2006年12月05日

モニカ・セッテルンド『ワルツ・フォー・デビー』

monicaz_waltzfordebby.jpg Monica Zetterlund & The Bill Evans Trio - Waltz for Debby

1964年の夏、エヴァンス・トリオは初の欧州ツアーへ出かけました。メンバーはピアノのエヴァンスに、ベースのチャック・イスラエル、ドラマーはリヴァーサイド最終盤『アット・シェリーズ・マン・ホール』以来、彼らと行動をともにしているラリー・バンカーという顔ぶれ。行く先は、ベルギー、フランス、イタリア、オランダ、スウェーデンでした。

スウェーデンの首都ストックホルムでは、エヴァンス作〈ワルツ・フォー・デビー〉にスウェーデン語の歌詞をつけて歌っていたシンガー兼女優、モニカ・セッテルンドと出会います。エヴァンスのマネージャー(のちにプロデューサーも兼務)ヘレン・キーンは、ツアーの最後にレコーディングを企画、『ワルツ・フォー・デビー』として結実します。

スウェーデンの歌姫(古いね)、モニカ・セッテルンド。1937年9月20日、スウェーデン・ハーグフォルス生まれ。2005年5月12日、スウェーデン・ストックホルムの自宅で死去。北欧のジャズ・シーンに咲いた一輪の花ですが、晩年は車椅子生活を余儀なくされ、死因は寝タバコによる焼死だそうです。

ストックホルムのゴールデン・サークルに出演中もモニカの別荘に通い、準備を重ねたというエヴァンス。収録中もくつろいでいたようですが、世評に反してエヴァンスは歌伴に似合わないと私は思うのです。

たとえば、1曲目の有名スタンダード〈降っても晴れても〉。冒頭、モニカのストレートな歌声に伴奏をつけるエヴァンス。ところが、この音の選び方がどこかしっくりこない。いや、エヴァンスはいつものエヴァンスなんです。ところが、歌手の背後では彼の独特な音選びが耳に障る。歌伴の名手トミー・フラナガンなんかが歌手のうしろに隠れて存在を感じさせないのと比べると、音に自己主張が強いのです。ピアノの音色が声とぶつかっている気がします。要は、歌に集中できないというか、くつろげない。

エヴァンスはリリカル一辺倒と思いきや、くり出すフレーズは思いのほかひねくれていて、ハードボイルドな一面をもっていますが、それがこんなところに表れている気がします。モニカの歌が一段落して、トリオによる演奏に移ると、エヴァンスの演奏自体はとくに変化していないのに、例の違和感が消えて、エヴァンスらしさが横溢するのを聴けば、私のいいたいことがわかってもらえるのではないかと思います。

エヴァンスは、音楽に対してはかなりのエゴイストでした。「インタープレイ」はエヴァンスのトレードマークですが、それは彼が相手の演奏にあわせたからではなく、
相手がエヴァンスの一挙手一投足に耳を傾け、その展開を読み、彼に寄り添うことで実現したのではないか。この歌伴を聴いていると、そう思えてなりません。あわせるのはあくまで周囲の人間であって、エヴァンス自身は「自己との対話」に没入しているだけ。唯一の例外は、亡くなったスコット・ラファロで、彼だけはエヴァンスと対等、あるいはエヴァンスをも牽引するだけの力をもっていた、というのは、私の思い入れにすぎないのでしょうか?

とはいえ、やはり〈ワルツ・フォー・デビー〉は一聴の価値があります。スウェーデン語で〈モニカズ・ヴァルズ(モニカのワルツ)〉として歌われたこの曲は、エヴァンス・オリジナルなだけあって、そもそも、あわせるのはモニカのほうだからです。

そして、同じくスウェーデン語で歌われる#2、7、10の3曲。北欧系の人が歌う英語は発音もはっきりしていて、日本人にもわかりやすくて好きなのですが、さすがに母語なだけあって、モニカは情感たっぷりに歌い上げます。エヴァンスもはじめて取り組む曲ばかりですから、自己主張は控えめに、歌伴に徹しているようです。ヴォーカル物はどうしてもメインが「歌」になるので、エヴァンスが「らしさ」を消したときに名演が生まれるのも、それはそれで、しかたがないことだと思います。

 

Monica Zetterlund "Waltz For Debby"
(Philips 6378508)

Monica Zetterlund (vocal)
Bill Evans (piano)
Chuck Israels (bass)
Larry Bunker (drums)

Recorded in Stockholm, Sweden; August 29, 1964

[Tracks] Monica Zetterlund & The Bill Evans Trio - Waltz for Debby
01. Come Rain Or Come Shine Harold Arlen (music) / Johnny Mercer (lyrics)
02. Beautiful Rose [Jag Vet En Dejlig Rosa] (traditional)
03. Once Upon A Summertime Eddie Barclay, Michel Legrand (music) / Eddie Marray (French lyrics), Johnny Mercer (English lyrics)
04. So Long Big Time Harold Arlen, Langdom, D. Previn
05. Waltz For Debby [Monicas Vals] Bill Evans (music) / Gene Lees (lyrics)
06. Lucky To Be Me Leonard Bernstein (music) / Betty Comden, Adolph Green (lyrics)
07. Sorrow Wind [Vindarna Sucka Uti Skogarna] (traditional)
08. It Could Happen To You Jimmy Van Heusen (music) / Johnny Burke (lyrics)
09. Some Other Time Leonard Bernstein (music) / Betty Comden, Adolph Green (lyrics)
10. In The Night [Om Natten] Olle Adolphson, C.F. Reutersward (music)

