2005年11月23日

マイルス・デイヴィス『死刑台のエレベーター』

ascenseurpourlechafaud.jpg Miles Davis - Ascenseur pour l'!)chafaud

いよいよ帝王マイルス・デイヴィスの登場です。本名、マイルス・デューイ・デイヴィス3世(Miles Dewey Davis III)。1926年5月26日、イリノイ州アルトン生まれ。1991年9月28日、カリフォルニア州サンタモニカで死去(享年65歳)。

この1、2週間というもの、マイルスの最初の1枚を何にするか、かなり真剣に迷いました(笑)。で、選んだのが、この『死刑台のエレベーター』です。この作品は、マイルス初のサウンドトラック盤で、1957年のフランス映画『死刑台のエレベーター』のために、当時、単身パリを訪れていたマイルスが地元の精鋭ミュージシャンをしたがえて吹き込んだものです。

なぜ『死刑台のエレベーター』からはじめるのか。この作品にはマイルスのサウンドの秘密が隠されているからです。私たちが思い浮かべる「マイルスの音」、あのカッコよすぎるトランペットの音色は、実は周到に計算され、つくり込まれた音だというのが、この作品、とくに「完全盤」を聞くとわかるんです(したがって、アマゾンのリンクは「完全盤」に貼ってあります)。

もともと映画のサントラ盤には、下記の10曲が収められていました。そして、「完全盤」にはサウンドトラック用に加工される前のナマの演奏が16曲分入っています。この「加工」にヒントが隠されています。加工前と加工後では、マイルスの音がまるで違う。加工後のほうが、圧倒的にカッコいいんです。エコーが効いて、より立体的な響きを感じさせます。そして、ここが重要なんですが、このエコー処理後のマイルスの音色こそ、ふだん私たちが慣れ親しんでいるマイルスの音、とくにモードからエレクトリック路線を突き進んだコロンビア時代のマイルスの音に他ならないのです。

つまり、コロンビア時代のマイルスは、よく練られ、つくり込まれたサウンドによって支えられていた。その端緒となったのが、この『死刑台のエレベーター』という作品だったというわけです(このアルバムは、アメリカの発売元はコロンビアですが、もとはフランスのフォンタナ・レーベルからリリースされました)。

以上の話は、私の発案といいたいところですが、そんなことはもちろんなくて、中山康樹さんの『マイルスを聴け!』に載っています。この話を読んで、私はそれ以前からばく然と感じていたプレスティッジ時代のマイルスとコロンビア時代のマイルスの質感の違いに正解を与えられた思いがして、膝を打ったものです。

たしかに、コロンビア時代、テオ・マセロがプロデューサーに名を連ねるようになってからのマイルスは、それ以前と比べて格段にカッコよくなっています。全体に平板な印象だったのが、よりスペースを感じさせるサウンドに変化している。2次元から3次元への変化とでもいえばいいでしょうか。それは、この「完全盤」のエコー処理済みの10曲と、加工前のナマの音を聞き比べれば、一聴瞭然です。まったく同じ演奏なのに、こうも違うかと驚くでしょう。

というわけで、このアルバムの聞き方は、最初の1回だけ、同じ演奏を聞き比べて、その音色や全体の雰囲気の違いを確かめてください。その後は、原曲は切り捨てて(iTune にはじめから登録しない)、サウンドトラック盤の10曲だけを楽しむ。これです。

また、この吹き込みは、マイルスおよびメンバーが映画のラッシュ(まだ無音状態のフィルム)を見ながら、その場で即興で音をつけたという「伝説」で彩られていました。

ところが、世界的に有名なマイルス(およびブルーノート)のコンプリート・コレクターである小川隆夫さんの『マイルス・デイヴィス コンプリート・ディスク・ガイド』によると、渡仏直後(11月下旬?)にサントラ録音の依頼を受けたマイルスは、滞在しているホテルにピアノを持ち込み、ツアーの合間に作曲に取り組んだといいます。つまり、マイルスは事前に曲想を得てスタジオ入りした。でも、それはメンバーには知らされず(いつものことです)、いかにもその場で即興で生み出したかのように演奏した。

そう聞いて、幻滅しましたか? 私は逆に、いかにも「ええかっこしい」のマイルスらしいエピソードだと感じました。努力している姿は他人に見せず、表向きはあくまでクールでヒップな存在であり続ける。メンバーをも萎縮させるマイルスの圧倒的な存在感は、こういう人知れない努力の賜物だと思うのです。ミステリアスな部分がない男に、色気は感じないでしょう?

ちなみに、ヌーヴェル・ヴァーグの先駆けとも呼ばれた映画『死刑台のエレベーター』の監督はルイ・マル。主演はジャンヌ・モローです(DVD「ルイ・マル DVD-BOX II」に収録されています)。モノクロ映像が醸し出す質感とマイルスの陰影のあるサウンドによって、サスペンスものの古典として、今なお特別な光を放っています。



Miles Davis "Ascenseur Pour L'echafaud"
(Fontana 662 213 TR, Columbia CL 1268 / CS 8978)

Miles Davis (trumpet)
Barney Wilen (tenor sax)
Rene Urtreger (piano)
Pierre Michelot (bass)
Kenny Clarke (drums)

Recorded at Le Poste Parisien Studios, Paris; December 4, 5, 1957

[Tracks] Miles Davis - Ascenseur pour l'!)chafaud
01. Geneique (music: Miles Davis)
02. L'Assassinat De Carala (music: Miles Davis)
03. Sur L'Autoroute (music: Miles Davis)
04. Julien Dans l'Ascenseur (music: Miles Davis)
05. Florence Sur Les Champs- Lysees (music: Miles Davis)
06. Diner Au Motel (music: Miles Davis)
07. Evasion De Julien (music: Miles Davis)
08. Visit Du Vigile (music: Miles Davis)
09. Au Bar Du Petit Bac (music: Miles Davis)
10. Chez Le Photographe Du Motel (music: Miles Davis)

[Links: Miles Davis]
The Official Miles Davis Web Site
The Official Miles Davis Web Site (@ Sony Music)
Miles Ahead: A Miles Davis Website (by Peter Losin)
Miles Davis: Missing Links (by Thomas Westphal)
Miles Davis Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Barney Wilen]
Barney Wilen (Official Website)
Barney Wilen Discography

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posted by ユキヒロ at 23:45| Comment(2) | TrackBack(1) | Fontana | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
マイルスのアルバム紹介で何を一枚目にするかは悩みますよね。
いきなり『ビッチェズ・ブリュー』はないにしても、『カインド・オブ・ブルー』か、『サムシン・エルス』か(キャノンボール名義ですが)、いやいや『フォア・アンド・モア』なんてのもいいぞ、とかあれこれ考えてしまいます。
で、『死刑台のエレベーター』ときましたか。
恥ずかしながら、私はこのアルバム、持っていません。映画は観ましたが、やっぱりサントラだしなあ、と思って軽く考えていたのでしょうね。
でもこうして「完全盤」を聴くとなると、確かにマイルスの音楽家としての個性が理解できるような気がします。
将来の購入予定に入れておきます。
Posted by Clif at 2005年11月24日 23:16
最初の1音から「これぞマイルス!」というキメキメのフレーズが炸裂します。シビれ度合いからいったら、「ラウンド・ミッドナイト」「枯葉」と同レベルです。ぜひ聞いてみてくださいな。
Posted by ユキヒロ at 2005年11月25日 10:03
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Tracked: 2005-11-25 09:00
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