2005年05月31日

デクスター・ゴードン『バウンシン・ウィズ・デックス』

bouncinwithdex.jpg Dexter Gordon - Bouncin' With Dex

先週末、行きつけの美容室で1796年産(!)のラム酒なるものをいただきました。200年以上の「時」を経てきたその味わいは、この世のものとは思えないほどまろやかで、年代物のウイスキーやブランデーとはまた違った独特の香りに、私は完全に白旗状態。いやもう、ホント、参りました。至福の酒をありがとう!

長い時間をかけて熟成を待つ。効率優先ですぐに結果が求められる時代になってしまいましたが、人の成長には時間がかかります。その瞬間、その瞬間にはもてる力を全部出し切ったつもりでも、あとから振り返ると「ああ、自分はなんて小さかったんだろう」と思うこともしばしば。だからこそ、年輪を重ねた円熟の味わいに私は惹かれます。私がそういう年齢になってきたということもあるでしょう。10代には10代の、30代には30代の感受性というものがあるんだと思います。

バウンシン・ウィズ・デックス』は、デクスター・ゴードン52歳のときの作品です。デックスは相変わらず「バウンス(タテ揺れ、弾むこと)」して元気ですが、そこはそれ、角がとれて丸みを増した円熟のテナーが耳に心地よい刺激を与えてくれます。

共演するのは、バルセロナ出身の盲目のピアニスト、テテ・モントリューです。1933年3月28日、スペイン・バルセロナ生まれ。1997年8月24日、肺ガンのため死去。

バルセロナといえば、FC バルセロナリアル・マドリードの敵対関係でもわかるように、首都マドリードを中心とするスペイン政府とは仲が悪いので有名です。「私はスペイン人ではない、カタロニア人だ」というのが彼らの誇り。テテもことあるごとに故郷カタロニアを題材にした楽曲を発表しています。

そんなテテに、デックスは〈カタロニアン・ナイツ〉を贈っています。コペンハーゲンのジャズハウス・モンマルトルを根城にしていたデックスのバックを務めたのは、ケニー・ドリューとテテ・モントリューが多かったのですが、はっきりいって私は「テテ派」です。こればっかりは好きだからしょうがない。よく動く指、跳ねるような鍵盤さばき、ノリノリでご機嫌なピアノを聞いて彼を嫌いになる人はいないはず。

ちなみに、この作品は、ヨーロッパ時代のデックスを記録し続けたスティープルチェイス最後の録音です。デックスは翌76年に故郷アメリカに帰国します。

 

Dexter Gordon "Bouncin' With Dex"
(SteepleChase SCS 1060)

Dexter Gordon (tenor sax)
Tete Montoliu (piano)
Niels-Henning Orsted Pedersen (bass)
Billy Higgins (drums)

Produced by Nils Winther
Recorded by Freddy Hansson
Recorded in Copenhagen, Denmark; September 14, 1975

[Tracks] Dexter Gordon - Bouncin' With Dex
01. Billie's Bounce (music: Charlie Parker)
02. Easy Living (music: Ralph Rainger / words: Leo Robin)
03. Benji's Bounce (music: Dexter Gordon)
04. Catalonian Nights (music: Dexter Gordon)
05. Four (music: Miles Davis)

[Links: Dexter Gordon]
Long Tall Dexter: デクスター・ゴードン特集 (@ Big-M's Jazz Page)
Dexter Gordon Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Tete Montoliu]
Tete Montoliu (@ Nelson's Navigator for Modern Jazz)
Tete Montoliu Discography (@ www.JazzDiscography.com)

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2005年05月30日

カーリン・クローグ,デクスター・ゴードン『サム・アザー・スプリング』

someotherspring Dexter Gordon & Karin Krog - Some Other Spring

コペンハーゲンを中心に活躍していたデクスター・ゴードンとノルウェーを代表する歌手カーリン・クローグがブルースとバラードをテーマに1枚のすてきなアルバムをつくりあげてくれました。『サム・アザー・スプリング』と題されたこのアルバム。クリフォード・ブラウンにヘレン・メリルとの共演盤(エマーシー盤『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』)があるように、ビル・エヴァンスにモニカ・セッテルンドとの共演盤(オランダ・フィリップス盤『ワルツ・フォー・デビー』)があるように、われらがデックスには『サム・アザー・スプリング』があるわけです。

きれいな女性を前にすると、おおかたの男は妙に饒舌になったり、逆に照れ隠しに無口になったりして、そこがかわいかったりするのですが、それはジャズメンとて例外ではありません。ふだん野郎ばかりを相手に演奏しているミュージシャンが女性ヴォーカルものに登場すると、いつもとは違った一面を見せてくれて、そこが楽しみでもあるのですが、デックスはなんと野太い声で歌まで披露してくれます(たぶん、録音された唯一の歌声です)。

5曲目の〈ジェリー・ジェリー〉はデックスが若かりし頃に在籍したアール・ハインズ楽団でビリー・エクスタインが歌ったナンバーで、飄々としたデックスのヴォーカルと色気で迫るカーリンの歌声の落差が楽しい1曲です。

でも、ここから恋に発展して、、、なんて話は、残念ながらありません。だって、このアルバムをプロデュースしたのは、カーリンの夫君でジャズ評論家&コレクターのユース・バーグですから。旦那ににらまれながら、見破られないギリギリの線で口説きにかかるデックス、なんて考えながら聞くと、さらに楽しめます(笑)。

ビリー・ホリディを思わせる歌声で、一部に熱狂的なファンがいるジミー・スコット(もちろん、男性です。でも、一聴しただけでは、そうとはわからない声の持ち主です)に捧げられたメドレー(6曲目)も目を引きます。ジミー・スコットの大ファンだというカーリンの選曲です。

もう1つ、ちょっとマニアックなお楽しみは、スウェーデンのピアニストで、澤野工房が復刻した『子供』で人気に火がついたベント・エゲルブラダの曲が入っていること。「おお、こんなところにいましたか」的な発見が、これまた楽しい1曲です。

