2006年11月29日

ビル・エヴァンス『自己との対話』

evans_conversations.jpg Bill Evans - Conversations With Myself (Verve Master Edition)

エヴァンスはそれまでも何度かソロ・ピアノによるレコーディングをしてきましたが、いずれも出来は芳しくなく、未発表に終わっていました(トリオ・アルバムに収録されたものは除く)。リヴァーサイドとの契約はまだ残っていましたが、新天地ヴァーヴでは、すでに62年の夏にはフライング気味に『エムパシー』を収録(西海岸のドラマー、シェリー・マンとの共同名義。トリオ作品)、次に取り組んだのが、自身初となる全編ソロ作品『自己との対話』でした(1963年2月と5月の録音)。

ソロ・ピアノといっても、CD から聴こえてくるのは、明らかに複数のピアノの音です。手数が多いとかそういうことではなく、左、右、そして真ん中に3台のピアノが配置してある。エヴァンスが一人三役をこなして多重録音したからです。

まず、基本のトラックを録音する。次に、そのトラックを聴きながら2トラック目を録音する。さらに、最初の2つのトラックを聴きながら3トラック目を録音する。文字どおり『自己との対話』によって、この作品は完成しました。

ロックやポップスならいざ知らず、瞬間芸術のジャズの世界でマルチ・トラックを使うのはどうなの? 一発録りこそジャズ・レコーディングの王道じゃないの? という疑問もわきますが、オーヴァー・ダビングという手法自体は(少なくとも現在は)珍しくもなんともありません。問題なのはむしろ、多重録音がエヴァンスの音楽性を表現するうえで最適な手法なのかだと思うのですが、結果として、この作品は、エヴァンスにはじめてのグラミー賞をもたらし(1963 Best Instrumental Jazz Performance - Soloist Or Small Group)、当時アメリカでもっとも売れたエヴァンス盤となったそうです。

ただ、個人的には、この作品はさほど聴くことはありません。試みとしてはおもしろいのですが、耳のやり場に困るというか、意識があちこちに拡散して、どうにも落ち着かない。それこそ、エヴァンスが「自己との対話」に没頭するあまり、他者を疎外しているというか、こちらに向かって語りかけてこない気がします。

とはいえ、エヴァンスの多重録音路線はこれで終わらず、67年の『続・自己との対話』、78年の『ニュー・カンヴァセイションズ』と続いていくわけで、ファンなら通過せざるをえない関門ともいえます(笑)。

このアルバムでは、珍しくモンクのオリジナルを2曲、エヴァンスお気に入りの〈スパルタカス愛のテーマ〉(スタンリー・キューブリック監督の映画『スパルタカス』より)を取り上げていることが目を引きますが、実は、とても気になる曲が入っています。

唯一のエヴァンス自作曲〈N.Y.C.'s No Lark〉は、この録音のわずか3週間前、1963年1月13日に亡くなったピアニスト、ソニー・クラーク(Sonny Clark)を追悼した曲で、彼の名前のアナグラムになっています(もちろん NYC もかかっています)。

でも、なんでエヴァンスがソニー・クラークなんでしょう? 2人に接点はあったのでしょうか? 『季刊ジャズ批評110 ソニー・クラーク』には、高木宏真さんの「ソニー・クラークとビル・エヴァンス 接点はどこにあるのか?」というそのものずばりのエッセイが載っていますが、真相はわからずじまい。残念!

 

Bill Evans "Conversations With Myself"
(Verve V/V6 8526)

Bill Evans (piano)

Produced by Creed Taylor
Recorded by Ray Hall
Recorded in NYC; February 6 (#7), 9 (#1, 2, 5, 6, 8), May 20 (#3, 4), 1963

[Tracks] Bill Evans - Conversations With Myself (Verve Master Edition)
01. 'Round Midnight Thelonious Monk, Cootie Williams (music) / Bernie Hanighen (lyrics)
02. How About You Burton Lane (music) / Ralph Freed (lyrics)
03. Spartacus Love Theme Alex North (music)
04. Blue Monk Thelonious Monk (music)
05. Stella By Starlight Victor Young (music) / Ned Washington (lyrics)
06. Hey, There Richard Adler, Jerry Ross (music and lyrics)
07. N.Y.C.'s No Lark Bill Evans (music)
08. Just You, Just Me Jesse Greer (music) / Raymond Klages (lyrics)

[Links: Bill Evans]
The BILL EVANS Webpages
Bill Evans's Discography
Bill Evans Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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2006年11月27日

ビル・エヴァンス『インタープレイ』

evans_interplay.jpg 

1962年の春から秋にかけて、エヴァンスは立て続けにスタジオに籠ります。ヴァーヴへ移籍するため、リヴァーサイドとの契約を早く消化したかったということもあったのでしょうが、最大の要因は、金欠。つまり、ドラッグにはまって借金で首が回らなかったというのが、真相のようです。

借金取り立ての矢のような催促に、足繁くスタジオ入りするエヴァンス。そこで得られたなけなしのカネも、返済とドラッグに充てられます。そういう状態ですから、この時期の録音は、すべてが水準に達したわけではありませんでした。プロデューサー、オリン・キープニュースはリヴァーサイドの倒産後、マイルストーンというレーベルを新たに興して、過去のお蔵入り音源を次々にリリースしますが、そこには、この時期のエヴァンスの演奏もいくつか含まれています。しかし、そんなときでさえ、うまくハマれば、すばらしい演奏をしてみせるのですから、つくづく芸術家とはわからないものです。

