2005年10月30日

『カルテット:ラス・フリーマン&チェット・ベイカー』

quartetchetbaker.jpg

黒人優勢のジャズ・トランペット界において、一人気を吐いた白人トランぺッター、チェット・ベイカー(本名は、Chesney Henry Baker Jr.)。1929年12月23日、オクラホマ州イェール生まれ。1988年5月13日、オランダ・アムステルダムにてホテルの窓から転落死。

チェット・ベイカーといえば、その甘いマスクとヘタウマなヴォーカルで知られていますが、トランペットを操る技術も一流だということを証明したのが、『チェット・ベイカー=ラス・フリーマン・カルテット』です。

チェットの歌声はよく「中性的なヴォーカル」といわれますが、彼の吹くミュート・トランペットの音は、意外なほどマッシヴです(ペットの花の部分にお椀をかぶせるヤツです。音が針のように細く、鋭利になります。マイルスがミュートをつけて独特の世界を築き上げたことは有名です)。私はふだん iPod でジャズを聞いていますが、この『カルテット』は、ほかのアルバムよりボリュームを下げないと脳天にチリチリ響いて、耳が痛くなります。

1曲目〈ラヴ・ネスト〉。愛の巣ですね。でも、この愛の巣はカラッとしていて、開けっぴろげです(笑)。チェットのミュートは非常によく鳴っています。ちょっと鳴りすぎかもしれない。ピアノのラス・フリーマンはちょっとクセのある人で、独特の陰影がありますが、ここでの演奏は小気味いい。ミスター・ウォーキング・ベース、リロイ・ヴィネガーも好調です。

2曲目、ラス・フリーマンのオリジナル〈ファン・タン〉。そうそう、このイントロこそ、ラス・フリーマンらしい。微妙な音使いが、下手をすると耳障りになりそうなギリギリのラインでとどまっている感じ。陽気な西海岸にあるまじき、陰鬱な響きです。

続く〈夏のスケッチ〉も、暗いですねえ。カリフォルニアの夏のまぶしさではなく、灰色の夏の夕暮れ。カラフルな海辺のパラソルとは違って、墨絵のような味わいです。このアルバムは、2曲を除いてラス・フリーマンの曲で固められているので、実質的なリーダーは彼なのでしょう。清く正しいウエスト・コーストのイメージを裏切る重苦しさ。でも、そこにからむチェットのペットがまた格別にいいんです。

ラス・フリーマンの個性を知るには、ストレイホーンの名曲〈ラッシュ・ライフ〉をどうぞ。モンクやマルが原曲を解体していくようなスリルが味わえます。これを楽しめるかどうか。チェット・ベイカーのワン・ホーン作品だからといって、うかつに手を出すと完全に裏切られます。実はかなりハードな作品なんです、この『カルテット』は。

 

"Quatet: Russ Freeman And Chet Baker"
(Pacific Jazz 1232)

Chet Baker (trumpet)
Russ Freeman (piano)
Leroy Vinnegar (bass)
Shelly Manne (drums)

Produced by Richard Bock
Recorded in LA; November 6, 1956

[Tracks]
01. Love Nest (music: Lewis A. Hirsch / words: Otto Harbach)
02. Fan Tan (music: Russ Freeman)
03. Summer Sketch (music: Russ Freeman)
04. An Afternoon At Home (music: Russ Freeman)
05. Say When (music: Russ Freeman)
06. Lush Life (music: Billy Strayhorn)
07. Amblin' (music: Russ Freeman)
08. Hugo Hurwhey (music: Russ Freeman)

[Links: Chet Baker]
Chet Baker Lost And Found
Jazz Wereld & Chet Baker (by Rene Leemans)
Chet Baker Tribute
Chet Baker Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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2005年10月28日

リー・モーガン『キャンディ』

candy.jpg Lee Morgan - Candy

トランペットのワン・ホーン作品、まだまだいきます。永遠のやんちゃ坊主、リー・モーガンの登場です。本名は、エドワード・リー・モーガン(Edward Lee Morgan)。1938年7月10日、ペンシルヴァニア州フィラデルフィア生まれ。1972年2月19日、ニューヨーク州ニューヨークで射殺されました。

いかにもアメリカを思わせる極彩色の瓶詰めキャンディをあえてモノクロにして(単なる予算の関係でしょうが)、そこにとぼけた顔のモーガンの写真をあしらった『キャンディ』。デビュー1周年にして、早くも通算7枚目のリーダー作、しかも生涯唯一のワン・ホーン作品となっています。