ちなみに、このアルバムは、1971年度のスイングジャーナル誌のジャズ・ディスク大賞ヴォーカル賞を受賞しました。

 

Karin Krog, Dexter Gordon "Some Other Spring: Blues And Ballads"
(Sonet SLP 1407)

Karin Krog (vocal)
Dexter Gordon (tenor sax)
Kenny Drew (piano)
Niels Henning Orsted Pedersen (bass)
Espen Rud (drums)

Produced by Jons Berg, Hallvard Kvale
Recorded by Jan Erik Kongshaug
Recorded in Oslo, Norway; May 10, 1970

[Tracks] Dexter Gordon & Karin Krog - Some Other Spring
01. Some Other Spring (music: Irene Kitchings / words: Arthur Herzog Jr.)
02. Blue Monk (music: Thelonious Monk / words: Abbey Lincoln)
03. How Insensitve (music: Antonio Carlos Jobim / words: Vinicius DeMoraes, Norman Gimbel [E])
04. Blues Eyes (music: Berndt Egerbladh / words: Karin Krog)
05. Jerry, Jerry (music: Earl Hines, Billy Ekstine)
06. Tribute To Jimmy Scott: I Wish I NewEverybody's Somebody's Fool (music: Harry Warren / words: Mack Gordon) 〜 (music: Lionel Hampton)
07. Shiny Stockings (music: Frank Foster / words: Jon Hendricks)

[Links: Karin Krog]
Karin Krog: Norwegian Jazz Singer (Official Site)
Karin Krog (@ ジャズCDの個人ページ by K. Kudo)
[Links: Dexter Gordon]
Long Tall Dexter: デクスター・ゴードン特集 (@ Big-M's Jazz Page)
Dexter Gordon Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Kenny Drew]
Kenny Drew Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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2005年05月27日

デクスター・ゴードン『モンマルトル・コレクション』

themontmartrecollection

この時代のおおかたのジャズメンがそうだったように、デクスター・ゴードンもドラッグと酒に溺れたクチでした。40年代のビバップ・ムーヴメントの担い手の1人でありながら、50年代の大半をドラッグで棒に振ります。

この時期に残されたリーダー作はわずか2枚。55年の仮釈放時に録音されたドゥートーン盤『デクスター・ブロウズ・ホット・アンド・クール』とベツレヘム盤『ダディ・プレイズ・ザ・ホーン』はどちらも必聴です!

すっかり「過去の人」となってしまったデックスでしたが、60年代の幕開けとともに不死鳥のように甦ります。復活後のデックスの活躍ぶりは一連のブルーノート録音(全部で7作品)で確認できますが、ヨーロッパに居を構えるという人生の転機が訪れたのも、このブルーノート時代でした(62年に渡欧。途中何度かアメリカに一時帰国しますが、最終的にヨーロッパを離れたのは76年の後半でした)。

デックスのバイオグラフィーについては、Big-M さんの「Long Tall Dexter: デクスター・ゴードン特集」に愛情あふれる文章が載っていますので、そちらもご覧くださいな。

ヨーロッパに渡ったデックスは、デンマークの首都コペンハーゲンを中心に演奏活動を続けます。そして、彼のホームグラウンドともいえるのが、コペンハーゲンにある「ジャズハウス・モンマルトル」です。セイル・テイラーの怪演で知られる「カフェ・モンマルトル」と同じクラブですね(「カフェ」から「ジャズハウス」に改称したようです)。

「モンマルトル」におけるデックスのライヴ音源は、デンマークの新興レーベル(当時)スティープルチェイスから大量に出ていますが、この『モンマルトル・コレクション』はかつてブラック・ライオン・レーベルから3枚の LP で出ていたものを、2枚組の CD としてまとめたものです。

以下のCDはこのアルバムと同じ内容ですから、買うときは気をつけて。
Both Sides of Midnight (Black Lion BLCD-760103)
Body and Soul (Black Lion BLCD-760118)
Take the "A" Train (Black Lion BLCD-760133)
これらを3枚組の BOX セットにしたのが下記。
Live at the Montmartre Jazzhus (Black Lion BLCD-7606?)

さて、このライヴは「ノリよし」「メンバーよし」「選曲よし」の三拍子そろったワン・ホーン・カルテットの傑作です。デックスの朗々としたテナーを楽しむのにはもってこいの作品なのですが、このアルバムの雰囲気を知りたかったら、当時コペンハーゲン在住で、たまたま録音現場に居合わせたというマシュマロ・レコードの上不三雄さんがすてきなコラムを書いているので、そちらをご覧ください(雑文集「ジャズつれづれ草」の中の
思い出のコンサート4 デクスター・ゴードン・アット・モンマルトル」です)。



Dexter Gordon "The Montmartre Collection"
(Black Lion → Tokuma Japan TKCB-71285)

Dexter Gordon (tenor sax)
Kenny Drew (piano)
Niels-Henning Orsted Pedersen (bass)
Albert "Tootie" Heath (drums)

Produced by Alan Bates
Recorded by Birger Svan
Recorded live at Jazzhus Montmartre, Copenhagen; July 20-21, 1967

[Tracks: Disc 1]
01. Sonnymoon For Two (music: Sonny Rollins)
02. For All We Know (music: J. Fred Coots / words: Sam M. Lewis)
03. Devilette (music: Ben Tucker)
04. Doxy (music: Sonny Rollins)
05. Like Someone In Love (music: Jimmy Van Heusen / words: Johnny Burke)
06. Body And Soul (music: Johnny Green / words: Edward Heyman, Robert Sauer, Frank Eyton)