インタープレイ』はうまくハマった瞬間をとらえた作品で、エヴァンスには珍しく、管入りクインテットによる録音です。メンバーは、おなじみのギタリスト、ジム・ホールに、MJQ のベーシスト、パーシー・ヒース(彼とは59年に『アイヴォリー・ハンターズ』で共演済み)、エヴァンスのフェイヴァリット・ドラマー、フィリー・ジョー、そして、トランペットはこちらも旧知のアート・ファーマーを予定していたものの都合がつかず、キープニュース推薦の新人(!)フレディ・ハバードという面々。これが当たります。

なにはともあれ、冒頭の〈あなたと夜と音楽と〉に耳を傾けてください。エヴァンスは、よくあるスタンダードに意表を突くテンポを取り入れて名演化するのが得意ですが(『ポートレイト・イン・ジャズ』の〈枯葉〉とか、『アンダーカレント』の〈マイ・ファニー・ヴァレンタイン〉が有名ですね)、これなどもその典型で、耳慣れたスタンダードに新鮮な息吹が吹きこまれ、まったく新しい曲として甦っているのがわかります。

鳴りすぎといわれるフレディのペットが、ここでは少しだけ控えめに、それでいてあのブリリアントな音色はそのままに、聴かせてくれます。フロントを分け合うのは、ジム・ホールのギター。最初のテーマ演奏を聴いただけで、わくわくします。そして現れる、エヴァンスのめちゃシビれるピアノ。こりゃ、たまりません。サイコーです!

そして、ディズニー映画『ピノキオ』より〈星に願いを〉。有名なテーマ部分をフレディではなく、ジム・ホールに「語らせる」ニクい演出。続く〈アイル・ネヴァー・スマイル・アゲイン〉では、一瞬マイルス登場か(笑)と思わせるフレディのミュートが炸裂します。

こうやって順番に聴いていくと、このアルバムは、エヴァンスにしては珍しくハードバップを感じさせます。モードやフリーが勃興しつつあった60年代の作品としては、いささか時代がかった気もしますが、巧みなホール、ハードボイルドなエヴァンス、新時代到来を感じさせるフレディの輝かしい音色が、そうしたことを忘れさせてくれます。まあ、〈あなたと夜と音楽と〉の圧倒的な新鮮さを聴けば、この作品が「古くさい」と思う人など、いないでしょうが。

 

Bill Evans "Interplay"
(Riverside 445/9445)

Freddie Hubbard (trumpet)
Bill Evans (piano)
Jim Hall (guitar)
Percy Heath (bass)
Philly Joe Jones (drums)

Produced by Orrin Keepnews
Recorded by Tom Nola
Reocrded at Nola Penthouse Studios, NYC; July 16, 1962

[Tracks] 
01. You And The Night And The Music Arthur Schwartz (music) / Howard Dietz (lyrics)
02. When You Wish Upon A Star Leigh Harline (music) / Ned Washington (lyrics)
03. I'll Never Smile Again Ruth Lowe (music and lyrics)
04. Interplay Bill Evans (music)
05. You Go To My Head J. Fred Coots (music) / Heven Gillespie (lyrics)
06. Wrap Your Troubles In Dreams Harry Barris (music) / Ted Koehler, Billy Moll (lyrics)

[Links: Freddie Hubbard]
Hub's disc: Freddie Hubbard Discography
Hub Tunes: Freddie Hubbard Discography
[Links: Bill Evans]
The BILL EVANS Webpages
Bill Evans's Discography
Bill Evans Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Jim Hall]
Jim Hall: The Official Website
Jim Hall Maniacs (by 益満妙:エキマンタエ)
ジム・ホール:アルバム蒐集 (by kawagu)
[Links: Philly Joe Jones]
Philly Joe Jones Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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ビル・エヴァンス『ハウ・マイ・ハート・シングス』

evans_howmyheartsings.jpg ビル・エバンス・トリオ - How My Heart Sings!

前作『ムーンビームス』に収録された1962年の5月17日、同29日、6月5日の3回のセッションからは、もう1枚、別のアルバムがつくられました。それがこの『ハウ・マイ・ハート・シングス』で、『ムーンビームス』はバラード集、『ハウ・マイ・ハート〜』はアップテンポの曲が中心になっています。

タイトル曲〈ハウ・マイ・ハート・シングス〉は、アール・ジンダースが婚約者アンのために作曲したワルツで、途中、四分の四拍子に切り替わりながら演奏が続きます。ラファロのいたころをファースト・トリオとすると、イスラエルが加わったセカンド・トリオの最良の部分がここで聴けます。

ラファロの才気あふれるアグレッシヴなベースとは違い、イスラエルの特質はこの落ち着きにあります。刺激という意味ではファースト・トリオにはかないませんが、イスラエルの安定したベースラインがエヴァンスにいい意味のゆとりをもたらしているように感じられます。転調子をくり返すややこしい曲なのにそう聴こえないのは、モチアンの柔軟なスティックさばきはもちろん、新加入のイスラエルに負うところが大きいのではないでしょうか。

ちなみに、ピーター・ペッティンガー著のエヴァンスの伝記の原題は、『Bill Evans: How My Heart Sings』です。ペッティンガーはなぜこのタイトルを選んだのか。そのヒントは、たぶん次のエヴァンスの発言に隠されています(引用は、相川京子訳『ビル・エヴァンス―ジャズ・ピアニストの肖像』より)。

特に、私は自分の演奏ーーそして願わくばトリオの演奏ーーに歌って欲しいんだ。私は自分の聴きたいものを演奏したい。変わったことや新しいことをするつもりはない。自分のやることが自然に育っていけば、それでいい。でも、そこには歌っているような素晴らしい感覚が無くてはいけないんだ。