リー・モーガンのトランペットは、キレがいい。音の輪郭がクッキリしていて、いかにも金管楽器の音がします。こういう音色は、高速でアグレッシヴな曲を演るときは有利ですが、ミディアムからスロー・テンポの曲を吹くときは、ごまかしが効かない分、実はむずかしいんじゃないかと感じています。

たとえばアート・ファーマーは、音がまわりの空気にじんわりと浸透して、「磁場」のようなものを形作るので、1つの音から受ける情報量が多い気がします。聞こえていないはずの音が聞こえるというか、微妙なヒダまで(勝手に)感じ取ってしまうというか。だから、ファーマーのような雰囲気で聞かせるペット奏者は、スロー・バラッドにめっぽう強い。

それに対して、モーガンのトランペットは1音1音がはっきり分離していて聞き取りやすいので、誰と共演しても目立ちます。パーティに欠かせない盛り上げ役で、何しろ「華」がある。めちゃくちゃカッコイイわけです。だから、彼がゆったりとした曲を演奏しても、「場」や「雰囲気」といったあいまいなものではなく、音そのもの、音の連なり、メロディーに耳がいきます。これはある意味、辛いわけです。なんとなくお茶を濁すなんてことはできなくて、音楽そのもので勝負しなくちゃ、聞く人は満足できないからです。

ワン・ホーン・カルテットというのは、そういう意味で、ごまかしの効かない怖いフォーマットでもあります。で、結果はどう出たか。リー・モーガンは見事に勝利しました。どの曲にも真正面から取り組んで、完全に自分のものにしています。選曲は渋いですが、演奏は渋くならないモーガンの、非常にいい面が出た傑作となっています。彼が「早熟の天才」と呼ばれたのには、ちゃんと理由があったんですね(なにしろ、この録音当時、まだ若干19歳なのですから!)。

選曲は、ジミー・ヒースの〈C.T.A.〉を除いて、歌ものからのセレクションなんですが、渋いですねえ。インスト物ではほとんど聞かないナンバーばかりです。でも、だから、〈キャンディ〉といえばリー・モーガン、ということになったのかもしれませんね。この愛くるしい曲は、リー少年(笑)にしか吹きこなせません。

ほかには、ナット・キング・コールが甘い歌声で迫る『アフター・ミッドナイト』のボーナス・トラックと、ゲッツやマリガン、ハリー・スウィーツ・エディソンらがジャムった『ジャズ・ジャイアンツ '58』というアルバムがありますが、やっぱりモーガンのほうが、一枚も二枚も上手です。

シナトラ主演の映画『抱擁(The Joker Is Wild)』の主題歌〈オール・ザ・ウェイ〉は、同じ年(1957年)のアカデミー主題歌賞をとっていますが(こちらのサイトから Legacy → Past Winners と進めば、過去の受賞者などを検索できます)、これもインストで演奏されることはめったにありません。ハービー・ニコルズ(『ラヴ・グルーム・キャッシュ・ラヴ』に収録)に、マル・ウォルドロン(『インプレッションズ』に収録)とくれば、かなりクセのある人たちですから、モーガンの演奏を聞いてからこれらのアルバムを聞くと、彼らがいかにユニークな存在か、わかる仕組みになっています(マルなんて、原曲がほとんど認識できないくらいです。スゴイ!)。

 

Lee Morgan "Candy"
(Blue Note BLP 1590)

Lee Morgan (trumpet)
Sonny Clark (piano)
Doug Watkins (bass)
Art Taylor (drums)

Produced by Alfred Lion
Recorded by Rudy Van Gelder
Recorded at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ; November 18, 1957, February 2, 1958

[Tracks] Lee Morgan - Candy
01. Candy (music: Mack David, Joan Whitney, Alex Kramer)
02. Since I Fell For You (music: Buddy W. Johnson)
03. C.T.A. (music: Jimmy Heath)
04. All The Way (music: Jimmy Van Heusen / words: Sammy Cahn)
05. Who Do You Love I Hope (music+words: Irving Berlin)
06. Personality (music: Jimmy Van Heusen / words: Johnny Burke)

