2005年12月29日

マイルス・デイヴィス『オン・ザ・コーナー』

onthecorner.jpg

フリーで仕事をしていると、版元さんが休む年末年始に仕事をして年明け入稿というのが毎年恒例のパターンなのですが、今年はめちゃキビしいです。非常に手のかかる原稿が1本、ホントに終わるのでしょうか?

そんなわけで、みなさんの期待を裏切り続けているわけですが(見にきてくれたみなさん、ごめんさない)、いくらなんでも年内にはマイルス特集を終えないと次に行けないので、『オン・ザ・コーナー』のご紹介といきましょう。

『オン・ザ・コーナー』は、ジャケットの雰囲気そのままの作品です。意図的に歪められた音が、奇妙なうねりを生み出しています。奇妙? そう、奇妙というか、ヘンテコな音楽です。でも、このヘンテコ感がたまらない。クセになります。こんなもの、理屈で聞いてもしょうがありません。身体で感じてください。

個人的には、5曲目〈ブラック・サテン〉から聞くことをすすめます。手拍子が生み出すこの奇妙なリズムに、調子っぱずれなマイルスのワウワウ・トランペット。ヘンテコリンなんだけど、妙に粘っこい。歪められた音が脳ミソをグニャグニャにしてくれます。ムンクの「叫び」のように、目の前がグニャグニャと曲がり、そのとらえどころのなさが、不安ではなく、かえって快感につながるという奇妙な感触。ヘヴィロテ間違いなしの中毒性の高い音楽です。

続く〈ワン・アンド・ワン〉では、マイケル・ヘンダーソンのこれまた歪んだベースが炸裂します。この曲を聞いて、ジャズ云々という人はもはやいないでしょう。マイルスは、このアルバムで完全にジャズと縁を切りました。これは,ファンクです。ストリート・ミュージックです。間違っても、ジャズではありません。でも、だからどうした、というのが正直な気持ちなんですね。こんなにノリのいい音楽って、そうザラにあるもんじゃない。ジャケットのイラストにある「Free Me」ならぬ「Free Your Soul」です。こむずかしい理屈をこねるヒマがあったら、心を空っぽにしてこの音楽に身を委ねたほうがはるかに得るものがある。だって、気持ちいいんだも〜ん!

というわけで、ここには、かつてリリカルで鳴らしたマイルスの姿はありません。でも、第2期黄金のクインテット以来、リズムの可能性を追求してきたマイルスがついに足を踏み入れた境地がここにはあります。耳慣れた音楽のジャンル分けがむなしくなるほど、圧倒的な作品です。1曲目から4曲目、7曲目と8曲目は、タイトルこそ別になっているものの、ひと続きの作品です。曲のはじまりとか終わりとか、そういう些末なこととは無関係に突き進むマイルス。いやはや、この時期のマイルスの創造力のすさまじさといったら。

ちなみに私は、インドの楽器シタールとタブラの参加は、世にいわれているほど、劇的な効果をあげているとは思いません。スパイスとしてはおもしろいですが、それ以上のものではない気がします。

 

Miles Davis "On The Corner"
(Columbia KC-31096)

Miles Davis (trumpet)
Dave Liebman (soprano sax) #1-4
Carlos Garnett (alto sax, tenor sax) #5-8
Bennie Maupin (bass clarinet) #5-8
Herbie Hancock (organ) #1-4 (electric piano, synthesizer) #5-8
Harold "Ivory" Williams (electric piano, synthesizer)
Chick Corea (synthesizer) #1-4
Lonnie Liston Smith (organ) #5-8
John McLaughlin (guitar) #1-4
David Creamer (guitar) #5-8
Paul Buckmaster (cello)
Michael Henderson (electric bass)
Jack DeJohnette (drums, hand claps)
Billy Hart (drums. percussion, bongo, hand claps)
James "Mtume" Foreman (conga, percussion, hand claps)
Don Alias (drums) #1-4
Collin Walcott (sitar)
Badal Roy (tabla)

Produced by Teo Macero
Recorded by Stan Tonekel, Russ Payne
Recorded at Columbia Studio, NYC; June 1 (#1-4), 6 (#5-8), 1972

[Tracks]
01. On The Corner (music: Miles Davis)
02. New York Girl (music: Miles Davis)
03. Thinkin' One Thing And Doin' Another (music: Miles Davis)
04. Vote For Miles (music: Miles Davis)
05. Black Satin (music: Miles Davis)
06. One And One (music: Miles Davis)
07. Helen Butte (music: Miles Davis)
08. Mr. Freedom X (music: Miles Davis)