このアルバムには、エヴァンス・オリジナルが3曲も入っています。モンクの楽曲を思わせる複雑な構成の〈ウォーキング・アップ〉に、同じくワルツと四拍子を行ったり来たりする〈34スキドー〉(「skidoo」というのは、スノーモービルのことなのですが、「23 skidoo」で「出て行け、うせろ」というスラングがあるそうで、「skidoo」は「skedaddle(「一目散に逃げる」)が変化したものだそうです)、エヴァンスが陽気に飛び回る〈ショウ・タイプ・チューン〉。

でも、アール・ジンダースの表題曲と並ぶ聴きものは、ブルーベックの〈イン・ユア・オウン・スウィート・ウェイ〉でしょう。楽曲がもつ高貴な香りがエヴァンスの繊細なタッチとあわさって、あやしいまでの高みに達しています。

 

Bill Evans "How My Heart Sings!"
(Riverside 473/9473)

Bill Evans (piano)
Chuck Israels (bass)
Paul Motian (drums)

Produced by Orrin Keepnews
Recorded by Bill Schwartau
Recorded in NYC; May 17 (#1, 5), 29 (#4, 6, 8), June 5 (#2, 3, 7), 1962

[Tracks] ビル・エバンス・トリオ - How My Heart Sings!
01. How My Heart Sings Earl Zindars (music)
02. I Should Care Axel Stordahl, Paul Weston (music) / Sammy Cahn (lyrics)
03. In Your Own Sweet Way Dave Brubeck (music)
04. Walking Up Bill Evans (music)
05. Summertime George Gershwin (music) / DuBose Heyward (lyrics)
06. 34 Skidoo Bill Evans (music)
07. Ev'rything I Love Cole Porter (music and lyrics)
08. Show-Type Tune Bill Evans (music)

[Links: Bill Evans]
The BILL EVANS Webpages
Bill Evans's Discography
Bill Evans Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Chuck Israels]
Chuck Israels (Official Website)
[Links: Paul Motian]
Paul Motian (@ ジャズCDの個人ページ by K. Kudo)

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2006年11月26日

ビル・エヴァンス『ムーンビームス』

evans_moonbeams.jpg Bill Evans - Moonbeams

スコット・ラファロ亡き後のエヴァンス・トリオには、チャック・イスラエルが迎えられました(1961年末頃)。1936年10月10日、ニューヨーク州ニューヨーク生まれのベーシストは、このとき25歳。彼とエヴァンスの出会いは、実は4年前までさかのぼります。

ときは1957年。マサチューセッツ州ウォルサムにあるユダヤ系名門私立大学ブランダイス大学は、その年の芸術祭の総監督を、サード・ストリーム(第三の流れ。ジャズとクラシックの融合を目指した一連の運動を指す)の提唱者ガンサー・シュラーに依頼します。そこでは、ジャズ界から3人、クラシック界から3人の作曲家が選ばれ、彼らの楽曲が演奏されたのですが、そのなかに、エヴァンスの才能を高く買っていたジョージ・ラッセルがいました。ラッセル作の組曲〈オール・アバウト・ロージー〉には、エヴァンスのピアノにスポットライトを当てたパートもあったとか(私は未聴です。輸入盤ですが、このときの演奏を後日再演した『ブランダイス・ジャズ・フェスティヴァル』というアルバムが出ています)。

チャック・イスラエルは当時、このブランダイス大学に在学中で、ステージ後の歓迎会で、ピアノのスティーヴ・キューン(!)とともにトリオを組んで演奏してみせたといいます。彼らの演奏を気に入ったエヴァンスは、イスラエルとも言葉を交わしたと伝えられています。

ラファロが突然この世から姿を消したとき、イスラエルは遠くヨーロッパを旅していました。ジェローム・ロビンズ・バレエ(!)の楽団に加わり、各地を転々としていたようですが、かの地でのイスラエルの足跡は、『エリック・ドルフィー・イン・ヨーロッパ Vol. 1』に1曲だけ刻印されています(ただし、録音は61年9月8日。ドルフィーのフルートとのデュオ)。

ラファロの訃報を聞いたとき、彼には不思議な高揚感がありました。直感的に、自分がエヴァンス・トリオの次のベーシストになるとわかったというのです。ツアーを終えて帰国すると、案の定、エヴァンスから誘いの電話がかかってきます。同じ頃、有名なジャズ雑誌『ダウンビート』は、エヴァンスがヴァーヴ・レコードと契約したと報じます(大物プロデューサー、クリード・テイラーが引っこ抜いた)。リヴァーサイドとの契約はまだ残っていましたが、エヴァンスの周囲はにわかに騒がしくなってきます。

ムーンビームス』は、チャック・イスラエル加入後のエヴァンス・トリオ初の公式録音です。セッションは3日間に分けて収録されました。最初の録音は、62年5月17日。ジム・ホールとの共演盤『アンダーカレント』からわずか3日後の出来事です。

アルバムはプロデューサー、オリン・キープニュース (Orrin Keepnews)の名前をもじってつけたエヴァンス・オリジナル〈リ・パーソン・アイ・ニュー〉(Re: Person I Knew)で幕を開けます。エヴァンスはピアノに驚くほどのニュアンスを込めることができました。丸みをおびたやさしい音、壊れてしまいそうな繊細な音、跳ねるように歯切れのいい音、硬質で耳に鋭く切れ込む音。どれもエヴァンスならではの音色です。この使い分けがすばらしい! 心の動きにあわせ、相手の出方にあわせて、刻々と変わっていくタッチ。そして、その変化を(表面的には)意識させない。まったくこの人は、どこまで深く考えながら演奏していたというのでしょう!