[Links: Lee Morgan]
The Lee Morgan Discography (by Masaya MATSUMURA)
Lee Morgan Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Sonny Clark]
SONNY CLARK: a discography with cover photos (by Atushi acchan Ueda)
Sonny Clark (by Lee Bloom, Michael Waters)
Sonny Clark Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Doug Watkins]
Doug Watkins Discography (by Vincent Bessieres)

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2005年10月26日

ジェリー・マリガン『ナイト・ライツ』

nightlights.jpg Gerry Mulligan Sextet - Night Lights

裏渋谷の名店 Lo-d は、私の高校時代の友人がオーナーをしている洒落たバーですが、今度、お店に無線 LAN を導入したというので、さっそく愛用の iMac を抱えて遊びに来てみました。勘のいい方ならお気づきのように、この投稿は、ナント、お店からしています。ライヴです。FREESPOT というらしいのですが、世の中便利になったものです。

さて、アート・ファーマー&ジム・ホールとくれば、忘れられないアルバムがあります。ジェリー・マリガンの『ナイト・ライツ』です。バリトンのマリガンに、トロンボーンのブルックマイヤー、それにファーマーとホールときたら、もうこれは聞くしかありません。

さあ、お店にお願いしてみましょう。レコードがターンテーブルにのりました。今、かかりました。1曲目〈ナイト・ライツ〉。いいですねえ。珍しくピアノを弾くマリガン。訥々とした語り口がかえって味わい深いです。耳元でささやくような、やさしいファーマーのラッパも絶品です。でも、この曲の雰囲気をつくっているのは、やっぱりジム・ホール。ポロンポロンとかき鳴らす甘いギターの音色にうっとりです(笑)。

2曲目。これも美旋律の〈カーニバルの朝〉。映画『黒いオルフェ』から生まれたボッサの名曲です。実は、ボサノバの中でいちばん好きな曲かもしれない。ジム・ホールと組んだポール・デスモンドも演ってましたね。

レコードを追いながらの執筆なので、次から次へと忙しいです(笑)。3曲目、〈イン・ザ・ウィー・スモール・アワーズ〉が流れてきました。シナトラの名唱でも有名ですね(キャピトルから同名盤が出ています)。

続いてB面です。アナログをもたない私には、ひっくり返す作業も奥ゆかしいです。B面の冒頭を飾るのは、いよいよ、お待ちかね、キラー・チューン〈プレリュード・イン・E・マイナー〉の登場です(プレリュード・ホ短調ともいいます)。ショパンの曲をアレンジした、というよりも、亡き故油井正一さんが、FMラジオでホストをつとめた「アスペクト・イン・ジャズ」というプログラムのテーマ曲、といったほうが、ピンとくる人も多いのでしょうか。残念ながら、私はこの番組を聞いたことがないのですが、さすが油井さん、この曲をテーマにもってくるなんて、サイコーです。すごいセンスです。私も大好きです。

あれよあれよという間に、5曲目〈フェスティバル・マイナー〉です。マリガンのオリジナルですが、これもいいですねえ。ソフィスティケートされた大人のための室内楽。

そして、トリをつとめるのは、これまたマリガンのオリジナル〈テル・ミー・ホエン〉。ずらりと並んだ珠玉の名曲を締めくくる素朴な味わいの一品です。眠くなります。気持ちいいです。この曲を聞きながら眠ると、いい夢が見られます。きっと。

ああ、終わってしまいました。終わってしまうことがこんなに「もったいない」アルバムって、そうはありません。以上、実況中継でした(笑)。

追記:
お店で曲を聞きながら書くというのは、忙しい。でも、なんか楽しい体験でした。ライヴはやっぱり気合いが入ります。バーで無線入れているお店なんて、ほかにはないと思うので、渋谷にお越しの際は、みなさんもぜひセルリアンタワーの裏まで足をのばしてくださいな。マスターも待っています(笑)。

 

Gerry Mulligan "Night Lights"
(Philips PHM 200-108)

Art Farmer (trumpet, flugelhorn)
Bob Brookmeyer (trombone)
Gerry Mulligan (baritone sax, piano #1)
Jim Hall (guitar)
Bill Crow (bass)
Dave Baily (drums)