[Links: Miles Davis]
The Official Miles Davis Web Site
The Official Miles Davis Web Site (@ Sony Music)
Miles Ahead: A Miles Davis Website (by Peter Losin)
Miles Davis: Missing Links (by Thomas Westphal)
Miles Davis Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Dave Liebman]
The Official David Liebman Website
Dave Liebman (@ ジャズCDの個人ページ by K. Kudo)
[Links: Carlos Garnett]
Carlos Garnett Jazzsite (by Amoye Neblett)
[Links: Benni Maupin]
Bennie Maupin Discography (by Christian Genzel)
[Links: Herbie Hancock]
The Official Website of Herbie Hancock
Herbie Hancock Discography (by Christian Genzel)
[Links: Chick Corea]
Chick Corea - Official Website
Chick Corea Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Lonnie Liston Smith]
Lonnie Liston Smith Select Discography
[Links: Paul Buckmaster]
Paul Buckmaster's Page
[Links: John McLaughlin]
Pages of Fire: The John McLaughlin WWW Tribute Server
Meeting of the Sprits: Mahavishnu John McLaughlin Fan Page
[Links: Jack DeJohnette]
Jack DeJohnette Official Website
Jack DeJohnette Homepage (by Piotr Marek, Jr.)
Jack Dejohnette Collection (by ANTAIOS)
Jack DeJohnette Complete Discography を目指すページ (@ 東北大学モダンジャズ研究会)
[Links: James "Mtume" Foreman]
MTUME is pronounced EM-TOO-MAY (@ Feel So Good)
[Links: Collin Walcott]
Collin Walcott: The Offcial Website

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2005年12月16日

マイルス・デイヴィス『ビッチェズ・ブリュー』

bitchesbrew.jpg

ここ数日の冷え込みで、朝起きるのがつらいなあと思っていたら、娘の小学校のクラスが学級閉鎖になってしまいました。インフルエンザ(ふつうの)が原因です。みなさんも、くれぐれもお身体には気をつけて。

さて、いよいよ『ビッチェズ・ブリュー』です。おどろおどろしいジャケットに目を奪われるこのアルバムは、70年代フュージョン時代の幕開けを高らかに宣言した作品として、あまりに有名ですね。

ところがこの作品、いわゆるフュージョン的なものを求めて聞くと、あまりの黒っぽさに違和感を覚えるのではないかと思います。誤解をおそれずにいえば、いわゆるフュージョンという言葉からは、ノーテンキなほどの明るさ、軽薄な電子音、バカテクのオンパレードというイメージがわきますが(笑)、このアルバムから聞き取れるのは、大地を轟かせるような粘りのあるリズム、どこまでも黒いファンクのビートです。フュージョンの原義は「融合」ですが、ジャズの即興性とファンクのビート、アフリカのポリリズムをマイルスという何でも飲み込む「器」にぶち込んで、出てきた結果が、この『ビッチェズ・ブリュー』ではないかと思います。いわゆるフュージョンが「ロックとジャズの融合」といわれるのとは出自からして違うのではないかと思うのです。

もちろん、この時期のマイルスがジミヘンにぞっこんで、彼との共演を強く望んでいたというのは、よく知られています。その昔、アーマッド・ジャマルのピアノに惚れ込んで、配下のレッド・ガーランドに「ジャマルのように弾け」と命令したマイルスのことですから(よく考えたらひどい話です)、ジミヘンの音を再現するために、ジョン・マクラフリンを雇っていたという可能性は高い。仮にそうだとしても、マイルスがねらっていたのは、(白人の)ロック路線ではなく、(黒人の)ファンク路線だったというのは、おそらく間違っていない。そう思います。

ここで聞かれる音楽は、いわゆるフュージョンものよりも、たとえばオーネットのプライム・タイムの行き方のほうに、よっぽど近い気がします。オーネットの音楽がフリー・ファンクと呼ばれるように、「ファンク」というキーワードでくくると、見えてくるものがありそうです(ここでいうファンクは、ブレイキーやシルヴァー、キャノンボールに代表される60年代前半のファンキー・ジャズとは似て非なるものです)。

それは、前作『イン・ア・サイレント・ウェイ』との違いとしても、如実に現れています。録音は半年後、メンバーも重なりが多いということで、当然、前作の延長線上の作品かと思いきや、聞いた印象はまったく異なります。その違いを際立たせているのが、全編にみなぎるファンクのビートです。『イン・ア・サイレント〜』をアンビエントの先駆けとするなら、『ビッチェズ・ブリュー』はエレクトリック・ファンクの頂点に位置する作品なのです。

まあ、こむずかしい話はこれくらいにして、電化マイルスを楽しめるかどうかは、この作品を楽しめるかどうかにかかっています。なにせ CD 2枚組の大作です。どこから手をつけたらいいか迷うようなら、ディスク2の〈スパニッシュ・キー〉から聞いてください。このカッコよさがわからないなら、あなたは電化マイルスを聞く必要はありません。それ以前のマイルスだって、じゅうぶんカッコいいし、電化マイルスなど聞かなくたって、別に人生に影響はありません。でも、「オイオイ、なんだこりゃ」と思ったあなた、あなたの前には、これまでとは別の楽しみが開けています。

マイルスはいつでもサイコーにクールですが、彼がもっともクールでヒップなスーパースターだったのは、この70年代をおいて、他にはありません。『アット・フィルモア』があります。『オン・ザ・コーナー』もあります。『アガルタ』も『パンゲア』も待っています。なにしろマイルスのアルバムの半分以上は電化以降の作品なんです。これを聞かない手はないと思いませんか?