エヴァンスのバラードといえば必ず名前の挙がるこのアルバム。〈ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームス(水玉模様と月光)〉、〈アイ・フォーリン・ラヴ・トゥ・イージリー〉、〈ステアウェイ・トゥ・ザ・スターズ(星へのきざはし)〉、そして、1か月前にタッド・ダメロンの『ザ・マジック・タッチ』に客演して、録音したばかりの〈イフ・ユー・クッド・シー・ミー・ナウ〉と続いたら、どんなにしかめっ面をした人でも、うっとりすること間違いなしです(笑)。

ところで、ジャケットを飾るひときわ印象的なこの女性、ニコこと、クリスタ・パフゲンというモデル兼女優兼歌手で、アンディ・ウォーホルやヴェルヴェット・アンダーグラウンドとの活動で知られているそうです(私はちっとも知りませんでしたが)。なまめかしい流し目を送るこの写真を、横倒しにして使ったデザイナー(Ken Deardoff)のセンスに拍手!

 

Bill Evans "Moon Beams"
(Riverside 428/9428)

Bill Evans (piano)
Chuck Israels (bass)
Paul Motian (drums)

Produced by Orrin Keepnews
Recorded by Bill Schwartau
Recorded in NYC; May 17 (#5), 29 (#1, 8), Jun 5 (#2-4, 6, 7), 1962

[Tracks] Bill Evans - Moonbeams
01. Re: Person I Knew Bill Evans (music)
02. Polka Dots And Moonbeams Jimmy Van Heusen (music) / Johnny Burke (lyrics)
03. I Fall In Love Too Easily Jule Styne (music) / Sammy Cahn (lyrics)
04. Stairway To The Stars Matty Malneck, Frank Signorelli (music) / Mitchell Paris (lyrics)
05. If You Could See Me Now Tadd Dameron (music) / Carl Sigman (lyrics)
06. It Might As Well Be Spring Richard Rodgers (music) / Oscar Hammerstein II (lyrics)
07. In Love In Vain Jerome Kern (music) / Leo Robin (lyrics)
08. Very Early Bill Evans (music)

[Links: Bill Evans]
The BILL EVANS Webpages
Bill Evans's Discography
Bill Evans Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Chuck Israels]
Chuck Israels (official website)
[Links: Paul Motian]
Paul Motian (@ ジャズCDの個人ページ by K. Kudo)

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ビル・エヴァンス&ジム・ホール『アンダーカレント』

evans_undercurrent.jpg

1961年6月25日の日曜日、エヴァンス・トリオは2週間にわたるヴィレッジ・ヴァンガード公演のしめくくりに、はじめてのライヴ・レコーディングにのぞみます。当初、このライヴは1枚のアルバムにまとめられる予定でしたが、ラファロの不慮の死(7月6日、ニューヨーク近郊のジニーヴァで自動車事故死)によって、急遽、ラファロの追悼盤の色彩が強い『サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』が同年9月にリリースされ、時をおいて、翌62年の春に『ワルツ・フォー・デビー』が発売されました。

エヴァンス・トリオはこのライヴ・パフォーマンスで、彼らは理想の形を実現させました。3人がたがいに触発されながら自由にふるまい、それでいて、ひとつの美しい作品に結実させていく。このあたりの事情は、現場証人に語ってもらうのがいちばんです。当時ヴァンガードに入り浸っていた高校生のジャズファン、ピーター・ティトルマンのエヴァンス・トリオの見聞記(以下、引用はピーター・ペッティンガー著、相川京子訳『ビル・エヴァンス―ジャズ・ピアニストの肖像』より)。

ラファロ、モチアン、そしてエヴァンスはそれぞれ独自のスタイルを持っていたが、なぜか同じタイミングで演奏していた。彼らは全員が集中して常に自分自身のなかへ深く入り込んでいるようだったが、他のふたりの演奏に耳を傾けながら相互に反応し、まるで超生命体の様だったーーたぶん、そうだったのだろう。つまり、感情に操られた関係のように、存在、もしくは相互に作用し合っていた。

そして、ラファロについてのエヴァンスのコメント。

スコットは私の次の考えが読める、信じられないような奴だった。いつも「どうして彼は私がこっちへ行くとわかるんだ?」と不思議だった。たぶん彼も同じように思っていたに違いない。

あれ(この日のライヴ)がスコットに会った最後で、一緒に演奏した最後でもあった。ある特定の傑出したミュージシャンの演奏に依存する部分が多いコンセプトを発展させてしまったら、その人物がいなくなってしまった時はどうやってふたたび演奏し始めればいいのだろう?

自分の分身を失ってしまった失意のエヴァンスは、しばらくピアノに向かうことすらできませんでした。もともとあったドラッグ癖が悪化したのもこの頃だと思われます。エヴァンスの死後に陽の目を見たマイルストーン盤『コンセプション』には、ドラッグでボロボロになった(?)エヴァンスの破綻した演奏が残されています(有名な〈ダニー・ボーイ〉など、1962年4月4日収録の4曲は、日本編集盤『ビル・エヴァンス・ソロ:イージー・トゥ・ラヴ』や、輸入盤『タイム・リメンバード』で聴くことができます)。

エヴァンスの低迷は、しかし、そう長くは続きませんでした。ギタリスト、ジム・ホールとの共演盤『アンダーカレント』は、エヴァンス完全復活を高らかに告げる傑作です。

セッションは2回にわたって行われました。62年4月24日の第1回目のレコーディングでは、エヴァンスがまだ本調子でなかったようで、結局〈アイ・ヒア・ア・ラプソディー〉1曲のみが本採用となりました。

2回目は3週間後のの5月14日。ここで、エヴァンスとホールは、有名な〈マイ・ファニー・ヴァレンタイン〉を急速調で料理します。ふたりの息をつかせぬインタープレイ。名手ジム・ホールを相手に、過激なまでに原曲のイメージを解体していくスリリングな展開に、思わず拍手! 長いトンネルを抜け出したエヴァンスの高揚感が伝わってくるようです。

