2007年05月20日

ハービー・ハンコック『ファット・アルバート・ロウタンダ』

fatalbertrotunda.jpg

ハービーのワーナー移籍第一弾『ファット・アルバート・ロウタンダ』は、自身が手がけた1969年11月放映の TV アニメ・スペシャル『Hey, Hey, Hey, It's Fat Albert』の音楽を、ジャズ風にアレンジし直して吹きこんだアルバムです。番組のなかで一人で何役もの声優をこなしたビル・コズビーが、ワーナー・ブラザーズの重役連中にこの音楽を聴かせたことがきっかけで、ワーナーへの移籍が実現したというのですから、映画音楽も手がけるハービーらしいエピソードです(ちなみに、このスペシャル番組は好評だったようで、のちに『Fat Albert & Cosby Kids』としてシリーズ化されました)。

基本的なメンバーは前作『ザ・プリズナー』と同じセクステットですが、聴こえてくる音楽はまるで違います。それもそのはず、アルバムはどこかなつかしい(笑)ギター・サウンドで幕を開けます。ジャズ・ロックってやつですね。すでに1966年にミケランジェロ・アントニオーニ監督の映画『欲望』(原題:Blow-up)のサントラ盤で大胆にロックを導入したハービーのこと、この手のアルバムの制作は必然だったのかもしれません。

ジャズ・ロックって、パッと聴いた感じは嫌いじゃないんですが、こればっかりだとつらい(笑)。構成は単純だし、ノリも一定だから、はっきりいって飽きちゃうんですよね。それを知ってか知らずか、曲を短めにしたり、途中でホーン・セクションをうまく取り入れたりして、飽きがこないようにつくってあるのは、さすがです。でも、それ以上に成長の跡を感じさせるのは、ハービーのエレピの腕前です。

ハービーは『ザ・プリズナー』でもエレクトリックとアコ―スティックの両方のピアノを使い分けていましたが、必然性はほとんど感じられませんでした。アコースティックと同じ弾き方でとりあえずエレピを弾いてみました、みたいなノリです。でも、ここでのエレピはきれいにはまっています。軽くてビューティフルな音を生かした曲づくりがよくやくサマになってきた。そんな気がします。

マイルスに突然エレピを弾けといわれたときは面食らったかもしれませんが、ハービーは大学で電子工学で専攻していたぐらいですから、電気仕掛けの新種のオモチャに興味がわかないはずがない。実際、彼はわずか1年でエレピを完全にものにします。『マイルス・デイビス自叙伝2』には、ハービーの電気製品マニアぶりを伝えるエピソードが載っています(訳は中山康樹さん)。

ハービーは電気製品が大好きで、ツアーに出ると新しい電気製品を買うのにいつも大忙しだった。すべての演奏を録音したがって、いつも小さなテープ・レコーダーを持ってくるほどだった。そして彼は、ヤクとかそういう理由じゃなかったが、いつも遅刻して、最初の曲の最初のダウンビートから入ってくることが多かった。で、野郎をちょっときつく睨むんだが、なんと彼が最初にやることというのは、ピアノの下に潜って、いい音で録れるようにテープ・レコーダーを調整することだった。調整が終る頃には、オレ達はその曲の四分の三くらいまで行ってるというのに、彼はまだピアノを弾いてすらいない。それが、レコードにもなったオレ達のライブ・レコーディングの初めでピアノの音が聞こえない理由だ。ハービーが遅れるかどうかというのは、いつもバンドのジョークにまでなっていた。

