2005年06月28日

『スタン・ゲッツ・プレイズ』

stangetzplays.jpg Stan Getz - Stan Getz Plays

スタン・ゲッツは、すこぶる評判の悪い人でした。「アイ・アム・キング(俺が王様)」を地でいく人で、気分が乗らないと一晩中ソロを吹かないとか、事前の取り決めを無視して一人で永遠にソロをとるとか、サイドメンが調子よく演奏していると不機嫌になって悪態をつくとか、〈イパネマの娘〉をリクエストした客に「出ていけ」と怒鳴ったとか、この手の「ゲッツ=ろくでなし」のエピソードには事欠きません。

私は職業柄、作品の価値とそれを生み出す著者の人間性とは別物だと思っているので気になりませんが(ふだんの人柄がそのまま滲み出たような文章を書く方もいらっしゃいますよ、念のため)、そうでない人にとっては、あまり気分のいい話ではないかもしれません。

でも、とあえていいますが、ゲッツにはこの『スタン・ゲッツ・プレイズ』があります。ゲッツはこのジャケットのイメージによって、どれだけ救われたでしょう。天使のような子供(誰の子かな?)がほっぺにキスするこの写真を見て、「ゲッツ=悪い人」と思う人はまずいません。そして、彼の演奏には「悪意」や「作為」などみじんも感じられません。とても純粋で、無垢な子供のような音楽。人柄と作品は別なんです。

とはいえ、ピアノのデューク・ジョーダンは、黒人というだけでゲッツからさかんにイビられて、なかなかソロをとらせてもらえなかったという記事を読みました(ジャズ批評119「スタン・ゲッツ」より)。そういえば、この『プレイズ』でも、ソロをとっているのは全編にわたってほぼゲッツだけです。王様ゲッツの真価が発揮されるのは、やはり彼だけにスポットライトを当てたワンホーン作品なんですね。

ヴァーヴ・レーベル第1弾にあたるこの『プレイズ』は、プレスティッジ、ルースト時代のクール・サウンドから、感情表現を巧みに取り入れたホットな路線へと移り変わる過渡期の作品だといわれています。プレスティッジ、ルースト時代を無駄なぜい肉をそぎ落としたスリムでしなやかなボディーとするなら、ヴァーヴ時代はより躍動的なマッシヴな体型へと変化します。

といっても、ゲッツのことですから、筋肉ムキムキのマッチョな男になるわけではありません。細身で引き締まった肉体美。とくにこの『プレイズ』でのゲッツは、女性的なやわらかさ、ふっくらと丸みをおびた響きと、ミディアム〜アップテンポの曲で現れる男性的なキレのよさが、これ以上ないほど絶妙なバランスで溶けあい、比類ないほど美しいサウンドを聞かせてくれます。

どれも2、3分の短い演奏ですが、その短いソロのなかですべてを表現しつくす潔さがすばらしい。語りすぎないことが相手のイマジネーションを刺激して、かえって印象に残ることってあるんです。〈星影のステラ〉〈ボディ・アンド・ソウル〉〈アラバマに星は落ちて〉〈恋人よ我に帰れ〉などなど、どれをとっても超がつくほどの一級品。おいしいところ満載のメロディーの宝庫。おすすめです。

 

Stan Getz "Stan Getz Plays"
(Norgran MGN-1042 / Verve MGV-8133)

Stan Getz (tenor sax)
Duke Jordan (piano)
Jimmy Raney (guitar)
Bill Crow (bass)
Frank Isola (drums)

Produced by Norman Granz
Recorded in NYC; December 12 (#1-8), 29 (#9-12), 1952

[Tracks] Stan Getz - Stan Getz Plays
01. Stella By Starlight (music: Victor Young / words: Ned Washington)
02. Time On My Hands (music: Vincent Youmans / words: Harold Adamson, Mack Gordon)
03. 'Tis Autumn (music: Henry Nemo)
04. The Way You Look Tonight (music: Jerome Kern / words: Dorothy Fields)
05. Lover Come Back To Me (music: Sigmund Romberg / words: Oscar Hammerstein II)
06. Body And Soul (music: Johnny Green / words: Edward Heyman, Robert Sauer, Frank Eyton)
07. Stars Fell On Alabama (music: Frank Perkins / words: Mitchell Parish)
08. You Turned The Tables On Me (music: Louis Alter / words: Sidney Mitchell)
09. Thanks For The Memory (music: Ralph Rainger / words: Leo Robin)
10. Hymn Of The Orient (music: Gigi Gryce)
11. These Foolish Things (Remind Me Of You) (music: Jack Strachey, Harry Link / words: Holt Marvell)
12. How Deep Is The Ocean (music+words: Irving Berlin)

