前回投稿したアモンズ評を読んで、勘のいい方なら「これってデクスター・ゴードンとおんなじ表現じゃん!」とお気づきになったかもしれません。「男性的」「雄大な」「スケールの大きな」「泰然自若」といった形容詞は、たしかにアモンズにもデックスにも通用します。でも、この2人には決定的な違いがある。それが「泥臭さ」です。
ブルースの本場シカゴは、黒人が多い街としても知られています(黒人39%、白人37%、ヒスパニック系20%)。シカゴ生まれのアモンズのテナーは、だから土の匂いがします。そして、野太い。一歩間違えると野暮ったい田舎の音になりそうなのに、そうならないのは、彼の懐の深さのなせる業です。アモンズの吹くバラードは、デカくて力のある男ならではのゆとりを感じさせます。
対するデックスはLA生まれ。メキシコに近いこともあって、ヒスパニック系が全体の半数近くを占めています(ヒスパニック系47%、白人30%、黒人11%、アジア系10%)。西海岸の陽気は南国そのもの。ここでは何事もおおらかに進みます。デックスの飄々とした性格とゆったりとした(=急かない)テナーは、彼の生まれた土地とも関係しているに違いありません。
アモンズの泥臭さは、アモンズのテナーがアーシーなオルガンと親和性が高いことでもわかります。デックスとオルガンも合わないことはないかもしれませんが、アモンズのほうがしっくりします。
『ボス・テナーズ・イン・オービット』(「in orbit」の直訳は「軌道に乗った」「軌道上の」。2人のかけあいの滑らかさを評したものだとすれば、「丁々発止のボス・テナーズ」といった感じでしょうか)にもオルガン奏者ドン・パターソンが参加していますが、アモンズ&スティットのチームは、ソウルジャズの大御所ブラザー・ジャック・マクダフとその名も『ソウル・サミット』というおそろしげなアルバムも残しています。筋金入りの泥臭さです。
〈ロング・タイム・アゴー・アンド・ファー・アウェイ〉の出だしから、オルガン特有のアーシーな響きが充満します。遅れて登場するアモンズのテナーが輪をかけて男臭い。スティットのテナーが軽く聴こえてしまうほどです。やっぱり、ボスはいちばんおいしいツボを心得ているんです。
4曲目の〈ジョン・ブラウンズ・ボディ〉。どこかで聞いたことがあるメロディーだと思ったら、「ま〜るい緑の山手線、真ん中通るは中央線、新宿西口駅の前、カメラはヨ○ドバシカメラ」の元ネタでした(笑)。ちなみに、このトラッド・ソングはオスカー・ピーターソンとミルト・ジャクソンの共演盤『ヴェリー・トール』でも演奏されていました。
Gene Ammons, Sonny Stitt "Boss Tenors In Orbit"
(Verve V/V6-8468)
Gene Ammons (tenor sax)
Sonny Stitt (tenor sax) #1, 3-5 (alto sax) #2
Don Patterson (organ)
Paul Weeden (guitar)
Billy James (drums)
Produced by Creed Taylor
Recorded by Rudy Van Gelder
Recorded at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ; February 18, 1962
[Tracks]
01. Long Ago And Far Away (music: Jerome Kern / words: Ira Gershwin)
02. Walkin' (music: Richard Carpenter)
03. Why Was I Born (music: Jerome Kern / words: Oscar Hammerstein II)
04. John Brown's Body (traditional)
05. Bye Bye Blackbird (music: Ray Henderson / words: Mort Dixon)
[Links: Gene Ammons]
Gene Ammons Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Paul Weeden]
The Paul Weeden Discography (by Carl-Bernhard Kjelstrup, Jr.)
最後にポチッとよろしく。
ワタシのブログにこのブログを紹介させていただきました。問題有ればおっしゃって下さい。
ジーン・アモンズかっこ良いですよね。