2005年11月26日

キャノンボール・アダレイ『サムシン・エルス』

somethinelse.jpg Cannonball Adderley - Somethin' Else

シャンソン生まれの名曲〈枯葉〉(原題は Les Feuilles Mortes)は、その印象的な旋律ゆえ、多くのジャズメンのレパートリーともなっています。ジョゼフ・コスマ作曲のバレエ曲〈ランデヴー〉に、詩人兼脚本家ジャック・プレヴェールが詞をつけて、1946年の映画『夜の門(LES PORTES LA NUIT)』で、イヴ・モンタンが歌ってヒットしました(監督はマルセル・カルネ)。ジョニー・マーサーが英語詞をつけたのが1950年。52年に、ナット・キング・コールが歌ってから、アメリカでもポピュラー・ソングの仲間入りを果たしました。

ジャズの決定的名演はいくつもありますが、さしずめキャノンボール・アダレイの『サムシン・エルス』、ビル・エヴァンスの『ポートレイト・イン・ジャズ』、サラ・ヴォーンの『枯葉』あたりが三大名演名唱といえるでしょうか。

さて、この『サムシン・エルス』。キャノンボールの作品だとクレジットされていますが、実質的なリーダーはマイルスです。それは演奏を聞けばわかります。いつものように、いちばんおいしいところは、全部マイルスがもっていっちゃうわけです(笑)。自分だけにスポットライトが当たるように計算しつくされたアレンジ。こういう気恥ずかしいことをやってサマになるのは、やっぱりマイルスをおいて他にはいません。

ところが、このアレンジ。実はマイルスの独創ではなくて、元ネタがいます。当時、マイルスはシカゴのピアニスト、アーマッド・ジャマルに心酔していて、彼の演奏する〈枯葉〉のアレンジをそのまんま拝借したというのは、有名な話です。

ただ、私はジャマルが弾く〈枯葉〉を聞いたことがないので、正確なことはわかりません。気になる人は、『ポートフォリオ・オブ・アーマッド・ジャマル』とか、『The Legendary Okeh and Epic Recordings』で確認してください。

それはさておき、この『サムシン・エルス』には、心あたたまる逸話が残されています。マイルスが重度のジャンキーで演奏もままならなかったころ、救いの手を差し伸べたのが、ブルーノートのプロデューサー、アルフレッド・ライオンでした。2人は「1年に1度のレコーディング」を約束し、52年、53年、54年とその約束を忠実に果たしていきます。その時代の記録が『マイルス・デイヴィス Vol. 1』であり、『マイルス・デイヴィス Vol. 2』なわけです。

ところが、マイルスが55年に大手コロンビアと契約したため、この約束が途絶えてしまいます。しかし、マイルスは忘れていなかった。意外と義理堅いところもあるんです、マイルスは。コロンビアとの契約の関係で、リーダーは別人を立てるしかありませんでしたが、久々に古巣ブルーノートで録音します。それも、とびっきりの名曲をひっさげて。

ブルーノートの倉庫に残されたマスターテープの箱には、アルフレッドの字で大きく「Miles」と書かれていたそうです。彼にとっては紛れもなく「マイルスのセッション」だったのでしょう。2人の友情に乾杯!

 

Cannonball Adderley "Somethin' Else"
(Blue Note BLP 1595)

Miles Davis (trumpet)
Cannonball Adderley (alto sax)
Hank Jones (piano)
Sam Jones (bass)
Art Taylor (drums)

Produced by Alfred Lion
Recorded by Rudy Van Gelder
Recorded at the Van Gelder Studio, Hackensack, NJ; March 9, 1958

[Tracks] Cannonball Adderley - Somethin' Else
01. Autumn Leaves (music: Joseph Kosma / words: Jacques Prevert, Johnny Mercer)
02. Love For Sale (music+words: Cole Porter)
03. Somethin' Else (music: Miles Davis)
04. One For Daddy-O (music: Nat Adderley)
05. Dancing In The Dark (music: Arthur Schwartz / words: Howard Dietz)

[Links: Miles Davis]
The Official Miles Davis Web Site
The Official Miles Davis Web Site (@ Sony Music)
Miles Ahead: A Miles Davis Website (by Peter Losin)
Miles Davis: Missing Links (by Thomas Westphal)
Miles Davis Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Cannonball Adderley]
The Cannonball Adderley Rendez-vous (by Gilles Miton)
Cannonball Adderley Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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2005年11月25日

マイルス・デイヴィス『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』

roundaboutmidnightjpg.jpg

マイルスは、ジャズが地殻変動を迎えていた50年代と60年代に、時代を画する2つのクインテットを率いていましたが、この『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』は、50年代の「第1次黄金のクインテット」の初録音を含むアルバムです。

この録音に先立つこと3ヵ月あまり、マイルスは第2回ニューポート・ジャズ・フェスティヴァルに出演します(1955年7月17日)。このライヴ・パフォーマンスは伝説になっていて、この日の演奏を聞いて感激したメジャー・レーベル、コロンビアのプロデューサー、ジョージ・アヴァキャンはさっそくマイルスと専属契約を結びます。当時、マイルスはインディーズ系のプレスティッジと契約していましたが、それを解除するべく動いたのも,アヴァキャンでした。マイルスが、史上名高い「マラソン・セッション」を敢行したのも、プレスティッジとの契約を早く終えたかったからだといいます(『クッキン』『リラクシン』『ワーキン』『スティーミン』と続く、いわゆる「ING 四部作」のことです)。

メジャー・レーベルと契約し、名実ともにビッグになった帝王マイルス。当時は、黒人のジャズメンがコロンビアと専属契約を交わすなんて、常識では考えられないことでした。破格の待遇だったわけです。その期待に応えようと、マイルスは張り切ります。といっても、究極の「ええかっこしい」のマイルスのことですから、ねじり鉢巻に袖まくりなんて野暮なことはしなくて、緻密に計算されたリリシズムの極地をさらりと表出して見せます。それが、冒頭の〈ラウンド・ミッドナイト〉です。そのカッコよさといったら。もう何度聞いてもシビれます。マイルス、サイコ〜!

マイルスの張り切りぶりは、プレスティッジのマラソン・セッションと比べるとよくわかります。コロンビア盤『ラウンド・アバウト〜』のほうは、55年10月27日、56年6月5日、10月27日の3回のセッションから選りすぐりの演奏を1枚のアルバムに封じ込めていますが、プレスティッジのほうは、56年5月11日、10月26日のたった2回のセッションを4枚のアルバムに分散収録しているのです。中身の濃さはいわずもがな、ですね(それでも名盤になってしまうところが、マイルスのすごさですが)。

さて、〈ラウンド・ミッドナイト〉です。この曲がカッコいいのは、きちんと練られたアレンジに基づいているからです。そのアレンジを施したのは、誰あろうギル・エヴァンス。クレジットはされていませんが、ギル本人が認めています。いわく、

もともとあのアレンジはあるシンガーのために用意しておいたものなんだ。イントロからして私が書いたものだし、コルトレーンがテーマのバックで吹くカウンター・メロディは本来オーケストラのためのものだったんだよ。フレンチホルンだとかフルートを主体としたホーンやブラスがあの低音部を演奏して、それをバックにシンガーがメロディを歌う。でも、カウンター・メロディを使うアプローチはマイルスも以前からやっていたと言っていたけれどもね。まあそれはそれとして、穏やかで繊細な感じのテーマが終了すると、一転してビッグ・バンドの迫力あるサウンドが例のヴァンプを演奏するんだ。それをマイルスは、コルトレーンとの2管で上手く表現していた。(日本盤ライナーより引用。訳は小川隆夫さん)

ここで「例のヴァンプ」と述べられているのは、マイルスのソロが終わって、2分45秒からはじまる「パッパッパ〜ッパッパ、パッパ〜パ、(ドドドドドドッ)、プワァァァ〜」の部分です。これがホントにカッコいい。これ聞きたさに、何度もくり返しかけてしまうんです。だって、ホントにシビれまっせ〜!