神舘和典さんの『音楽ライターが、書けなかった話』(新潮新書)には、遅刻常習犯ハービーの言い訳(笑)が紹介されています。

ある宗教に入信しているハービーは、ホテルの部屋を出る前にたっぷりとお祈りをしてくるらしい。そのために、いつも約束の時間に間に合わなくなるそうだ。

ここで「ある宗教」とあるのは、創価学会です。「南無妙法蓮華経」のお題目を唱えていると遅刻してしまうんだそうな。ホンマかいな。

ちなみに、ハービーに創価学会をすすめたのは、ベースのバスター・ウィリアムズです。そして、ハービーは親友ウェイン・ショーターを創価学会に招き入れます(ウェインと当時の妻アナ・マリアは、長女イスカの障害に悩んでいました。生後3か月の赤ん坊に義務づけられた破傷風の予防接種でひきつけを起こし、脳に障害が残ってしまったのです。夫婦の苦悩と入信のいきさつは、『フットプリンツ:評伝ウェイン・ショーター』にくわしく載っています)。



Herbie Hancock "Fat Albert Rotunda"
(Warner Bros. WB 1834)

Johnny Coles (trumpet, flugelhorn)
Joe Henderson (alto flute, tenor sax)
Garnet Brown (trombone)
Herbie Hancock (piano, electric piano)
Buster Williams (bass, electric bass) #2-6
Albert "Tootie" Heath (drums) #2-6

on #1, 7
Joe Newman trumpet)
Ernie Royal (trumpet)
Benny Powell (trombone)
Joe Farrell (alto sax, tenor sax)
Arthur Clark (baritone sax)
Ray Alonge (French horn)
Billy Butler (guitar)
Eric Gale (guitar)
Jerry Jermott (electric bass)
Bernard Purdie (drums)
George Devens (percussion)

Produced by Herbie Hancock
Recorded by Rudy Van Gelder
Recorded at the Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ; October 4, 16, November 26, December 8, 1969

[Tracks]
01. Wiggle-Waggle Herbie Hancock (music)
02. Fat Mama Herbie Hancock (music)
03. Tell Me A Bedtime Story Herbie Hancock (music)
04. Oh! Oh! Here He Comes Herbie Hancock (music)
05. Jessica Herbie Hancock (music)
06. Fat Albert Rotunda Herbie Hancock (music)
07. Lil' Brother Herbie Hancock (music)

[Links: Joe Henderson]
Joe Henderson Discography (by Jeffrey Lovell @ JazzDiscography.com)
Joe Henderson Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Herbie Hancock]
Herbie Hancock: The Offcial Site (Official Website)
Herbie Hancock Discography (by Christian Genzel)
[Links: Buster Williams]
Buster Williams (Official Website)

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2006年12月26日

ビル・エヴァンス『ウィ・ウィル・ミート・アゲイン』

evans_wewillmeetagain.jpg Bill Evans - We Will Meet Again

エヴァンス晩年のワーナー・ブラザーズ盤といえば、『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング』と『アフィニティ』が双璧ですが、どちらもすでに紹介済みなので、エヴァンス最後のスタジオ録音盤(1979年8月録音)、『ウィ・ウィル・ミート・アゲイン』といきましょう。

10年以上の時間をともにしたエディ・ゴメスとエリオット・ジグムンドが時をほぼ同じくして去り、エヴァンスはトリオの再結成を余儀なくされます。

1. マイケル・ムーア (b) +困ったときのフィリー・ジョー・ジョーンズ (ds)
2. 新鋭マーク・ジョンソン (b) +フィリー・ジョー・ジョーンズ (ds)
3. マーク・ジョンソン (b) +一時復帰したエリオット・ジグムンド (ds)
4. マーク・ジョンソン (b) +新鋭ジョー・ラバーバラ (ds)

というわけで、エヴァンスのラスト・トリオのメンバーがようやく固定されたのが1979年1月。エヴァンスの死まで、わずか1年半前のことでした。

この時期、エヴァンスは立て続けにクインテット作品を残していますが、この『ウィ・ウィル〜』もそのひとつ。前作『アフィニティ』に参加したサックスのラリー・シュナイダーに、トランペットのトム・ハレルを加えて、自己のトリオとともにレコーディングしたのがこの作品です。