[Links: Stan Getz]
Stan Getz Discography (by Riccardo Di Filippo, Luigi Maulucci & Nicola Rascio)
Stan Getz Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Duke Jordan]
Duke Jordan Discography Project (@ Jazz Discography Project)

最後にポチッとよろしく。 人気ブログランキング
posted by ユキヒロ at 11:47| Comment(2) | TrackBack(0) | Verve | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月27日

スタン・ゲッツ『ザ・サウンド』

thesound.jpg 

ゴリゴリ吹くばかりがテナーじゃない。もっとスマートで粋なテナーが聴きたいという向きには、クール時代のスタン・ゲッツがおすすめです。感情を爆発させないクール・サウンドで一世を風靡したゲッツですが、ほかの誰にも真似できないソフトな音色という意味では、アルトのポール・デスモンドとテナーのゲッツが双璧です。

流れるように紡ぎ出される繊細な美しいフレーズ。「クール」といっても「冷たい」音楽ではありません。微妙な心の揺れをそのまま音におきかえたようなデリケートな響きが、それまでの「熱く」ブロウするテナーとは一線を画していたから、そう呼ばれただけのこと。実際は、心温まる「ウォーム」な音楽だったりするわけです。趣味のよい骨董品を手に入れたときのような、ノスタルジックな気分に浸れること請け合いです。

この『ザ・サウンド』は3つのセッションからなっています。

1、2曲目は、1950年12月10日の録音。のちにファンキー・ジャズの大御所となるホレス・シルヴァーの初々しいピアノが聞けます(シルヴァーの初レコーディング)。

3〜6曲目は、スリー・デューセズ(Three Deuces)というマイナー・レーベル用に吹き込まれた音源をルースト(アルバム・リストはこちら)が買い取ったもので、50年5月17日の録音。スリー・デューセズ(3人の臆病者?)といえば、ニューヨーク52番街の通称スイング・ストリートにあった有名なクラブですが、このレーベルとの関係は不明です(こちらにクラブの写真があります。この記事があるサイト「ジャズにまつわる話」には、貴重な話や写真がたくさん載っています。おすすめ)。

残りの曲は、51年の春にゲッツがはじめて北欧に旅したときに、スウェーデンのメトロノーム・レーベルに吹き込んだ音源です(51年3月23日録音)。このルースト盤に組み込まれた6曲以外にも、翌24日録音(バリトンのラーシュ・グリンが加わったクインテット演奏)の2曲が残されていて、それらをあわせたメトロノーム盤もあるようです(Metronome BLP 6)。

聞きものは、やはり10曲目の〈ディア・オールド・ストックホルム〉でしょう。マイルス・デイヴィスが吹きこんだことでスタンダード化したこのスウェーデンの民謡を、ジャズの世界に最初に持ち込んだのは、ほかならぬゲッツです。原題はスウェーデン語で〈アク・ヴァルムランド・ドゥ・ショーナ〉。「美しい楽園」という意味だそうです。そういえば、エヴァンスとの共演で知られるスウェーデンの歌姫モニカ・ゼタールンドが『ザ・ロスト・テープ』という CD の中でスウェーデン語で歌っていました(ちなみに、マイルスの演奏は『マイルス・デイヴィス Vol. 1』と『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』で聴くことができます)。

さて、このゲッツの演奏は、本当にため息が出るほど美しい。この1曲だけで、この CD はじゅうぶん「買い」です。ところが、ややこしいことに、いちばんおいしいこの曲が CD に含まれていない時代が長く続きました。おそらく契約の関係で収録できなかったのでしょうが、『コンプリート・ルースト・セッション』と題する CD には気をつけてください。これには、メトロノーム音源の〈ディア・オールド・ストックホルム〉は含まれていません。ゲッツの決定的名演〈ディア・オールド・ストックホルム〉が聞きたければ、こちらをなんとかゲットしてくださいな。



