頃と晩年で別人のように変わってしまったという意味では、アート・ペッパーもその1人。1925年9月1日、カリフォルニア州パサデナ生まれ。1982年6月15日、カリフォルニア州パノラマ・シティで死去。

同じ男が嫉妬するほどの、完璧なまでのイイ男ぶりと、その容姿を裏切るような、小鳥のさえずりのように軽やかなアルト奏法で人気の高かったペッパーは、ドラッグにはまって数回にわたり逮捕、入獄、更生施設収容をくりかえし、60年代を完全に棒に振りました。

50年代のペッパーと70年代以降の復活後のペッパーのどちらが好きかというのは、古くからのジャズファンにとっては耳タコな話題ですが、ワン・アンド・オンリーのアルト奏者としては、間違いなく前者が上でしょう。凡才がいくら努力しても出てこないようなフレーズが、それこそ鼻歌を歌うように、次から次へと湧き出るさまは、やはり天性のインプロヴァイザーというほかありません。

ならば、どうして70年代擁護派がいるかといえば、こっちのほうが今の耳にしっくりくるから、というのが本音ではないでしょうか。50年代のペッパーは、たしかに天才的なひらめきを感じさせてくれるけれど、ふだん聞く音楽としてはちょっと違うんだよな〜。かくいう私も、ペッパーのアルバムはたいがい持っていますが、日常聴くのは70年代以降、とくに最晩年のジョージ・ケイブルスがらみの作品が多いんです。

この『ゴーイン・ホーム』は、ペッパー最後のスタジオ録音作として知られています。タイトル曲は、チェコの作曲家ドヴォルザークの交響曲第9番〈新世界より〉の第2楽章。というより、小学唱歌〈家路〉といったほうがピンとくるかもしれません(今の若い人たちは習わないのかな?)。「いざや〜、たのし〜、ま〜どい〜せん〜、ま〜どい〜せん〜」のアレです。稀代のアルト吹きが、クラリネット1本で淡々と表現した〈家路〉。ペッパーの葬式でも流されたという〈家路〉ですが、彼はどこに還っていったのでしょう。

追記:パッパーの死から四半世紀を経た2007年6月15日に記す

ペッパーの死後25年を記念した記事を書こうと思って、雑誌『ジャズ批評114 アート・ペッパー』を読んでいたら、共演者ジョージ・ケイブルスのインタビューが載っていたので、少し長いですが、ここに引用します(聞き手は原田和典さん)。

 アート・ペッパーが僕を「ミスター・ビューティフル」と呼んでくれたのは光栄だった。僕はアートがいかに心地よく演奏してくれるかを第一に考え、ピアノを弾いた。アートはバラードが好きだった。ライヴではよく、二人でバラードを演奏した。最初の頃、アートはよく言ったものだ。「絶対、ダブル・タイムにするな。スロー・テンポをキープしろ。余計な音(エクストラ・ノーツ)も入れないでくれ」。たいていのミュージシャンはスロー・バラードを演奏していても、テーマが終わり、アドリブになるとミディアム・バウンス・テンポにするものだ。僕の経験でいえば、デクスター・ゴードンがそうだった。だが、アートはスロー・テンポのまま、見事な演奏を続けた。僕のサポートにアートが応え、そのアートのプレイに応え、僕が演奏する。お互いに高めていくんだ。そういうことを続けていくうちに、僕とアートはうちとけていった。音楽的にも、精神的にも、友人になれたんだ。(中略)
 アートは長年、ハードな人生を送ってきた。体調も芳しくなく、いつも何かと闘っているようだった。それを乗り越えるために、彼は演奏していた。演奏することで、彼は解き放たれていたのだと思う。
『ゴーイン・ホーム』のセッションの時だったか、アートはスタジオを飛び出し、しばらく帰ってこなかった。外を見回したら、嘔吐しながら大きなうめき声をあげているじゃないか。ひどい顔色だ。「オレは死ぬかもしれない」と彼は言った。プレイそのものは素晴らしかったが、僕はピアノの前で、もう一緒に彼と演奏したり、ツアーすることはないのかもしれないと思った。
 これを吹き込む前に、当時の妻の母が亡くなった。そしてレコーディングの後、一か月でアートは逝ってしまった。この『ゴーイン・ホーム』は、僕にとって重い一枚だ。


 

Art Pepper, George Cables "Goin' Home"
(Galaxy GXY 5143)

Art Pepper (clarinet) #1, 3, 5, 7 (alto sax) #2, 4, 5, 6, 8
George Cables (piano)

Produced by Ed Michel
Recorded by Baker Bigsby, Wally Buck
Recorded at Fantasy Studio, Berkeley, CA; May 11-12, 1982

[Tracks] 
01. Goin' Home (music: Antonin Dvorak)
02. Samba Mom Mom (music: Art Pepper)
03. In A Mellow Tone (music: Duke Ellington / words: Milt Gabler)
04. Don't Let The Sun Catch You Cryin' (music: Joe Green)
05. Isn't She Lovey (music+words: Stevie Wonder)
06. Billie's Bounce (music: Charlie Parker)
07. Lover Man (music: Roger Ramirez, Jimmy Sherman / words: Jimmy Davis)
08. The Sweetest Sounds (music: Richard Rodgers)

[Links: Art Pepper]
Art Pepper Discography Project (@ Jazz Discography Project)
The Art Of Pepper
[Links: George Cables]
George Cables (@ Jazz Corner)

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posted by ユキヒロ at 09:30| Comment(0) | TrackBack(0) | Fantasy (Milestone, Galaxy) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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