Recorded at Nola Penthouse Studios, NYC; October 3, 1963

[Tracks] Gerry Mulligan Sextet - Night Lights
01. Night Lights (music: Gerry Mulligan)
02. Manha De Carnaval [Morning Of The Carnival] (aka. Black Orpheus) (music: Luiz Bonfa / words: Antonio Moraes)
03. In The Wee Small Hours Of The Morning (music: David Mann / words: Bob Hilliard)
04. Prelude In E Minor (music: Frederic Chopin)
05. Festival Minor (music: Gerry Mulligan)
06. Tell Me When (music: Gerry Mulligan)

[Links: Gerry Mulligan]
Gerry Mulligan.info: The Life of Great Jazz Musician (by Craig Allan Hanley)
The Gerry Mulligan Home Page (by Jeff Sackmann)
The Gerry Mulligan Collection (@ the Library of Congress)
Mulligun Publishing Co., Inc.
[Links: Bob Brookmeyer]
The Official Site Of Bob Brookmeyer
[Links: Jim Hall]
Jim Hall: The Official Website (by ArtistShare)
Jim Hall Maniacs (by 益満妙:エキマンタエ)
ジム・ホール アルバム蒐集 (by kawagu)

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posted by ユキヒロ at 20:53| Comment(2) | TrackBack(2) | Philips | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

アート・ファーマー『スウェーデンに愛をこめて』

toswedenwithlove.jpg 

引き続き、アート・ファーマーのワン・ホーン・アルバムを。といっても、今回はギター入りのカルテット作品です。その名も、『スウェーデンに愛をこめて』。ファーマーと同じく、ソフトなトーンにいぶし銀の技が光るギタリスト、ジム・ホールとコンビを組んで、スウェーデンの民謡を演奏しています。

派手さはないけれど、好きなアルバムを並べてみると、そこにジム・ホールの名前がしょっちゅう出てくきます。エヴァンスの『アンダーカレント』でしょ、ハンプトン・ホーズの『オールナイト・セッション』でしょ、ジョン・ルイスの『グランド・エンカウンター』でしょ、ポール・デスモンドの『テイク・テン』なわけです。こうして並べてみると、なにやらある「音」が聞こえてきそうです。

まさに「ひっそり」といるんだけれど、参加したアルバムには確実に自分の息吹を吹き込むことができるプレイヤー、それがジム・ホールです。本名は、ジャイムズ・スタンリー・ホール (James Stanley Hall)。1930年12月4日、ニューヨーク州バッファロー生まれ。いまだ現役です。

ジャズテットの運営に失敗したファーマーは、同じく控えめな個性の持ち主、ジム・ホールを迎えて、アトランティックに何枚かのアルバムを残します。なかでもこのアルバムは、哀愁漂うスウェーデン民謡集とあって、日本人には人気があるようです。だって、〈ディア・オールド・ストックホルム〉の国ですからね。いい曲がそろっているんですよ。

私のもっている邦盤ライナー(柳沢てつやさんが書いています)によると、この2人、実は相性がよくなかったらしく、来日中はつねに別行動で、仲の悪さを見せつけていたとあります。2人とも、演奏を聞くかぎり穏やかな人に見える(聞こえる)し、こんなに息もぴったりのインタープレイをくり広げているのに。わからないものですね。仕事と個人的な感情は別、ということなのでしょうか。

 

Art Farmer "To Sweden With Love"
(Atlantic SD 1430)

Art Farmer (flugelhorn)
Jim Hall (guitar)
Steve Swallow (bass)
Pete LaRoca (druns)

Produced by Anders Burman
Recorded by Rune Persson
Recorded in Stockholm; April 28 (#1-3), 30 (#4-6), 1964

[Tracks] 
01. Va Da Du? [Was It You?] (traditional; arr. Art Farmer)
02. De Salde Sina Hemman [They Sold Their Homestead] (traditional; arr. Art Farmer)
03. Den Motstravige Brudgummen [The Reluctant Groom] (traditional; arr. Art Farmer)
04. Och Hor Du Unga Dora [And Listen Young Dara] (traditional; arr. Art Farmer)
05. Kristallen Den Fina [The Fine Crystal] (traditional; arr. Art Farmer)
06. Visa Vid Midsommartid [Midsummer Song] (music: Hakan Norlen, Bune Lindstorm)

[Links: Jim Hall]
Jim Hall: The Official Website (by ArtistShare)
Jim Hall Maniacs (by 益満妙:エキマンタエ)
ジム・ホール アルバム蒐集 (by kawagu)
[Links: Steve Swallow]
Steve Swallow (@ Spiral Qvest)
[Links: Pete LaRoca]
Pete LaRoca Sims Discography (by Michael Fitzgerald)