哀しみがこぼれおちる3曲目〈ドリーム・ジプシー〉。切々と胸に迫るジム・ホールのギターの響き。エヴァンスも負けていません。感情をひとつひとつていねいに込めるように、シンプルに歌い上げていきます。

そして、ジム・ホールのオリジナル〈ロメイン〉、ジョン・ルイスの〈スケーティング・イン・セントラル・パーク〉と続くこの流れ。まったくため息が出そうです。

 

Bill Evans, Jim Hall "Undercurrent"
(United Artists UAJ-14003/UAJS-15003)

Bill Evans (piano)
Jim Hall (guitar)

Produced by Alan Douglas
Recorded by Bill Schwartan
Recorded at Sound Makers, NYC; April 24 (#2), May 14 (#1, 3, 4-6), 1962

[Tracks]
01. My Funny Valentine Richard Rodgers (music) / Lorenz Hart (lyrics)
02. I Hear A Rhapsody George Fragos, Jack Baker, Dick Gasparre (music and lyrics)
03. Dream Gypsy Judith Veevers (music)
04. Romain Jim Hall (music)
05. Skating In Central Park John Lewis (music)
06. Darn That Dream Jimmy Van Heusen (music) / Eddie DeLange (lyrics)

[Links: Bill Evans]
The BILL EVANS Webpages
Bill Evans's Discography
Bill Evans Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Jim Hall]
Jim Hall: The Official Website
Jim Hall Maniacs (by 益満妙:エキマンタエ)
ジム・ホール:アルバム蒐集 (by kawagu)

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ビル・エヴァンス『エクスプロレイションズ』

evans_explorations.jpg Bill Evans - Explorations

いよいよ大本命盤『エクスプロレイションズ』の登場です。録音されたのは、1961年2月2日。前作『ポートレイト・イン・ジャズ』から実に1年以上後のことでした。この間、彼らは全米各地をツアーで巡り、音楽的に成熟を重ね、さらなる「探検」の準備を整えます(エヴァンスは肝炎を患い、一時離脱を余儀なくされました)。

このアルバムは、よく前作と比較され、『ポートレイト〜』が「動」なら『エクスプロレイションズ』は「静」といわれます。この日、ラファロとエヴァンスは激しく口論していて、うんざりするような険悪なムードが漂っていたとか、ラファロが自前のベースを修理に出していて、代わりのベースと格闘中だったとか、いろいろいわれていますが、このアルバムに聴かれるのは、そのようなアクシデントをものともせずに、トリオが極限まで一体化して、リリカルでデリケートな世界を生み出した、その姿です。わずか13か月で、彼らはここまで深化した。これを成熟と呼ばずして、何を成熟というのでしょう!

たとえば、ジョン・キャリシ作の〈イスラエル〉。アルバムの冒頭を飾るこの演奏を聴けば、エヴァンス・トリオがこれまでの誰とも違う新たな地平へ、一歩踏み出したことが手に取るようにわかります。緊密にからみあうピアノ、ベース、ドラム。このえもいわれぬ一体感を何と表現したらいいのでしょう。

たとえば、エヴァンスとは兵役時代以来の友人であるパーカッション奏者アール・ジンダース作の〈エルザ〉。彼はエヴァンスお気に入りの作曲者で、ほかにも〈ハウ・マイ・ハート・シングス〉など、いくつかエヴァンスのレパートリーを飾ることになります。

たとえば、マイルスが『ポートレイト・オブ・キャノンボール』収録にあたって、キャノンボールのために書いた〈ナルディス〉。マイルス自身は一度も演奏しなかったこの愛らしい曲は、エヴァンスの生涯にわたる愛奏曲となりました。

あるいは、スタンダードの〈ビューティフル・ラヴ〉。エヴァンスのために書かれたようなこの切ない曲で、トリオはクールに抑制された美を追求します。このアルバムをおとなしすぎるという人がいるそうですが、とんでもない! ハードさとエレガントさのこの絶妙なせめぎあいに耳を傾けてください。

ところで、中山康樹さんが『ビル・エヴァンス名盤物語』(音楽出版社)で指摘しているのですが、このアルバムから録音スタジオとエンジニアが変わっています。エヴァンスは前のスタジオのピアノを嫌っていたそうなのですが、音にこだわるエヴァンスらしいエピソードです。

 

Bill Evans "Explorations"
(Riverside 351/9351)

Bill Evans (piano)
Scott LaFaro (bass)
Paul Motian (drums)

Produced by Orrin Keepnews
Recorded by Bill Stoddard
Recorded at Bell Sound Studios, NYC; February 2, 1961

[Tracks] Bill Evans - Explorations
01. Israel John E. Carisi (music)
02. Haunted Heart Arthur Schwartz (music) / Howard Dietz (lyrics)
03. Beautiful Love Victor Young, Wayne King, Egbert Van Alstyne, Heven Gillespie (music and lyrics)
04. Elsa Earl Zindars (music)
05. Nardis Miles Davis (music)
06. How Deep Is The Ocean Irving Berlin (music and lyrics)
07. I Wish I Knew Harry Warren (music) / Mack Gordon (lyrics)
08. Sweet And Lovely Gus Arnheim, Harry Tobias, Jules Lemare (music and lyrics)

[Links: Bill Evans]
The BILL EVANS Webpages
Bill Evans's Discography
Bill Evans Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Scott LaFaro]
Scott LaFaro: Beacon for Jazz Bassists (by Charles A. Ralston)
Scott LaFaro Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Paul Motian]
Paul Motian (@ ジャズCDの個人ページ by K. Kudo)

