2007年06月29日

エリック・ドルフィー『ラスト・デイト』

lastdate.jpg Eric Dolphy - Last Date

今から43年前の今日、エリック・ドルフィーが旅先のベルリンで亡くなりました。本名、Eric Allan Dolphy。1928年6月20日、カリフォルニア州ロサンジェルス生まれ。1964年6月29日、当時西ドイツのベルリンで客死。享年36歳。

チャールズ・ミンガス率いるジャズ・ワークショップが欧州ツアーに出発したのが1964年4月。18日間にわたる強行軍(こちらの記事を参照)を終え、ミンガス一行は帰国、ドルフィーはひとりパリに残ります。5月は主に、サンジャルマン・デ・プレの Chat Qui Peche(シャキペシュ。魚を釣る猫という意味で、セーヌ川沿いのパリでいちばん狭い通りの名前に由来)というクラブで演奏していたようです(ドルフィー研究家としても知られるマシュマロ・レコードの上不三雄さんが思い出のジャズクラブ/ジャズ喫茶その1:Jazz Club “Le Chat Qui Peche”という記事を書いています)。

5月29日にオランダに移動。6月2日にヒルベルサムでラジオ番組用にスタジオ・ライヴを録音、この音源が有名な『ラスト・デイト』となって日の目を見ます。その後いったんパリに戻り、6月11日に地元のラジオ局 ORTF で最後のレコーディングを敢行(『Last Recordings』というタイトルで CD 化されています)。6月27日、ベルリンに飛び、タンジェントというクラブで2ステージこなすも、衰弱のため降板。翌28日にはさらに容態が悪化して入院(ベルリン、アッヘンバッハ病院)、治療の甲斐なく29日にこの世を去りました。死因は糖尿病による心臓発作だといわれています。

『ラスト・デイト』のあまりの孤高ぶり、しかもアルバムの最後に本人の謎めいたセリフが挿入されるという遺言効果もあって、あたかもドルフィーの死は必然だったかのような錯覚に陥りますが、実際はまったく予期せぬ急死だったようで、ドルフィーは死の1週間前に新しいアルト・サックスを購入していて(パリのセルマー社にシリアル番号が残っているとは上不さんの言です。「ジャズ批評115 エリック・ドルフィー」に収録)、ベルリンの後はコペンハーゲンのカフェ・モンマルトルに出演する予定も入っていたそうです。

有名な「When you hear music, after it's over, it's gone in the air. You can never capture it again.(音楽を聴き、終った後、それは空中に消えてしまい、二度と捕まえることはできない)」というセリフにしても、その場で録音されたものではなく、4月に行われたインタビューからの抜粋で、ドルフィーの死とはもともと無関係の発言でした(それでも、そこに何らかの意味を見出してしまうのがファン心理ってものですが)。

ドルフィーはアルト、フルート、バスクラの3つの楽器でそれぞれ独自の世界を描き出しましたが、この『ラスト・デイト』には3つの楽器による演奏が2曲ずつ収められています。バスクラの破壊力に脳天をぶち割られる〈エピストロフィー〉、どういうコンテキストの中で音を紡いでいくのか、依って立つ根拠が見えないがゆえに、得体の知れない不安感に襲われる〈ザ・マドリグ・スピークス、ザ・パンサー・ウォークス〉(別名〈マンドレイク〉)。どれもすばらしい演奏ですが、極めつきはやはり、フルートで奏でられる〈ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラヴ・イズ〉。こわもてのアヴァンギャルドだけがドルフィーではありません。ハッとするようなやさしさ。その昔、自宅の庭で小鳥たちとの会話を楽しむようにフルートを練習したというドルフィーならではの、小鳥のさえずりです。

ジャケットが2種類あるのは、オランダ・フィリップス系のフォンタナの原盤(右の輸入盤)と米マーキュリー系ライムライト盤(左の邦盤)があるからです。

 

Eric Dolphy "Last Date"
(Fontana 681 008 ZL)
(Limelight LM 82013 / LS 86013)

Eric Dolphy (alto sax) #3, 6 (flute) #2, 5 (bass clarinet) #1, 4
Misja Mengelberg (piano)
Jacques Schols (bass)
Han Bennink (drums)

Recorded at VARA studio, Hilversum, Amsterdam, Holland; June 2, 1964

[Tracks] Eric Dolphy - Last Date
01. Epistrophy Thelonious Monk (music)
02. South Street Exit Eric Dolphy (music)
03. The Madrig Speaks, The Panther Walks (aka. Mandrake) Eric Dolphy (music)
04. Hypochristmutreefuzz Misha Mengelberg (music)
05. You Don't Know What Love Is Gene DePaul, Don Raye (music and lyrics)
06. Miss Ann Eric Dolphy (music)