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2005年10月25日

アート・ファーマー『アート』

art.jpg

トランペットのワン・ホーン・カルテット、まだまだ続きます。今回は、かすれ気味の丸みをおびたサウンドが耳に心地よいアート・ファーマーの代表作『アート』といきましょう。本名は、アーサー・スチュワート・ファーマー。1928年8月21日、アイオワ州カウンシル・グラフ生まれ。1999年10月4日、ニューヨーク州ニューヨークで亡くなりました。

ファーマーというと、すぐにあのゴツゴツした顔が浮かびますが、いかつい容貌とは裏腹に、彼の出す音は実にやさしい。トランペット特有の耳をつんざくようなアタック感ではなく、疲れた心にスーッとしみこむような、ほのかなあたたかさを感じます。彼はこの録音の直後あたりからフリューゲル・ホーンを手にしますが、これは大正解。音に丸みが出て、ファーマー流「癒しのサウンド」が完成します。

私の大好きなケイコ・リーの『ビューティフル・ラヴ』には、晩年のファーマーが参加しています。ここで聞かれる彼のトランペットは、まさに至芸です。ホント、涙があふれます。

この作品は1960年9月の録音ですが、この時期、ファーマーはベニー・ゴルソンとともに「ジャズテット」を率いていました。この作品にも、ジャズテットからベースとドラムが参加しています。

60年2月録音の彼らのデビュー盤『ミート・ザ・ジャズテット』のメンバーは、カーティス・フラー (tb)、マッコイ・タイナー (p)、アディソン・ファーマー (b)、レックス・ハンフリーズ (ds) でしたが、ファーマー&ゴルソン以外はすぐにメンバー交代があったようで、トム・マッキントッシュ (tb)、シダー・ウォルトン (p)、トミー・ウィリアムス (b)、アルバート・ヒース (ds) が固定メンバーでした。

気心の知れたジャズテットのベース&ドラムにこの手のワン・ホーン作品にはうってつけのトミフラを招いて、リラックスしてのぞんだバラード・セッション。悪かろうはずがありません。

お気に入りのトラックは、2曲目の〈グッバイ・オールド・ガール〉。1958年の映画『くたばれ! ヤンキース』(原題は Damn Yankees!)の主題歌だそうですが、ほかの人がとりあげているのを聞いたことがありません。いい曲なのにねえ。

それと、ジャズテットの同僚ゴルソン作の〈アウト・オブ・ザ・パスト〉。こちらは、ゴルソンも参加したジャズ・メッセンジャーズの傑作ライヴ『サンジェルマンのジャズ・メッセンジャーズ』でも演奏されていました。でも、この曲に関しては、ファーマーに軍配が上がります。「このタイトルからは1枚の写真が連想される。ほろ苦い写真だね」とはファーマーの弁です。こういう情感を演奏に封じ込めるのが、ファーマーなんです。あなたのほろ苦い思い出はなんですか?

 

Art Farmer "Art"
(Argo 678)

Art Farmer (trumpet)
Tommy Flanagan (piano)
Tommy Williams (bass)
Albert "Tootie" Heath (drums)

Produced by Kay Norton
Supervision by Jack Tracy
Recorded by Tommy Nola
Recorded at Nola Penthouse Studios, NY; September 21-23, 1960

[Tracks]
01. So Beats My Heart For You (music: Pat Ballard, Charles Henderson, Tom Waring)
02. Goodbye, Old Girl (music: Richard Adler, Jerry Ross)
03. Who Cares (music: George Gershwin / words: Ira Gershwin)
04. Out Of The Past (music: Benny Golson)
05. Younger Than Springtime (music: Richard Rodgers / words: Oscar Hammerstein II)
06. The Best Thing For You Is Me (music+words: Irving Berlin)
07. I'm A Fool To Want You (music: Frank Sinatra, Joel Herron, Jack Wolf)
08. That Old Devil Called Love (music: Allan Roberts, Doris Fisher)

[Links: Tommy Flanagan]
Tommy Flanagan: Biography & Discography (@ Jazz Standard Page)
Tommy Flanagan Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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posted by ユキヒロ at 10:04| Comment(1) | TrackBack(0) | Argo/Cadet | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月21日

