
ゴリゴリ吹くばかりがテナーじゃない。もっとスマートで粋なテナーが聴きたいという向きには、クール時代のスタン・ゲッツがおすすめです。感情を爆発させないクール・サウンドで一世を風靡したゲッツですが、ほかの誰にも真似できないソフトな音色という意味では、アルトのポール・デスモンドとテナーのゲッツが双璧です。
流れるように紡ぎ出される繊細な美しいフレーズ。「クール」といっても「冷たい」音楽ではありません。微妙な心の揺れをそのまま音におきかえたようなデリケートな響きが、それまでの「熱く」ブロウするテナーとは一線を画していたから、そう呼ばれただけのこと。実際は、心温まる「ウォーム」な音楽だったりするわけです。趣味のよい骨董品を手に入れたときのような、ノスタルジックな気分に浸れること請け合いです。
この『ザ・サウンド
1、2曲目は、1950年12月10日の録音。のちにファンキー・ジャズの大御所となるホレス・シルヴァーの初々しいピアノが聞けます(シルヴァーの初レコーディング)。
3〜6曲目は、スリー・デューセズ(Three Deuces)というマイナー・レーベル用に吹き込まれた音源をルースト(アルバム・リストはこちら)が買い取ったもので、50年5月17日の録音。スリー・デューセズ(3人の臆病者?)といえば、ニューヨーク52番街の通称スイング・ストリートにあった有名なクラブですが、このレーベルとの関係は不明です(こちらにクラブの写真があります。この記事があるサイト「ジャズにまつわる話」には、貴重な話や写真がたくさん載っています。おすすめ)。
残りの曲は、51年の春にゲッツがはじめて北欧に旅したときに、スウェーデンのメトロノーム・レーベルに吹き込んだ音源です(51年3月23日録音)。このルースト盤に組み込まれた6曲以外にも、翌24日録音(バリトンのラーシュ・グリンが加わったクインテット演奏)の2曲が残されていて、それらをあわせたメトロノーム盤もあるようです(Metronome BLP 6)。
聞きものは、やはり10曲目の〈ディア・オールド・ストックホルム〉でしょう。マイルス・デイヴィスが吹きこんだことでスタンダード化したこのスウェーデンの民謡を、ジャズの世界に最初に持ち込んだのは、ほかならぬゲッツです。原題はスウェーデン語で〈アク・ヴァルムランド・ドゥ・ショーナ〉。「美しい楽園」という意味だそうです。そういえば、エヴァンスとの共演で知られるスウェーデンの歌姫モニカ・ゼタールンドが『ザ・ロスト・テープ』という CD の中でスウェーデン語で歌っていました(ちなみに、マイルスの演奏は『マイルス・デイヴィス Vol. 1』と『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』で聴くことができます)。
さて、このゲッツの演奏は、本当にため息が出るほど美しい。この1曲だけで、この CD はじゅうぶん「買い」です。ところが、ややこしいことに、いちばんおいしいこの曲が CD に含まれていない時代が長く続きました。おそらく契約の関係で収録できなかったのでしょうが、『コンプリート・ルースト・セッション』と題する CD には気をつけてください。これには、メトロノーム音源の〈ディア・オールド・ストックホルム〉は含まれていません。ゲッツの決定的名演〈ディア・オールド・ストックホルム〉が聞きたければ、こちら
Stan Getz "The Sound"
(Roost LP 2207)
Stan Getz (tenor sax) with
#1-2
Horace Silver (piano)
Joe Calloway (bass)
Walter Bolden (drums)
#3-6
Al Haig (piano)
Tommy Potter (bass)
Roy Haynes (drums)
#7-12
Bengt Hallberg (piano)
Gunnar Johnson (bass)
Jack Noren (drums) #7, 10, 11
Kenneth Fagerlund (drums) #8, 9, 12
Recorded in NYC; May 17 (#3-6), December 10 (#1-2), 1950
Recorded in Stockholm, Sweden: March 23, 1951 (#7-12)
[Tracks]
01. Strike Up The Band (music: George Gershwin / words: Ira Gershwin)
02. Tootsie Roll (music: Stan Getz)
03. Sweetie Pie (music: Stan Getz)
04. Yesterdays (music: Jerome Kern / words: Otto Harbach)
05. Hershey Bar (music+words: Johnny Mandel)
06. Gone With The Wind (music: Allie Wrubel / words; Herbert Magidson)
07. Standanavian (aka. S'Cool Boy) (music: Stan Getz, Bengt Hallberg)
08. Prelude To A Kiss (music: Duke Ellington / words: Irving Gordon, Irving Mills)
09. I Only Have Eyes For You (music: Harry Warren / words: Al Dubin)
10. Dear Old Stockholm (aka. Ack, Varmeland Du Skona) (traditional)
11. Night And Day (music+words: Cole Porter)
12. I'm Getting Sentimental Over You (music: George Bassman / words: Ned Washington)
[Links: Stan Getz]
Stan Getz Discography (by Riccardo Di Filippo, Luigi Maulucci & Nicola Rascio)
Stan Getz Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Horace Silver]
Horace Silver (Official Website)
Horace Silver Tribute and Discography (@ Hardbop Homepage)
Horace Silver Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Al Haig]
Al Haig Discography Project (@ Jazz Discography Project)
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