Stan Getz "The Sound"
(Roost LP 2207)

Stan Getz (tenor sax) with

#1-2
Horace Silver (piano)
Joe Calloway (bass)
Walter Bolden (drums)

#3-6
Al Haig (piano)
Tommy Potter (bass)
Roy Haynes (drums)

#7-12
Bengt Hallberg (piano)
Gunnar Johnson (bass)
Jack Noren (drums) #7, 10, 11
Kenneth Fagerlund (drums) #8, 9, 12

Recorded in NYC; May 17 (#3-6), December 10 (#1-2), 1950
Recorded in Stockholm, Sweden: March 23, 1951 (#7-12)

[Tracks]
01. Strike Up The Band (music: George Gershwin / words: Ira Gershwin)
02. Tootsie Roll (music: Stan Getz)
03. Sweetie Pie (music: Stan Getz)
04. Yesterdays (music: Jerome Kern / words: Otto Harbach)
05. Hershey Bar (music+words: Johnny Mandel)
06. Gone With The Wind (music: Allie Wrubel / words; Herbert Magidson)
07. Standanavian (aka. S'Cool Boy) (music: Stan Getz, Bengt Hallberg)
08. Prelude To A Kiss (music: Duke Ellington / words: Irving Gordon, Irving Mills)
09. I Only Have Eyes For You (music: Harry Warren / words: Al Dubin)
10. Dear Old Stockholm (aka. Ack, Varmeland Du Skona) (traditional)
11. Night And Day (music+words: Cole Porter)
12. I'm Getting Sentimental Over You (music: George Bassman / words: Ned Washington)

[Links: Stan Getz]
Stan Getz Discography (by Riccardo Di Filippo, Luigi Maulucci & Nicola Rascio)
Stan Getz Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Horace Silver]
Horace Silver (Official Website)
Horace Silver Tribute and Discography (@ Hardbop Homepage)
Horace Silver Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Al Haig]
Al Haig Discography Project (@ Jazz Discography Project)

最後にポチッとよろしく。 人気ブログランキング
posted by ユキヒロ at 12:07| Comment(1) | TrackBack(0) | Roulette (Roost, Jubilee) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月20日

『フォー・ミュージシャンズ・オンリー』

formusiciansonly.jpg

看板スターをズラリとそろえて、「あとはまかせるから好きなように料理して」というのが、JATP の興行主でもあるプロデューサー、ノーマン・グランツの好きなやり方でした。ある意味、安直ともとれるオールスター・セッションですが、実は、即興主体のジャズの本質をこれくらいわかった人もいなかったのではないかと思います。

セッションはいつも成功するとは限らない。でも、とにかくテープを回し続けて決定的瞬間を待つ。ヴァーヴには駄盤も多くありますが、ジャズの醍醐味がギュッと詰まったウキウキするような傑作も数多い。お宝探しの楽しさが、ヴァーヴの作品にはあります。

すでに一家をなした看板スターの共演といっても、ただ呼び集めればそれでいいというわけにはいきません。そこには、全員をまとめるオーガナイザーが不可欠です。そこで登場するのが、人呼んでお祭り男ディジー・ガレスピーです。1917年10月21日、サウス・カロライナ州シェロー生まれ。1993年1月6日、ニュージャージー州イングルウッドで亡くなりました。

どんな大物も一目置かざるをえないキャリア、周囲を楽しませずにはおかないエンタテイナーぶり、そして人間としての器の大きさ(陽気で気のいい男だったそうです)。どれをとっても、これ以上ないほどのはまり役です。グランツがこの手のセッションにガレスピーを重用した理由もわかろうというものです。

フォー・ミュージシャンズ・オンリー』(ミュージシャンのためだけに)という珍妙なタイトルがつけられたこの作品は、ガレスピーとソニー・スティットというバップ系の大物にスタン・ゲッツというクール派の代表選手をぶつけると、はたしてどんな音が出てくるか。そんなグランツの個人的な興味を満たすためだけに実現した一夜かぎりの共演です。

血湧き肉踊る熱帯系のジャズとどこかひんやりとしたクールな音色。ふつう、あわないと思うでしょ? でも、あうんですよ、これが。熱い日差しを浴びた後は、少し冷たいシャワーを浴びてクールダウン。窓を開け放った部屋をくぐりぬける心地よい風に潮の香りがただよっています。ク〜ッ、たまらん。こういう無茶な取り合わせをやらせたら、ホント、グランツの右に出る者はいません。

1曲目はその名も〈ビバップ〉。ガレスピー作の熱いナンバーです。2曲目の〈ウィー〉も熱い。どちらもものすごいスピードで、聞く人の心を煽り立てます。ウォ〜ッ、猛烈に熱くなってきた! 