[Tracks: Disc 2]
01. There'll Never Be Another You (music: Harry Warren / words: Mack Gordon)
02. The Blues Walk (aka. Loose Walk) (music: Sonny Stitt)
03. Come Rain Or Come Shine (music: Harold Arlen / words: Johnny Mercer)
04. Misty (music: Erroll Garner / words: Johnny Burke)
05. But Not For Me (music: George Gershwin / words: Ira Gershwin)
06. Take The "A" Train (music+words: Billy Strayhorn)

[Links: Dexter Gordon]
Long Tall Dexter: デクスター・ゴードン特集 (@ Big-M's Jazz Page)
Dexter Gordon Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Kenny Drew]
Kenny Drew Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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2005年05月25日

デクスター・ゴードン『アワ・マン・イン・パリ』

ourmaninparis.jpg Dexter Gordon - Our Man In Paris

キースのソロ・ピアノばかり聞いていたら、無性に男臭いジャズ、なかでもテナーの豪快なブロウが聞きたくなって取り出したのが、この1枚。私の大好きなデクスター・ゴードンの『アワ・マン・イン・パリ』です。

デックスこと、デクスター・ゴードン。1923年2月27日、カリフォルニア州ロサンジェルス生まれ。1990年4月25日、ペンシルヴァニア州フィラデルフィアで死去。「ロング・トール・デクスター」というあだ名もあるように、デックスは身長 195 センチの大男。しかも顔までタテ長(馬ヅラ?)ときています。その大男がサックスを吹くとどうなるか。

まず、音が分厚い。テナー本来のブリッ、ブーッという低音もさることながら、高音を続けざまに吹くときでも、どこかの誰かと違ってか細いペラペラな音にはなりません。どこまでも力強く、男性的なテナー・サウンドを楽しませてくれます。

雄大な大地を思わせるおおらかな響きも、デックスならではの持ち味です。絶品のバラードはもちろん、かなりアップテンポな曲を吹くときでも、独特のおおらかさが失われないのは、彼の極端な後ノリ感覚が原因です。音を出すタイミングが、人よりかなり遅い。これ以上遅いと、ちょっと「ノリ遅れ」ちゃうんじゃないか、というギリギリのところで吹くから、スピードをあんまり感じさせないんですね。

先、先へとつんのめるアグレッシヴなタイプもいいですが、露払いは下々の者にまかせて、自分は最後に登場するデックスのようなサウンドもいいものです。「いよっ、待ってました」のかけ声が似合う、スケールの大きなサウンド。それがデックスのテナーのおいしいところです。

このアルバムには、アメリカでの生活に嫌気が差したデックスが(ドラッグでの逮捕暦が影響して、クラブなどで演奏するための必需品「キャバレー・カード」が入手できなかったことも原因だといいます)、渡欧後パリで10年ぶりに再会した旧友バド・パウエルと行ったセッションが収録されています。

「パリ」「パウエル」「デックス」とくれば、勘のいい方ならすぐに思い浮かぶのが、映画『ラウンド・ミッドナイト』。度重なる人種差別が原因でパリに移り住んだパウエルを献身的に支えた一ジャズ・ファンのフランシス・ポードラ。彼が書き残した『Dance of the Infidels: A Portrait of Bud Powell』の感動的なストーリーを下敷きに、白人女性と結婚したばっかりに軍隊で袋叩きにあったというレスター・ヤングのエピソードなどを織り交ぜてつくられたこの映画の主役は、デックス扮するテナー奏者デイル・ターナーでした。

自身も似たような経歴をたどったデックスは、とても演技とは思えないようなハマリぶりで、アカデミー賞にノミネートもされました(ホント、いい映画です。まだ観ていない方はぜひ)。

そうそう、このアルバムにベースで参加しているピエール・ミシュロ(発音あってますか?)は、映画「ラウンド・ミッドナイト」にも出ています。こんなところにも接点があったんですね。

 

Dexter Gordon "Our Man In Paris"
(Blue Note BLP-4146/BST-84146)

Dexter Gordon (tenor sax)
Bud Powell (piano)
Pierre Michelot (bass)
Kenny Clarke (drums)

Recorded by Claude Ermelin
Recorded at CBS Studios, Paris; May 23, 1963

[Tracks] Dexter Gordon - Our Man In Paris
01. Scrapple From The Apple (music: Charlie Parker)
02. Willow Weep For Me (music+words: Ann Ronell)
03. Broadway (music+words: Henry Woode, Teddy McRae, Bill Byrd)
04. Stairway To The Stars (music: Matty Malneck, Frank Signorelli / words: Mitchell Parish)
05. A Night In Tunisia (music: Dizzy Gillespie, Frank Paparelli)

[Links: Dexter Gordon]
Long Tall Dexter: デクスター・ゴードン特集 (@ Big-M's Jazz Page)
Dexter Gordon Discography Project (@ Jazz Discography Project)
[Links: Bud Powell]
Bud Powell Jazz (by Carl Smith)
Bud Powell Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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2005年05月24日

キース・ジャレット『レイディアンス』

radiance.jpg 

ようやくここまでたどり着きました(笑)。現時点におけるキースのソロの最新盤、その名も『レイディアンス』(光輝)です。

2002年10月27日、大阪フェスティバル・ホール公演の全曲と、同30日、上野の東京文化会館におけるコンサート(来日通算150回目の記念公演)から4曲をピックアップして2枚の CD にまとめてあります。

曲目をみればわかるように、このコンサートはショートピースの連なりで構成されています。キース自身のライナーによれば、演奏のはじめに、その後の展開のもととなるメロディやモチーフをほとんどおかず、「たまたまひらめいた音楽を、深く考えることなく、そのまま演奏する」ことを目指していたといいます。

これが、今までの彼のソロ演奏とどう違うのか、私にはわかりませんが、彼の中では何か特別な啓示があったのでしょう。だから、「リスナーのみなさんは、私と一緒に耐えなければならない。新しい試みはつねにリスクがあるものだから」と、ごていねいに聞き方まで指示してくれています。