マイルスがこの曲を演ったのは、実は今回がはじめてではありません。53年の『コレクターズ・アイテムズ』で吹き込んでいるのですが、ここには、例の「決めセリフ」は入っていません。これがあるとなしとでは、本当に天と地ほども違いますから、興味がある方はぜひ聞き比べてみてください。

ちなみに、アルバム名が『ラウンド・ミッドナイト』でなく『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』となっているのは、原曲の曲名をとったからです。セロニアス・モンクの自作曲のなかで、もっともモンク臭がうすい(だからこそ、いちばん有名になったともいえますが)この曲には、もともと「アバウト」が入っていたのですが、バーニー・ハニガンが詞をつけたときに、どうもこの「アバウト」のおさまりが悪い。「ラウン・ミッナイ〜、ラウン・ミッナイ〜」と歌ってこそ味が出る。というわけで、とっちゃったんですね、「アバウト」を。「そんなのアリ〜?」というようなエピソードですが、本当らしいです。

 

Miles Davis "'Round About Midnight"
(Columbia CL 949 / CS 8649)

Miles Davis (trumpet)
John Coltrane (tenor sax)
Red Garland (piano)
Paul Chambers (bass)
Philly Joe Jones (drums)

Produced by George Avakian
Recorded by Ray Moore
Recorded at Columbia Studio D, NYC (#2)
Recorded at Columbia 30th Street Studio, NYC; June 5 (#4-6), September 10 (#1, 3), 1956

[Tracks]
01. 'Round Midnight (music: Thelonious Monk, Cootie Williams / words: Bernie Hanighen)
02. Ah-Leu-Cha (music: Charlie Parker)
03. All Of You (music+words: Cole Porter)
04. Bye Bye Blackbird (music: Ray Henderson / words: Mort Dixon)
05. Our Delight (aka. Tadd's Delight) (music: Tadd Dameron)
06. Dear Old Stockholm (traditional)

[Links: Miles Davis]
The Official Miles Davis Web Site
The Official Miles Davis Web Site (@ Sony Music)
Miles Ahead: A Miles Davis Website (by Peter Losin)
Miles Davis: Missing Links (by Thomas Westphal)
Miles Davis Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: John Coltrane]
John Coltrane (Official Website)
John Coltrane (@ Dave Wild's WildPlace)
John Coltrane Discography (by ANTAIOS)
John Coltrane Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Red Garland]
Red Garland の世界 (by GAKO)
Red Garland Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Philly Joe Jones]
Philly Joe Jones Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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2005年11月23日

マイルス・デイヴィス『死刑台のエレベーター』

ascenseurpourlechafaud.jpg Miles Davis - Ascenseur pour l'!)chafaud

いよいよ帝王マイルス・デイヴィスの登場です。本名、マイルス・デューイ・デイヴィス3世(Miles Dewey Davis III)。1926年5月26日、イリノイ州アルトン生まれ。1991年9月28日、カリフォルニア州サンタモニカで死去(享年65歳)。

この1、2週間というもの、マイルスの最初の1枚を何にするか、かなり真剣に迷いました(笑)。で、選んだのが、この『死刑台のエレベーター』です。この作品は、マイルス初のサウンドトラック盤で、1957年のフランス映画『死刑台のエレベーター』のために、当時、単身パリを訪れていたマイルスが地元の精鋭ミュージシャンをしたがえて吹き込んだものです。

なぜ『死刑台のエレベーター』からはじめるのか。この作品にはマイルスのサウンドの秘密が隠されているからです。私たちが思い浮かべる「マイルスの音」、あのカッコよすぎるトランペットの音色は、実は周到に計算され、つくり込まれた音だというのが、この作品、とくに「完全盤」を聞くとわかるんです(したがって、アマゾンのリンクは「完全盤」に貼ってあります)。

もともと映画のサントラ盤には、下記の10曲が収められていました。そして、「完全盤」にはサウンドトラック用に加工される前のナマの演奏が16曲分入っています。この「加工」にヒントが隠されています。加工前と加工後では、マイルスの音がまるで違う。加工後のほうが、圧倒的にカッコいいんです。エコーが効いて、より立体的な響きを感じさせます。そして、ここが重要なんですが、このエコー処理後のマイルスの音色こそ、ふだん私たちが慣れ親しんでいるマイルスの音、とくにモードからエレクトリック路線を突き進んだコロンビア時代のマイルスの音に他ならないのです。

つまり、コロンビア時代のマイルスは、よく練られ、つくり込まれたサウンドによって支えられていた。その端緒となったのが、この『死刑台のエレベーター』という作品だったというわけです(このアルバムは、アメリカの発売元はコロンビアですが、もとはフランスのフォンタナ・レーベルからリリースされました)。

以上の話は、私の発案といいたいところですが、そんなことはもちろんなくて、中山康樹さんの『マイルスを聴け!』に載っています。この話を読んで、私はそれ以前からばく然と感じていたプレスティッジ時代のマイルスとコロンビア時代のマイルスの質感の違いに正解を与えられた思いがして、膝を打ったものです。

たしかに、コロンビア時代、テオ・マセロがプロデューサーに名を連ねるようになってからのマイルスは、それ以前と比べて格段にカッコよくなっています。全体に平板な印象だったのが、よりスペースを感じさせるサウンドに変化している。2次元から3次元への変化とでもいえばいいでしょうか。それは、この「完全盤」のエコー処理済みの10曲と、加工前のナマの音を聞き比べれば、一聴瞭然です。まったく同じ演奏なのに、こうも違うかと驚くでしょう。

というわけで、このアルバムの聞き方は、最初の1回だけ、同じ演奏を聞き比べて、その音色や全体の雰囲気の違いを確かめてください。その後は、原曲は切り捨てて(iTune にはじめから登録しない)、サウンドトラック盤の10曲だけを楽しむ。これです。

また、この吹き込みは、マイルスおよびメンバーが映画のラッシュ(まだ無音状態のフィルム)を見ながら、その場で即興で音をつけたという「伝説」で彩られていました。

ところが、世界的に有名なマイルス(およびブルーノート)のコンプリート・コレクターである小川隆夫さんの『マイルス・デイヴィス コンプリート・ディスク・ガイド』によると、渡仏直後(11月下旬?)にサントラ録音の依頼を受けたマイルスは、滞在しているホテルにピアノを持ち込み、ツアーの合間に作曲に取り組んだといいます。つまり、マイルスは事前に曲想を得てスタジオ入りした。でも、それはメンバーには知らされず(いつものことです)、いかにもその場で即興で生み出したかのように演奏した。

そう聞いて、幻滅しましたか? 私は逆に、いかにも「ええかっこしい」のマイルスらしいエピソードだと感じました。努力している姿は他人に見せず、表向きはあくまでクールでヒップな存在であり続ける。メンバーをも萎縮させるマイルスの圧倒的な存在感は、こういう人知れない努力の賜物だと思うのです。ミステリアスな部分がない男に、色気は感じないでしょう?

ちなみに、ヌーヴェル・ヴァーグの先駆けとも呼ばれた映画『死刑台のエレベーター』の監督はルイ・マル。主演はジャンヌ・モローです(DVD「ルイ・マル DVD-BOX II」に収録されています)。モノクロ映像が醸し出す質感とマイルスの陰影のあるサウンドによって、サスペンスものの古典として、今なお特別な光を放っています。



Miles Davis "Ascenseur Pour L'echafaud"
(Fontana 662 213 TR, Columbia CL 1268 / CS 8978)

Miles Davis (trumpet)
Barney Wilen (tenor sax)
Rene Urtreger (piano)
Pierre Michelot (bass)
Kenny Clarke (drums)

Recorded at Le Poste Parisien Studios, Paris; December 4, 5, 1957

[Tracks] Miles Davis - Ascenseur pour l'!)chafaud
01. Geneique (music: Miles Davis)
02. L'Assassinat De Carala (music: Miles Davis)
03. Sur L'Autoroute (music: Miles Davis)
04. Julien Dans l'Ascenseur (music: Miles Davis)
05. Florence Sur Les Champs- Lysees (music: Miles Davis)
06. Diner Au Motel (music: Miles Davis)
07. Evasion De Julien (music: Miles Davis)
08. Visit Du Vigile (music: Miles Davis)
09. Au Bar Du Petit Bac (music: Miles Davis)
10. Chez Le Photographe Du Motel (music: Miles Davis)

[Links: Miles Davis]
The Official Miles Davis Web Site
The Official Miles Davis Web Site (@ Sony Music)
Miles Ahead: A Miles Davis Website (by Peter Losin)
Miles Davis: Missing Links (by Thomas Westphal)
Miles Davis Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Barney Wilen]
Barney Wilen (Official Website)
Barney Wilen Discography

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2005年11月22日

クリフォード・ブラウン『ザ・ビギニング・アンド・ジ・エンド』

thebeginingandtheend.jpg

クリフォード・ブラウン。熱いですね、みなさん。コメントの量が違います(笑)。ブラウニーというと、あまりの完璧さゆえに溺愛できない、感情的にのめり込むことができない、と村上春樹さんが心情を吐露していて(『ポートレイト・イン・ジャズ2』)、私はその印象に引きずられていたのですが、そんなことはないんですね、やっぱり。アーティストやその作品に感情移入するのも人間なら、そこに完璧なもの、完成された美を求めるのも人間なのでしょう。

ブラウニーの音楽は「スキがない」「完璧だ」といわれますが、これくらい圧倒的な力量を見せつけられると、あとはもうひれ伏すしかない(笑)。しかも、人格的にもきわめて「スウィート」で、誰からも愛される好人物だったといいます。