3曲目で少しクールダウンしましょう。ロシア民謡〈ダーク・アイズ〉の哀愁漂うメロディーには、ディジーのひかえめなペットとハーブ・エリスのギターがよく似合う。でも、この面子ですから、単にクールダウンするだけでは終わりません。日差しも傾き、うっすらと暗がりが広がりはじめる頃、浜辺で怪しげな炎が燃え上がる。そこに集う男と女。いいねえ。色っぽくて。

トリを飾るのは、〈恋人よ我に帰れ〉。こちらも静かにスタートしますが、途中何度かテンポが切り替わり、熱くなったり涼しくなったり忙しい演奏です。そして、浜辺の男女は夜通し踊り狂うのでした。おしまい(笑)。

 

"For Musicians Only"
(Verve MGV 8198)

Dizzy Gillespie (trumpet)
Sonny Stitt (alto sax)
Stan Getz (tenor sax)
John Lewis (piano)
Herb Ellis (guitar)
Ray Brown (bass)
Stan Levy (drums)

Produced by Norman Granz
Recorded in LA; October 16, 1956

[Tracks]
01. Be Bop (music: Dizzy Gillespie)
02. We (music: Harry Woods / words: Charles Tobias, Al Sherman)
03. Dark Eyes (traditioal)
04. Lover Come Back To Me (music: Sigmund Romberg / words: Oscar Hammerstein II)

[Links: Dizzy Gillespie]
Dizzy Gillespie Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Stan Getz]
Stan Getz Discography (by Riccardo Di Filippo Luigi Maulucci & Nicola Rascio)
Stan Getz Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: John Lewis]
John Lewis and Modern Jazz Quartet (@ Michael Furstner's JAZCLASS)

最後にポチッとよろしく。 人気ブログランキング
posted by ユキヒロ at 14:38| Comment(0) | TrackBack(0) | Verve | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月17日

『ソニー・サイド・アップ』

sonnysideup.jpg Dizzy Gillespie, Sonny Rollins & Sonny Stitt - Sonny Side Up

ソニー・スティットのすごいところは、相手がどんな大物であっても一歩も引けをとらないどころか、派手な立ち回りやらせればタフなファイターぶりを遺憾なく発揮するし、しっとりとしたバラードをやらせれば息もぴったりの大人の対話を楽しめるという、芸域の広さ、深さだと個人的には思っています。

だから、スティットの真の実力は、共演者が大物であれば大物であるほど、引き出されます。スティットに「バトルもの」が多いのは、彼のそういう性格を見越してのことではないかと思うのですが、数あるスティットの「バトルもの」の中でも最高傑作が、今日紹介する『ソニー・サイド・アップ』です。タイトルはもちろん「サニーサイド・アップ(目玉焼き)」のもじりですね。

サックス界を代表する2人のソニー、スティットとロリンズがガップリ四つに組んだアルバムというだけで興奮してきますが、聞きものは何といっても2曲目〈エターナル・トライアングル〉。14分を超すこの熱演に、ジャズの醍醐味がすべて詰まっています! 直訳すると、「永遠のトライアングル=三角関係」。といっても、お祭り男ディジー・ガレスピーは背後でたまにハイノートをヒットするだけで、主役はもっぱら2人のソニーです。

実力者同士のガチンコ・バトルですから、お互いの意地と意地がぶつかりあい、一歩も譲りません。とにかく相手を打ち負かそうと次から次へとパンチをくり出しますが、攻撃する側も受ける側も百戦錬磨の強者ですから、なかなか勝負はつきません。それこそ「おいおい、いつまでやってるんだよ」とツッコミを入れたくなるほどです。でも、それがやがて「ああ、サイコー! 時よ止まらないで〜!」に変わってくる(笑)。スタジオ録音なのに、ライヴの興奮と熱気が伝わる名演中の名演です。

まったく遅蒔きながら、私もようやく最近になってロリンズの『サキコロ』に開眼したのですが、このアルバムのロリンズは昔から好きでした。豪快なテナーというのはこういうものだといわれれば、私にだってわかるんです(笑)。いや、ホントに2人とも超カッコイイ!!!