芸術家の発言はえてして信用できないものですが、これはどうなんでしょう? お金を出して買った作品に対する評価は、リスナーの側で決めるのが筋でしょう? それをはじめから外堀まで埋められて、「これは新しい試みなんだから、今回はガマンしてよ。今までだって、そうやってみんなに新しい地平を見せてきたんだから」みたいなこといわれても、素直に「ハイ、そうです」とはうなずけません。

でもまあ、こんなことに目くじら立ててもしょうがない(笑)。「あのときの感動をもう一度」というファン心理があるかぎり、はじめから勝負はついています。だって、聞きたいもんね、やっぱり。

というわけで、今回ははじめから目の前に景色が広がるような、感情移入しやすい演奏ばかりではありません。でも、たとえば〈パート3〉〈同8〉〈同13〉〈同16〉あたりは、好きな人は好きでしょうね。私も嫌いじゃありません。

ちなみに、上野のコンサートの完全版は、秋に DVD で発売されるそうです。途中、間の抜けた拍手のために2度ばかり中断して弾き直す場面があったという上野のライヴ。そのために今回の CD でも一部しか収録されなかったようですが、はたしてどうなることやら。

後日談:
上で触れた DVD はもう発売されました。『東京ソロ 2002: The 150th Concert in Japan』です。私はまだ買うかどうか迷っています。どうしようかな?

 

Keith Jarrett "Radiance"
(ECM 1960/61)

Keith Jarrett (piano)

Produced by Manfred Eicher
Recorded by Martin Pearson
Recorded live at Osaka Festival Hall; October 27, 2002 (#1-13)
Recorded live at Tokyo Bunka Kaikan; October 30, 2002 (#14-17)

[Tracks: Disc 1] 
01. Radiance Part 1 (music: Keith Jarrett)
02. Radiance Part 2 (music: Keith Jarrett)
03. Radiance Part 3 (music: Keith Jarrett)
04. Radiance Part 4 (music: Keith Jarrett)
05. Radiance Part 5 (music: Keith Jarrett)
06. Radiance Part 6 (music: Keith Jarrett)
07. Radiance Part 7 (music: Keith Jarrett)
08. Radiance Part 8 (music: Keith Jarrett)
09. Radiance Part 9 (music: Keith Jarrett)

[Tracks: Disc 2] 
01. Radiance Part 10 (music: Keith Jarrett)
02. Radiance Part 11 (music: Keith Jarrett)
03. Radiance Part 12 (music: Keith Jarrett)
04. Radiance Part 13 (music: Keith Jarrett)
05. Radiance Part 14 (music: Keith Jarrett)
06. Radiance Part 15 (music: Keith Jarrett)
07. Radiance Part 16 (music: Keith Jarrett)
08. Radiance Part 17 (music: Keith Jarrett)

[Links: Keith Jarrett]
keithjarrett.org (by Olivier Bruchez)
The ultimate on-line Keith Jarrett Discography (by Mirko Caserta)
Keith Jarrett Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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キース・ジャレット『ザ・メロディー・アット・ナイト・ウィズ・ユー』

themelodyatnightwithyou.jpg

1997年4月、イタリア・ツアーで演奏中のキース・ジャレットを極度の倦怠感が襲います。突然のことで、何がどうなっているのか自分でもまったくわからない。「まるでエイリアンが自分の身体の中に入り込んできたみたいだった」とはキースの弁ですが、身体のコントロールを失う恐怖は想像するにあまりある(しかも演奏中にですよ!)。プロの矜持でなんとかそのツアーは終えたようですが、その後の予定はすべてキャンセル。無期限の活動休止に追い込まれてしまいます。

慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome)と呼ばれるその病気は、長期にわたって原因不明の微熱や疲労感、だるさが続き、ひどいときには起き上がることもできなくなるといいます。集中力が勝負の即興音楽の世界では、致命的ともいえる病気です。

その間の経緯については、キースの日本公演を一手に引き受けてきたプロモーター鯉沼利成さんの手になる Koinuma's Note「キース・ジャレット〜ソロ・コンサートへの長い道のり〜」にくわしく載っています。

この『メロディ・アット・ナイト、ウィズ・ユー』は、自宅で病気療養中のキースがリハビリをかねてひそかに録りためたものです。場所は自宅のスタジオ。録音もキースが自分で手がけています。

演奏しているのは、5曲目の後半のオリジナル〈瞑想〉を除いて、スタンダード・ソングばかり。キースのソロでは、はじめての「名曲集」になっています。

それにしても、なんという慈愛にみちた音楽でしょう。心のすきまにジワーッと染み込んでいくような、あたたかく、やさしいメロディーたち。けっして手数は多くはありません。むしろよけいな装飾をすべてはぎとって、最後に残った美しいメロディーの核だけが訥々と演奏されています。

人生の晩秋を迎えた老夫婦が、小春日和の陽気に誘われて、デッキチェアに腰を下ろして2人のこれまでをふりかえる。あたかかい眼差しと静かなほほえみが交差します。いいときも悪いときもいっしょに乗り越え、心の底からわかりあえる仲だからこその2人だけの世界。いいなあ、本当に。

どれもすてきな演奏ですが、なかでも感涙ものが5曲目の〈マイ・ワイルド・アイリッシュ・ローズ〉。このアルバムは、夫人のローズ・アン(Rose Anne)に捧げられています。そして、この曲は、苦労をともに乗り越えてきた奥さんに対する感謝といたわりの心に満ちています。子守唄代わりにこの曲を聞くだけで、日常生活のいやなことはすっかり洗い流されてしまうでしょう。おすすめです。

 

Keith Jarrett "The Melody At Night, With You"
(ECM 1675)

Keith Jarrett (piano)

Produced by Keith Jarrett, Manfred Eicher
Recorded by Keith Jarrett
Recorded at Cavelight Studio, NJ; late 1997