 

Miles Davis "Bitches Brew"
(Columbia CS 9996)

Miles Davis (trumpet) omit #2-2
Wayne Shorter (soprano sax) omit #2-2 (tenor sax) #1-1
Benny Maupin (bass clarinet) omit #2-4
Joe Zawinul (electric piano)
Chick Corea (electric piano)
Larry Young (electric piano) #1-1, 2-1
John McLaughlin (electric guitar)
Dave Holland (bass)
Hervey Brooks (bass) omit #2-2
Jack DeJohnette (drums)
Lenny White (drums) omit #2-3
Don Alias (drums, conga)
Jim Riley (percussion)

Produced by Teo Macero
Recorded by Stan Tonkel, Ray Moore
Recorded at Columbia Studio B, NYC; August 19 (#1-1, 2-2, 2-4), 20 (#2-3), 21 (#1-1, 2-1), 1969

[Tracks: Disc 1]
01. Pharaoh's Dance (music: Joe Zawinul)
02. Bitches Brew (music: Miles Davis)

[Tracks: Disc 2]
01. Spanish Key (music: Miles Davis)
02. John McLaughlin (music: Miles Davis)
03. Miles Runs The Voodoo Down (music: Miles Davis)
04. Sanctuary (music: Wayne Shorter)

[Links: Miles Davis]
The Official Miles Davis Web Site
The Official Miles Davis Web Site (@ Sony Music)
Miles Ahead: A Miles Davis Website (by Peter Losin)
Miles Davis: Missing Links (by Thomas Westphal)
Miles Davis Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Wayne Shorter]
ウェイン・ショーターの部屋 (by Y. Yamada)
Dr. Morf's Wayne Shorter Page
The Complete Wayne Shorter
Wayne Shorter Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Joe Zawinul]
The Official Website of Joe Zawinul
Zawinul Online (by Curt Bianchi)
[Links: Chick Corea]
Chick Corea - Official Website (by Curt Bianchi)
Chick Corea Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: John McLaughlin]
Pages of Fire: The John McLaughlin WWW Tribute Server
Meeting of the Sprits: Mahavishnu John McLaughlin Fan Page
[Links: Dave Holland]
Dave Holland (Official Website)
Dave Holland (@ ジャズCDの個人ページ by K. Kudo)
Dave Holland (@ jAZZHOLE)
[Links: Jack DeJohnette]
Jack DeJohnette Official Website
Jack DeJohnette Homepage (by Piotr Marek, Jr.)
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[Links: Lenny White]
Lenny White (Official Website)

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2005年12月13日

マイルス・デイヴィス『イン・ア・サイレント・ウェイ』

inasilentway.jpg

マイルスはカッコいい。彼が演る音楽もカッコいいし、彼の生き様もカッコいい。そして、何より「顔」がカッコいいのです。絵になります。マイルスほど、自分の「顔」のカッコよさを自覚していたミュージシャンはいません。その強烈な自己顕示欲の現れとして、マイルスの作品には「顔」のドアップ写真を使ったものが異常に多い。

ラウンド・アバウト・ミッドナイト』でしょ、『カインド・オブ・ブルー』でしょ、『ネフェルティティ』でしょ、『ゲット・アップ・ウィズ・イット』でしょ、『デコイ』でしょ、そして、きわめつけは『TUTU』なわけです(文字なし、装飾なしのマイルスの顔だけで構成されたジャケットをデザインしたのは、日本人の石岡瑛子さん。1986年のグラミー賞で Best Album Package に輝きました)。

マイルスは節目節目で自分のドアップ写真の作品を生み出しています。セルフ・プロデュースに長けたマイルスのこと、パッケージ・デザインには人一倍うるさかったようで、実際,『マイルス・アヘッド』の白人女性路線を、『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』や『ソーサラー』の黒人女性路線に変更させたのは、マイルス本人だといいます。

今日紹介する『イン・ア・サイレント・ウェイ』も、暗闇に浮かぶマイルスの「顔」が印象的な作品です。背景も黒なら、衣装も黒、顔も黒ときて、白目だけがにぶい光を放って目に飛び込んできます。カッコいいっす、マジで。

