

売れ線プロデューサー、クリード・テイラーのもとで、ウェス・モンゴメリーは商業的成功を手に入れ、そこにからめとられていくわけですが、そうしたウェスの生き方は、おそらく彼の本格デビュー前の極貧生活と無関係ではありません。
1959年当時、ウェスには6人の子どもがいました。「貧乏人の子だくさん」を地でいく家庭で、一家の大黒柱ウェスは、朝7時から午後3時半まで工場で溶接工として働き、夜7時から午前2時までは「ターフ・バー」で、午前2時半から5時までは「ミサイル・ルーム」で演奏をこなすというスケジュールで日々の生活の糧を稼いでいました。ろくに睡眠時間もとれない、こんな過酷な生活で身体が保つはずもなく、ウェスは何度か意識を失ったといいます。ウェスが家族に好きなものを買ってやれる幸せを口にするとき、その脳裏には、わずか数年前まで家族を覆っていた悲惨な状況が思い浮かんでいたに違いありません。
そんな出口の見えない状況に救いの手を差し伸べたのは、リヴァーサイド・レーベルのオリン・キープニューズでした。1959年9月、ニューポート・ジャズ・フェスティヴァルのパッケージ・ツアーでウェスの地元インディアナポリスを訪れたキャノンボール・アダレイは、そこでウェスの驚くべき才能を目の当たりにします。ツアーを終え、ニューヨークに舞い戻ったキャノンボールは、すぐさまオリンのもとを訪ね、「インディアナポリスにすごいギタリストがいるんだよ。君はこの男と契約しなくちゃ……ほら、これが電話番号さ」と一気にまくしたてたといいます。オリンその日、たまたまガンサー・シュラーがジャズ・レビュー誌でウェスを激賞した次の記事を目にしていて、そのことも彼の決断を後押しします。
ウェス・モンゴメリーについて最もわかりやすい言い方をすれば、ずば抜けてスリリングなギタリスト、ということになる。彼のソロを聴くことは、崖っぷちでしきりに揺さぶられるようなものだ。そのピーク時のプレイは耐え難いほどエキサイティングで、これ以上は耐えられないと感じるまで続く。(中略)
ウェスは、決まったパターンでソロを配列する。(中略)この決まったパターンとは、まず抑制の利いた流れのなかでメロディに対するアイディアを主眼としたシングル・ラインから始まり、その次には "演奏不可能" と思われるようなオクターヴ奏法、最後には別の次元で "不可能" としか思えないブロック・コードといった構成である。このようにして、ソロはダイナミックに展開され、そしてリズム的にも究極のクライマックスに達するのである。ここに至り、リスナーは必ず打ちのめされる(途方に暮れてしまっているギタリストのためにさらに付け加えるならば、ウェスはピックを使わずにこれをやるのだ)。
ガンサー・シュラー「インディアナ・ルネッサンス」(『ジャズ・レビュー』1959年9月号)より。『ウェス・モンゴメリー
ウェスの名を天下に知らしめた傑作『インクレディブル・ジャズ・ギター
"The Incredible Jazz Guitar Of Wes Montgomery"
(Riverside RLP 320/1169)
Wes Montgomery (guitar)
Tommy Flanagan (piano)
Percy Heath (bass)
Albert Heath (drums)
Produced by Orrin Keepnews
Recorded by Jack Higgins
Recorded at Reeves Sound Studios, NYC; January 26, 28, 1960
[Tracks]

01. Airegin Sonny Rollins (music)
02. D-Natural Blues Wes Montgomery (music)
03. Polka Dots And Moonbeams Jimmy Van Heusen (music) / Johnny Burke (lyrics)
04. Four On Six Wes Montgomery (music)
05. West Coast Blues Wes Montgomery (music)
06. In Your Own Sweet Way Dave Brubeck (music)
07. Mr. Walker (Renie) Wes Montgomery (music)
08. Gone With The Wind Allie Wrubel (music) / Herbert Magidson (lyrics)
[Links: Wes Montgomery]
Wes Montgomery Fan Club
Wes Montgomery Discography Project (@ Jazz Discography Project)
Wes Montgomery Discography (by Ed Fila)
[Links: Tommy Flanagan]
Tommy Flanagan Discography Project (@ Jazz Discography Project)
最後にポチッとよろしく。