[Tracks]
01. I Loves You, Porgy (music: George Gershwin / words: DuBose Heyward, Ira Gershwin)
02. I Got It Bad (And That Ain't Good) (music: Duke Ellington / words: Paul Francis Webster)
03. Don't Ever Leave Me (music: Jerome Kern / words: Oscar Hammerstein II)
04. Someone To Watch Over Me (music: George Gershwin / words: Ira Gershwin)
05. My Wild Irish Rose (traditional; arr. Keith Jarrett)
06. Blame It On My Youth 〜 Meditation (music: Oscar Levant / words: Edward Heyman) 〜 (music: Keith Jarrett)
07. Something To Remember You By (music: Arthur Schwartz / words: Howard Dietz)
08. Be My Love (music: Nicholas Brodszky / words: Sammy Cahn)
09. Shenandoah (traditional; arr. Keith Jarrett)
10. I'm Thru With Love (music: Matty Malneck, Fud Livingston / words: Gus Kahn)

[Links: Keith Jarrett]
keithjarrett.org (by Olivier Bruchez)
The ultimate on-line Keith Jarrett Discography (by Mirko Caserta)
Keith Jarrett Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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2005年05月23日

綾戸智絵『ユア・ソングス』

yoursongs.jpg 綾戸智絵 - Your Songs

数ある〈オーヴァー・ザ・レインボウ〉(虹の彼方に)のなかでも、個人的にお気に入りなのは、先に紹介したキース・ジャレットの『ラ・スカラ』におけるアンコール演奏と、綾戸智絵さんの初期の傑作『ユア・ソングス』におさめられた同曲です。

今ではすっかり「おばはん」になってしまったチーボーですが(失礼。でも自分でゆうとるから、ええでっしゃろ!)、このアルバムの頃は本当にスゴかった。ついに日本にも本物のゴスペルを歌える人が出てきたのかと、えらい衝撃を受けました。なかでも彼女が弾き語りで歌いあげる〈オーヴァー・ザ・レインボウ〉の迫力といったら。まさに悶絶ものです。

この『ユア・ソングス』は彼女の 2nd アルバムですが(自主制作盤は除きます)、これと 1st の『フォー・オール・ウィー・ノウ』はマジでおすすめです。彼女がメジャーになる前の作品ですが、この2枚がもっともジャズを感じさせます。

2枚とも、今は亡き日野元彦さんが参加しています。彼の存在がいかに大きかったか。それは彼が参加していないその後のアルバムと聞き比べればわかります。これ以降の作品では、参加メンバーの数が減り、彼女の弾き語りにスポットライトを当てた曲が増えて、個性のぶつかり合いを楽しむジャズ的なスリルがどんどん希薄になっていくのです。

彼女は抜群に歌がうまい。ピアノも弾ける。だからそこがもっとも目立つように商品構成を考える。間違っていません。でも、本当にそこを際立たせるためには、もっと別の要素を盛り込むべきだと思うです。

彼女の〈オーヴァー・ザ・レインボウ〉が私たちの心を打つのは、それを取り囲む別の曲やバック陣が充実しているからです。ジャズの匂いがプンプンしてくるアルバムのなかに、ただ1曲挿入された絶品の弾き語り。どうです? これだけ読んでも聞いてみたくなるでしょ? いちばんおいしいものは、ほんのちょっとでいいんです。これ、ホントの話です。

余談ですが、彼女のアルバムからジャズ的要素が消えていったのは、彼女がメジャー化したからというよりも、「ジャズ・シンガー」から形容詞のつかない「ザ・シンガー」へと回帰していった結果のような気がします。そして、ジャズという枠組み、境界があいまいになるにつれて、ポピュラリティを獲得した。人間「綾戸智絵」で勝負できるようになったんだと思います。すごい強烈なキャラですからね(笑)。



Chie Ayado "Your Songs"
(EWE EWCD-0006)

Chie Ayado (vocal, piano #5)
Mikio Masuda (piano)
Tsutomu Okada (bass)
Motohiko Hino (drums) #6, 8, 9, 11-13
Yoshihito Etoh (drums) #1-4, 7, 10
Tetsuroh Kawashima (soprano sax, tenor sax) #3, 4, 9, 11-13)

Produced by Kiyoshi Itoh, Mikio Masuda
Recorded and Mixed by Teruhiko Hirokane
Recorded at Onkio Haus, Tokyo; Sep 30, Oct 1, 2, 1998

[Tracks] 綾戸智絵 - Your Songs
01. The Great City (music+words: Curtis Lewis)
02. Your Song (music: Elton John / words: Bernie Taupin)
03. Baby, Baby, All The Time (music+words: Bobby Troup)
04. Sunny (music+words: Bobby Hebb)
05. Over The Rainbow (music: Harold Arlen / words: Edgar Y. Harburg)
06. What A Wonderful World (music: Bob Thiele / words: George David Weiss)
07. This Can't Be Love (music: Richard Rodgers / words: Lorenz Hart)
08. My Foolish Heart (music: Victor Young / words: Ned Washington)
09. Seven Steps To Heaven (music: Victor Feldman, Miles Davis)
10. What Kind Of Fool Am I (music: Anthony Newley / words: Leslie Bricusse)
11. Can't Buy Me Love (music+words: John Lennon, Paul McCartney)
12. Once Upon A Summertime (music: Eddie Barcle, Michel Legrand / words: Eddie Marray[F], Johnny Mercer[E])
13. Mack The Knife (music: Kurt Weill / words: Bertolt Brecht[G], Marc Blitzstein[E])
14. Stardust (music: Hoagy Carmichael / words: Mitchell Parish)

[Links: Chie Ayado]
Jazz Singer Ayado Chie (Official Website)
綾戸倶楽部

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キース・ジャレット『ラ・スカラ』

lascala.jpg

前作『ウィーン・コンサート』はウィーン国立歌劇場での独奏会でしたが、今回の舞台はミラノのスカラ座。この2つにパリのオペラ座を加えれば、世界三大オペラ座と相成ります。格調高いスカラ座のステージで、キースはたった独りでもがき苦しみます。