ジャケットの裏側を見ると、副題が載っています。In Loving Dedication to My Late Brother, Harry L. Evans 1927-1979。同年4月、ピストル自殺を遂げた兄ハリー Jr. に捧げた表題曲〈ウィ・ウィル・セイ・グッドバイ〉の初出は、前掲『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング』ですが、『ユー・マスト〜』収録の時点で兄は健在、このタイトルは彼の死後につけられたものだと考えられます(『ユー・マスト〜』はまだ発売されていなかった)。テーマのみのごく短い演奏ですが、強く印象に残ります。エヴァンスに残された時間は1年あまり。彼はその後、最愛の兄と再会できたのでしょうか。

このアルバムは、エヴァンスに最後のグラミー賞をもたらしました(1980 Best Jazz Instrumental Performance, Group)。



Bill Evans "We Will Meet Again"
(Warner Bros. HS 3411 Y)

Tom Harrell (trumpet) except #4, 8
Larry Schneider (tenor sax, soprano sax, alto flute) except #4, 8
Bill Evans (piano, electric piano)
Marc Johnson (bass) except #4, 8
Joe Labarbera (drums) except #4, 8

Produced by Helen Keane
Recorded by Frank Laico
Recorded at 30th Street Columbia Studios, NYC, August 6-9, 1979

[Tracks] Bill Evans - We Will Meet Again
01. Comrade Conrad Bill Evans (music)
02. Laurie Bill Evans (music)
03. Bill's Hit Tune Bill Evans (music)
04. For All We Know J. Fred Coots (music) / Sam M. Lewis (lyrics)
05. Five Bill Evans (music)
06. Only Child Bill Evans (music)
07. Peri's Scope Bill Evans (music)
08. We Will Meet Again Bill Evans (music)

[Links: Tom Harrell]
Tom Harrell (Official Website)
Tom Harrell (@ Say's Relaxin' Room)
[Links: Bill Evans]
The BILL EVANS Webpages
Bill Evans's Discography
Bill Evans Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Marc Johnson]
Marc Johnson (@ ジャズCDの個人ページ by K. Kudo)

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2005年01月07日

ビル・エヴァンス『アフィニティ』

affinity.jpg Bill Evans - Affinity

究極の「なごみ」の1枚を。ビル・エヴァンスとトゥーツ・シールマンスの夢の共演、『アフィニティ』です。「アフィニティ」は「共感、親和性、類似点」を意味します。「似た者同士」エヴァンス&トゥーツにふさわしいタイトルです。

それにしても、この両者の組み合わせを考えた人はエラい! エヴァンスのリリカルなピアノとトゥーツのハーモニカは、本当によく「なじみ」ます。これが初顔合わせとは思えないほどです。

それはそれとして、ハーモニカの音色というのは、どうしてこうも「なつかしさ」を感じさせるのでしょう? 私は都内で何度か引っ越しを繰り返して育ったので、「ふるさと」と呼べるような場所も思い出もないのですが、トゥーツのハーモニカを聞くと、「郷愁の念」としかいいようのない感情にとらわれます。見たこともないはずの田舎の原風景が脳裏によみがえる。不思議な感覚です。

 

Bill Evans "Affinity"
(Warner Bros. BSK 3293)

Toots Thielemans (harmonica)
Bill Evans (piano)
Marc Johnson (bass)
Eliot Zigmund (drums)
Larry Schneider (tenor sax, soprano sax, alto flute)

Produced by Helen Keane
Recorded and Mixed by Frank Laico
Recorded at Columbia 30th Street Studios, NYC, October 30 - November 2, 1978

[Tracks] Bill Evans - Affinity
01. I Do It For Your Love (music: Paul Simon)
02. Sno' Peas (music: Phil Markowitz)
03. This Is All I Ask (music: Gordon Jenkins)
04. Days Of Wine And Roses (music: Henry Mancini / words: Johnny Mercer)
05. Jesus' Last Ballad (music: Gianni Bedon)
06. Tomato Kiss (music: Larry Schneider)
07. Noelle's Theme (The Other Side Of Midnight) (music: Michel Legrand)
08. Blue In Green (music: Miles Davis, Bill Evans)
09. Body And Soul (music: Johnny Green / words: Edward Heyman, Robert Sauer, Frank Eyton)