いわゆる「いい人」というのは、イコール「どうでもいい人」だったりするのが世の常ですが、ごくたまに、根っからのいいヤツで、青臭い正論も、そいつがいうと、なんか実現できそうな気がする、自然と信じる気持ちにさせる、そういう人間がいるものです。ブラウニーもきっと本人にその気はなくても、自然とそういう影響力を発揮してしまう人だったのでしょう。

この『ザ・ビギニング・アンド・ジ・エンド』は、文字どおりブラウニーの最初と最後の録音をカップリングした作品です。ラスト録音といっても、たいていは「最後のスタジオ録音」であったり「最後の正式録音」であったりして、その後に延々と「死の直前の発掘音源(ブートレグ盤)」が出てきたりするものですが、ブラウニーのこれは正真正銘のラスト録音です。なにしろ、この演奏を終えた後、車でシカゴに向かう途中で事故に遭ってあの世へ旅立ってしまったのですから、これより後の演奏が発掘されることなんて、ありえないわけです。だから、歴史的に価値がある。

でも、こういう歴史的名盤というのはくせ者で、演奏がボロボロだったり、録音状態がひどかったりして、聞くに堪えない作品が実に多い。このアルバムも、最初に流れてくる「アイ・カム・フロム・ジャ〜マイカ〜」(笑)というミョ〜な歌声で興ざめしてしまう人も多いはず。

1、2曲目は、ブラウニーのファースト録音で、クリス・パウエル率いるR&Bバンドの演奏です。ブラウニーのソロが入っている、というだけで、ここに収録されています。非常に短い(どちらも2分程度)のでガマンするか、思い切って飛ばしちゃいましょう。

3〜5曲目が問題のラスト録音です。ブラウニーは、生まれはデラウェア州ウィルミントンですが、学生時代からフィラデルフィアで活動していました。いわば、フィリーは第二の故郷というわけで、地元に凱旋した偉大なトランぺッターをかの地のミュージシャンが出迎えて、和気あいあいとジャム・セッションに興じた。日常のたんなるひとコマが、悲しいことに、歴史的な記録になってしまったのです。

ここには、わずか数時間後に死を迎えるなんて微塵も感じさせない、まばゆいばかりの幸福感が満ちあふれています。マックス・ローチとのクインテットでは、よくも悪くもキッチリした印象を抱かせるブラウニーですが、この夜は、とてもおだやかで、くつろいでいたのでしょう。なんと楽しそうな雰囲気でしょうか。

きっとこの夜は、周囲が寝静まった後も、録音場所となった楽器店「ミュージック・シティ」だけは、こうこうと照る灯りと笑い声に包まれていたことでしょう。ブラウニーの短いけれど、幸せな一生に合掌。

追記(2006年3月13日記す):

ブラウニー生前最後の録音ということで知られていた『ザ・ビギニング・アンド・ジ・エンド』ですが、従来いわれていた1956年6月25日の録音ではなく、その1年以上前の1955年5月31日の録音だということがニック・カタラーノによるブラウニーの伝記、『クリフォード・ブラウン:天才トランペッターの生涯』に記されています。そのセッションに参加していたビリー・ルートの言葉。

クリフォードと私は「ブルーノート」で仕事していた。私はそのころクラブのハウス・バンドに入っていたんだ。その夜(5月31日)私たちは、エリス・トーリンに誘われて「ミュージック・シティ」で演奏した。フレッド・マイルスという男がその夜のセッションをテープに録っていたよ。

もう1つ、「あなたはクリフォード・ブラウンのラスト・レコーディングで彼と共演していますね」という質問に対するビリー・ルートの回答。

えーと、それは間違いだ……私はフィラデルフィアの「ブルーノート」にクリフォードと同時に出演していた。フィラデルフィアには、ジャズ・クラブに入れない若い連中のために、街にやってくる有名なプレイヤーの演奏を聴いたりできる場所があって、そのひとつ、「ミュージック・シティ」で私とクリフォードは演奏し、誰かがそれをテープに録った。それは彼が亡くなる8、9か月前か、もしかしたら1年前だったかもしれない。みんなはそれを彼が亡くなる直前の演奏だと言っているが、それは違う。1年かそこら前に録音されたものだ。

さて、みなさんはどう思われますか? 私には真相は確かめようがありませんが、「ラスト録音」でなくなると、困るのは発売元のソニーでしょうね(笑)。



Clifford Brown "The Beginning And The End"
(Columbia KC 32284)

#1, 2: Chris Powell & his Blue Flames
Chris Powell (vocal, percussion)
Clifford Brown (trumpet)
Vance Wilson (alto sax, tenor sax)
Duke Wells (piano)
Eddie Lambert (guitar)
James Johnson (bass)
Osie Johnson (drums)

#3-5
Clifford Brown (trumpet)
Billy Root (tenor sax) #3, 4
Mel "Ziggy" Vines (tenor sax) #3
Sam Dockery (piano)
Ace Tisone (bass)
Ellis Tollin (drums)

Produced by Don Schlitten
Recorded by Fred Miles (#3-5)
Recorded in Chicago; March 21, 1952 (#1, 2)
Recorded at Music City, Philadelphia; June 25, 1956 (#3-5)

[Tracks]
01. I Come From Jamiaca (music+words: Chris Powell)
02. Ida Red (music+words: Chris Powell)
03. Walkin' (music: Richard Carpenter)
04. A Night In Tunisia (music: Dizzy Gillespie, Frank Paparelli)
05. Donna Lee (music: Charlie Parker)

[Links: Clifford Brown]
I Remember Clifford: The Clifford Brown Discography
Clifford Brown Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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2005年11月17日

クリフォード・ブラウン『スタディ・イン・ブラウン』

studyinbrown.jpg Clifford Brown & Max Roach Quintet - Study In Brown

ブラウン=ローチ・クインテットの作品をもう1つ。『スタディ・イン・ブラウン』は、〈チェロキー〉と〈A列車で行こう〉の名演によって知られる彼らの最高傑作です(よね?)。

オープニングを飾るレイ・ノーブル作の〈チェロキー〉はネイティブ・アメリカンの部族の名前で、副題を〈インディアン・ラヴ・ソング〉といいます。そう思って聞くと、たしかにイントロから西部劇にでも出てきそうないさましいドラムが聞こえてきます。「ちょっとスピード出しすぎじゃない?」というテンポでスタートしますが、われらがブラウニーにとっては屁でもない、軽くいなすどころか、このスピードの中でも完璧に歌っています。「ホントにその場で考えて吹いているの?」と思わずツッコミを入れたくなるほどの出来映えです。さすが天才クリフォード! 続くハロルド・ランドもなかなか頑張ってます(笑)。

ブラウニーのオリジナルは4曲入っていますが、いちばん好きなのは〈ジョージズ・ジレンマ〉。寺島靖国さんが激賞されていますが、ブラウニーのペット・サウンドの丸みやあたたかさを感じるには最高の演奏です。キレがあるのにあたたかい。二律背反の命題を同時にこなしてしまうブラウニーはやっぱりすごい。

7曲目〈ガーキン・フォー・パーキン〉は、小児麻痺のために不自由になった左手を器用に使って演奏した西海岸のピアニスト、カール・パーキンスに捧げられた曲です。マックス・ローチによると、この曲の元ネタはマイルス作の〈シッピン・アット・ベルズ〉ということですが、さて、どうでしょう? 気になる人はチャーリー・パーカーのサヴォイ音源(たとえばこちら)か、ソニー・クラークの人気盤『クール・ストラッティン』あたりで確かめてください。

最後は、ビリー・ストレイホーン作の〈A列車で行こう〉です。この曲は、ゆったりとしたテンポで演ると粘り気が出て、いかにもエリントン楽団のテーマ曲らしくなりますが、急速調で攻めると、意外にも明るくさわやかな印象になります。この曲がお気に入りだったペトちゃんは何度か録音を残していますが、なるほど、ペトちゃんもブラウニーも、太陽のような明るさをもった、ジャズ界には珍しい存在でした。列車が出発して徐々に速度を上げ、汽笛を鳴らして駅に到着する様子を模した演出も心ニクイです。

 

Clifford Brown, Max Roach "Study In Brown"
(EmArcy MG 36037)

Clifford Brown (trumpet)
Harold Land (tenor sax)
Richie Powell (piano)
George Morrow (bass)
Max Roach (drums)

Recorded at Capitol Studio, NYC, February 23 (#3, 4, 7, 9), 24 (#5, 8), 25 (#1, 2, 6), 1955

[Tracks] Clifford Brown & Max Roach Quintet - Study In Brown
01. Cherokee (Indian Love Song) (music+words: Ray Noble)
02. Jacqui (music: Richie Powell)
03. Swingin' (music: Clifford Brown)
04. Lands End (music: Harold Land)
05. George's Dilemma (Ulcer Department) (music: Clifford Brown)
06. Sandu (music: Clifford Brown)
07. Gerkin For Perkin (music: Clifford Brown)
08. If I Love Again (music: Ben Oakland / words: Jack P. Murray)
09. Take The "A" Train (music: Billy Strayhorn)