そう、この『ラ・スカラ』を覆うのは、とても重苦しい雰囲気です。キースは音の響きを確かめるかのように、1音1音、ていねいに音を選びながら演奏をはじめます。とても静かな幕開けです。ははーん、徐々に盛り上げていくいつものパターンだなと思って聞いていると、裏切られます。今日のキースは、なかなかはじけません。どこまでいっても平たんな印象です。

「おいおい、今日はどうしちゃったんだよ。もしかして、このまま終わっちゃうつもり?」としびれを切らしかける頃、ようやくたどり着いた安住の地(41分前後から)。でも、『ウィーン』のように感動が束になってわきあがってくる感じはしません。やはりどこか引っかかる。今日はダメか。そうか、そういう日もあるよ。しかたがないさ。

前半の出来を本人がどう感じていたかは知る由もありませんが、パート2では、迷いを振り払うかのように、キースは頭からガンガン飛ばします。キースのソロのなかでは、おそらくもっともフリーっぽい展開です。パルス信号のように耳に突き刺さる高音の連打に、稀代のメロディー・メイカー、キースの別の一面をかいま見ることができます。

この演奏の好き嫌いは分かれるかもしれません。私自身も、うまく気持ちの整理ができないまま、この文章を書いています。ある種のスゴみは感じられます。セシル・テイラーとは別の意味で、フリーのソロピアノとして非常にレベルの高い演奏だとは思います。でも、それと好き嫌いは別なんですね。少なくとも今これを書いている時点では、『ウィーン』のほうが好きだなあ、私は。

そして、アンコールでひっそりと演奏される〈オーヴァー・ザ・レインボウ〉(虹の彼方に)。全身全霊でピアノと対峙し、ひと仕事をやり遂げたキースの満足感や安堵感がにじみ出ています。緊張の糸が解け、肩の力を抜いて奏でられるくつろぎのメロディー。パンチの効いたフルコースの最後に出てくる、ほんのりと甘い上品なデザート。この雰囲気は、次作の『ザ・メロディー・アット・ナイト・ウィズ・ユー』を彷佛させるものがあります。絶品です。

 

Keith Jarrett "La Scala"
(ECM 1640)

Keith Jarrett (piano)

Produced by Manfred Eicher
Recorded and Remixed by Jan Erik Kongshaug, Mnfred Eicher
Recorded live at Teatro alla Scala, Milano; February 13, 1995

[Tracks]
01. La Scala, Part 1 (music: Keith Jarrett)
02. La Scala, Part 2 (music: Keith Jarrett)
03. Over The Rainbow (music: Harold Arlen / words: Edgar Y. Harburg)

[Links: Keith Jarrett]
keithjarrett.org (by Olivier Bruchez)
The ultimate on-line Keith Jarrett Discography (by Mirko Caserta)
Keith Jarrett Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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キース・ジャレット『ウィーン・コンサート』

viennaconcert.jpg

以前、作品としての完成度は『ケルン・コンサート』が一番だと前に書きましたが、ごめんなさい、前言撤回します。完成度は、この『ウィーン・コンサート』のほうが上です。いやもう、ホントにすばらしい! この美しさを言葉で表現することなど不可能です。

『ケルン』時代のキース・ジャレットのソロは、ゴスペル、フォーク、ジャズ、ラグタイム、ブルース、クラシックなどの旋律が、走馬灯(って見たことありますか?)のように入れ替わり立ち替わり現れては消える夢の世界。キースの来歴を見るかのような、さまざまな要素が入り乱れて、起伏の激しいダイナミックな展開が聞きものでした。

『ウィーン・コンサート』は違います。80年代から一連のクラシック作品をものにしてきたキースが、オペラの殿堂「ウィーン国立歌劇場」に乗り込んで、クラシックに対する思いのたけを披露します。まるで愛(しかも一方的な片思い)の告白を聞いているかのような、真摯で切ない美旋律。私は語るべき言葉を失い、ただひたすら酔いしれました。マジで感動します!

驚くほどよく練られた(いつ練っているのかはまったく不明ですが)構成と、1つのフレーズをとことんまで掘り下げて、そのなかに光り輝く美の核心を瞬時に取り出す力。即興によるソロ・コンサートという誰もが恐れをなす大事業に、長年取り組み続けてきたキースでしか到達できない境地がここにあります。

キースはここまで深化したのです(進化というより、深みをましたといったほうがふさわしい気がします)。それは初期のソロ作品と聞き比べるとよくわかります。キースは格段にうまくなっている。なんたることでしょう。あの『ケルン・コンサート』の、その先があるなんて!

ところで、キースの恋愛は成就したのか。それとも片思いで終わってしまったのか。私は「思いは遂げられた」と聴きました。

〈パート1〉の後半、セシル・テイラーばりの激しいフリー演奏(25分10秒あたりから。こんなに激しいキースはめったに聞けません。鬼気迫るものがあります)を経て、一瞬の静寂をさしはさんで、突如訪れる歓喜の瞬間(32分16秒前後)。

それまでの地を這うような展開から一転して、心を自由に解き放ち、大空高く舞うキース。今まさに眼前にくり広げられる天上の音楽。37分52秒あたりで轟くキースの「アーオ」という声も、すごいことをやってのけたという達成感に満ちています。感動的ですらあります。マジでおすすめです。まだ聞いていない人は今すぐゲット。きっと後悔はさせません。

 

Keith Jarrett "Vienna Concert"
(ECM 1481)

Keith Jarrett (piano)

Produced by Manfred Eicher, Keith Jarrett
Recorded by Peter Laenger
Recorded live at Vienna State Opera; July 13, 1991