で、音楽的にはどうなのか。1968年の『マイルス・イン・ザ・スカイ』以来、エレクトリック路線に舵を切ったマイルスの、早くも1つめの到達点が明らかになります。

執拗にくり返される一定のリズムに、ザヴィヌルのオルガンとチック&ハンコックのエレピ、ジョン・マクラフリンのギターが彩りをそえていきます。その上をあてどなく漂うマイルスのペット。形あるものとしての「曲」がほとんど消え去り、どこまでも続く宙ぶらりんの浮遊感に心がざわついてきます。出口のない迷路。デジャビュのように現れては消える反復音楽。この不思議な「反復感」は、プロデューサーのテオ・マセロによって、文字どおり「切り貼り」された結果ですが、このセンスある編集作業によって、この作品は魔術的な魅力をもつ作品になりました。流れてくる音楽にただただ身を委ねていれば、一種のトランス状態に入ることができます。

邦盤ライナーを書いているピータ・バラカンさんも「無人島に持っていく1枚」にあげています。いわく、「人生が変わるよ」だって(笑)。人生が変わるかどうかはわかりませんが、ジャズ初心者の今の若い人たちには、マイルス入門の1枚としておすすめです。

 

Miles Davis "In A Silent Way"
(Columbia CS 9875)

Miles Davis (trumpet)
Wayne Shorter (soprano sax)
Joe Zawinul (organ)
Chick Corea (electric piano)
Herbie Hancock (electric piano)
John McLaughlin (guitar)
Dave Holland (bass)
Tony Williams (drums)

Produced by Teo Macero
Recorded by Stan Tonkel, Russ Payne
Recorded at Columbia Studio B, NYC; February 18, 1969

[Tracks]
01. Shhh 〜 Peaceful (music: Miles Davis)
02.In A Silent Way 〜 It's About That Time (music: Joe Zawinul) 〜 (music: Miles Davis)

[Links: Miles Davis]
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Miles Davis Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Wayne Shorter]
ウェイン・ショーターの部屋 (by Y. Yamada)
Dr. Morf's Wayne Shorter Page
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Zawinul Online (by Curt Bianchi)
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Herbie Hancock Discography (by Christian Genzel)
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Tony Williams a few Collction (by ANTAIOS)
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2005年12月10日

マイルス・デイヴィス『ネフェルティティ』

nefertiti.jpg

裏渋谷の名店 Bar & Dinning Lo-d(ローディ) のオーナー、タニさんは、マイルスの『E.S.P.』が大のお気に入り。つい先日もお店にお邪魔したところ、「最近、マイルスのこと書いてるじゃん、ユキヒロの『E.S.P.』評が読みたいよ」とリクエストされたのですが、よく考えたら、私、能書きを垂れるほど『E.S.P.』のことを知らない。というわけで、タニさんには申し訳ないけれど、私がこのクインテットでいちばん好きな『ネフェルティティ』にいかせてもらいます(ゴメン,タニさん。今度までに勉強しておくよ (笑))。

この作品の衝撃度は、なんといってもウェイン・ショーター作の〈ネフェルティティ〉に負うところが大きい。ここで、マイルスとウェインはいっさいソロをとりません。ひたすらテーマ・メロディーを吹き続けるだけです。ジャズの本質、アドリブを意図的に放棄しているのです。それで、どうして演奏が成立するかって? フロント陣に代わって、リズム・セクションが大暴れするからです。

トニー・ウィリアムズもハービー・ハンコックも、バックでリズムをキープするなんて野暮なことはしません。これでもかというくらい激しく暴れ回ります。つまり、完全に立場が逆転しているのです。こういうと、いかにもつくられた実験的な臭いがするかもしれませんが、そんなことはこれっぽっちも感じません。それくらい、トニーもハ―ビーもはじけまくっています。この〈ネフェルティティ〉に封じ込められたクールな熱気こそ、私がこのクインテットをイチ押しする理由です。ホントにシビれまっせ〜。

この第2期黄金のクインテットは、スタジオ録音ではありきたりのスタンダードは演奏しませんでしたが、前作『ソーサラー』からは、いよいよマイルスのオリジナルさえ姿を消します。ウェイン3曲、ハ―ビー2曲、トニー1曲。この時期のマイルスは、曲づくりよりもリズムの革新に意識が向いていたというと聞こえはいいですが、やはり若いメンバーが発散するエネルギーに気圧されて、グループを乗っ取られた、というのがふさわしい気がします。

ウェインにしろ、ハ―ビーにしろ、トニーにしろ、1対1ではマイルスに太刀打ちできなかったかもしれませんが、束になってかかれば、肩を並べるくらいまできていた。ブルーノートで、一連の「新主流派」作品を生み出していた彼らは、この時期のマイルスと同様、時代の最先端を突き進んでいたわけです。