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2006年11月25日

ビル・エヴァンス『ポートレイト・イン・ジャズ』

evans_portraitinjazz.jpg Bill Evans - Portrait In Jazz

エヴァンスがマイルスのグループを去ったのは、1958年11月。アルバム『カインド・オブ・ブルー』を収録するためだけに、マイルスに呼び戻されたのが、翌59年の3月2日と4月22日。そして、同年10月28日には、トニー・スコット (cl) の『サング・ヒーローズ』というアルバムで、エヴァンス (p)、スコット・ラファロ (b)、ポール・モチアン (ds) の3人が初共演をはたします。そう、あの歴史的なトリオがはじめて顔をそろえたのです。

11月、エヴァンスはニューヨークの東42通り、ベイズン・ストリート・クラブに出演します。期間は3週間。御大ベニー・グッドマンの相方バンドという惨めなポジションです。当初エヴァンスは、マイルスの推薦もあって、ジミー・ギャリソン (b)、ケニー・デ二ス (ds) とトリオを組んでいましたが、グッドマン・バンドとの待遇の違いに怒り、二人は去ってしまいます。エヴァンスは何人ものベーシスト、ドラマーに声をかけますが、最終的にメンバーに落ち着いたのは、『サング・ヒーローズ』で共演したばかりのラファロとモチアンでした。

ビル・エヴァンス。
1929年8月26日、ニュージャージー州プレインフィールド生まれの30歳。
スコット・ラファロ。
1936年4月3日、ニュージャージー州ニューアーク生まれの23歳。
ポール・モチアン。
1931年5月25日、ペンシルヴァニア州フィラデルフィア生まれの28歳。

彼らの快進撃はモダンジャズの黄金時代、50年代も終わろうかという1959年12月28日に録音された、『ポートレイト・イン・ジャズ』からはじまります。

曲目は、かつてのボス、マイルスがらみの3曲。シャンソンの名曲〈枯葉〉(『サムシン・エルス』に収録)、〈ホエン・アイ・フォール・イン・ラヴ〉(『スティーミン』に収録)。作曲のクレジットをマイルスに奪われたといういわくつきの〈ブルー・イン・グリーン〉(『カインド・オブ・ブルー』に収録)。そして、唯一のオリジナル、〈ペリズ・スコープ〉。当時のガールフレンドにせがまれてタイトルをつけたそうです。さらに、ディズニー初の(というよりも世界初の)長編アニメーション映画『白雪姫』より〈いつか王子様が〉。

どれから聴いても OK です。エヴァンスのハードな面も、チャーミングな面も、リリカルな面も、ぜんぶ楽しめます。そして、早くもエヴァンスと対等なパートナーシップを築きあげた若き天才ベーシスト、ラファロの技に聞き惚れてください。んーもう、最高ですから!

最後に、ジャケット&タイトルについて。「銀行員」とも「学校教師」ともいわれるエヴァンスの「肖像」ですが、これはエヴァンスの「ポートレイト」であるとともに、文字どおりジャズの「ポートレイト」でもあります。まもなく花開く60年代のジャズシーンを先んじて切り取ってみせたジャズの「新しい姿」。さすがです。

 

Bill Evans "Portrait In Jazz"
(Riverside 315/1162)

Bill Evans (piano)
Scott LaFaro (bass)
Paul Motian (drums)

Produced by Orrin Keepnews
Recorded by Jack Higgins
Recorded at Reeves Sound Studios, NYC; December 28, 1959

[Tracks] Bill Evans - Portrait In Jazz
01. Come Rain Or Come Shine Harold Arlen (music) / Johnny Mercer (lyrics)
02. Autumn Leaves Joseph Kosma (music) / Jacques Prevert (French lyrics), Johnny Mercer (English lyrics)
03. Witchcraft Cy Coleman (music) / Carolyn Leigh (lyrics)
04. When I Fall In Love Victor Young (music) / Edward Heyman (lyrics)
05. Peri's Scope Bill Evans (music)
06. What Is This Thing Called Love Cole Porter (music and lyrics)
07. Spring Is Here Richard Rodgers (music) / Lorenz Hart (lyrics)
08. Someday My Prince Will Come Frank Churchill (music) / Larry Morey (lyrics)
09. Blue In Green Bill Evans, Miles Davis (music)

[Links: Bill Evans]
The BILL EVANS Webpages
Bill Evans's Discography
Bill Evans Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Scott LaFaro]
Scott LaFaro: Beacon for Jazz Bassists (by Charles A. Ralston)
Scott LaFaro Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Paul Motian]
Paul Motian (@ ジャズCDの個人ページ by K. Kudo)

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2006年11月22日

『エヴリバディ・ディグズ・ビル・エヴァンス』

evans_everybodydigs.jpg ビル・エバンス・トリオ - Everybody Digs Bill Evans

「ビル・エヴァンスからはたしかに多くのことを学んだ。彼はピアノが演奏されるべきやり方でピアノを演奏する」(マイルス・デイヴィス)

「ビル・エヴァンスはここ数年でいちばん気持ちのよいピアニストだ」(ジョージ・シアリング)

「ビル・エヴァンスは屈指の存在の一人だと思う」(アーマド・ジャマル)

「ビル・エヴァンスには類い稀なオリジナリティとテイストがあるが、さらにすごいのは曲に対する構想を練る力で、彼が演奏すると、それがその曲の最終形と思わせるものがある」(ジュリアン・キャノンボール・アダレイ)

ずいぶんとエラいほめ言葉が並んだものですが、これらはすべて、『エヴリバディ・ディグズ・ビル・エヴァンス』の表紙に載った推薦の言葉です。ふつう、こうした推薦文は、オビやシールに表記されるか、表紙にあったとしても別枠で載っていたりするものですが、これは推薦の文字だけでジャケットが構成された、きわめて珍しい作品です。