[Links: Eric Dolphy]
Eric Dolphy (by Alan Saul)
Site Dolphy (by TAKAGI Masaru)
Making Eric Dolphy's Complete Discography (by Naohiko Hino)
Eric Dolphy Discography (by ANTAIOS)
Eric Dolphy Discography Project (@ Jazz Discography Project)
>> Wikipedia 日本語 / Wikipedia English / allmusic
[Links: Misja Mengelberg]
>> Wikipedia 日本語 / Wikipedia English / allmusic
[Links: Jacques Schols]
>> Wikipedia 日本語 / Wikipedia English / allmusic
[Links: Han Bennink]
Han Bennink (Official Website)
>> Wikipedia 日本語 / Wikipedia English / allmusic

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2005年11月23日

マイルス・デイヴィス『死刑台のエレベーター』

ascenseurpourlechafaud.jpg Miles Davis - Ascenseur pour l'!)chafaud

いよいよ帝王マイルス・デイヴィスの登場です。本名、マイルス・デューイ・デイヴィス3世(Miles Dewey Davis III)。1926年5月26日、イリノイ州アルトン生まれ。1991年9月28日、カリフォルニア州サンタモニカで死去(享年65歳)。

この1、2週間というもの、マイルスの最初の1枚を何にするか、かなり真剣に迷いました(笑)。で、選んだのが、この『死刑台のエレベーター』です。この作品は、マイルス初のサウンドトラック盤で、1957年のフランス映画『死刑台のエレベーター』のために、当時、単身パリを訪れていたマイルスが地元の精鋭ミュージシャンをしたがえて吹き込んだものです。

なぜ『死刑台のエレベーター』からはじめるのか。この作品にはマイルスのサウンドの秘密が隠されているからです。私たちが思い浮かべる「マイルスの音」、あのカッコよすぎるトランペットの音色は、実は周到に計算され、つくり込まれた音だというのが、この作品、とくに「完全盤」を聞くとわかるんです(したがって、アマゾンのリンクは「完全盤」に貼ってあります)。

もともと映画のサントラ盤には、下記の10曲が収められていました。そして、「完全盤」にはサウンドトラック用に加工される前のナマの演奏が16曲分入っています。この「加工」にヒントが隠されています。加工前と加工後では、マイルスの音がまるで違う。加工後のほうが、圧倒的にカッコいいんです。エコーが効いて、より立体的な響きを感じさせます。そして、ここが重要なんですが、このエコー処理後のマイルスの音色こそ、ふだん私たちが慣れ親しんでいるマイルスの音、とくにモードからエレクトリック路線を突き進んだコロンビア時代のマイルスの音に他ならないのです。

つまり、コロンビア時代のマイルスは、よく練られ、つくり込まれたサウンドによって支えられていた。その端緒となったのが、この『死刑台のエレベーター』という作品だったというわけです(このアルバムは、アメリカの発売元はコロンビアですが、もとはフランスのフォンタナ・レーベルからリリースされました)。

以上の話は、私の発案といいたいところですが、そんなことはもちろんなくて、中山康樹さんの『マイルスを聴け!』に載っています。この話を読んで、私はそれ以前からばく然と感じていたプレスティッジ時代のマイルスとコロンビア時代のマイルスの質感の違いに正解を与えられた思いがして、膝を打ったものです。

たしかに、コロンビア時代、テオ・マセロがプロデューサーに名を連ねるようになってからのマイルスは、それ以前と比べて格段にカッコよくなっています。全体に平板な印象だったのが、よりスペースを感じさせるサウンドに変化している。2次元から3次元への変化とでもいえばいいでしょうか。それは、この「完全盤」のエコー処理済みの10曲と、加工前のナマの音を聞き比べれば、一聴瞭然です。まったく同じ演奏なのに、こうも違うかと驚くでしょう。

というわけで、このアルバムの聞き方は、最初の1回だけ、同じ演奏を聞き比べて、その音色や全体の雰囲気の違いを確かめてください。その後は、原曲は切り捨てて(iTune にはじめから登録しない)、サウンドトラック盤の10曲だけを楽しむ。これです。

また、この吹き込みは、マイルスおよびメンバーが映画のラッシュ(まだ無音状態のフィルム)を見ながら、その場で即興で音をつけたという「伝説」で彩られていました。

ところが、世界的に有名なマイルス(およびブルーノート)のコンプリート・コレクターである小川隆夫さんの『マイルス・デイヴィス コンプリート・ディスク・ガイド』によると、渡仏直後(11月下旬?)にサントラ録音の依頼を受けたマイルスは、滞在しているホテルにピアノを持ち込み、ツアーの合間に作曲に取り組んだといいます。つまり、マイルスは事前に曲想を得てスタジオ入りした。でも、それはメンバーには知らされず(いつものことです)、いかにもその場で即興で生み出したかのように演奏した。

そう聞いて、幻滅しましたか? 私は逆に、いかにも「ええかっこしい」のマイルスらしいエピソードだと感じました。努力している姿は他人に見せず、表向きはあくまでクールでヒップな存在であり続ける。メンバーをも萎縮させるマイルスの圧倒的な存在感は、こういう人知れない努力の賜物だと思うのです。ミステリアスな部分がない男に、色気は感じないでしょう?