[Links: Clifford Brown]
I Remember Clifford: The Clifford Brown Discography
Clifford Brown Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Max Roach]
Max Roach Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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2005年11月16日

『クリフォード・ブラウン&マックス・ローチ』

cliffordbrownmaxroach.jpg Clifford Brown/Max Roach Quintet - Clifford Brown & Max Roach (1954-1955)

歌伴を演っても、ウィズ・ストリングスものでも、どんなシチュエーションでどんな曲を吹こうとも、まばゆいばかりの光を現出させることのできたクリフォード・ブラウン。そんなブラウニーの最良の演奏は、ブラウン=ローチ・クインテットで聞くことができます。

太陽のように光り輝く天才トランペッターと正確無比なドラミングで名を馳せた大物ドラマーの組み合わせ。彼らはエマーシーに何枚かのアルバムを残しますが、いずれも甲乙つけがたいハードバップの名盤です。

あとは曲の好みで選ぶしかないのですが、この『クリフォード・ブラウン&マックス・ローチ』には、〈パリジャン・スロウウェア〉〈ジョードゥ〉といったジャズメン・オリジナルの決定的名演と、ブラウニー作の名曲〈ジョイ・スプリング〉が入っていて、忘れられないアルバムになっています。

アルバムの冒頭を飾るのは、エキゾチックな魅力あふれる〈デライラ〉です。ヴィクター・ヤングの曲ですが、このクインテットによる演奏があまりに印象的なので、ほかの人はあまり取り上げることがありません。

続く〈パリジャン・ソロウウェア〉で、クインテットは全速力でパリの街を駆け抜けます。ピアノのリッチーの兄、バド・パウエルの作品です。ここでのローチは本当にすごい。開いた口がふさがらない、とはこのことです(笑)。

3曲目〈ザ・ブルース・ウォーク〉はブラウニーの作とクレジットされていますが、実はソニー・スティットの作品で、タイトルも〈ルース・ウォーク〉といいます(初出はルースト盤『ペン・オブ・ジョニー・リチャーズ』)。ちなみに、ルー・ドナルドソンの『ブルース・ウォーク』に収められた同名曲はルーのオリジナルで、
デックスが『モンマルトル・コレクション』で取り上げていたのはブラウニー、もといスティットの作品でした。タイトルからすっかりルーの作品と思い込んでいましたが、今回判明したので、前の記事も訂正しておきました。

続いて〈ダーホウド〉、〈ジョイ・スプリング〉と正真正銘のブラウニーのオリジナル(笑)が並んでいます。なかでも〈ジョイ・スプリング〉のすばらしさといったら。そして、ピアニスト、デューク・ジョーダンのキラー・チューン〈ジョードゥ〉が続きます。う〜ん、やっぱりこりゃ、カッコよすぎるぞ。

 

”Clifford Brown And Max Roach"
(EmArcy MG 36036)

Clifford Brown (trumpet)
Harold Land (tenor sax)
Richie Powell (piano)
George Morrow (bass)
Max Roach (drums)

Recorded at Capitol Studios, LA; August 2 (#1, 2), 3 (#5), 6 (#3, 4), 1954
Recorded at Capitol Studios, NYC, February 24 (#6, 7), 1955

[Tracks] Clifford Brown/Max Roach Quintet - Clifford Brown & Max Roach (1954-1955)
01. Delilah (music: Victor Young, Jay Livingston / words: Raymond Evans)
02. Parisian Thoroughfare (music: Bud Powell)
03. The Blues Walk (aka. Loose Walk) (music: Sonny Stitt)
04. Daahoud (music: Clifford Brown)
05. Joy Spring (music: Clifford Brown)
06. Jordu (music: Duke Jordan)
07. What Am I Here For (music: Duke Ellington)

[Links: Clifford Brown]
I Remember Clifford: The Clifford Brown Discography
Clifford Brown Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Max Roach]
Max Roach Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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2005年11月14日

『クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス』

cliffordbrownwithstrings.jpg Clifford Brown & Max Roach - Clifford Brown With Strings

ウィズ・ストリングスものというと、即興演奏のスリルを楽しみたくてジャズを聞く人からは、「あ〜、やっちゃった」的な苦笑をもって迎え入れられるのが常で、実際「こりゃヒドいな」という作品も少なくありません。

私なんかも、アルバムの冒頭でストリングスの甘いサウンドが聞こえてきたとたん、気持ちが萎えるのですが(笑)、ヴォーカルも含めて、これだけ多くのウィズ・ストリングス作品が残されているのを見ると、やはりプレイヤーや歌手にとっては、ひとつの目標というか、天下をとった気になるのかもしれません。

たしかに、大編成のオーケストラをバックに従えて、たったひとりで朗々と歌うのは気持ちいいはずです。その気持ちはわからないでもありません。でも、それと聞いて楽しい作品になっているかどうかというのは、やっぱり別の話なんですね。

ところが、です。スポットライトを浴びるプレイヤーの力量が、ストリングス特有のだるさを飛び越えてしまうことが稀にある。この『クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス』がまさにそれなんです。

ここでのブラウニーは、息を呑むほどすばらしい! 伸びやかによく歌う彼のトランペットがこれほど鮮やかに聞けるアルバムはほかにありません。

たとえば冒頭の〈イエスタデイズ〉。まず、極甘のストリングスが聞こえてきて、「やっぱり、聞くのやめようかな」と思わせますが、それをガマンしていると、ブラウニーの光り輝くトランペットが鳴り響きます。その瞬間、私の頭からは周囲の雑音(失礼!)が消え去って、ブラウニーがただひとり、目の前にいるかのような錯覚に陥ります。

低音から高音まで一気に駆け上がるブラウニー。この天まで届かんとする伸びやかなトーンは、ちょっと表現しがたいものがあります。「神々しい」という言葉がこれほどピッタリくる演奏を、私はほかに思いつきません。それくらい感動的です。

このアルバムは、ブラウニーのあたたかみのあるトランペットを楽しむ極上のバラード集です。愁いをおびた〈ローラ〉もいいし、夕暮れの物悲しさを思わせる〈メモリーズ・オブ・ユー〉もいいし、〈煙が目にしみる〉も〈ジェニーの肖像〉も〈スターダスト〉もみんな好きです。

とはいえ、やはりストリングスものは甘い。ほめられることの多いニール・ヘフティのアレンジですが、私はそれほど評価していません。演奏者を目立たせるための控えめなアレンジだとは思いますが、それでも装飾過剰に聞こえます。せめてもうちょっとバックのヴォリュームを落としてくれれば、と願っているのは私だけではないはずです。

そんなわけで、ウィズ・ストリングスは立て続けに何枚も聞くものではありません。甘すぎてダレます。こんなものばかり聞いていると、キビしい現実社会に復帰できなくなるかもしれません(笑)。スウィート・クリフォードと親しまれたブラウニーですら、2度、3度とくり返すのはキツい。

ですから、ストリングスものは、ごくたまに、ふと思い出したように取り出して、ひとりひそかに楽しむというのが、精神衛生上いいようです。カクテルでいえば、ラスティ・ネイルやブラック・ルシアン。ほどよい甘味がのどを潤すこれらのお酒を、私はたまに無性に飲みたくなります。

 

"Clifford Brown With Strings"
(EmArcy MG 36005)

Clifford Brown (trumpet)
Richie Powell (piano)
Barry Galbraith (guitar)
George Morrow (bass)
Max Roach (drums)
Neal Hefti (arranger, conductor) with strings

Recorded in New York; January 18 (#1, 3, 10, 11), 19 (#2, 5, 8, 9), 20 (#4, 6, 7, 12), 1955

[Tracks] Clifford Brown & Max Roach - Clifford Brown With Strings
01. Yesterdays (music: Jerome Kern / words: Otto Harbach)
02. Laura (music: David Raskin / words: Johnny Mercer)
03. What's New (music: Bob Haggart / words: Johnny Burke)
04. Blue Moon (music: Richard Rodgers / words: Lorenz Hart)
05. Can't Help Lovin' Dat Man (music: Jerome Kern / words: Oscar Hammerstein II)
06. Embraceable You (music: George Gershwin / words: Ira Gershwin)
07. Willow Weep For Me (music+words: Ann Ronell)
08. Memories Of You (music: Eubie Blake / words: Andy Razaf)
09. Smoke Gets In Your Eyes (music: Jerome Kern / words: Otto Harbach)
10: Portrait Of Jenny (music: J. Russel Robinson / words: Gordon Burdge)
11. Where Or When (music: Richard Rodgers / words: Lorenz Hart)
12. Stardust (music: Hoagy Carmichael / words: Mitchell Parish)

[Links: Clifford Brown]
I Remember Clifford: The Clifford Brown Discography
Clifford Brown Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Barry Galbraith]
Barry Galbraith Chord Melodies Memorial Site
Barry Galbraith (@ Classic Jazz Guitar)
[Links: Max Roach]
Max Roach Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Neal Hefti]
Neal Hefti Fan Club (by Kent Lundberg)