[Links: Bill Evans]
Bill Evans Webpage
Bill Evans Organization
Bill Evans Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Toots Thielemans]
Toots Thielemans (Official Website)
Toots Thielemans (Nelson's Navigator for Modern Jazz)
[Links: Eddie Gomez]
Eddie Gomez (Official Website)
[Links: Eliot Zigmund]
Eliot Zigmund (Official Website)

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2005年01月06日

ビル・エヴァンス『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング』

youmustbelieveinspring.jpg Bill Evans - You Must Believe in Spring

エヴァンスの作品の中でもっとも「美しい」アルバムは何か。エヴァンスの耽美的なアルバムというと、ジム・ホールとのデュオ作品『アンダーカレント』やリヴァーサイド時代の『ムーン・ビームス』などが浮かびますが、私はこの『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング』がいちばんではないかと思っています。

手を触れただけで崩れ落ちてしまいそうな、繊細ではかない美しさ。これはとても悲しみにみちたアルバムです。1曲目は73年にエヴァンスとの別れを苦に、地下鉄に身を投げた最初の(事実上の)妻エレインに向けた曲(長年連れ添った彼女は、子どもを産めない身体でした。そのことが、エヴァンスが新しい妻ネネットを迎えた大きな理由でもあったようです。エヴァンスとネネットが結婚したのは73年8月5日、それから遠くないある日、エレインは独りで逝きます)、4曲目は77年にピストル自殺した兄のハリーに捧げた曲。でも、それがたんなる悲しみに終わっていない。愛するものをいたわる、そこはかとないやさしさが感じられます。とても静かで、やさしく、美しい音楽です。

表紙を飾るのは、アメリカの画家 Charles Burchfield の「Yearning(憧れ)」という作品です。エヴァンスの「憧れ」はどちらに向かっていたのでしょう。それはもしかしたら、先に逝ってしまった愛する人たちのもとへ、自ら赴いていくことに対する「憧れ」だったのかもしれません。

ちなみに、この作品はエディ・ゴメスが参加した最後のアルバムです。

追記:
後日、私はこのアルバムのオリジナル盤をオーディオ・マニアのHさんのお宅で聞かせていただきました。すると、どうでしょう。どうしようもないほどはかなく、美しいだけだったこのアルバムが、実は、非常にスリリングな展開をはらんでいることがわかりました。その原因をつくっているのは、エディ・ゴメスです。エッジのきいたベースが、ゾクゾクするような快感をもたらしてくれます。エディ・ゴメスのすごさが実感できる演奏です。

 

Bill Evans "You Must Believe In Spring"
(Warner Bros. XHS 3504)

Bill Evans (piano)
Eddie Gomez (bass)
Eliot Zigmund (drums)

Produced by Helen Keane, Tommy Lipuma
Recorded and Mixed by Al Schmitt
Recorded at Capitol Studios, Hollywood, CA, August 23-25, 1977

[Tracks] Bill Evans - You Must Believe in Spring
01. B Minor Waltz (For Ellaine) (music: Bill Evans)
02. You Must Believe In Spring (music: Michel Legrand / words: Marilyn Bergman, Alan Bergman)
03. Gary's Theme (music: Gary McFarland)
04. We Will Meet Again (For Harry) (music: Bill Evans)
05. The Peacocks (music: Jimmy Rowles)
06. Sometime Ago (music: Sergio Mihanovich)
07. Theme From M*A*S*H (Suicide Is Painless) (music: Johnny Mandel)

[Links: Bill Evans]
Bill Evans Webpage
Bill Evans' Discography
Bill Evans Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Eddie Gomez]
Eddie Gomez (Official Website)
[Links: Eliot Zigmund]
Eliot Zigmund (Official Website)

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