このことは、裏を返せば、エヴァンスの世間での認知度がまだそれほど高くなかったことを間接的に証明しています。エヴァンスがマイルスのグループにいたのは、1958年の4月から11月までのわずか7か月間。その間、エヴァンスは長足の進歩を遂げますが、その評価は一部のミュージシャン、評論家だけにとどまっていました。だからこその『エヴリバディ・ディグズ・ビル・エヴァンス』。一流のミュージシャンたちによって、エヴァンスは「発掘」されなければならなかったわけです。

このアルバムが収録されたのは、1958年12月15日。マイルス・バンド脱退の翌月です。ボスだったマイルスとキャノンボールから推薦文をもらい、元同僚のフィリー・ジョーが録音に参加していることから、エヴァンス脱退は、実は円満に行われたことがわかります。脱退直後は心身ともに疲れ果て、親元に帰って体を休めたエヴァンスでしたが、マイルス・バンドでの経験は、確実にプラスの方向に働きました。初リーダー作から2年3か月もの時を経て、エヴァンスがふたたびリーダー作を吹きこむ気になったのは、やはり、みずからの成長に対する確信があったからでしょう。この2作を順番に聴けば、その確信が本物だったことがわかります。

前作同様、トリオとソロがバランスよく配置されていますが、聴いた感じはまるで違います。トリオでは硬さがとれ、ソロではより深みが増しています。トリオのリラックスした雰囲気をもたらしたのは、エヴァンスのファイヴァリット・ドラマー、フィリー・ジョーの参加によるところが大きいようです。このトリオは同年7月にキャノンボールのリヴァーサイド第一弾『ポートレイト・オブ・キャノンボール』ですでに共演していて、そのことも、いい方向に作用していると感じます。

ただ、エヴァンスがいかにジャンキー仲間のフィリー・ジョーを好んだからといって、この二人は本質的な部分で相容れない。叩きすぎのフィリー・ジョーはやはりコンボで栄えるドラマーで、ちまちまとしたトリオという編成では欲求不満がたまるはずです。エヴァンスもそのことを知ってか知らずか、やけにドラムをフィーチャーしたアレンジを採用しています。小気味よくプッシュするフィリー・ジョーに反応して、意外なほどハードで力強いピアノを聴かせるエヴァンス。ジジ・グライス作の〈マイノリティ〉やソニー・ロリンズ作の〈オレオ〉といった躍動的な曲で、そうした違和感は顕著です。

同じトリオ演奏でも、〈ヤング・アンド・フーリッシュ〉ではその後のエヴァンス・トリオを思わせる響きが横溢しています。そうそう、これこれ、これなんです。後ろ髪を引かれるような魅惑的な音色としっとりとした情感。これで、エヴァンスはジャズピアノの新境地を開いたのです。

そして、忘れてならないのは、ソロで演奏された〈ピース・ピース〉。この静かなる音の連なりは、エヴァンスの心象風景なのでしょうか。エヴァンスここにありを世に知らしめた決定的な名演です。当時はだれもこんな(ジャズ)ピアノは聴いたことがなかった。ECM 的な音世界というのか、ゆったりとした調べのなか、エヴァンスはたった独りで新たな地平を目指す冒険の旅に出ます。

伝記『ビル・エヴァンス―ジャズ・ピアニストの肖像』(水声社)には、〈ピース・ピース〉の誕生秘話(?)が載っています。エヴァンスの当時のガールフレンド、ペリによると、彼がレナード・バーンスタインの〈サム・アザー・タイム〉を弾くと、知らないうちに〈ピース・ピース〉(と後に命名された曲)に変わってしまうことがよくあった、というのです。私がもっている OJC 盤の CD には、最後にボーナス・トラックとして、問題の〈サム・アザー・タイム〉が入っています。それを聴くと、彼女の発言が本当らしいことがよくわかる。ほとんど同じ雰囲気をたたえた演奏です。前掲書には、エヴァンスのこんな発言が載っています。

曲のイントロを弾きはじめると、その曲独特の感じや個性がどんどん膨らんでいって、まあ、このまま続けようと思ったんだ。

さて、推薦文が連なったジャケットを見たエヴァンスは、ひと言「どうして私の母から一言もらわなかったんだい?」。美しいだけじゃない、カミソリのように鋭い刃を演奏のそこかしこに忍び込ませるエヴァンスの、一筋縄ではいかない感じがにじみ出た発言だと私は思います。

 

"Everybody Digs Bill Evans"
(Riverside 291/1129)

Bill Evans (piano)
Sam Jones (bass) except #3, 5, 7, 10
Philly Joe Jones (drums) except #3, 5, 7, 10

Produced by Orrin Keepnews
Recorded by Jack Higgins
Recorded at Reeves Sound Studios, NYC; December 15, 1958

[Tracks] ビル・エバンス・トリオ - Everybody Digs Bill Evans
01. Minority Gigi Gryce (music)
02. Young And Foolish Albert Hague (music) / Arnold B. Horwitt (lyrics)
03. Lucky To Be Me Leonard Bernstein (music) / Betty Comden, Adolph Green (lyrics)
04. Night And Day Cole Porter (music and lyrics)
05. Epilogue Bill Evans (music)
06. Tenderly Walter Gross (music) / Jack Lawrence (lyrics)
07. Peace Piece Bill Evans (music)
08. What Is There To Say Vernon Duke (music) / Edgar Y. Harburg (lyrics)
09. Oleo Sonny Rollins (music)
10. Epilogue Bill Evans (music)

[Links: Bill Evans]
The BILL EVANS Webpages
Bill Evans's Discography
Bill Evans Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Philly Joe Jones]
Philly Joe Jones Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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2006年11月02日