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2005年11月11日

『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』

helenmerrill.jpg Helen Merrill & Clifford Brown - Helen Merill

サッチモやガレスピー、チェットは歌もよくするラッパ吹きでしたが、トランペットそのもので歌ってしまった人がいます。ブラウニーこと、クリフォード・ブラウンです。1930年10月30日、デラウェア州ウィルミントン生まれ。1956年6月26日、フィラデルフィアからシカゴへ車で向かう途中、ペンシルヴァニアのターンパイクで同乗のリッチー・パウエル夫妻とともに事故死。

ブラウニーのソロには、歌があります。汲めども尽きないメロディアスなフレーズが次から次へと流れ出るさまは、まさに圧巻のひと言。鋭角的に切り込むようなバップの世界とは明らかに違う、美しいメロディーの洪水が押し寄せます。

そして、分厚い胸板から繰り出されるブリリアントな音色! 一瞬にしてその場を仕切ってしまうほどの圧倒的な輝きをもちながら、同時にあたたかみをも感じさせてしまうブラウニーのサウンドは、ほかの誰にも真似できません。

ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』は、彼女のエマーシー録音第1弾です。ヘレン・メリルは、エマーシーに吹き込むにあたって、ソロイストにクリフォード・ブラウンを加えること、アレンジは全曲クインシー・ジョーンズに依頼すること、という条件を出したそうです(油井正一さんのライナーより)。結果は大成功。ヘレンだけでなく、ブラウニーの「歌」が聞ける大名盤となりました。

実は、ヘレン・メリルはあまり好きな歌手ではありません。もともとオンナ、オンナしている女性は苦手で、たとえば香水の匂いをプンプンさせて、ゴージャスに着飾った大人の女性を前にすると、どうしてもその場から逃げたくなる(笑)。

ヘレンの歌からは濃厚なフェロモンが漂ってきます。肌にまとわりつく感じです。これが、どうにも好きになれない。彼女のアルバムは他にも何枚かもっていますが、そんなわけで、ほとんど聞くことはありません。

唯一の例外が、この『ヘレン・メリル』なんです。ここでのヘレンは、ほのかな色気を感じさせますが、それが過剰にならずに、絶妙なラインを保っています。演奏を引き締めているのはバックのジャズメンですが、その元締めは、アレンジャーのクインシー・ジョーンズです。クインシーならいくらでも手の込んだことができそうなのに、ここでのアレンジは驚くほどあっさりしている。これがいいんです。ベッタリしすぎず、淡くて切ない情感がうまく表現されています。

ジャズファンならずとも、きっとどこかで聞いたことがあるのが、2曲目〈ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ〉。あまりに有名すぎて、推薦するのも気が引けますが、やっぱりこれは名唱です。ブラウニーのソロもすばらしい!

ちなみに、この曲の邦題「帰ってくれれば嬉しいわ」は誤訳として知られています。帰りを家で待つのではなく、相手の家に帰るのがうれしいという解釈が正しいと、ヘレン本人がいっていたそうです。

ほかにも〈ドント・エクスプレイン(言い訳しないで)〉、〈ホワッツ・ニュー〉、〈ス・ワンダフル〉など、その曲を代表する名演名唱が目白押しです。やっぱりこれは、コレクションからはずせませんね。

 

"Helen Merrill"
(EmArcy MG 36006)

Helen Merrill (vocal)
Clifford Brown (trumpet)
Donny Banks (baritone sax, bass clarinet, flute) except #03
Jimmy Jones (piano)
Barry Galbraith (guitar)
Milt Hinton (bass) #1, 2, 6, 7
Oscar Pettiford (bass, cello) #3, 4, 5
Osie Johnson (drums) #1, 2, 6, 7
Bob Donaldson (drums) #3, 4, 5
Quincy Jones (arranger, conductor)

Produced by Bob Shad
Recorded in NYC; December 22 (#1, 2, 6, 7), 24 (#3, 4, 5), 1954

[Tracks] Helen Merrill & Clifford Brown - Helen Merill
01. Don't Explain (music+words: Billie Holiday, Arthur Herzog Jr.)
02. You'd Be So Nice To Come Home To (music+words: Cole Porter)
03. What's New (music: Bob Haggart / words: Johnny Burke)
04. Falling In Love With Love (music: Richard Rodgers / words: Lorenz Hart)
05. Yesterdays (music: Jerome Kern / words: Otto Harbach)
06. Born To Be Blue (music: Mel Torme, Robert Wells)
07. 'S Wonderful (music: George Gershwin / words: Ira Gershwin)

[Links: Helen Merrill]
HelenMerrill.com (Official Website)
[Links: Clifford Brown]
I Remember Clifford: The Clifford Brown Discography
Clifford Brown Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Milt Hinton]
Milt Hinton.com (Official Website)
[Links: Quincy Jones]
Quincy Jones Music Publishing (Official Website)

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2005年11月09日

エラ・フィッツジェラルド,ルイ・アームストロング『エラ&ルイ』

ellaandlouis.jpg Ella Fitzgerald & Louis Armstrong - Ella and Louis

数あるサッチモの歌もののなかでも、もっともジャズを感じさせるのが、ファースト・レディ、エラ・フィッツジェラルドとの共演盤、『エラ&ルイ』です(1956年録音)。

断言しちゃいましょう。これは、20世紀が遺してくれた最高の贈り物です。「ヴォーカルはこれから」という人は、ぜひ最初のコレクションの1枚にこのアルバムを加えてください。

エラとルイという、ジャズ・ヴォーカル界の至宝が芸のかぎりをつくして、余裕たっぷりに歌います。2人のかけあいも見事。一流を極めた者だけがもつことを許される、このゆとり。力の抜け加減が、なんとも絶妙なんです。う〜ん、やっぱり2人とも、抜群にウマいぞ!

どれも聞き逃せない名演名唱ですが、1曲選べといわれたら、私は〈チーク・トゥ・チーク〉が好きですね。エラとルイはけっして美男美女というわけではないけれど、ジャケット写真の2人が頬を寄せ合って踊る姿はあんまり想像したくないけれど(笑)、そんなことは問題じゃないんです。この歌からは、心を許しあった2人が互いをいたわり、尊重し、心の底から友愛を感じていることが伝わってきます。あたたかい魂の交歓です。何度聞いても、いいねえ。

エラは、持ち前の豊かな声量で大観衆を前にしたときにもっとも強みを発揮するヴォーカリストですが、個人的には、こういうこじんまりしたフォーマットで歌うリラックスしたエラに魅力を感じます。彼女はささやくように歌ってもじゅうぶんうまい。むしろ、あのでっぷりとした体型を忘れてしまうような可憐さ、かわいらしさを味わうことができます。これ、ホントの話です。

 

Ella Fitzgerald, Louis Armstrong "Ella And Louis"
(Verve 4003)

Ella Fitzgerald (vocal)
Louis Armstrong (vocal , trumpet)
Oscar Peterson (piano)
Herb Ellis (guitar)
Ray Brown (bass)
Buddy Rich (drums)

Produced by Norman Granz
Recorded in LA; August 16, 1956

[Tracks] Ella Fitzgerald & Louis Armstrong - Ella and Louis
01. Can't We Be Friends (music: Kay Swift / words: Paul James)
02. Isn't It A Lovely Day (music+words: Irving Berlin)
03. Moonlight In Vermont (music: Karl Suessdorf / words: John Blackburn)
04. They Can't Take That Away From Me (music: George Gershwin / words: Ira Gershwin)
05. Under A Blanket Of Blue (music: Jay Livingston / words: Marty Symes, Al Neiburg)
06. Tenderly (music: Walter Gross / words: Jack Lawrence)
07. A Foggy Day (music: George Gershwin / words: Ira Gershwin)
08. Stars Fell On Alabama (music: Frank Perkins / words: Mitchell Parish)
09. Cheek To Cheek (music+words: Irving Berlin)
10. The Nearness Of You (music: Hoagy Carmichael / words: Ned Washington)
11. April In Paris (music: Vernon Duke / words: Edgar Y. Harburg)

[Links: Ella Fitzgerald]
Ella Fitzgerald Official Website
Ella Fitzgerald, 1917-1996
[Links: Louis Armstrong]
Satchmo.net: The Official Site of the Louis Armstrong House & Archives
Louis Armstrong: Oh, You Dog!
Louis Armstrong (@ The Red Hot Jazz Archive: A Histroy Of Jazz Before 1930)
[Links: Oscar Peterson]
Oscar Peterson: Official Website of the Great Jazz Pianist
Oscar Peterson: A Jazz Sensation (@ Library and Archives Canada
Oscar Peterson Discography Project (@ Jazz Discography Project)
Jazz Giant The Oscar Peterson Discography
[Links: Buddy Rich]
The Official Website of Buddy Rich
The Unofficial Buddy Rich Website

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2005年11月08日

ルイ・アームストロング『この素晴らしき世界』

whatawonderfulworld.jpg Louis Armstrong - What a Wonderful World 

サッチモの歌ものをもう1つ。『この素晴らしき世界』は、今やルイ・アームストロングのトレードマークとなったタイトル曲を含むポップス・アルバムです。

このアルバムの聞きものは、なんといっても〈この素晴らしき世界〉の素晴らしさにつきます。サッチモの死後、ロビン・ウィリアムズ主演の映画『 グッドモーニング・ベトナム 』(1987年、アメリカ)の主題歌としてとりあげられたことで火がつきました。

ルイ・アームストロングの名前は知らなくても、絶対、どこかで聞いたことがあるはずです。聞けば必ず心の中が温かいもので満たされます。2分あまりの短い曲ですが、このなかに喜びも哀しみもみんな詰まっています。何回聞いても、飽きません。保証します!