ちなみに、ヌーヴェル・ヴァーグの先駆けとも呼ばれた映画『死刑台のエレベーター』の監督はルイ・マル。主演はジャンヌ・モローです(DVD「ルイ・マル DVD-BOX II」に収録されています)。モノクロ映像が醸し出す質感とマイルスの陰影のあるサウンドによって、サスペンスものの古典として、今なお特別な光を放っています。



Miles Davis "Ascenseur Pour L'echafaud"
(Fontana 662 213 TR, Columbia CL 1268 / CS 8978)

Miles Davis (trumpet)
Barney Wilen (tenor sax)
Rene Urtreger (piano)
Pierre Michelot (bass)
Kenny Clarke (drums)

Recorded at Le Poste Parisien Studios, Paris; December 4, 5, 1957

[Tracks] Miles Davis - Ascenseur pour l'!)chafaud
01. Geneique (music: Miles Davis)
02. L'Assassinat De Carala (music: Miles Davis)
03. Sur L'Autoroute (music: Miles Davis)
04. Julien Dans l'Ascenseur (music: Miles Davis)
05. Florence Sur Les Champs- Lysees (music: Miles Davis)
06. Diner Au Motel (music: Miles Davis)
07. Evasion De Julien (music: Miles Davis)
08. Visit Du Vigile (music: Miles Davis)
09. Au Bar Du Petit Bac (music: Miles Davis)
10. Chez Le Photographe Du Motel (music: Miles Davis)

[Links: Miles Davis]
The Official Miles Davis Web Site
The Official Miles Davis Web Site (@ Sony Music)
Miles Ahead: A Miles Davis Website (by Peter Losin)
Miles Davis: Missing Links (by Thomas Westphal)
Miles Davis Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Barney Wilen]
Barney Wilen (Official Website)
Barney Wilen Discography

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2005年07月09日

ズート・シムズ『クッキン!』

cookinzoot.jpg

酒さえ飲んでいれば、いつでもご機嫌だったというズート・シムズ。好不調の波がほとんどなく、ジャズのスタイルの変遷ともほとんど無縁で過ごした彼の酔いどれテナーを聞くときは、アルコールで頭をからっぽにするのが正しい聴く方。というわけで、今日も私は飲んでます(笑)。

その昔、イギリスは音楽的な「鎖国」状態にあったそうな。いわく、「アメリカのジャズメンがイギリスのクラブで演奏するのはけしからん。俺たちの職を奪うな」というわけで、イギリスのミュージシャン・ユニオンが外国のミュージシャンがイギリス国内で演奏するのを規制していた。今となっては笑い話ですが、そういう排他的なギルドが昔はあったんですね。

世の中がグローバル化した現代の視点から見れば、そういう排他的な行動は、実は自分たちの首を絞めることにしかならないわけです。本場のミュージシャンがこなければ、シーンそのものが活性化しない。というよりも、ジャズという音楽そのものが、シーンから消えてしまう可能性があります。それじゃ元も子もない。

かの地のミュージシャンもそれに気づいたんでしょう。今の言葉でいう「規制緩和」を実施しました。アメリカのミュージシャンも来ていいよ。ていうか、来てください。お願いします、ってなわけで、ズート・シムズが呼ばれたのは、ロンドンにあるロニー・スコッツ・ジャズ・クラブ。1961年の暮れでした。

オーナー自らサックス吹きというこのクラブで、ズートは「これぞテナー」というご機嫌な演奏を聞かせてくれます。寺島靖国さんから「キング・オブ・スウィング」の称号をもらったズートのこと(ただしモダン期限定。ふつう「キング・オブ・スウィング」といえば、御大ベニー・グッドマンを指します)。気取らない、構えない、普段着のスウィング・テナーを思う存分楽しんでください。最後のオマケをのぞけば、すべてワン・ホーン・フォーマットでの録音というのも、ファンとしてはうれしいですね。

ジャケットの女性が印象的な『クッキン!』。一聴の価値はあります。



Zoot Sims "Cookin'!"
(Fontana 683 273 JCL / 883 273 JCY)

Zoot Sims (tenor sax)
Stan Tracy (piano)
Kenny Napper (bass)
Jackie Dougan (drums)
Jimmy Deuchar (trumpet) #6
Ronnie Scott (tenor sax) #6

Recorded live at Ronnie Scott's Jazz Club, London; November 13-15, 1961

[Tracks] 
01. Stompin' At The Savoy (music: Edgar Sampson, Chick Webb, Benny Goodman / words: Andy Razaf)
02. Love For Sale (music+words: Cole Porter)
03. Somebody Loves Me (music: George Gershwin / words: Buddy G. DeSylva, Ballard MacDonald)
04. Gone With The Wind (music: Allie Wrubel / words: Herbert Magidson)
05. Autumn Leaves (music: Joseph Kosma / words: Jacques Prevert, Johnny Mercer)
06. Desperation (music: Jimmy Deuchar)

[Links: Zoot Sims]
ZootSims.net (by くおーく)
Zoot Sims Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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