では、マイルスはリーダーの座を手放したのかというと、自己顕示欲のかたまりみたいな人が、そんなことするはずがない。では、どうしたか。マイルスはマイルスなりにこのグループをコントロールしていた、人形遣いのように。

たしかに、この時期のグループは、マイルスの生涯を通じてもっともリーダーシップが希薄に感じられます。とくにウェイン作の3曲は、このクインテットの雰囲気を決定づけるほど力をもっています。〈ネフェルティティ〉しかり、〈ピノキオ〉しかり。でも、出てくる音はマイルスの音なんですね。同時期のウェインの作品を聞いても、このテンションは味わえない。それこそ、マイルスのマイルスたるゆえんではないでしょうか。

ちなみに、タイトルになったネフェルティティは、古代エジプトの女王で、クレオパトラと並んで三大美女に数えられる美貌の持ち主だったとか。「ネフェル」が「美しい」、「ティ」が「やってくる、歩いてくる」という意味だそうです。魔術的・神秘的なものに凝っていたウェインらしいネーミングです。

追記:〈ネフェルティティ〉について

2006年11月に発売されたミシェル・マーサー著、新井崇嗣訳『フットプリンツ:評伝ウェイン・ショーター』(潮出版社)には、名曲〈ネフェルティティ〉の誕生秘話が載っています。それによると、1967年のある晩、ウェインが自宅のピアノに向かった瞬間、ある曲の完全なメロディーが浮かんできたそうです。

「〈ネフェルティティ〉は、僕の作曲家人生の中でも特別な曲さ。ほぼ出来上がった状態で、突然ふって沸いたように生まれたんだよ」

神の啓示か才能の一瞬のきらめきか。ウェインはその曲に、ニューアーク芸術高校時代に胸像をつくったネフェルティティの名を冠します。そして、この曲の随だけをとりだし、これ以上ない最高の形に仕上げたのは、他ならぬマイルスでした。

最初のランスルーを終え、通常ならば次は、テーマに沿って各々がインプロヴァイズする番だった。だが、ここでマイルスが提案をする。「なあ、この曲、メロディーだけを演ったらどうなると思う?」(中略)数テイクを録り終え、マイルスはプロデューサーのテオ・マセロにファースト・テイクをプレイバックするよう命ずる。この曲の本質を捉えようとするバンドのひらめき、発見の精神がそこにある、と感じたからだ。ところが残念なことに、テオはこのファースト・テイクの途中から次のテイクを重ねて録っており、半分が消されていた。そのため、最終的には4番目のテイクがアルバムに収められた。

のちにウェインやハービーと共演するジョニ・ミッチェルが、〈ネフェルティティ〉に対してコメントを残しています。少し長いですが、引用します。

「普通とはまったく違う音楽。まるでシルク・スクリーン印刷のよう。2管ユニオンで始まり、そこから少しずつふたりのプレイヤーの個性が現れてくる。シルク・スクリーンにわずかに印刷ズレが生じるかのように。曲の頭から終わりまで、トニーのプレイはとにかく激しい。ここでのソリストは彼ひとりだけ。きわめてシンプルな作りで、フォーク・ソングとほとんど変わらない。ヴァース、ヴァース、ヴァースと続き、コーラスやブリッジさえない。同じフレーズが延々と繰り返される。この形式はジャズ・ミュージシャンには馴染みのないものだーー『おい、ちょっとこれを聞いてみろよ。普通じゃないね』と誰かが言ったのを私は記憶している。確かに、形こそシンプルなフォーク・ミュージックと同じだが、そこで何が起きているのかに注目して欲しい。聴き手はソロを待ちわびてはいけない。メロディーだけで、十分満ち足りてしまうからだ。その一方でドラマーは激しく、ただただ激しく叩きまくる。そのプレイに、私は深夜のニューヨーク・シティの光景を思い出す。チャイナタウンから誰かがふらふらと歩いてくる。酒に酔ったこの男は、ゴミ箱を思い切り蹴飛ばし、アップタウンに着くまでの道すがら、大声でわめき散らし続けている。トニーのドラミングには徐々に激しさを増していく怒りが感じられる。それが、この作品を美しいものにしている」


 

Miles Davis "Nefertiti"
(Columbia CS 9594)

Miles Davis (trumpet)
Wayne Shorter (tenor sax)
Herbie Hancock (piano)
Ron Carter (bass)
Tony Williams (drums)

Produced by Teo Macero (#1, 3, 4), Howard A. Robearts (#2, 5, 6)
Recorded by Fred Plaut, Ray Moore
Recorded at Columbia 30th Street Studio, NYC; June 7 (#1), 22 (#3, 4), July 19 (#2, 5, 6), 1967