 

Louis Armstrong "What A Wonderful World"
(ABC-Paramount / Decca GRD-656)

Louis Armstrong (vocal , trumpet)
Joe Wilder, Clark Terry (trumpet) #1, 6
Urbie Green, J.J. Johnson, San Marowitz, Dan Trimboli, Jerome Richardson (trombone) #1, 6
Raymond Stanfeld (baritone sax) #1, 6
Hank Jones (piano) #1, 6
Allen Hanlon, Art Ryerson, Wilard Suyker (guitar) #1, 6
Russell Savakus (bass) #1, 6
Grady Tate (dums) #1, 6
Tomny Goodman (arranger, conductor) with unknown strings and choir #1, 6

Tyree Glenn (trombone) except #1, 6
Joe Muranyi (clarinet) except #1, 6
Marty Napoleon (piano) except #1, 6
Art Ryerson (guitar) except #4, 5, 8, 10
Buddy Catlett (bass) except #1, 6
Danny Barcelona (drums) except #1, 6
Art Butler (conductor) with unknown studio orchestra #3, 7, 9

Produced by Bob Thiele
Originally released 1968 as ABC Records LP
Recordsd by Bob Simpson, Eddie Brackett
Recorded in NYC; August 16, 1967 (#1, 2, 6, 11)
Recorded in Las Vegas, Nevada; July 23 (#4, 5, 8, 10), 24 (#3, 7, 9), 1968

[Tracks] Louis Armstrong - What a Wonderful World
01. What A Wonderful World (music+words: Bob Thiele, George David Weiss)
02. Cabaret (music: John Kander, Fred Ebb)
03. The Home Fire (music: George David Weiss, G. Douglass)
04. Dream A Little Dream Of Me (music: Wilbur Schwandt, Fabian Andre / words: Gus Kahn)
05. Give Me Your Kisses (music: Leonard Whitcup, Bob Thiele)
06. The Sunshine Of Love (music: Leonard Whitcup, C. C. Gierich, G. Douglass)
07. Hello Brother (music: Bob Thiele / words: George David Weiss)
08. There Must Be A Way (music: David Saxon / words: Sammy Gallop)
09. Fantastic, That's You (music: Bob Cates, Bob Thiele, Mort Green)
10. I Guess I'll Get The Papers (And Go Home) (music: Hughie Price, Dick Rogers, Hal Kanner)
11. Hellzapoppin' (music: Marion Grudeff, Raymond Jessel)

[Links: Louis Armstrong]
Satchmo.net: The Official Site of the Louis Armstrong House & Archives
Louis Armstrong: Oh, You Dog!
Louis Armstrong (@ The Red Hot Jazz Archive: A Histroy Of Jazz Before 1930)

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ルイ・アームストロング『サッチモ・シングス・ディズニー』

disneysongs.jpg 

上の子の小学校の振替休日(月曜日)を利用して、いってきました、東京ディズニーランド。ついでに泊まっちゃいました、ディズニーアンバサダーホテル。というわけで、今日はサッチモこと、ルイ・アームストロングの『サッチモ・シングス・ディズニー』でいきましょう(笑)。

ジャズ史上、最初にして最大のイノヴェイターであり、不世出のエンターテイナー、ルイ・アームストロング。1900年7月4日、ルイジアナ州ニューオリンズ生まれ(1901年8月4日生まれ説もあり)。1971年7月6日、ニューヨーク州ニューヨークで死去。

ジャズ・トランペット創始者としてのサッチモの偉大さは、どんなに言葉を尽くしてもたりないくらいですが、私くらいの世代になると、サッチモといえば、例のだみ声がすぐに頭に浮かぶはず。そう、彼の歌声は時を越えて人の心に訴えかける力をもっています。

この作品はサッチモ晩年の録音(死の3年前)ですが、この頃になると、彼はポピュラーな曲を好んで歌いました。火の出るようなトランペット・ソロはもはや望むべくもありませんが、彼の歌には、酸いも甘いもかみ分けてきた者だけがもつおおらかさがあります。安心感があります。全部を許して包み込むような包容力があります。彼がひと声発するだけで、そこにジャズが生まれてしまうほどの圧倒的な存在感。やはり二度と現れないでしょうね、サッチモのような人は。

歌っているのは、ディズニーの名曲集です。『白雪姫』の〈ハイ・ホー〉や『ピノキオ』の〈星に願いを〉、『シンデレラ』の〈ビビディ・バビディ・ブー〉など、昔懐かしいディズニー・ソングがサッチモのだみ声によって、新たな生命を宿します。心温まる作品です。

CD には、サッチモの功績を讃えて制作されたミッキーマウスの像をウォルト・ディズニーがサッチモに手渡す写真が添えられています。アマゾンのカスタマーレビューによると、「Oscar」ならぬ「Mousker」像というそうです。洒落てますね。

 

Louis Armstrong "Disney Songs The Satchmo Way"
(Buena Vista 4044 / Walt Disney 60920-7)

Louis Armstrong (vocal, trumpet)
Clark Terry (trumpet)
Tyree Glenn (trombone)
Joe Muranyi (clarinet)
Marty Napoleon (piano)
Art Ryerson (banjo, guitar)
Buddy Catlett (bass)
Danny Barvelona (drums)
with unknown studio orchestra and choir (in March sessons)

Produced by Tutti Camarata
Arranged by Maxwell Davies
Recorded by Bill Lazerus
Recorded in NYC; February 27 (#2, 7, 9), 1968
Recorded at Sunset Sound Recorder, Hollywood, CA; March 16 (#1, 6, 8, 10), 17 (#3, 4, 5), 1968

[Tracks] 
01. Zip-A-Dee-Doo-Dah (from "Song Of The South") (music: Allie Wrubel / words: Ray Gilbert)
02. Ten Feet Off The Ground (from "The One And Only, Gemine, Original Family Band") (music: Richard M. Sherman, Robert B. Sherman)
03. Heigh-Ho (The Dwarfs' Marching Song) (from "Snow White And The Seven Dwarfs") (music: Frank Churchill / words: Larry Morey)
04. Whistle While You Work (from "Snow White And The Seven Dwarfs") (music: Frank Churchill / words: Larry Morey)
05. Chim Chim Cher-Ee (from "Mary Poppins") (music: Richard M. Sherman, Robert B. Sherman)
06. Bibbidi-Bobbidi-Boo (from "Cinderella") (music: Mack David, Al Hoffman / words: Jerry Livingston)
07. 'Bout Time (from "The One And Only, Genuine, Original Family Band") (music: Richard M. Sherman, Robert B. Sherman)
08. The Ballad Of Davy Crockett (from "Davy Crockett") (music: George Bruns / words: Tom Blackburn)
09. The Bare Necessities (from "The Jungle Book") (music: Terry Gilkyson)
10. When You Wish Upon A Star (ftom "Pinocchio") (music: Leigh Harline / words: Ned Washington)

[Links: Louis Armstrong]
Satchmo.net: The Official Site of the Louis Armstrong House & Archives
Louis Armstrong: Oh, You Dog!
Louis Armstrong (@ The Red Hot Jazz Archive: A Histroy Of Jazz Before 1930)
[Links: Clark Terry]
Clark Terry (Official Website)

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2005年11月05日

ディジー・ガレスピー『ガレスピアーナ』

gillespiana.jpg

ガレスピーのビッグバンドものを、もう1つ。1960年録音の『ガレスピアーナ』は、今や、押しも押されぬ TV・映画音楽の巨匠となったラロ・シフリンが作編曲、ピアノを担当した作品です。

ラロ・シフリン。本名は、Boris Claudio Schifrin。1932年6月21日、アルゼンチンのブエノス・アイレス生まれ。

TV シリーズの『スパイ大作戦』(1966〜1973年)をはじめ、映画『ダーティハリー』(1971年)、『燃えよドラゴン』(1973年)、『ミッション:インポッシブル』(1996年)、『M:I-2』(2000年)などですっかりおなじみの、あのエキゾチック・サウンド。聞いているだけでムズムズしてくるような、あのノリは、彼がタンゴの国、アルゼンチン生まれなことと無関係ではないはずです。

ジャズ関連でいうと、ジミー・スミスの『ザ・キャット』が有名ですね。あのド派手なオーケストラを仕切っていたのがシフリンです(録音は1964年だから、あっちのほうが後ですが)。

ただでさえ迫力満点のガレスピー・バンドをラロ・シフリンの手にゆだねると、どうなるか。そりゃ、成功間違いなしです。キレ味するどいアレンジに乗って、ガレスピーが飛翔します。重低音のブラス・セクションも吠えまくります。もう、ちょーカッコイイっす!

