

ここしばらく休みなし、睡眠時間なしで仕事に埋没していましたが、昨日10時間ほど爆睡して、ついに復活です! そうそう、ラサーンの話でしたよね(前回投稿したのが、はるか昔のような気がします)。今回は、伝統と革新が何の違和感もなく同居していたラサーンらしさがふんだんに詰まった傑作『リップ・リグ&パニック
伝統の継承者としてのラサーンを聴きたければ、まずは1曲目の〈ノー・トニック・プレス〉。プレス(プレジデントの略)といえば、テナーの巨匠レスター・ヤングですね。
テナー1本で勝負かと思いきや、テナーによるソロと2管(3管?)同時吹奏がごく自然に入れかわり立ちかわり現れて、演奏をより深いものにしています。
そして、そのものズバリの〈フロム・ベシェ・バイアス・ファッツ〉。ソプラノのシドニー・ベシェ、テナーのドン・バイアス、ストライド・ピアノのファッツ・ウォーラーに捧げたこの曲で、ラサーンは得意の循環呼吸法を使って(サーキュラー・ブリージング。鼻で息を吸いながら口から息を吐き出す)、息継ぎなしのロングソロを炸裂させます。いやはや、強烈です! ラグタイムからフリーまで、なんでもこなすジャズ・ピアノの生きた歴史、ジャッキー・バイアードも大活躍です。
でも、このアルバムでいちばんの聴きものは、やはりなんといってもタイトル曲です。怪しげなテーマからはじまるこの曲は、途中、グラスの割れる音を境にガラリと様相を変え、一気にヒートアップします。グラスの割れる音? そうです、彼はこの音をどうしても使わなければならなかった。眠れる聴衆を叩き起こすために(くわしくは、下で説明します)。
耳から聞こえる音はなんでも演奏に取り込まずにはいられなかった「音の探求者」ラサーン。でも、それはギミックではありません。これほど効果的に「目を覚ます」方法を、私はほかに思いつきません。実際、眠気(いや、今日は眠くないけどね)が一発で吹っ飛ぶんですよ!
さて、このアルバムのタイトル、意味不明ですね〜。ラサーンはオリジナルな言語で話すクセがあったそうですが、これはなんと解釈したらいいのでしょう?「Rip」は「Rip Van Winkle」のこと。英辞郎によれば、「W. Irving 作『The Sketch Book』の主人公。20年間眠り続けた後で目覚めた」とあります。「Rig」は石油掘削装置やトレーラー、いたずら、八百長といった意味があるようですが、ラサーンによると「死後硬直」。つまり、人びとは生きているように見えて、その心は眠っていたり、硬直したりしている。覚醒してないってことですね。そして、最後の「Panic」がくる。「できると思いもしないことを私がやっているのを聴くと、彼らはパニックに陥るのさ」とは、ライナーノーツにあるラサーンの言葉です(訳は林建紀さんのものを拝借)。
1961年の『ウィー・フリー・キングス』にはじまるラサーン(当時はただの「ローランド・カーク」と名乗っていました)のマーキュリー録音は、このライムライト盤『リップ・リグ&パニック』で終焉を迎えます(ライムライトはエマーシーと並ぶマーキュリーの代表的な傍系レーベル。スーパーバイザーとして、クインシー・ジョーンズが参画していました)。次にラサーンが向かった先は、ブラック・ミュージックの宝庫アトランティック・レーベルですが、その話は次回にとっておきましょう。
マーキュリーといえば、Matsubayashi 'Shaolin' Kohji さんの手になる Mercury Records Collection というものすごいサイトがあります。録音データだけのディスコグラフィーでも、手持ちの CD のコレクションでもなく、アナログ盤(しかも、ほとんどがオリジナル盤だそうです)だけを詳細なコメントとジャケット写真つきで紹介する、という気の遠くなるようなサイトです。本家のマーキュリーはもちろん、傍系のエマーシーやライムライト(ジャズファンにとっては、こっちのほうがおなじみですね)などまで手を伸ばしていて、全部見るだけでも1日仕事(いや、1日じゃ終わりませんね、この量は)はたしていつまで続くのか。ご本人いわく、「生涯を通じた趣味になるでしょう」とのことです。私も陰ながら応援しています。
Roland Kirk "Rip, Rig And Panic"
(Limelight LM-82027/LS-86027)
Roland Kirk (tenor sax, stritch, manzello, castanets, siren)
Jaki Byard (piano)
Richard Davis (bass)
Elvin Jones (drums)
Recorded by Rudy Van Gelder
Recorded at the Van Gelder Studios, Englewood Cliffs, NJ; Jan 13, 1965
[Tracks]

01. No Tonic Press (music: Roland Kirk)
02. Once In A While (music: Michael Edwards / words: Bud Green)
03. From Bechet, Byas And Fats (music: Roland Kirk)
04. Mystical Dreams (music: Roland Kirk)
05. Rip, Rig And Panic (music: Roland Kirk)
06. Black Diamonds (music: M. Sealey)
07. Slippery, Hippery, Flippery (music: Roland Kirk)
[Links: Roland Kirk]
Periodicals 林建紀 (@ Read NKYM!)
The Rahsaan Roland Kirk Website
Roland Kirk Discography (by Michael Fitzgerald)
Roland Kirk Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Jaki Byard]
jakibyard,org
[Links: RIchard Davis]
The Richard Davis Page
[Links: Elvin Jones]
Elvin Jones: Official Web Site
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