[Tracks]
01. Nefertiti (music: Wayne Shorter)
02. Fall (music: Wayne Shorter)
03. Hand Jive (music: Tony Williams)
04. Madness (music: Herbie Hancock)
05. Riot (music: Herbie Hancock)
06. Pinocchio (music: Wayne Shorter)

[Links: Miles Davis]
The Official Miles Davis Web Site
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[Links: Tony Williams]
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2005年12月07日

マイルス・デイヴィス『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』

myfunnyvalentine.jpg

昨日アップした『フォア&モア』と同じコンサートから、『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』の紹介です。『フォア&モア』が火を吹くようなスピード感あふれる作品なのに対して、『マイ・ファニー〜』はバラードを中心としたセレクションになっています。

オープニングを飾るのは、名曲〈マイ・ファニー・ヴァレンタイン〉。ロジャース&ハートの作品で、1957年の映画『パル・ジョーイ』で歌われました。プレスティッジ盤『クッキン』の冒頭で、軽く触れただけで壊れてしまいそうな、リリカルなペットを聞かせて、「卵の殻の上を歩く男」と評されたマイルスですが、このコロンビア盤の〈マイ・ファニー〜〉はちと違う。リリカルというには、あまりにハードです。別にリキんでいるわけではありません。曲に込められた想いの違いというか、もっと暗くて救いようがない。

スタジオ録音とライヴの違いは差し引いても、2つの〈マイ・ファニー・ヴァレンタイン〉の差は歴然です。コロコロとよく転がり、かわいらしささえたたえたレッド・ガーランドのピアノに代わって、ハンコックが聞かせるのは、もっと抽象度の高い世界です。

キースを経た耳にはほとんど違和感はありませんが、ハードバップ時代のピアニストにはなかった新しい響き。それはソロを弾いているときだけにかぎりません。バッキングにまわっているときだって、ハンコックはかなり大胆に自己主張を重ねていきます。いやむしろ、バックにまわったときにどれだけ冒険できるか、ということを楽しんでいるようにすら感じられます。

このコンサートでは、テナーがジョージ・コールマンですが、ここにショーターが加われば、第2期黄金のクインテットの完成です(この半年後くらいに加入します)。このクインテットのすごさは、マイルスだけではなく、メンバー全員がそれぞれ自分の究極の演奏を目指しながら、それがグループ全体の完成度にもつながっていたことにあると思うのですが、早くもその萌芽がこのコンサートで見られます。

バックでリズムをキープするという意味での「リズム・セクション」という言葉は、彼らには当てはまりません。ハンコックも、トニーも、そしてロン・カーターでさえも、隙あらば主役の座に躍り出ようと、虎視眈々とねらっている。それが演奏に緊張感をもたらし、バラード集なのにちっともくつろげない(笑)という不思議な現象を生み出しています。

3曲目〈星影のステラ〉。開始1分53秒、マイルスのためいきが出るようなソロの途中でどこかのバカが「イエエエ〜〜イ!」と叫びます。でも、この気持ち、わかるなあ。言葉にならないこの感動を表すには、叫ぶしかなかったんでしょう。私ならさしずめ「ウォォォォォーッ」という感じでしょうか。

カインド・オブ・ブルー』でもとりあげられた〈オール・ブルース〉。完成度という意味では、『カインド〜』に勝る演奏はありえませんが、エヴァンスとは別の意味で、ハンコックのすごさを実感できる演奏です。

 

Miles Davis "My Funny Valentine"
(Columbia CL 2306 / CS 9106)

Miles Davis (trumpet)
George Coleman (tenor sax)
Herbie Hancock (piano)
Ron Carter (bass)
Tony Williams (drums)

Produced by Teo Macero
Recorded live at Lincoln Center "Philharmonic Hall", NYC; February 12, 1964

[Tracks]
01. My Funny Valentine (music: Richard Rodgers / words: Lorenz Hart)
02. All Of You (music+words: Cole Porter)
03. Stella By Starlight (music: Victor Young / words: Ned Washington)
04. All Blues (music: Miles Davis)
05. I Thought About You (music: Jimmy Van Heusen / words: Johnny Mercer)

[Links: Miles Davis]
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Miles Davis: Missing Links (by Thomas Westphal)
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[Links: George Coleman]
George Coleman (Official Website)
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2005年12月06日

マイルス・デイヴィス『フォア&モア』

fourandmore.jpg

マイルス・デイヴィスを聞く楽しみは人それぞれ。リリカルなミュート・トランペットの音色に「マイルスってステキ(笑)」と虜になるのも、ハード・ボイルドな決めセリフに「く〜、たまらんっ」((c) 中山康樹)となるのも、エレクトリック時代のグルーヴに思わず「イエ〜イ」と腰が動き出すのも、どれもマイルス・ミュージックの本質を表しています。