ちなみに、アルゼンチンにいたシフリンをニューヨークに呼び寄せたのは、他ならぬガレスピーです。ガレスピーは米国親善使節として何度か海外ツアーを敢行していますが、彼が南米に赴いたとき(1956年)、ブエノス・アイレスでシフリンの曲を聞いて気に入り、去り際にさっそくシフリンに作曲を頼んだといいます。以来、数年を経てできあがったのが、このアルバムというわけです。

 

Dizzy Gillespie "Gillespiana"
(Verve MGV 8394)

Dizzy Gillespie, John Frosk, Ernie Royal, Clark Terry, Joe Wilder (trumpet)
Urbie Green, Frank Rehak, Britt Woodman (trombone)
Paul Faulise (valve trombone)
Gunther Schuller, Julius Watkins (French horn)
James Buffington, Al Richman (French horn) #1-3
William Lister, Morris Scott (French horn) #4, 5
Don Butterfield (tuba)
Leo Wright (alto sax, flute)
Lalo Schifrin (piano, arrangement)
Art Davis (bass)
Chuck Lampkin (drums)
Jack Del Rio (bongo)
Candido Camero (conga)
Willie Rodriguez (timbal)

Produced by Norman Granz
Recorded in NYC; November 14-15 (#1-3), 16 (#4, 5), 1960

[Tracks] 
01. Prelude (music: Lalo Schifrin)
02. Blues (music: Lalo Schifrin)
03. Panamerica (music: Lalo Schifrin)
04. Africana (music: Lalo Schifrin)
05. Toccata (music: Lalo Schifrin)

[Links: Dizzy Gillespie]
Dizzy Gillespie Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Lalo Schifrin]
the official website of Lalo Schifrin

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2005年11月04日

『ディジー・ガレスピー・アット・ニューポート』

atnewport.jpg

ジャズ界きってのエンターテイナー、ディジー・ガレスピー。歌ってよし、しゃべってよし、そしてもちろんペットの腕も超一流、という三拍子そろった真のジャイアンツなのに、どこか低く見られてしまうのは、過剰なサービス精神のせいでしょうか。

ディジー・ガレスピー(本名、John Birks Gillespie)。1917年10月21日、サウス・カロライナ州シェロー生まれ。1993年1月6日、ニュージャージー州イングルウッドで死去。

お祭り男ディジー・ガレスピーを聞くなら、にぎやかで豪快なビッグバンドがいちばん。というわけで、彼が率いた第3次ビッグバンドから『ディジー・ガレスピー・アット・ニューポート』の登場です。

1954年に興行師ジョージ・ウィーンの肝いりではじまった野外フェスの原点、ニューポート・ジャズ・フェスティバル。現在は、冠スポンサーに JVC を迎え、JVC Jazz Festival と名を変えて、世界各国で開催されていますが、発祥の地は、アメリカ北東部のロード・アイランド州ニューポート。映画『真夏の夜のジャズ』に出てくる、あの港町です。

ガレスピーのビッグバンドは、1957年の第4回ニューポート・ジャズ・フェスティバルに出演します(ちなみに、『真夏の夜のジャズ』はこの翌年、第5回のフェスティバルの模様を収録したドキュメント映画です)。

メンバーがまたすごい。神童リー・モーガンにベニー・ゴルソン、ウィントン・ケリー、アレンジャーとしてクインシー・ジョーンズも関わっています。でも、いちばんすごいのは、燃え盛る炎のようなディジーのトランペットです。この音を前にしたら、どんなトランぺッターも霞んでしまう。

マイルスは、ディジーのあまりのハジケっぷりに恐れをなして、同じ路線をねらっても絶対勝てないと悟り、リリカルなミュート路線へと進んだという説がありますが(笑)、さもありなんと思わせる迫力のサウンドです。やっぱりディジーのペットは天下一品です!

1曲目。自身の名前を冠した〈ディジーズ・ブルース〉。のっけから豪快なビッグバンド・サウンドが炸裂します。このエキサイティングな分厚いサウンドは、ビッグバンドにしか出せません。これが聞きたくて、ついつい手にとってしまうんです。

圧巻なのは、2曲目〈スクール・デイズ〉。ガレスピーの歌も笑えますが、続いて登場するビリー・ミッチェルのソロがこれまたすごい。同じ音を続けざまにヒットして、ホンカーぶりをこれでもかと見せつけます。聴衆の盛り上がりも尋常じゃありません。こういうのは、やったもん勝ちです。こむずかしい理屈なんてほっといて、とにかくみんなで盛り上がる。だって、ノリノリですもん。血がたぎります、マジで。

アマゾンのカスタマーレビューに「ビッグバンド苦手意識を払拭してくれた感謝の1枚」というコメントが載っていますが、まったく同感です。私もこの作品によってはじめてビッグバンドの楽しさがわかりました。

ビッグバンドがわからないと、エリントンもベイシーも楽しめない。チャールズ・ミンガスもカーラ・ブレイも楽しめない。こりゃ、どえらい損失です。「ビッグバンドはちょっと、、、」という人にこそ聞いてほしい、ビッグバンド入門の決定版です!

 

"Dizzy Gillespie At Newport"
(Verve MGV 8242)

Dizzy Gillespie (trumpet, vocal)
Lee Morgan, Ermit Perry, Carl Warwick, Talib Dawud (trumpet)
Melba Liston, Al Grey, Chuck Connors (trombone)
Ernie Henry, Jimmy Powell (alto sax)
Billy Mitchell, Benny Golson (tenor sax)
Pee Wee Moore (baritone sax)
Wynton Kelly (piano) except #7, 8
Mary Lou Williams (piano) #7, 8
Paul West (bass)
Charlie Persip (drums)

Recorded at Freebody Park, Newport, Rhode Island; July 6, 1957

[Tracks] 
01. Dizzy's Blues (music: Dizzy Gillespie) (arr. A.K. Salim)
02. School Days (music: Gus Edwards / words: Will D. Cobb) (arr. Quincy Jones)
03. Doodlin' (music: Horace Silver) (arr. Ernie Wilkins)
04. Manteca (music: Dizzy Gillespie, Chano Pozo) (arr. Dizzy Gillespie)
05. I Remember Clifford (music: Benny Golson) (arr. Benny Golson)
06. Cool Breeze (music: Tadd Dameron, Billy Ekstein) (arr. Tadd Dameron)

[Links: Dizzy Gillespie]
Dizzy Gillespie Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Lee Morgan]
The Lee Morgan Discography (by Masaya MATSUMURA)
Lee Morgan Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Benny Golson]
Benny Golson's Official Website
[Links: Wynton Kelly]
Wynton Kelly: a discography with cover photos (by Atushi acchan Ueda)
Wynton Kelly Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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2005年11月03日

エド・シグペン『アウト・オブ・ザ・ストーム』

outofthestorm.jpg

ヴァーヴ時代のピーターソン・トリオ(黄金のトリオ)を支えた実力派ドラマー、エド・シグペン。本名、Edmund Leonard Thigpen。1930年12月28日、イリノイ州シカゴ生まれの LA 育ち。

この『アウト・オブ・ザ・ストーム』は、ピーターソンのもとを辞したシグペンの初リーダー作です。

シグペンに、ハービー・ハンコックとロン・カーターとは(録音当時はマイルス・クインテットに参加していた)、これまた異色の組み合わせと思ったら、それもそのはず、クラーク・テリーとケニー・バレルはシグペンのチョイス、ハンコックとカーターはプロデューサーのクリード・テイラーが連れてきたと、邦盤ライナー(大村幸則さん)にあります。

さて、このアルバムには、おいしいところがたくさんあります。ピーターソンのトリオでは影に隠れがちだったシグペンの妙技をとことんまで味わえる。ドラムって、こんなにカラフルな楽器だっけと新たな発見があります。これが1つ。

もう1つは、ケニー・バレル。この人はいつ聞いても安心できる。「いいなあ、ジャズって」と心から感じさせてくれる希有なギタリストです。大好き!