[Tracks]
01. Vienna, Part 1 (music: Keith Jarrett)
02. Vienna, Part 2 (music: Keith Jarrett)

[Links: Keith Jarrett]
keithjarrett.org (by Olivier Bruchez)
The ultimate on-line Keith Jarrett Discography (by Mirko Caserta)
Keith Jarrett Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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2005年05月20日

キース・ジャレット『パリ・コンサート』

parisconcert.jpg

キース・ジャレットのソロ・コンサートのなかで、もっとも内省的な雰囲気を感じさせるのが、この『パリ・コンサート』です。

まんま「クラシックの小品」的な美旋律で幕を開けるこの日の演奏は、どこまでいってもキースの独り舞台。観客に向かって開かれた演奏というより、外部とのパイプを切断して、ひたすら自己の内面深く掘り下げていくような、自己陶酔的な響きがします。

21分40秒あたりから延々とくり返される「ダダダッ、ダダダダッ、ダダダダダッ」という左手のリズム。執拗に刻まれる一定のパターンが、かえって人の心を惑わせるのだと、はじめて知りました。あまりのしつこさに、病的な徴候すら感じてしまうのです。この『パリ・コンサート』と比べると、初期の『ソロ・コンサート』や『ケルン・コンサート』なんかは、よっぽど聴衆に対して開かれた音楽でした。

もちろんたった独りの作業ですから、自己陶酔的な面はいつでも感じられるのですが、初期の作品には聞き手にカタルシスをもたらす瞬間が必ずあったのです。でも、この作品にはそれがありません。観客は、キースの自分探しの旅(ただし、ダークサイドの探求に限る)に、ただ黙ってつきあうしかないのです。ちょっとしんどい気がします。

コンサート中、唯一訪れる華やぎは、アンコールで〈ザ・ウインド〉というラス・フリーマンの曲を弾きはじめた瞬間ですが、それもすぐにかき消され、すぐにもとの殻に閉じこもってしまいます。ああ、キースよ、もう一度出てきて、私たちにお前の顔を見せておくれ!

このコンサートが催されたパリのサル・プレイエルといえば、フランスのピアノ・メーカープレイエル社が所有する名門コンサート・ホール。ジャズの世界でも、カウント・ベイシーやオスカー・ピーターソンらの録音が残っています(現在は改修中。2006年完成予定だそうです)。

「ドイツのピアノはピアノの音がする。フランスのピアノは香水の香りがする。そして、プレイエルはショパンの音がする」

プレイエルを紹介するとき、必ずといっていいほど出てくるこのフレーズ。ショパンの愛したピアノといわれると、なるほど「そんな音」が聴こえてくる気がするから不思議です。

 

Keith Jarrett "Paris Concert"
(ECM 1401)

Keith Jarrett (piano)

Produced by Manfred Eicher
Recorded by Peter Laenger, Andreas Neubronner
Recorded live at Salle Pleyel, Paris; October 17, 1988

[Tracks]
01. October 17, 1988 (music: Keith Jarrett)
02. The Wind (music: Russ Freeman, Jerry Gladstone)
03. Blues (music: Keith Jarret)

[Links: Keith Jarrett]
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2005年05月18日

キース・ジャレット『ダーク・インターヴァル』

darkintervals.jpg

1984年、キース・ジャレットはソロ・コンサートの終結を宣言します。その名も「ラスト・ソロ」と銘打ったツアーが日本全国(12回公演)で開催され、同名の映像作品も残されています。DVD『ラスト・ソロ』1984年1月25日、東京簡易保険ホールにて。

すでに前年の1月にスタンダーズによる初録音を終え、ピアノ・トリオという古くて新しいフォーマットによって、ジャズの伝統を再構築する作業に没頭しはじめたキースにとって、ソロピアノによるインプロヴィゼーションは、自分のうちなる音楽を表現するのにふさわしい方法ではなくなってきたのでしょう、少なくともこの時点では。

「この時点では」と譲歩がついたことでわかるように、終結宣言からわずか3年後、キースは再びたった独りで舞台にあがります。「ニュー・ソロ・ピアノ」と題して行われた東京のサントリーホールにおけるコンサートは、キースの100回目の日本公演を記念するスペシャル・イベントでもありました。その模様を収録したのが、この『ダーク・インターヴァル』です(暗い幕間といった意味でしょうか)。

ラスト・ソロ・ツアーを観にいった人にはお気の毒ですが、そもそも芸術家に一貫性を求めることは無意味です。アーティストはその言動によってではなく、できあがった作品の完成度によって評価されるもののはず。ですから、その時々の感性の赴くまま、ソロが最適だと思えば躊躇なくソロを選択する。それが芸術家というものだと思います(ちょっとキースに甘いかな?)。

この作品は、ソロ・コンサートとしては初の短編集になっています。『ステアケイス』のところでも書きましたが、短編をものにするには、切りのいいところで「えいっ」と切りあげる思いきりのよさが必要です。音数が少ないため、1音1音によりいっそう神経を使って、全体の構成を瞬時にイメージできなければ、起承転結のはっきりした演奏にしあがりません。

おそらく、スタンダーズによるスタンダード解釈の方法論が、ここでの演奏に影響したのではないでしょうか。いったん長大な物語を書きはじめると、想像力がどんどんふくらんで、作品をコンパクトにまとめるのがむずかしくなるように、キースのソロもときには広がりすぎて収拾がつかなくなった(実際、破綻してしまったコンサートも少なくなかったようです。もちろんそれらは作品としては残りませんが、人間キースを実感できるエピソードです)。

どんどん拡散して、場合によっては希薄になってしまった。それを、いったんスタンダードという原点に立ち返ることで、もう一度ギュッと凝縮して作品としてまとめあげる力を手に入れた。そうして生まれたのが、この『ダーク・インターヴァル』ではないかと思うのです。