ところが、です。「マイルス=燃えたぎる情熱」という図式は、なかなか当てはまらない。マイルスが額に汗してペットを吹く姿というのは、想像の埒外にあるわけです(実際には、汗は当然流れたのでしょうが、そこはそれ、ツツーッと頬を伝わり落ちる汗であって、周囲に汗を撒き散らして突き進む暴走機関車みたいな迫力は、マイルスからは感じられません)。マイルスは究極の「ええかっこしい」だから、どんなときにも熱くなりすぎない。そこがクールでたまらない。これが一般的なイメージじゃないかと思うんです。でも、そのイメージを覆すのが、この『フォア&モア』です。

ここでのマイルスは、本当にすごい! 血管が切れちゃうんじゃないかと心配になるくらい、バリバリ吹きまくっています。かつてガレスピーの圧倒的な演奏を目の当たりにして、高音路線は封印したはずのマイルスですが、ここでは、これでもかと高音を攻めまくります。「見たか、オレだってやれるんだ」といわんばかりの耳をつんざくフリー・ブローイング。この爽快感は、ちょっと他では得がたいものがあります。

圧巻は〈ソー・ホワット〉から〈ウォーキン〉へと続く冒頭の2曲。これ、数あるジャズのライブ録音のなかでも、興奮度、熱狂度では屈指の作品ではないでしょうか。いきなりトップ・ギアで走り出すマイルス。こんなマイルス、聞いたことがありません。

しかも、この高速走行は最後まで続きます。メリハリもなにもありません。テンション上げっぱなしで、しかもダレない。いやはやこれは興奮ものです。気合いを入れて聞かないと、こちらが殺られます(笑)。トニーも熱い、ハンコックも熱い。理想的なリズム・セクションを得たマイルスの喜びがひしひしと伝わってくるようです。

ちなみに、このライヴはクラシックの殿堂、リンカーン・センターのフィルハーモニック・ホール(現在はエイブリー・フィッシャー・ホールと改称)で行われたはじめてのジャズ・コンサートです。以来、このホールは、マイルスが節目、節目でコンサートを開くホールとして、ジャズ・ファンにも認知されていきます(それが現在のウィントンまでつながっているのですね)。

追記:犯人はジョージ・コールマン???

この日、マイルスがここまで熱かったのはなぜか。
宝島社文庫『マイルス・デイビス自叙伝2』によると、このライヴは、NAACP(全国有色人種地位向上協会)などが主催した黒人の地位向上を目指したチャリティ・コンサートだったそうで、つまりはノー・ギャラ。それに不満をいだいた人物とひと悶着あって、舞台にあがったときには、メンバー全員頭に血が昇っていたそうです。

その夜のオレ達の演奏は、まさに天井をぶっ飛ばしてしまいそうな勢いだった。みんなが、本当に一人残らず全員が、ものすごい演奏をした。曲はほとんどがアップ・テンポだったが、ただの一度も狂わなかった。ジョージ・コールマンも、この夜が最高だった。それに、バンドには創造的な緊張感が漂っていた。このコンサートをやるまでの少しの間、バンドとしての仕事を休んで、みんな違うことを勝手にやっていたし、慈善コンサートがノー・ギャラなのが気に食わない奴もいた。とてもいい奴で評判もいいし、つまらん迷惑はかけたくないから名前は言わない。だがそいつは、「なあ、オレの金をくれよ。そこから自分で好きなだけ寄付するからさ。慈善コンサートなんて嫌だぜ。マイルス、オレはお前ほど稼いじゃいないんだ」と言っていた。話し合いは行ったり来たりしたが、結局、今度だけは演奏するということで全員が落ち着いた。だから演奏が始まる時には、みんなカッカしていた。その怒りが火をつけて、バンドに緊張感が漲った。たぶんそれが、全員があんなにも力強い演奏をした理由だったんだろう。


 

Miles Davis "Fore & More"
(Columbia CL 2453 / CS 9253)

Miles Davis (trumpet)
George Coleman (tenor sax)
Herbie Hancock (piano)
Ron Carter (bass)
Tony Williams (drums)

Produced by Teo Macero
Recorded live at Lincoln Center "Philharmonic Hall", NYC; February 12, 1964

[Tracks]
01. So What (music: Miles Davis)
02. Walkin (music: Richard Carpenter)
03. Joshua 〜 Go-Go (Theme And Announcement) (music: Victor Feldman) 〜 (music: Miles Davis)
04. Four (music: Miles Davis)
05. Seven Steps To Heaven (music: Victor Feldman, Miles Davis)
06. There Is No Greater Love 〜 Go-Go (Theme And Announcement) (music: Isham Jones / words: Marty Symes) 〜 (music: Miles Davis)