 

Dizzy Gillespie, Sonny Stitt, Sonny Rollins "Sonny Side Up"
(Verve MGV 8262)

Dizzy Gillespie (trumpet)
Sonny Stitt (tenor sax)
Sonny Rollins (tenor sax)
Ray Bryant (piano)
Tommy Bryant (bass)
Charlie Persip (drums)

Produced by Norman Granz
Recorded at Nola Recording Studio, NYC; December 19, 1957

[Tracks] Dizzy Gillespie, Sonny Rollins & Sonny Stitt - Sonny Side Up
01. On The Sunny Side Of The Street (music: Jimmy McHugh / words: Dorothy Fields)
02. The Eternal Triangle (music: Sonny Stitt)
03. After Hours (music: Avery Parish / words: Robert Bruce, Buddy Fayne)
04. I Know That You Know (music: Vincent Youmans / words: Anne Caldwell)

[Links: Dizzy Gillespie]
Dizzy Gillespie Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Sonny Rollins]
The Sonny Rollins Page
The Complete Sonny Rollins
Sonny Rollins Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Ray Bryant]
Ray Bryant Discography Project (@ Jazz Discography Project)

最後にポチッとよろしく。 人気ブログランキング
posted by ユキヒロ at 09:59| Comment(0) | TrackBack(0) | Verve | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ジーン・アモンズ&ソニー・スティット『ボス・テナーズ・イン・オービット』

bosstenorsinorbit.jpg Gene Ammons & Sonny Stitt - Boss Tenors In Orbit

前回投稿したアモンズ評を読んで、勘のいい方なら「これってデクスター・ゴードンとおんなじ表現じゃん!」とお気づきになったかもしれません。「男性的」「雄大な」「スケールの大きな」「泰然自若」といった形容詞は、たしかにアモンズにもデックスにも通用します。でも、この2人には決定的な違いがある。それが「泥臭さ」です。

ブルースの本場シカゴは、黒人が多い街としても知られています(黒人39%、白人37%、ヒスパニック系20%)。シカゴ生まれのアモンズのテナーは、だから土の匂いがします。そして、野太い。一歩間違えると野暮ったい田舎の音になりそうなのに、そうならないのは、彼の懐の深さのなせる業です。アモンズの吹くバラードは、デカくて力のある男ならではのゆとりを感じさせます。

対するデックスはLA生まれ。メキシコに近いこともあって、ヒスパニック系が全体の半数近くを占めています(ヒスパニック系47%、白人30%、黒人11%、アジア系10%)。西海岸の陽気は南国そのもの。ここでは何事もおおらかに進みます。デックスの飄々とした性格とゆったりとした(=急かない)テナーは、彼の生まれた土地とも関係しているに違いありません。

アモンズの泥臭さは、アモンズのテナーがアーシーなオルガンと親和性が高いことでもわかります。デックスとオルガンも合わないことはないかもしれませんが、アモンズのほうがしっくりします。

ボス・テナーズ・イン・オービット』(「in orbit」の直訳は「軌道に乗った」「軌道上の」。2人のかけあいの滑らかさを評したものだとすれば、「丁々発止のボス・テナーズ」といった感じでしょうか)にもオルガン奏者ドン・パターソンが参加していますが、アモンズ&スティットのチームは、ソウルジャズの大御所ブラザー・ジャック・マクダフとその名も『ソウル・サミット』というおそろしげなアルバムも残しています。筋金入りの泥臭さです。

〈ロング・タイム・アゴー・アンド・ファー・アウェイ〉の出だしから、オルガン特有のアーシーな響きが充満します。遅れて登場するアモンズのテナーが輪をかけて男臭い。スティットのテナーが軽く聴こえてしまうほどです。やっぱり、ボスはいちばんおいしいツボを心得ているんです。