キースのソロ公演@東京芸術劇場

keithjarrettsolo2005.jpg

行ってきました、キース・ジャレットのソロ・コンサート。はじめての生キース体験です。やっぱり一度は見ておかないと、後悔しそうな気がしたので。ペトちゃんを見ないでしまったことが、いまだに心に引っかかってます。

場所は池袋にある東京芸術劇場大ホール。20日の夜19時からの公演です。いっしょに連れていった娘(小1です)もはじめてのコンサートとあって、はじまるまでは「まだか」「まだか」と興奮していましたが、場内が暗くなり、静かな演奏がはじまったとたん、スヤスヤと夢の中へと旅立ちました(笑)。3階席の上のほうで見にくかったのと、適度な空調に心地よい音楽とくれば、それもまたやむなしかと。

演目なんですが、最近のソロ・コンサートの流れにそったショートピースの連なりでした。1つの演奏が次の発端になる「連作小説」というよりも、1つ1つが独立した「短編集」のおもむきですね。

で、かわいそうだったのは娘で、1曲1曲が終わるたびに(かなり短い曲も多かった)、周囲の拍手にビクッと反応して目が覚めるわけです(笑)。

アンコールの1曲目で、あの『メロディー・アット・ナイト・ウィズ・ユー』の冒頭を飾った〈アイ・ラヴ・ユー・ポーギー〉が流れてきたとき、会場がふっと和らぐのがわかりました。拍手も起きました。キースからの粋なプレゼントですね。

ただ、自分も含めてこの曲にもっとも反応してしまった聴衆に、キースのおかれたむずかしい立場を垣間見た気がしました。キース本人としては、やっぱり本編の即興演奏に心血を注いでいる。アンコールというのは、孤独な創造活動を終えた後のオマケにすぎないわけです。もちろん、聴衆に対する感謝の気持ちがそうさせるのでしょうが、本編とは明らかに空気が違います。ピンと張りつめた緊張から解放されたくつろぎ、ひと仕事終えた達成感、無事にやり遂げた安堵感。そういうものが、リラックスした演奏につながるわけです。

でも、そこに聴衆がいちばん惹かれてしまう。わかりやすいからです。聞いていて安心できる。『メロディー・アット・ナイト〜』は癒しの音楽といわれていますが、たしかに、昨日聞いた〈ポーギー〉には心が洗われる思いがしました。やさしさやあたたかさがスーッと心に広がっていく感じ。難解な音楽を聞いた後だからこそ、よけいにそう感じたのかもしれません。

キースの求めているものと、聴衆の求めているもののギャップ。即興演奏家として探求を重ねるほど、ついていける聴衆の数は減り、ほんの余技として演奏したものが、人々の心に焼きついてしまう。う〜ん、これは辛いかも。

あと、今回の生キース初体験で発見したのは、私は短編集より初期のソロ・コンサートのような一大叙事詩を望んでいるということです。1つの演奏が1時間以上にわたるというのは、明らかに今の時代に逆行していますが、次はどんな方向に行くのかをドキドキしながら待っている期待感こそ、キースのソロ長編を聞く醍醐味ではないかと思ったのです。

最近のショートピース集にあまり感動できない理由は、このワクワク感が楽しめないからです。次に行く前に終わってしまう。今回のソロ公演は、前後の脈絡がほとんど感じられなかったため、よけいにそう思いました。ここまで作品として独立しているなら、いっそのこと、出来のよいものだけをピックアップして、それだけで1枚のCDにするのが制作者の良心というものじゃないでしょうか。なんでもコンプリートにCD化すればいいってものじゃないでしょう?
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2005年10月20日

ケニー・ドーハム『静かなるケニー』

quietkenny.jpg Kenny Dorham - Quiet Kenny

ケニー・ドーハムの人気盤『静かなるケニー』です。本名は、マッキンリー・ハワード・ドーハム。1924年8月30日、テキサス州フェアフィールド生まれ。1972年12月5日、ニューヨークで亡くなりました。

よくトランペットのワン・ホーン物の傑作と紹介されますが、どうも私の肌にはあわないようで、ふだんはあまり手が出ません。理由ははっきりしていて、音がモコモコして、前に出てこない。要はパンチがないんです。

