
黒人優勢のジャズ・トランペット界において、一人気を吐いた白人トランぺッター、チェット・ベイカー(本名は、Chesney Henry Baker Jr.)。1929年12月23日、オクラホマ州イェール生まれ。1988年5月13日、オランダ・アムステルダムにてホテルの窓から転落死。
チェット・ベイカーといえば、その甘いマスクとヘタウマなヴォーカルで知られていますが、トランペットを操る技術も一流だということを証明したのが、『チェット・ベイカー=ラス・フリーマン・カルテット
チェットの歌声はよく「中性的なヴォーカル」といわれますが、彼の吹くミュート・トランペットの音は、意外なほどマッシヴです(ペットの花の部分にお椀をかぶせるヤツです。音が針のように細く、鋭利になります。マイルスがミュートをつけて独特の世界を築き上げたことは有名です)。私はふだん iPod でジャズを聞いていますが、この『カルテット』は、ほかのアルバムよりボリュームを下げないと脳天にチリチリ響いて、耳が痛くなります。
1曲目〈ラヴ・ネスト〉。愛の巣ですね。でも、この愛の巣はカラッとしていて、開けっぴろげです(笑)。チェットのミュートは非常によく鳴っています。ちょっと鳴りすぎかもしれない。ピアノのラス・フリーマンはちょっとクセのある人で、独特の陰影がありますが、ここでの演奏は小気味いい。ミスター・ウォーキング・ベース、リロイ・ヴィネガーも好調です。
2曲目、ラス・フリーマンのオリジナル〈ファン・タン〉。そうそう、このイントロこそ、ラス・フリーマンらしい。微妙な音使いが、下手をすると耳障りになりそうなギリギリのラインでとどまっている感じ。陽気な西海岸にあるまじき、陰鬱な響きです。
続く〈夏のスケッチ〉も、暗いですねえ。カリフォルニアの夏のまぶしさではなく、灰色の夏の夕暮れ。カラフルな海辺のパラソルとは違って、墨絵のような味わいです。このアルバムは、2曲を除いてラス・フリーマンの曲で固められているので、実質的なリーダーは彼なのでしょう。清く正しいウエスト・コーストのイメージを裏切る重苦しさ。でも、そこにからむチェットのペットがまた格別にいいんです。
ラス・フリーマンの個性を知るには、ストレイホーンの名曲〈ラッシュ・ライフ〉をどうぞ。モンクやマルが原曲を解体していくようなスリルが味わえます。これを楽しめるかどうか。チェット・ベイカーのワン・ホーン作品だからといって、うかつに手を出すと完全に裏切られます。実はかなりハードな作品なんです、この『カルテット』は。
"Quatet: Russ Freeman And Chet Baker"
(Pacific Jazz 1232)
Chet Baker (trumpet)
Russ Freeman (piano)
Leroy Vinnegar (bass)
Shelly Manne (drums)
Produced by Richard Bock
Recorded in LA; November 6, 1956
[Tracks]
01. Love Nest (music: Lewis A. Hirsch / words: Otto Harbach)
02. Fan Tan (music: Russ Freeman)
03. Summer Sketch (music: Russ Freeman)
04. An Afternoon At Home (music: Russ Freeman)
05. Say When (music: Russ Freeman)
06. Lush Life (music: Billy Strayhorn)
07. Amblin' (music: Russ Freeman)
08. Hugo Hurwhey (music: Russ Freeman)
[Links: Chet Baker]
Chet Baker Lost And Found
Jazz Wereld & Chet Baker (by Rene Leemans)
Chet Baker Tribute
Chet Baker Discography Project (@ Jazz Discography Project)
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