[Links: Monica Zetterlund]
Monica Zetterlund (Official Website in Swedish)
Monica Zetterlund (Swedish Fan Site)
[Links: Bill Evans]
The BILL EVANS Webpages
Bill Evans's Discography
Bill Evans Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Chuck Israels]
Chuck Israels (Official Website)

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2005年10月26日

ジェリー・マリガン『ナイト・ライツ』

nightlights.jpg Gerry Mulligan Sextet - Night Lights

裏渋谷の名店 Lo-d は、私の高校時代の友人がオーナーをしている洒落たバーですが、今度、お店に無線 LAN を導入したというので、さっそく愛用の iMac を抱えて遊びに来てみました。勘のいい方ならお気づきのように、この投稿は、ナント、お店からしています。ライヴです。FREESPOT というらしいのですが、世の中便利になったものです。

さて、アート・ファーマー&ジム・ホールとくれば、忘れられないアルバムがあります。ジェリー・マリガンの『ナイト・ライツ』です。バリトンのマリガンに、トロンボーンのブルックマイヤー、それにファーマーとホールときたら、もうこれは聞くしかありません。

さあ、お店にお願いしてみましょう。レコードがターンテーブルにのりました。今、かかりました。1曲目〈ナイト・ライツ〉。いいですねえ。珍しくピアノを弾くマリガン。訥々とした語り口がかえって味わい深いです。耳元でささやくような、やさしいファーマーのラッパも絶品です。でも、この曲の雰囲気をつくっているのは、やっぱりジム・ホール。ポロンポロンとかき鳴らす甘いギターの音色にうっとりです(笑)。

2曲目。これも美旋律の〈カーニバルの朝〉。映画『黒いオルフェ』から生まれたボッサの名曲です。実は、ボサノバの中でいちばん好きな曲かもしれない。ジム・ホールと組んだポール・デスモンドも演ってましたね。

レコードを追いながらの執筆なので、次から次へと忙しいです(笑)。3曲目、〈イン・ザ・ウィー・スモール・アワーズ〉が流れてきました。シナトラの名唱でも有名ですね(キャピトルから同名盤が出ています)。

続いてB面です。アナログをもたない私には、ひっくり返す作業も奥ゆかしいです。B面の冒頭を飾るのは、いよいよ、お待ちかね、キラー・チューン〈プレリュード・イン・E・マイナー〉の登場です(プレリュード・ホ短調ともいいます)。ショパンの曲をアレンジした、というよりも、亡き故油井正一さんが、FMラジオでホストをつとめた「アスペクト・イン・ジャズ」というプログラムのテーマ曲、といったほうが、ピンとくる人も多いのでしょうか。残念ながら、私はこの番組を聞いたことがないのですが、さすが油井さん、この曲をテーマにもってくるなんて、サイコーです。すごいセンスです。私も大好きです。

あれよあれよという間に、5曲目〈フェスティバル・マイナー〉です。マリガンのオリジナルですが、これもいいですねえ。ソフィスティケートされた大人のための室内楽。

そして、トリをつとめるのは、これまたマリガンのオリジナル〈テル・ミー・ホエン〉。ずらりと並んだ珠玉の名曲を締めくくる素朴な味わいの一品です。眠くなります。気持ちいいです。この曲を聞きながら眠ると、いい夢が見られます。きっと。

ああ、終わってしまいました。終わってしまうことがこんなに「もったいない」アルバムって、そうはありません。以上、実況中継でした(笑)。

追記:
お店で曲を聞きながら書くというのは、忙しい。でも、なんか楽しい体験でした。ライヴはやっぱり気合いが入ります。バーで無線入れているお店なんて、ほかにはないと思うので、渋谷にお越しの際は、みなさんもぜひセルリアンタワーの裏まで足をのばしてくださいな。マスターも待っています(笑)。

 

Gerry Mulligan "Night Lights"
(Philips PHM 200-108)

Art Farmer (trumpet, flugelhorn)
Bob Brookmeyer (trombone)
Gerry Mulligan (baritone sax, piano #1)
Jim Hall (guitar)
Bill Crow (bass)
Dave Baily (drums)

Recorded at Nola Penthouse Studios, NYC; October 3, 1963

[Tracks] Gerry Mulligan Sextet - Night Lights
01. Night Lights (music: Gerry Mulligan)
02. Manha De Carnaval [Morning Of The Carnival] (aka. Black Orpheus) (music: Luiz Bonfa / words: Antonio Moraes)
03. In The Wee Small Hours Of The Morning (music: David Mann / words: Bob Hilliard)
04. Prelude In E Minor (music: Frederic Chopin)
05. Festival Minor (music: Gerry Mulligan)
06. Tell Me When (music: Gerry Mulligan)

[Links: Gerry Mulligan]
Gerry Mulligan.info: The Life of Great Jazz Musician (by Craig Allan Hanley)
The Gerry Mulligan Home Page (by Jeff Sackmann)
The Gerry Mulligan Collection (@ the Library of Congress)
Mulligun Publishing Co., Inc.
[Links: Bob Brookmeyer]
The Official Site Of Bob Brookmeyer
[Links: Jim Hall]
Jim Hall: The Official Website (by ArtistShare)
Jim Hall Maniacs (by 益満妙:エキマンタエ)
ジム・ホール アルバム蒐集 (by kawagu)

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