アシッド・ジャズ・ムーヴメントで再発見された、『アフロ・キューバン』の強烈なインパクトが頭にあるから、よけいにそう感じるのでしょうか。もっとも、このアルバムと比べれば、JRモンテローズと組んだジャズ・プロフェッツの作品も、ジョーヘンを従えた一連のブルーノート盤も、かすんでしまうのは、しょうがないかもしれません。

「いかにも日本人好みのこじんまりした仕上がり」とはジャズ喫茶いーぐる店主の後藤雅洋さんの言葉ですが、まさにそんな感じで、小春日和に縁側でお茶でも飲みながら、というシチュエーションがぴったりの「小品」なんですね。まだまだそういう心境に達していない私には、やっぱり物足りない。

トランペットは華のある楽器ですが、ドーハムが吹くそれは、花は花でも蓮の花(ロータス・ブラッサム)。地味ですねえ。仏さんの台座(蓮華座:れんげざ)になったりしますが、蓮根(レンコン)ですからね、根っこをたどれば(蓮根は好きです。辛子蓮根とか、きんぴら蓮根とかおいしいよね)。

ただ、クルト・ワイルのミュージカル「三文オペラ」からのナンバー、〈マック・ザ・ナイフ(原題はマッキー・メッサーのモリタート)〉については、ケニーの軽妙な吹きっぷりが妙にマッチしていて、気に入ってます。『エラ・イン・ベルリン』もロリンズの『サキコロ』もいいけれど、どちらも重量級。この曲は、ちょっととぼけた感じでやったほうがサマになるので、ポツポツと語るケニーにぴったりです。

その昔『クルト・ワイルの世界』というトリビュート・アルバムで、スティングがこの曲を歌っていたけれど、あれも似たような雰囲気でよかったなあ。

 

Kenny Dorham "Quiet Kenny"
(New Jazz NJ 8225)

Kenny Dorham (trumpet)
Tommy Flanagan (piano)
Paul Chambers (bass)
Art Taylor (drums)

Produced by Esmond Edwards
Recorded by Rudy Van Gelder
Recorded at the Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ; November 13, 1959

[Tracks] Kenny Dorham - Quiet Kenny
01. Lotus Blossom (aka. Asiatic Raes) (music: Kenny Dorham)
02. My Ideal (music: Richard A. Whiting, Newell Chase / words: Leo Robin)
03. Blue Friday (music: Kenny Dorham)
04. Alone Together (music: Arthur Schwartz / words: Howard Dietz)
05. Blue Spring Shuffle (music: Kenny Dorham)
06. I Had The Craziest Dream (music: Harry Warren / words: Mack Gordon)
07. Old Folks (music: Willard Robinson / words: Dedette L. Hill)
08. Mack The Knife (aka. Moritat) (music: Kurt Weill / words: Bertolt Brecht, Marc Blitzstein)

[Links: Kenny Dorham]
Una Mas: Kenny Dorham Tribute & Discography (@ The Hardbop Homepage)
Kenny Dorham Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Tommy Flanagan]
Tommy Flanagan Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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『ブッカー・リトル』

bookerlittle.jpg Booker Little - Booker Little

2人の夭折の天才の奇跡の出会いを記録したタイム盤『ブッカー・リトル』です。

愁いをおびた音色に心がゆすぶられるトランペット奏者ブッカー・リトル。1938年4月2日、テネシー州メンフィス生まれ。1961年10月5日、ニューヨークで死去(死因は尿毒症)。

エヴァンス黄金のトリオを支えた革新的ベース奏者スコット・ラファロ。1936年4月3日、ニュージャージー州ニューアーク生まれ。1961年7月6日、ニューヨーク郊外で自動車事故死。

道半ばにして逝った2人の天才が残してくれた、かけがえのない宝物。私はこのアルバムのオリジナル盤を聞かせてもらったことがあります。そのときの興奮ぶりは以前も書きましたが、あの感動を忘れないために、ここに残しておきます(以下、引用です)。

今回の極めつきは、タイム盤「ブッカー・リトル」。お気に入りのアルバムをあげたらいつでも5本の指に入るだろうこの作品のオリジナル盤を、私はしかとこの手で抱いてきました。もう最高にしあわせ〜(笑)。

盤質はさすがにそれほどよくはありませんでしたが、アナログ特有のプチプチというかすれ気味の音のなかから立ち昇るリトルのペットの物悲しさといったら。

愁いをおびたペット・サウンドにからみつくラファロのど迫力のウォーキング・ベース。右にリトル、左にラファロの超強力布陣の背後でひっそりと奏でられるトミフラのピアノ。そして、半世紀以上にわたって現役を貫き、誰と組んでも、どんなスタイルにもマッチする不思議なドラマー、ロイ・ヘインズがフロント陣を煽るようにプッシュする。

まさに感涙ものとはこのことです。リトル&ラファロ、サイコー!

