2006年11月26日

ビル・エヴァンス『ムーンビームス』

evans_moonbeams.jpg Bill Evans - Moonbeams

スコット・ラファロ亡き後のエヴァンス・トリオには、チャック・イスラエルが迎えられました(1961年末頃)。1936年10月10日、ニューヨーク州ニューヨーク生まれのベーシストは、このとき25歳。彼とエヴァンスの出会いは、実は4年前までさかのぼります。

ときは1957年。マサチューセッツ州ウォルサムにあるユダヤ系名門私立大学ブランダイス大学は、その年の芸術祭の総監督を、サード・ストリーム(第三の流れ。ジャズとクラシックの融合を目指した一連の運動を指す)の提唱者ガンサー・シュラーに依頼します。そこでは、ジャズ界から3人、クラシック界から3人の作曲家が選ばれ、彼らの楽曲が演奏されたのですが、そのなかに、エヴァンスの才能を高く買っていたジョージ・ラッセルがいました。ラッセル作の組曲〈オール・アバウト・ロージー〉には、エヴァンスのピアノにスポットライトを当てたパートもあったとか(私は未聴です。輸入盤ですが、このときの演奏を後日再演した『ブランダイス・ジャズ・フェスティヴァル』というアルバムが出ています)。

チャック・イスラエルは当時、このブランダイス大学に在学中で、ステージ後の歓迎会で、ピアノのスティーヴ・キューン(!)とともにトリオを組んで演奏してみせたといいます。彼らの演奏を気に入ったエヴァンスは、イスラエルとも言葉を交わしたと伝えられています。

ラファロが突然この世から姿を消したとき、イスラエルは遠くヨーロッパを旅していました。ジェローム・ロビンズ・バレエ(!)の楽団に加わり、各地を転々としていたようですが、かの地でのイスラエルの足跡は、『エリック・ドルフィー・イン・ヨーロッパ Vol. 1』に1曲だけ刻印されています(ただし、録音は61年9月8日。ドルフィーのフルートとのデュオ)。

ラファロの訃報を聞いたとき、彼には不思議な高揚感がありました。直感的に、自分がエヴァンス・トリオの次のベーシストになるとわかったというのです。ツアーを終えて帰国すると、案の定、エヴァンスから誘いの電話がかかってきます。同じ頃、有名なジャズ雑誌『ダウンビート』は、エヴァンスがヴァーヴ・レコードと契約したと報じます(大物プロデューサー、クリード・テイラーが引っこ抜いた)。リヴァーサイドとの契約はまだ残っていましたが、エヴァンスの周囲はにわかに騒がしくなってきます。

ムーンビームス』は、チャック・イスラエル加入後のエヴァンス・トリオ初の公式録音です。セッションは3日間に分けて収録されました。最初の録音は、62年5月17日。ジム・ホールとの共演盤『アンダーカレント』からわずか3日後の出来事です。

アルバムはプロデューサー、オリン・キープニュース (Orrin Keepnews)の名前をもじってつけたエヴァンス・オリジナル〈リ・パーソン・アイ・ニュー〉(Re: Person I Knew)で幕を開けます。エヴァンスはピアノに驚くほどのニュアンスを込めることができました。丸みをおびたやさしい音、壊れてしまいそうな繊細な音、跳ねるように歯切れのいい音、硬質で耳に鋭く切れ込む音。どれもエヴァンスならではの音色です。この使い分けがすばらしい! 心の動きにあわせ、相手の出方にあわせて、刻々と変わっていくタッチ。そして、その変化を(表面的には)意識させない。まったくこの人は、どこまで深く考えながら演奏していたというのでしょう!

エヴァンスのバラードといえば必ず名前の挙がるこのアルバム。〈ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームス(水玉模様と月光)〉、〈アイ・フォーリン・ラヴ・トゥ・イージリー〉、〈ステアウェイ・トゥ・ザ・スターズ(星へのきざはし)〉、そして、1か月前にタッド・ダメロンの『ザ・マジック・タッチ』に客演して、録音したばかりの〈イフ・ユー・クッド・シー・ミー・ナウ〉と続いたら、どんなにしかめっ面をした人でも、うっとりすること間違いなしです(笑)。

ところで、ジャケットを飾るひときわ印象的なこの女性、ニコこと、クリスタ・パフゲンというモデル兼女優兼歌手で、アンディ・ウォーホルやヴェルヴェット・アンダーグラウンドとの活動で知られているそうです(私はちっとも知りませんでしたが)。なまめかしい流し目を送るこの写真を、横倒しにして使ったデザイナー(Ken Deardoff)のセンスに拍手!

 

Bill Evans "Moon Beams"
(Riverside 428/9428)

Bill Evans (piano)
Chuck Israels (bass)
Paul Motian (drums)

Produced by Orrin Keepnews
Recorded by Bill Schwartau
Recorded in NYC; May 17 (#5), 29 (#1, 8), Jun 5 (#2-4, 6, 7), 1962

[Tracks] Bill Evans - Moonbeams
01. Re: Person I Knew Bill Evans (music)
02. Polka Dots And Moonbeams Jimmy Van Heusen (music) / Johnny Burke (lyrics)
03. I Fall In Love Too Easily Jule Styne (music) / Sammy Cahn (lyrics)
04. Stairway To The Stars Matty Malneck, Frank Signorelli (music) / Mitchell Paris (lyrics)
05. If You Could See Me Now Tadd Dameron (music) / Carl Sigman (lyrics)
06. It Might As Well Be Spring Richard Rodgers (music) / Oscar Hammerstein II (lyrics)
07. In Love In Vain Jerome Kern (music) / Leo Robin (lyrics)
08. Very Early Bill Evans (music)

[Links: Bill Evans]
The BILL EVANS Webpages
Bill Evans's Discography
Bill Evans Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Chuck Israels]
Chuck Israels (official website)
[Links: Paul Motian]
Paul Motian (@ ジャズCDの個人ページ by K. Kudo)

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posted by ユキヒロ at 17:25| Comment(0) | TrackBack(0) | Riverside (Jazzland) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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