ビル・エヴァンス『ニュー・ジャズ・コンセプションズ』

evans_newjazzconceptions.jpg

エヴァンス27歳にして初のリーダー作『ニュー・ジャズ・コンセプションズ』。硬質で、熟す前の初々しいエヴァンスが聴けるアルバムです。

1956年当時、エヴァンスはまだ無名に近い存在で、トニー・スコットやジョージ・ラッセルのもとで研鑽を積んでいました。そんなエヴァンスがリーダー作を録音するきっかけをつくったのは、ギタリストのマンデル・ロウでした(50年代はじめ、エヴァンスがニューヨークに出るきっかけをつくったのも、マンデル・ロウでした)。

シャイで引っ込み思案なエヴァンスにかわって、頼まれもしないのに、リヴァーサイドの経営者&プロデューサーのコンビ、ビル・グロウア―とオリン・キープニュースに電話をかけ、手元にあった録音テープを聴かせて彼らのハートを射止めたというのですから、すごい。エヴァンス・ファンはロウに足を向けて寝られません(笑)。

渋るエヴァンスをなんとか説き伏せたリヴァーサイドは、彼のレコーディングのために、2日間スタジオを押さえました。これはリヴァーサイドのようなインディーズには珍しいことで、まして相手はほとんど無名の新人なのですから、彼らとしては、最大限の配慮をしたということなのでしょう。

記念すべき第1回目のレコーディングは、1956年9月18日。エヴァンスはひとりでスタジオに籠り、3曲のソロ演奏を吹きこみます。エリントン・ナンバーに、ロジャース&ハートの〈マイ・ロマンス〉、そして、エヴァンス自作のワルツ〈ワルツ・フォー・デビー〉。敬愛する兄ハリー Jr. の愛娘(エヴァンスにとっては姪っ子)デビーに捧げられた愛らしいこの曲は、やがてエヴァンスを代表する曲となります。無伴奏ソロによる〈ワルツ〜〉はわずか1分20秒の演奏ですが、香り高きクラシックの小品を聴いたときのようなこの感じは、やはりエヴァンスならではです。

2回目のレコーディングは、9日後の同月27日、今度は、ベースのテディ・コティックとドラムのポール・モチアン(!)を迎えて行われました。彼らはジョージ・ラッセルの『ジャズ・ワークショップ』のセッションなどで共演していた、いわば同僚です。勝手知ったるメンバーとともにリラックスして演奏した、なんてことはまったくなくて、エヴァンスはどこか堅苦しい。これが未熟ゆえのことなのか、初体験の緊張からくるのかはわかりませんが、音色は硬質、タッチも意外なほど鋭く、力強い。

このアルバムから漂ってくるハードな印象は、ピアノの音色もさることながら、エヴァンスがぎこちないバップを弾いていることとも関係しています。アルバム冒頭の〈アイ・ラヴ・ユー〉を予備知識なしではじめて聴いて、エヴァンスだと当てられる人はあまりいないはず。細かく聴くと、音使いに少々風変わりなところはありますが、やっぱりこれはバップ・ピアノです。つまり、バド・パウエルの流れを汲むジャズ・ピアノの王道をいく演奏です。わたしたちがエヴァンスと聞いて思い浮かべるどの演奏とも違っています。

続くエヴァンス・オリジナルの〈ファイヴ〉。〈アイ・ガット・リズム〉のコード進行にもとづいて書かれた曲ですが、非常に理が勝った印象があります。つまり、頭でっかちで未消化。実験くさい。でも、1曲目のバップ・ピアノとは明らかに異質です。ここらへんが、エヴァンスの「新しさ」だったのでしょうが、このあとに開花する彼の才能からすれば、まだまだ習作の域を出ていないと思います。

最後のエヴァンス自作のブルース〈ノー・カヴァー、ノー・ミニマム〉。「カヴァーチャージ(席料)なし、最低料金なし」という意味で、レストランやバーの用語ですね。泥臭いブルースを苦手としていたエヴァンスですが、やはりこれなどを聴くと、さもありなんという気がします。ときおり混じる異質な音使いに、気が緩められません。ブルースの名手、たとえばレッド・ガーランドに弾かせたほうが、おそらくリラックスして楽しめるはずです。

ちなみに、タイトルのコンセプションは、コンセプトと同じ「考え、概念」という意味ですが、ほかにも「受胎、受精」という意味があるようです。つまり、「新しいジャズの受胎」。まだ完成形には至らないけれど、確実に植えつけられたジャズの新しい生命。この時期のエヴァンスを表してあまりあるタイトルです。

 

Bill Evans "New Jazz Conceptions"
(Riverside 223)

Bill Evans (piano)
Teddy Kotick (bass) except #3, 8, 10
Paul Motian (drums) except #3, 8, 10

Produced by Orrin Keepnews, Bill Grauer
Recorded by Jack Higgins
Recorded at Reeves Sound Studios, NYC; September 18 (#3, 8, 10), 27 (#1, 2, 4-7, 9, 11), 1956

[Tracks]
01. I Love You Cole Porter (music and lyrics)
02. Five Bill Evans (music)
03. I Got It Bad (And That Ain't Good) Duke Ellington (music) / Paul Francis Webster (lyrics)
04. Conception George Shearing
05. Easy Living Ralph Rainger (music) / Leo Robin (lyrics)
06. Displacement Bill Evans (music)
07. Speak Low Kurt Weill (music) / Ogden Nash (lyrics)
08. Waltz For Debby Bill Evans (music)
09. Our Delight Tadd Dameron (music)
10. My Romance Richard Rodgers (music) / Lorenz Hart (lyrics)
11. No Cover, No Minimum Bill Evans (music)

[Links: Bill Evans]
The BILL EVANS Webpages
Bill Evans's Discography
Bill Evans Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Paul Motian]
Paul Motian (@ ジャズCDの個人ページ by K. Kudo)

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