
マーク・コープランドとビル・キャロザーズ。スケッチレーベル(扱いは澤野工房)の作品で名をあげた二人ですが、芸歴は意外と古いようです。
マーク・コープランド。1948年5月27日、ペンシルヴァニア州フィラデルフィア生まれというから、実はかなりのベテランなんですね。そのわりに名前が出てきたのが遅いなと思ったら、それもそのはず、彼はもともとサックス奏者だったんですね。いったんニューヨークに出て、エレクトリック・アルトなんかにも手を出したようですが、きっと鳴かず飛ばずだったんでしょう。故郷に戻ってピアノを学びはじめます。彼がシーンに復帰したのは80年代半ば。90年代にゲイリー・ピーコック (bass)、ビリー・ハート (drums) とトリオを組んだあたりから、現在のような小編成(ソロ、デュオ、トリオ)中心の活動を送っています。
ビル・キャロザーズ。生年月日はわかりませんが、もう20年以上もピアニストとしてのキャリアを積んでいるようです。第一次世界大戦など重苦しいテーマを取り上げたりして、内省的なイメージがある人ですが、ホームページを見ると、完全にイメージを覆されます(笑)。実はかなりお茶目な人じゃないか、と。
そんな二人が組むとどうなるか。アルバムは、オーネット・コールマンの名曲〈ロンリー・ウーマン〉で幕を開けます(初出はもちろん『ジャズ来るべきもの
続く2曲目は必殺の「あなたと夜と音楽と」。でも、こちらも重く暗い出だしです。別に低音ばかり弾いているわけでもなく、すきまがないほど音で埋め尽くされているのに、ちっとも明るくない。でも、この張りつめた空気は尋常じゃありません。ぜひボリュームを上げて、音の洪水を全身で受け止めてください。内省的? 耽美的? 繊細? いや、二人とも思いのほか力強いタッチで耳元に迫ってきます。この二人、こんなに叩きつける弾き方だったっけ?
そして9曲目、セロニアス・モンクの「ベムシャ・スイング」でその疑いはいよいよ濃厚になってきます。モンクス・オリジナルには、演奏する人を多かれ少なかれ「モンク的」にしてしまう呪縛がありますが、このパーカッシヴな奏法は、まさしくモンク譲りです。
聴けば聴くほど、どんどんイメージが変わっていきます。もともと色彩感に乏しい二人ですが、淡い墨絵のような印象だったのが、もっと陰影のはっきりした、力強い筆致で描かれた禅書のようなインパクトがあります。
ところで、このアルバム、メンツといい、アートワークといい、いかにもスケッチレーベルっぽいわけですが、それもそのはず、プロデューサーもエンジニアも録音スタジオも、すべて倒産したスケッチとおんなじなんですね。良質な作品を生み出していたプロデューサー兼デザイナーの Phillippe Ghielmetti がパッケージ込みでフリーになったのか、それとも Minium レーベルに移籍したのかは定かではありませんが、ハイレベルの作品群にまた出会えるのですから、よしとしましょう(とはいえ、ジャケットの質感が若干落ちている気がするのは、紙代などのコスト削減のあおりを受けてのことでしょうか)。
Marc Copland, Bill Carrothers "No Choice"
(Minium 6128452)
Marc Copland (piano: right)
Bill Carrothers (piano: left)
Produced by Phillippe Ghielmetti
Recorded by Gerald de Haro
Recorded at Studio La Buissonne, Pernes-les-Fontaines; January 23, 24, 2006
[Tracks]
01. Lonely Woman Ornette Coleman (music)
02. You And The Night And The Music Arthur Schwartz (music) / Howard Dietz (lyrics)
03. The Needle And The Damage Done Neil Young (music)
04. Dim Some Marc Copland, Bill Carrothers (music)
05. Take The "A" Train Duke Ellington, Billy Strayhorn (music) / Johnny Mercer (lyrics)
06. Blue In Green (Chorale) Miles Davis, Bill Evans (music)
07. Blue In Green (Theme & Variations) Miles Davis, Bill Evans (music)
08. Masqualero Wayne Shorter (music)
09. Bemsha Swing Thelonious Monk (music)
10. Lonely Woman Ornette Coleman (music)
[Links: Marc Copland]
Marc Copland Home Page
Marc Coplamd (@ ジャズCDの個人ページ by K. Kudo)
[Links: Bill Carrothers]
Bill Carrothers Home Page
最後にポチッとよろしく。