 

"Booker Little"
(Time 52011)

Booker Little (trumpet)
Tommy Flanagan (piano)
Scott LaFaro (bass)
Roy Haynes (drums)

Produced by Irving Joseph
Recorded by Al Weintraub, Bill MacMeekin
Recorded in NYC; April 13, 15, 1960

[Tracks] Booker Little - Booker Little
01. Opening Statement (music: Booker Little)
02. Minor Sweet (music: Booker Little)
03. Bee Tee's Minor Plea (music: Booker Little)
04. Life's A Little Blue (music: Booker Little)
05. The Grand Valse (music: Booker Little)
06. Who Can I Turn To (music: Alec Wilder / words: William Engvick)

[Links: Booker Little]
Booker Little Discography (by Alan Saul)
Booker Little Discography Project (@ Jazz Discography Project)
Booker Little (@ Nelson's Navigator for Modern Jazz)
[Links: Tommy Flanagan]
Tommy Flanagan Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Scott LaFaro]
Scott LaFaro: Beacon for Jazz Bassists (by Charles A. Ralston)
Scott LaFaro Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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2005年10月18日

ブルー・ミッチェル『ブルーズ・ムーズ』

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ライブドアから引っ越ししてきました。引っ越し作業は、ボチボチやっていきます。

リリカルなトランペットで人気のブルー・ミッチェルです。本名は Richard Allen Mitchell。1930年3月13日フロリダ州マイアミ生まれ。1979年5月21日カリフォルニア州ロサンゼルスで亡くなりました。

ブルース・ムーズ』は彼の代表作です。みんな大好きワン・ホーン・カルテットで、気持ちよくスタンダードを吹くミッチェル。このくつろぎは、ちょっと得がたいものがあります。何回聞いても聞き飽きないアルバムって、実はそう多くはないのですが、これなんかは、まさにそうです。ほかに聞きたいものが思いつかないときなど、しょっちゅう取り出して聞いてます。

冒頭のウィントン・ケリーのコロコロ転がるピアノ。これを聞いただけで、心がウキウキしてきます。〈アイル・クローズ・マイ・アイズ〉というマイナーな曲なんですが、これが実にいい曲なんです。携帯の着メロにも使ってます(笑)。

こんなにいい曲なのに、ほかの人がほとんど取り上げないのが、不思議なくらいです。私の手もとにあるのは、ジミー・スミスの『オルガン・グランダー・スウィング』とキース・ジャレットの『アット・ザ・ブルー・ノート』(BOXセット)。でも、この曲はやっぱりブルー・ミッチェルで聞きたい。この1曲だけのために買っても損はしません。保証します!

 

Blue Mitchell "Blue's Mood"
(Riverside RLP 336/9336)

Blue Mitchell (trumpet)
Wynton Kelly (piano)
Sam Jones (bass)
Roy Brooks (drums)

Produced by Orrin Keepnews
Recorded by Ray Fowler
Recorded at Plaza Sound Studios, NYC; Aug 24, 25, 1960

[Tracks] 
01. I'll Close My Eyes (music: Billy Reed / words: Buddy Kay)
02. Avars (music: Rocky Boyd)
03. Scrapple From The Apple (music: Charlie Parker)
04. Kinda Vague (music: Richard "Blue" Mitchell, Wynton Kelly)
05. Sir John (music: Richard "Blue" Mitchell)
06. When I Fall In Love (music: Victor Young / words: Edward Heyman)
07. Sweet Pumpkin (music: Ronnell Bright)
08. I Wish I Knew (music: Harry Warren / words: Mack Gordon)

[Links: Blue Mitchell]
Blue Mitchell: Biography, Selected Discography, Transcriptions (by Jeff Helgesen)
[Links: Wynton Kelly]
Wynton Kelly: a discography with cover photos (by Atushi acchan Ueda)
Wynton Kelly Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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posted by ユキヒロ at 23:02| Comment(3) | TrackBack(0) | Riverside (Jazzland) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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