でも、いちばんおいしいのは、クラーク・テリーです。私はこのアルバムの〈アウト・オブ・ザ・ストーム〉を聞いて、彼のすごさを実感しました。吹き荒れる嵐がおさまり、そこに一筋の光が差し込む。テリーの情感たっぷりのラッパが響き渡ります。古さと新しさの奇妙な同居。ビッグバンドのビッグなサウンドの中でもまれてきたテリーならではの自己表現。しびれます、マジで。

5曲目〈エルボウ・アンド・マウス〉。妙なタイトルですが、アフリカのリズムがジワジワと効いてきます。テリーのラッパ、よく鳴っています。迫力です。シグペンもすごい! 何人もパーカッション部隊がいるかのような演奏です。



Ed Thigpen "Out Of The Storm"
(Verve V/V6 8663)

Clark Terry (trumpet)
Herbie Hancock (piano)
Kenny Burrell (guitar)
Ron Carter (bass)
Ed Thigpen (drums)

Produced by Creed Tayler
Recorded by Rudy Van Gelder
Recorded at the Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ; April 18-20, 1966

[Tracks]
01. Cielito Lindo (traditional)
02. Cloud Break (Up Blues) (music: Ed Thigpen)
03. Out Of The Storm (music: Ed Thigpen)
04. Harper (From The Motion Picture "Harper") (music: Johnny Mandel)
05. Elbow And Mouth (music: Kenny Burrell)
06. Heritage (music: Ed Thigpen)
07. Struttin' With Some Barbecue (traditioal)

[Links: Clark Terry]
Clark Terry (Official Website)
[Links: Herbie Hancock]
Herbie Hancock (Official Website)
Herbie Hancock Discography (by Christian Genzel)
[Links: Kenny Burrell]
Kenny Burrell Collection (by Furuike Akira)
[Links: Ron Carter]
Ron Carter (Official Website)
[Links: Ed Thigpen]
Ed Thigpen Online (Official Website)

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2005年11月02日

『オスカー・ピーターソン・トリオ+1:クラーク・テリー』

oscarpeterson+1.jpg The Oscar Peterson Trio & Clark Terry - Oscar Petereson Trio + 1

トランペット奏者には、どういうわけか歌も得意とする人が多いようで、ジャズ・トランペットの開祖ルイ・アームストロングはいうに及ばず、ディジー・ガレスピーに、チェット・ベイカー、最近ではティル・ブレナーなんてのもいますね。それぞれ独特の味わいがあって好きですが、なかでも変わり種が今日紹介するクラーク・テリーです。1920年12月14日、ミズーリ州セントルイスの生まれです。

ベイシー楽団とエリントン楽団という2大ビッグバンドを渡り歩いた実力の持ち主ですが、偉ぶったところは全然なくて、むしろ親しみやすい下町のおじさんです(笑)。

オスカー・ピーターソン・トリオ+1:クラーク・テリー』 は、テリーのへなちょこヴォーカルが聞ける盤として有名です。歌っているのは、〈マンブルス〉と〈インコーヒレント・ブルース〉の2曲ですが、「インコーヒレント=支離滅裂な、でたらめな」という曲名からもわかるように、言葉にならない、めちゃめちゃなスキャットで歌いまくります。これが、サイコーにおもろい! スタジオの笑い声が聞こえてきそうな雰囲気に、聞いている私の頬も思わず緩みます。

テリーのラッパも、彼の声に負けず劣らず楽しい。シリアスなところは、まったくありません(笑)。ただひたすらハッピー、ハッピー。陽気なおじさんたちのゴキゲンな演奏です。

ピーターソンも、いつもよりもリラックスしているようです。リーダーでグイグイ引っ張るピーターソンの存在感も好きですが、バックにまわったときの彼は、やっぱりいいですね。ノーマン・グランツがピーターソンを使い続けた理由がわかります。

 

"Oscar Peterson Trio + One: Clark Terry"
(Mercury MG 20975 / SR 60975)

Clark Terry (trumpet, flugelhorn, vocal)
Oscar Peterson (piano)
Ray Brown (bass)
Ed Thigpen (drums)

Recorded in NYC; August 17, 1964

[Tracks] The Oscar Peterson Trio & Clark Terry - Oscar Petereson Trio + 1
01. Brotherhood Of Man (music+words: Frank Loesser)
02. Jim (music: Caesar Petrillo, Milton Samuels, Nelson Shawn)
03. Blues For Smedley (music: Oscar Peterson)
04. Roundalay (music: Oscar Peterson)
05. Mumbles (music: Clark Terry)
06. Mack The Knife (music: Kurt Weill / words: Bertolt Brecht, Marc Blitzstein)
07. They Didn't Believe Me (music: Jerome Kern / words: Herbert Reynolds)
08. Squeaky's Blues (music: Oscar Peterson)
09. I Want A Little Girl (music: Murray Mencher, Billy Moll)
10. Incoherent Blues (music: Clark Terry)

[Links: Clark Terry]
Clark Terry (Official Website)
[Links: Oscar Peterson]
Oscar Peterson: Official Web Site
Oscar Peterson: A Jazz Sensation
Oscar Peterson Discography Project (@ Jazz Discography Project)
Jazz Giant: The Oscar Peterson Discography
[Links: Ed Thigpen]
Ed Thigpen Online (Official Website)

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2005年11月01日

チェット・ベイカー『チェット・ベイカー・シングス』

chetbakersings2.jpg Chet Baker - Chet Baker Sings

チェット・ベイカー・シングス』。チェット・ベイカーの歌は耳にまとわりつきます。声量はないし、耳目をそばだてるような技巧があるわけでもない。ひっそりとささやくように歌うだけなのですが、それが妙に心にひっかかる。じんわりと効いてくるんですね。

たとえば、チェットの十八番〈マイ・ファニー・ヴァレンタイン〉。彼はミュージシャン人生を通じてこの曲を歌い続けましたが、男だか女だかよくわからない声でささやかれると、もうダメです。心がザワザワと粟立ってきます。私は男好きではありませんが、これはキテます。こんな声で言い寄られたら、断れないかもしれません(笑)。ホントに耳元で歌っているんじゃないかと錯覚するくらいのこの親密な雰囲気は、いったいどこからくるのでしょうか。

ミュートをつけないチェットのペットは、彼の歌声と驚くほどマッチしています。注意して聞かないと、入れ替わったのに気づかないくらいです。かすれた音色で、やさしく、色っぽく迫ります。

ところで、ジャケットが2種類あるのは、どうしてでしょう? ディスコグラフィーによると、『チェット・ベイカー・シングス』は2回発売されていて(World Pacific PJ 1222 と World Pacific WP 1826。パシフィック・ジャズは一時期ワールド・パシフィックと名乗っていた。アルバム・リストはこちら)、それぞれ微妙に収録曲が違うようなので、もしかしたら、それぞれの元ジャケットなのかもしれません(情報求む)

後日談:
上で(情報求む)と書いたところ、and i am dumb のクマキチさんが詳細なコメントを寄せてくれました。気になる方は下をクリックして、コメントを読んでください。クマキチさん、本当にありがとうございます!

 

"Chet Baker Sings"
(Pacific Jazz PJ 1222)

Chet Baker (vocal, trumpet)
Russ Freeman (piano, celeste)
James Bond (bass) #1-6
Carson Smith (bass) #7-14
Peter Littman (drums) #1, 2, 5
Lawrence Marable (drums) #3, 4, 6
Bob Neal (drums) #7-14

Produced by Richard Bock
Recorded at Capitol Studios, LA; February 15, 1954 (#7-14)
Recorded at the Forum Theatre, LA; July 23 (#1, 2, 5), 30 (#3, 4, 6) 1956

[Tracks] Chet Baker - Chet Baker Sings
01. That Old Feeling (music: Sammy Fain / words: Lew Brown)
02. It's Always You (music: Jimmy Van Heusen / words: Johnny Burke)
03. Like Someone In Love (music: Jimmy Van Heusen / words: Johnny Burke)
04. My Ideal (music: Richard A. Whiting, Newell Chase / words: Leo Robin)
05. I've Never Been In Love Before (music+words: Frank Loesser)
06. My Buddy (music: Walter Donaldson / words: Gus Kahn)
07. But Not For Me (music: George Gershwin / words: Ira Gershwin)
08. Time After Time (music: Jule Styne / words: Sammy Cahn)
09. I Get Along Without You Very Well (music: Hoagy Carmichael / words: Jane Brown Thompson)
10. My Funny Valentine (music: Richard Rodgers / words: Lorenz Hart)
11. There'll Never Be Another You (music: Harry Warren / words: Mack Gordon)
12. The Thrill Is Gone (music: Ray Henderson / words: Lew Brown)
13. I Fall In Love Too Easily (music: Jule Styne / words: Sammy)
14. Look For The Silver Lining (music: Jerome Kern / words: Buddy G. DeSylva)

[Links: Chet Baker]
Chet Baker Lost And Found
Jazz Wereld & Chet Baker (by Rene Leemans)
Chet Baker Tribute
Chet Baker Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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