4曲目の〈ジョン・ブラウンズ・ボディ〉。どこかで聞いたことがあるメロディーだと思ったら、「ま〜るい緑の山手線、真ん中通るは中央線、新宿西口駅の前、カメラはヨ○ドバシカメラ」の元ネタでした(笑)。ちなみに、このトラッド・ソングはオスカー・ピーターソンとミルト・ジャクソンの共演盤『ヴェリー・トール』でも演奏されていました。

 

Gene Ammons, Sonny Stitt "Boss Tenors In Orbit"
(Verve V/V6-8468)

Gene Ammons (tenor sax)
Sonny Stitt (tenor sax) #1, 3-5 (alto sax) #2
Don Patterson (organ)
Paul Weeden (guitar)
Billy James (drums)

Produced by Creed Taylor
Recorded by Rudy Van Gelder
Recorded at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ; February 18, 1962

[Tracks] Gene Ammons & Sonny Stitt - Boss Tenors In Orbit
01. Long Ago And Far Away (music: Jerome Kern / words: Ira Gershwin)
02. Walkin' (music: Richard Carpenter)
03. Why Was I Born (music: Jerome Kern / words: Oscar Hammerstein II)
04. John Brown's Body (traditional)
05. Bye Bye Blackbird (music: Ray Henderson / words: Mort Dixon)

[Links: Gene Ammons]
Gene Ammons Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Paul Weeden]
The Paul Weeden Discography (by Carl-Bernhard Kjelstrup, Jr.)

最後にポチッとよろしく。 人気ブログランキング
posted by ユキヒロ at 00:47| Comment(1) | TrackBack(0) | Verve | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月16日

ジーン・アモンズ&ソニー・スティット『ボス・テナーズ』

bosstenors.jpg

シカゴ・テナー界のボスといえば、ボス・テナーことジーン・アモンズその人です。1925年4月14日、イリノイ州シカゴ生まれ。1974年8月6日、イリノイ州シカゴでガンのため亡くなりました。

彼がボスだったのは、父親が「ブギウギ・ピアノの父」と呼ばれたアルバート・アモンズだったからではありません。それはそれで、シカゴ・マフィアの血の継承みたいでおかしいのですが。

また、麻薬売買の罪で服役したアモンズが7年半の「おつとめ」を終えて出所したとき(1969年)、おおぜいのミュージシャン(=子分)が親分の現場復帰を祝って、刑務所の門の前にずらりと勢ぞろいして出迎えたという逸話も、彼がいかに偉大なボスだったかを伝えるエピソードではあっても、アモンズがボスたりえた理由を説明してはくれません。

アモンズがボスとしてシカゴ・テナー界に君臨したのは、そのスケールの大きなサウンドでほかの者を寄せつけない真の実力者だったからです(きっと)。同じくシカゴ出身のグリフィンが霞んでしまうほどの、雄大なテナー・サウンド。リトルなグリフィンが文字どおり小僧に見えてしまうのは、細かいことは気にしない、大人(「たいじん」と読んでください)然とした親分の懐の深さに触れた瞬間です(艶々のグリフィンも好きですよ、念のため)。

そんな男前の親分ですが、たった一人、その実力を認めて、兄弟の杯を酌み交わした相手がいます。それが、ミスター・サキソフォンことソニー・スティットです。1924年2月2日、マサチューセッツ州ボストン生まれ。1982年7月22日、ワシントンDCで死去。

同じ楽器奏者が同じステージに立てば、聴衆はどうしたって両者の聞き比べ(=実力判定)をするでしょう。逃げも隠れもできない同一楽器によるガチンコ対決は、古くから「バトル」と呼ばれて親しまれてきたのですが、なかでも「テナー・バトル」は、歴代のツワモノたちが火花を散らせてきたこともあり、恒常的に活動する人気のバトル・チームが何組も育ちました。

たとえば、デクスター・ゴードン&ワーデル・グレイ、ジョニー・グリフィン&エディ・ロックジョー・デイヴィス、アル・コーン&ズート・シムズなどなど。でも、そのなかで最高の人気を誇ったのが、アモンズ&スティットの「ボス・テナーズ」(複数形)です。

4曲目のテナー・バトルの定番曲〈ブルース・アップ・アンド・ダウン〉は、このコンビが生み出した最大のヒット曲。初出はプレスティッジ盤『オールスター・セッションズ』ですが、ヴァーヴ盤『ボス・テナーズ』はステレオ録音なので、左右に分かれた2本のテナーのかけあいがよくわかります。どこまでも太くたくましいアモンズの男くさいテナーと、低音から高音まよどみなく行き来するスティットのテナーの聞き比べを楽しんでください。

