2005年06月27日

スタン・ゲッツ『ザ・サウンド』

thesound.jpg 

ゴリゴリ吹くばかりがテナーじゃない。もっとスマートで粋なテナーが聴きたいという向きには、クール時代のスタン・ゲッツがおすすめです。感情を爆発させないクール・サウンドで一世を風靡したゲッツですが、ほかの誰にも真似できないソフトな音色という意味では、アルトのポール・デスモンドとテナーのゲッツが双璧です。

流れるように紡ぎ出される繊細な美しいフレーズ。「クール」といっても「冷たい」音楽ではありません。微妙な心の揺れをそのまま音におきかえたようなデリケートな響きが、それまでの「熱く」ブロウするテナーとは一線を画していたから、そう呼ばれただけのこと。実際は、心温まる「ウォーム」な音楽だったりするわけです。趣味のよい骨董品を手に入れたときのような、ノスタルジックな気分に浸れること請け合いです。

この『ザ・サウンド』は3つのセッションからなっています。

1、2曲目は、1950年12月10日の録音。のちにファンキー・ジャズの大御所となるホレス・シルヴァーの初々しいピアノが聞けます(シルヴァーの初レコーディング)。

3〜6曲目は、スリー・デューセズ(Three Deuces)というマイナー・レーベル用に吹き込まれた音源をルースト(アルバム・リストはこちら)が買い取ったもので、50年5月17日の録音。スリー・デューセズ(3人の臆病者?)といえば、ニューヨーク52番街の通称スイング・ストリートにあった有名なクラブですが、このレーベルとの関係は不明です(こちらにクラブの写真があります。この記事があるサイト「ジャズにまつわる話」には、貴重な話や写真がたくさん載っています。おすすめ)。

残りの曲は、51年の春にゲッツがはじめて北欧に旅したときに、スウェーデンのメトロノーム・レーベルに吹き込んだ音源です(51年3月23日録音)。このルースト盤に組み込まれた6曲以外にも、翌24日録音(バリトンのラーシュ・グリンが加わったクインテット演奏)の2曲が残されていて、それらをあわせたメトロノーム盤もあるようです(Metronome BLP 6)。

聞きものは、やはり10曲目の〈ディア・オールド・ストックホルム〉でしょう。マイルス・デイヴィスが吹きこんだことでスタンダード化したこのスウェーデンの民謡を、ジャズの世界に最初に持ち込んだのは、ほかならぬゲッツです。原題はスウェーデン語で〈アク・ヴァルムランド・ドゥ・ショーナ〉。「美しい楽園」という意味だそうです。そういえば、エヴァンスとの共演で知られるスウェーデンの歌姫モニカ・ゼタールンドが『ザ・ロスト・テープ』という CD の中でスウェーデン語で歌っていました(ちなみに、マイルスの演奏は『マイルス・デイヴィス Vol. 1』と『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』で聴くことができます)。

さて、このゲッツの演奏は、本当にため息が出るほど美しい。この1曲だけで、この CD はじゅうぶん「買い」です。ところが、ややこしいことに、いちばんおいしいこの曲が CD に含まれていない時代が長く続きました。おそらく契約の関係で収録できなかったのでしょうが、『コンプリート・ルースト・セッション』と題する CD には気をつけてください。これには、メトロノーム音源の〈ディア・オールド・ストックホルム〉は含まれていません。ゲッツの決定的名演〈ディア・オールド・ストックホルム〉が聞きたければ、こちらをなんとかゲットしてくださいな。



Stan Getz "The Sound"
(Roost LP 2207)

Stan Getz (tenor sax) with

#1-2
Horace Silver (piano)
Joe Calloway (bass)
Walter Bolden (drums)

#3-6
Al Haig (piano)
Tommy Potter (bass)
Roy Haynes (drums)

#7-12
Bengt Hallberg (piano)
Gunnar Johnson (bass)
Jack Noren (drums) #7, 10, 11
Kenneth Fagerlund (drums) #8, 9, 12

Recorded in NYC; May 17 (#3-6), December 10 (#1-2), 1950
Recorded in Stockholm, Sweden: March 23, 1951 (#7-12)