[Links: Miles Davis]
The Official Miles Davis Web Site
The Official Miles Davis Web Site (@ Sony Music)
Miles Ahead: A Miles Davis Website (by Peter Losin)
Miles Davis: Missing Links (by Thomas Westphal)
Miles Davis Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: George Coleman]
George Coleman (Official Website)
[Links: Herbie Hancock]
The Official Website of Herbie Hancock
Herbie Hancock Discography (by Christian Genzel)
[Links: Ron Carter]
Jazz Basist Ron Carter Official Site
[Links: Tony Williams]
Tony Williams Discography (by ANTAIOS)
Tony Williams (@ ジャズCDの個人ページ by K. Kudo)

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2005年12月05日

マイルス・デイヴィス『カインド・オブ・ブルー』

kindofblue.jpg

先週は仕事で立て続けに3つのミスが発覚し、ものすごくへこみました。気分はまさにブルー。でも、週末に静岡で教え子たちの顔を見てきて、ようやくマックに向かう気持ちになりました。ありがたいことです。

ブルーといえば、『カインド・オブ・ブルー』(って、そんなイントロかい!)。20世紀のジャズが到達した1つの頂点を記録したこのアルバムは、一説には全世界で数百万枚を売って、録音から半世紀近くすぎた今なお万単位で売れ続けているというマンモス・アルバムです。

ジャズ界広といえども、たった1枚のアルバムのために、本が出版されたという例は、聞いたことがありません。しかも、何冊も(アマゾンの洋書で「Kind Of Blue」で検索すると、何冊も出てきます)。

その中の1冊、Ashley Kahn 著『Kind of Blue』は、翻訳版『カインド・オブ・ブルーの真実』が出ています(訳はご存じ中山康樹さんほか)。

この本の存在は前から気になっていたのですが、なかなか手が出ない。出版界のはしくれで生計を立てている身としては、本はできるだけ買うようにしているのですが(みなさん、本は買いましょう。図書館で借りてばかりいると、こういう「売れない本(失礼)」がどんどん出版されなくなりますよ)、1枚のアルバムのためだけに書かれた本というのがネックになって、いまだに買わないでしまっています。ごめんなさい。

で、気になっていろいろ調べていたら、あるんですねえ、こういう親切なサイトが。その名も「Excerpt from "KIND OF BLUE"」(「カインド・オブ・ブルー」の抜粋という意味ですね)。サイト・オーナーのまつさんが原書「Kind of Blue」を訳しながら、自身のコメントを加えて、アルバム『カインド・オブ・ブルー』にまつわるさまざまなエピソードを解説してくれます。

このコメントが秀逸なんです。とかくいろいろなことがいわれてきたアルバムですが、それに対する解答がきちんと整理されています。読んで納得、こんなすばらしいサイトがあるのに、私風情がコメントを書くのは恐れ多いというわけで、このアルバムについて知りたい方は、まつさんのサイトへどうぞ。

ともあれ、これは聞いてもらうしかありません。汗がしたたり落ちる興奮も、躍動するリズムもないけれど、このアルバムには、ジャズという音楽がもつアート(芸術)としての可能性がつまっています。知的で繊細、とてもおだやかでいながら、ひとところにとどまらない不思議な感覚。それ以前のジャズとはまったく違った新しい地平。このアルバムを最後に、マイルスとエヴァンスは袂を分かちます。

 

Miles Davis "Kind Of Blue"
(Columbia CL 1355 / CS 8163)

Miles Davis (trumpet)
Cannonball Adderley (alto sax) except #3
John Coltrane (tenor sax)
Bill Evans (piano) except #2
Wynton Kelly (piano) #2
Paul Chambers (bass)
Jimmy Cobb (drums)

Produced by Teo Macero
Recorded at the Columbia 30th Street Studio, NYC; March 2 (#1-3), April 6 (#4, 5), 1959

[Tracks]
01. So What (music: Miles Davis)
02. Freddie Freeloader (music: Miles Davis)
03. Blue In Green (music: Bill Evans, Miles Davis)
04. All Blues (music: Miles Davis)
05. Flamenco Sketches (music: Miles Davis)

[Links: Miles Davis]
The Official Miles Davis Web Site
The Official Miles Davis Web Site (@ Sony Music)
Miles Ahead: A Miles Davis Website (by Peter Losin)
Miles Davis: Missing Links (by Thomas Westphal)
Miles Davis Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Cannonball Adderley]
The Cannonball Adderley Rendez-vous (by Gilles Miton)
Cannonball Adderley Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: John Coltrane]
John Coltrane (Official Website)
John Coltrane (@ Dave Wild's WildPlace)
John Coltrane Discography (by ANTAIOS)
John Coltrane Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Bill Evans]
The BILL EVANS Webpages
Bill Evans's Discography
Bill Evans Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Jimmy Cobb]
Jimmy Cobb (Official Website)

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