 

Gene Ammons, Sonny Stitt "Boss Tenors"
(Verve V/V6-8426)

Gene Ammons (tenor sax)
Sonny Stitt (alto sax, tenor sax)
John Houston (piano)
Chales Williams (bass)
Geoge Brown (drums)

Produced by Creed Taylor
Recorded in Chicago; August 27, 1961

[Tracks]
01. There Is No Greater Love (music: Isham Jones / words: Marty Symas)
02. The One Before This (music: Gene Ammons)
03. Autumn Leaves (music: Joseph Kosma / words: Jacques Prevert, Johnny Mercer [E])
04. Blues Up And Down (music: Gene Ammons, Sonny Stitt)
05. Counter Clockwise (music: Sonny Stitt)

[Links: Gene Ammons]
Gene Ammons Discography Project (@ Jazz Discography Project)

最後にポチッとよろしく。 人気ブログランキング
posted by ユキヒロ at 09:58| Comment(0) | TrackBack(0) | Verve | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月12日

ジョニー・グリフィン『ドゥ・ナッシング・ティル・ユー・ヒア・フロム・ミー』

donothingtil Youhearfromme.jpg

世界一の早吹き男(笑)、ジョニー・グリフィンが得意の早吹きを封印して、艶のある音色で極上のバラードを奏でます。前回紹介した『ケリー・ダンサーズ』と同じ、くつろぎ路線のグリフィンを楽しみたいなら、『ドゥ・ナッシング・ティル・ユー・ヒア・フロム・ミー』がおすすめです。

以前、いつもお世話になっているオーディオ・マニアのHさんのお宅で、このアルバムのオリジナル盤を聞かせてもらったことがあります。そして、驚いた。「水も滴るいい男」とはステレオタイプな物言いですが、音から水が滴り落ちるのを「見た」ことってありますか? 私は目の前で見ました。

グリフィンのテナーはまさにツヤツヤのジュルジュルで、こんな色っぽい音色は聞いたことがありません。それまで私は、いちばん艶っぽい音色を出すテナー奏者はバルネ・ウィランだと思っていたのですが、認識が改まりました。グリフィンは男の色気のかたまりです(背は小さいけれど)。

録音場所を見て「アレ?」と思ったアナタはかなりの通です。カリフォルニアのバークレイにあるクラブ「ツボ」といえば、ウェス・モンゴメリーの傑作ライヴ・アルバム『フル・ハウス』が録音されたところです。そして、このライヴは絶好調のグリフィンが聞けるアルバムとしても知られています。

その1年後、今度はウェスの兄弟バディとモンクをともなって、同じ場所でこの『ドゥ・ナッシング〜』を録音した(ただし、ライヴではない)。そう考えるとワクワクしますが、グリフィンのディスコグラフィーを見ると、「1963年、ニューヨーク録音」としているものが多いようです。「ツボ」録音というのは、間違いなのでしょうか?(ご存じの方、いらっしゃいませんか? 情報求む)

このアルバムを最後に(これがリヴァーサイドへの最終録音でした)、グリフィンはヨーロッパへと旅立ちます。

 

Johnny Griffin "Do Nothing 'Til You Hear From Me"
(Riverside RLP-462/9462)

Johnny Griffin (tenor sax)
Buddy Montgomery (piano) #1, 3, 5, 6 (vibraphone) #2,4
Monk Montgomery (bass)
Art Taylor (drums)

Produced by Orrin Keepnews
Recorded by Wally Heider
Recorded at Tsubo, Berkeley, CA; Jun 1963


[Tracks]
01. Do Nothin' Till You Hear From Me (music: Duke Ellington / words: Bob Russell)
02. The The Midnight Sun Will Never Set Will Never Set (music: Quincy Jones, Cochran, Salvador)
03. That's All (music: Bob Haymes)
04. Slow Burn (music: Johnny Griffin)
05. Wonder Why (music: Nicholas Brodszky / words: Sammy Cahn)
06. Heads Up (music: Johnny Griffin)

[Links: Johnny Griffin]
Johnny Griffin Discography Project (@ Jazz Discography Project)