[Tracks]
01. Strike Up The Band (music: George Gershwin / words: Ira Gershwin)
02. Tootsie Roll (music: Stan Getz)
03. Sweetie Pie (music: Stan Getz)
04. Yesterdays (music: Jerome Kern / words: Otto Harbach)
05. Hershey Bar (music+words: Johnny Mandel)
06. Gone With The Wind (music: Allie Wrubel / words; Herbert Magidson)
07. Standanavian (aka. S'Cool Boy) (music: Stan Getz, Bengt Hallberg)
08. Prelude To A Kiss (music: Duke Ellington / words: Irving Gordon, Irving Mills)
09. I Only Have Eyes For You (music: Harry Warren / words: Al Dubin)
10. Dear Old Stockholm (aka. Ack, Varmeland Du Skona) (traditional)
11. Night And Day (music+words: Cole Porter)
12. I'm Getting Sentimental Over You (music: George Bassman / words: Ned Washington)

[Links: Stan Getz]
Stan Getz Discography (by Riccardo Di Filippo, Luigi Maulucci & Nicola Rascio)
Stan Getz Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Horace Silver]
Horace Silver (Official Website)
Horace Silver Tribute and Discography (@ Hardbop Homepage)
Horace Silver Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Al Haig]
Al Haig Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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posted by ユキヒロ at 12:07| Comment(1) | TrackBack(0) | Roulette (Roost, Jubilee) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年03月16日

『ソニー・スティット・プレイズ』

sonnystittplays.jpg 

ミスター・ジャイアンツといえば、長嶋茂雄。ミスター・レッズといえば、福田正博。では、ミスター・サクソフォンといえば? ヒントは、アルトやテナーではなく、「サクソフォン」というところがミソです。

正解は、アルトとテナーの二刀流でジャズ・サックス界に君臨し続けたソニー・スティットです。1924年2月2日、マサチューセッツ州ボストン生まれ。1982年7月22日、ワシントン DC で亡くなりました。

なぜ二刀流なのかって? しかも、音域の近いアルトとテナーでは、ネスカフェ・ゴールドブレンド(違いのわかる男ってやつね)の CM には出られないかもしれないのに? それは、同時代にチャーリー・パーカーという偉大なイノヴェイターが存在したからです。

スティットの吹くフレーズは、あまりにもパーカーにそっくりだった。まるっきりコピーじゃないか。そんな声が方々から聞こえてきます。プロのミュージシャンとして、これ以上の屈辱はないでしょう。怒ったスティットは、アルト・サックスを封印してテナーを演奏するようになります(そのテナーの実力も超一流というのですから、やっかみもあったことでしょう)。

破滅的な人生を歩んだパーカーが34歳の若さで死んだのが1955年3月。スティットにとっては「目の上のたんこぶ」がいなくなったわけで、この年をさかいに、彼はふたたびアルトを手にするようになります。この『ソニー・スティット・プレイズ』は、そんな時代の作品です。

スティットの演奏は、表面的にはたしかにパーカーとよく似ています。でも、2人には決定的な違いがあって、暴力的なまでの衝動を楽器を通じて爆発させたパーカーに対して、スティットはあくまで冷静沈着。パーカーの演奏がある種のすごみをもって迫ってくるのと比べると、同じようなフレーズであっても、らくらくと軽やかに吹きこなすスティットの演奏は、「迫力」というより「軽妙」「洒脱」「粋」といった言葉がよく似合います。

ジャズの世界を根本からひっくり返したパーカーの天才は疑いようがありませんが、スティットも別の意味で天才です。玄人好みの「粋人」なんですよ、スティットは。そういう意味では、スティットの人生は「違いのわからない男たち」に苦しめられた人生だったのかもしれませんね。

あっ、そうそう、忘れるところでした。このアルバムには私的テーマ曲〈イフ・アイ・シュッド・ルーズ・ユー〉が入っています。いずれこの曲の特集をやるつもりですが、スティットの演奏もヴェリグーです(笑)。



"Sonny Stitt Plays"
(Roost LP 2208)

Sonny Stitt (alto sax)
Hank Jones (piano)
Freddie Greene (guitar)
Wendell Marshall (bass)
Shadow Wilson (drums)

Recorded in NY; September 1, 1956

[Tracks] 
01. There'll Never Be Another You (music: Harry Warren / words: Mack Gordon)
02. The Nearness Of You (music: Hoagy Carmichael / words: Ned Washington)
03. Biscuit Mix (music: Sonny Stitt)
04. Yesterdays (music: Jerome Kern / Otto Harbach)
05. Afterwards (music: Sonny Stitt)
06. If I Should Lose You (music: Ralph Rainger / Leo Robin)
07. Blues For Bobby (music: Sonny Stitt)
08. My Melancholy Baby (music: Ernie Burnett / words: George A. Norton)

[Links: Freddie Greene]
The Freddie Greene Web Site

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posted by ユキヒロ at 09:48| Comment(0) | TrackBack(0) | Roulette (Roost, Jubilee) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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