

1954年12月24日のクリスマス・イヴ、マイルスにモンク、ジョン・ルイスを除いた MJQ のメンバーは、ニュージャージー州ハッケンサックにあったルディ・ヴァン・ゲルダーの自宅スタジオに集まりました。「クリスマス・セッション」と呼ばれるこのときの模様は、前回アップした『バグス・グルーヴ』と、『マイルス・デイビス・アンド・ザ・モダン・ジャズ・ジャイアンツ
さて、この「クリスマス・セッション」は、別名「ケンカ・セッション」として知られています。マイルスに「自分のソロのバックでピアノを弾くな」と言われ、怒ったモンクが、自分のソロの途中で弾くのを止めてしまった。事実、〈ザ・マン・アイ・ラヴ〉のテイク2で、モンクがソロの途中で弾くのを止めてしまうじゃないか、というのが、ケンカ派(なんて人がいるとすれば)の主張です。
事実はどうなのでしょうか? 冒頭の〈ザ・マン・アイ・ラヴ〉のテイク2を聞いてみましょう。テーマから、マイルスの匂い立つようなリリシズムが際立ちます。今回はバックで、モンクもミルトも弾いていますね。邪魔になるどころか、音楽的にもしっくりいっています。
2分12秒あたりでテンポが急に早くなってミルトのソロに引き継がれます。いかにもモンクらしいバッキングも聞こえます。
そして、いよいよから4分45秒モンクのソロがはじまります。ところが、モンクは調子が出ない。なかなか乗り切れないようです。「さあ困った、どうしよう」モンクはついに鍵盤から手を離してしまいます(5分27秒)。
沈黙が続きます。ベースとドラムはリズムを刻み続けますが、「ああ、ダメか、録り直しか」と思ったころに、マイルスが入ってくる(5分39秒)。まるでモンクの背中をそっと押すかのように。そしてモンクが復活、すぐにマイルスにバトンを渡します。
う〜ん、これのどこが「ケンカ」なのでしょうか。私なんかはむしろ、うまくソロに入れなかったモンクに対する、マイルスのいたわりを感じます。「おい、どうしたんだ」「こうやって弾けばいいんだよ」マイルスのペットはそう語りかけているかのようです。モンクもそれに助けられて、ふたたび鍵盤に向かっていく。これを「愛」といわずに、何を「愛」というのでしょうか?
ここらへんの話は、例によってマイルス本人に語ってもらいましょう。
以下、『マイルス・デイビス自叙伝
オレはただ、モンクが作った〈ベムシャ・スイング〉以外では、オレのソロのバッグでピアノを弾くな、休んでろ、と言っただけだ。理由は、ホーン・プレイヤーのバッキングについて、モンクがあまり理解していなかったからだ。モンクと一緒にやって良いサウンドが作れたのは、ジョン・コルトレーン、ソニー・ロリンズ、チャーリー・ラウズだけだ。みんなサックス・プレイヤーだ。(中略)トランペットは、演奏できる音符の数が限られている。だからリズム・セクションには、目一杯演奏させなきゃならない。だが、モンクのやり方は、それとは正反対だった。
彼(モンク)はケンカっ早い人間でもなかった。たとえ一週間、彼の足を踏みつづけたとしても、殴り合いになることはなかっただろう。雄牛みたいに強かったが、モンクはやさしく、静かで美しい人間だった。だいたい、もしオレがモンクをぶん殴るなんて言ったりしたら、誰かが飛んできて、オレを精神病院に入れなきゃ変だ。オレみたいなチビを持ち上げて壁に叩きつけることくらい、モンクにとっちゃ朝飯前のことだったんだからな。
モンクの自作曲は〈ベムシャ・スウィング〉だけではなく、〈ラウンド・ミッドナイト〉も収録されていますが、なぜかこの曲だけ、1956年のマラソン・セッションのときの録音です。
"Miles Davis And The Modern Jazz Giants"
(Prestige 7150)
#1, 2, 4, 5
Miles Davis (trumpet)
Milt Jackson (vibraphone)
Thelonious Monk (piano)
Percy Heath (bass)
Kenny Clarke (drums)
Recorded at the Van Gelder Studio, Hackensack NJ; December 24, 1954
#3
Miles Davis (trumpet)
John Coltrane (tenor sax)
Red Garland (piano)
Paul Chambers (bass)
Philly Joe Jones (drums)
Recorded at the Van Gelder Studio, Hackensack NJ; October 26, 1956 (#3)
Produced by Bob Weinstock
Recorded by Rudy Van Gelder
[Tracks]

01. The Man I Love [take 2] (music: George Gershwin / words: Ira Gershwin)
02. Swing Spring (music: Miles Davis)
03. 'Round Midnight (music: Thelonious Monk, Cootie Williams / words: Bernie Hanighen)
04. Bemsha Swing (music: Thelonious Monk)
05. The Man I Love [take 1] (music: George Gershwin / words: Ira Gershwin)
[Links: Miles Davis]
The Official Miles Davis Web Site
The Official Miles Davis Web Site (@ Sony Music)
Miles Ahead: A Miles Davis Website (by Peter Losin)
Miles Davis: Missing Links (by Thomas Westphal)
Miles Davis Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Milt Jackson]
Milt Jackson Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Thelonious Monk]
THE MONK ZONE: The Official Thelonious Sphere Monk Website
The Thelonious Monk Website
Thelonious Monk Discography Project (@ Jazz Discography Project)
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