最後にポチッとよろしく。 人気ブログランキング
posted by ユキヒロ at 09:24| Comment(0) | TrackBack(0) | Riverside (Jazzland) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月02日

ジョニー・グリフィン『ザ・ケリー・ダンサーズ 』

thekerrydancers.jpg

「のっぽ」のデクスターの後は、「小さな巨人」ジョニー・グリフィンといきましょう。1928年4月24日、イリノイ州シカゴ生まれです。

「リトル・ジャイアント」というくらいですから、グリフィンはちっちゃい。一説には160センチに満たないともいいます。小さなグリフィンがでっかいテナーを抱きかかえる姿を見たら、「もっと小さいアルトにかえたら?(笑)」と思わず忠告したくなるかもしれません。

ところがどっこい、グリフィンのテナーの音は誰よりもデカイ。デカイだけじゃなく、スピード勝負をしたら誰にも負けない。(シーツ・オブ・サウンド完成以前の)コルトレーンもモブレーもグリフィンに完膚なきまでに打ちのめされたクチです。「リトル」だけど「ジャイアント」と呼ばれるゆえんです。

シカゴ・テナーの伝統を継ぐ豪快なブロウと速射砲のように次から次へとくり出す早吹きで男をあげたグリフィンですが、根っこの部分では意外と「心やさしき男」なのかもしれないと思わせるのが、『ザ・ケリー・ダンサーズ』です。

副題に「その他のスイングするフォークソング」とあるように、この作品では英米に古くから伝わるフォークソングがとりあげられています(前半の4曲のみ)。民謡を歌うのに、豪快なブロウはいりません。そんなことは百も承知とばかり、グリフィンはいつもの過剰なブロウはひかえ、メロディーを慈しむようにリラックスして吹いています。これが実にいいんです。

グリフィンというと、「そこのけ、そこのけ、おれサマが通る」とばかりに肩で風を切って歩くタイプと思われがちですが、彼は派手な殴り合いばかりしている粗野な男じゃありません。愛すべきメロディーに出会えば、たちまち表情が一変して、それをやさしく包み込むような度量の大きさももっています。カッコよすぎるぞ、グリフィン!

聞きどころは、グリフィンの十八番〈ハッシャ・バイ〉。これはやはり押さえておきたい。渋いトーンで迫る男の色気を感じてください。背はちっちゃいけど(笑)。それと、最近の私のお気に入りは、2曲目の〈ブラック・イズ・ザ・カラー・オブ・マイ・トゥルー・ラブズ・ヘア〉。アメリカ南部の民謡だそうですが、実にいい曲なんです。

あとは、1曲目がアイルランド民謡、3曲目がスコットランド民謡だそうです。4曲目はイギリス民謡ですが、〈ダニー・ボーイ〉として知られていますね。ハリー・ベラフォンテが歌って有名になりました。

 

Johnny Griffin "The Kerry Dancers And Other Swinging Folk"
(Riverside RLP-420/9420)

Johnny Griffin (tenor sax)
Barry Harris (piano)
Ron Carter (bass)
Ben Riley (drums)

Produced by Orrin Keepnews
Recorded by Ray Fowler
Recorded at Reeves Sound Studios, NYC; Deccember 21, 1961 (#2, 6, 7), January 5 (#3, 5, 8), 29 (#1, 4), 1962

[Tracks] 
01. The Kerry Dancers (trad; arr. Johnny Griffin)
02. Black Is The Color Of My True Love's Hair (trad; arr. Johnny Griffin)
03. Green Grow The Rushes (trad; arr. Johnny Griffin)
04. The Londonderry Air (aka. Danny Boy) (trad; arr. Johnny Griffin)
05. 25 1/2 Daze (music: Sara Cassey)
06. Oh, Now I See (music: Johnny Griffin)
07. Hush-A-Bye (music: Sammy Fain / words: Jerry Seelen)
08. Ballad For Monsieur (music: Sara Cassey)

[Links: Johnny Griffin]
Johnny Griffin Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Barry Harris]
The Official Barry Harris Website
[Links: Ron Carter]
Ron Carter | Official Webite

最後にポチッとよろしく。 人気ブログランキング
posted by ユキヒロ at 23:31| Comment(1) | TrackBack(0) | Riverside (Jazzland) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。