ここでの演奏は、おそろしく濃密です。音が幾重にも重なり、重苦しささえ感じられるほどです。サントリーホールの「響きすぎじゃないか」と思うくらいのピアノの音色が、その重層感に拍車をかけます。短編集なのに、聞くのにちょっとためらいがある。それくらい、重たい作品です。

実はこの3日後、同じサントリーホールで、追加公演が行われました。そこで演奏されたのは、誰もが知っているスタンダード・ソング。それまでもアンコールで〈オーヴァー・ザ・レインボウ〉を演奏したことはありましたが、ソロ・コンサートを丸々スタンダード・ソングで埋め尽くしたのは、後にも先にもこの1回かぎり。関係者も事前に知らされていなかった、キースの遊び心です。ここらへんの事情は、キースの来日公演をすべてプロモートしてきた鯉沼ミュージックのサイトにある「Koinuma's Note」にくわしく書かれています。

なお、この1回かぎりのスタンダード・ソロ・コンサートの模様は、DVD『ソング・ブック:ライヴ・アット・サントリー・ホール '87』で確認することができます。

 

Keith Jarrett "Dark Intervals"
(ECM 1379)

Keith Jarrett (piano)

Produced by Manfred Eicher
Recorded by Kimio Oikawa
Recorded live at Suntory Hall, Tokyo; April 11, 1987

[Tracks]
01. Opening (music: Keith Jarrett)
02. Hymn (music: Keith Jarrett)
03. Americana (music: Keith Jarrett)
04. Entrance (music: Keith Jarrett)
05. Parallels (music: Keith Jarrett)
06. Fire Dance (music: Keith Jarrett)
07. Ritual Prayer (music: Keith Jarrett)
08. Recitative (music: Keith Jarrett)

[Links: Keith Jarrett]
keithjarrett.org (by Olivier Bruchez)
The ultimate on-line Keith Jarrett Discography (by Mirko Caserta)
Keith Jarrett Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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2005年05月17日

キース・ジャレット『ブレゲンツ・コンサート』

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前作『サンベア・コンサート』で行き着くところまで行ってしまった感のあるキースのソロですが、この『ブレゲンツ・コンサート』では新たな地平を切り開きます。クラシックへの接近がそれです。

『ブレゲンツ・コンサート』というのは CD の邦題です。原題『Concerts』が複数形なのは、LP 時代はブレゲンツ録音(1枚)とミュンヘン録音(2枚)をカップリングしていたから。ミュンヘン録音は、なぜか CD 化の際、カットされてしまいました。

1980年代のキースといえば、83年からはじまるスタンダーズの活動ばかりに目が向きますが、84年に ECM New Series の第1弾としてリリースされた(即興を中心としたジャズではなく、記譜された音楽=クラシックや現代音楽をメインとしたシリーズ)アルヴォ・ペルトの『タブラ・ラサ』に参加したあたりから、キースのクラシックへの傾倒が明らかになります。

キースが『バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻』『第2巻』『バッハ:ゴルトベルク変奏曲』を録音するのは80年代後半になってからですが、すでにこの頃からキースの頭の中ではクラシック特有の旋律が鳴っていたのでしょう。この『ブレゲンツ・コンサート』でも、力強い演奏のそこかしこに、それらしいフレーズが聴かれます。

それにしても、ブレゲンツではインフルエンザでも流行っていたのでしょうか。客席のあちこちから聞こえてくる咳、咳、咳。その場にいない私でさえ気になるのですから、神経質なキースの耳に入らないわけありません。それを打ち消すかのように、いつにもまして唸り、吠え、足を踏み鳴らし、鍵盤を叩きつける指に力がこもるキース。でも、その力が異様な盛り上がりにつながっていくのです。

この『ブレゲンツ』では、『ケルン』で見せたこの世のものとは思えない美しさや『京都』や『札幌』(『サンベア・コンサート』に収録)で見せたそこはかとない可憐な響きは影を潜め、もっと力強く、激しい演奏がくり広げられます。そして、突如現れる幾何学文様のようなクラシックの響き。全体を通して、ポジティヴな響きに満ちている気がするのは、私だけではないようです。

この作品は、アンコールで「曲」を演奏したことでも話題になりました。まったくの白紙の状態で鍵盤に向かい、その場でストーリーを生み出していく従来のソロに加えて、あらかじめ作曲された「曲」を演奏した。それだけで話題になってしまうところが、キースのすごいところです(笑)。

〈アンタイトルド〉も〈ハートランド〉もいいのですが、私が聞きたいのは、未 CD 化のミュンヘン録音に含まれていた〈Mon Coeur Est Rouge〉。これは、『ステアケイス』と同日録音されたフランス映画のためのオリジナルで、その後『レインボー・ロータス』という阪神大震災のためのチャリティ盤に〈Paint My Heart Red〉というタイトルで収録された曲です。これがいいらしいんです(残念ながら、私はどちらも未聴です)。アマゾンなどでも激賞されています。ああ、聞いてみたいなあ〜!

 

Keith Jarrett "Concerts"
(ECM 1227/29)

Keith Jarrett (piano)

Produced by Manfred Eicher
Recorded by Martin Wieland
Recorded live at Festspielhaus, Bregenz, Austria; May 28, 1981

[Tracks]
01. Bregenz, May 28, 1981, Part 1 (music: Keith Jarrett)
02. Bregenz, May 28, 1981, Part 2 (music: Keith Jarrett)
03. Untitled (music: Keith Jarrett)
04. Heartland (music: Keith Jarrett)

未 CD 化のミュンヘン・コンサートのデータも載せておきます。
Recorded live at Herkulessaal, Munich; Jun 2, 1981

01. Munich, June 2, 1981, Part 1 (music: Keith Jarrett)
02. Munich, June 2, 1981, Part 2 (music: Keith Jarrett)
03. Munich, June 2, 1981, Part 3 (music: Keith Jarrett)
04. Munich, June 2, 1981, Part 4 (music: Keith Jarrett)
05. Munich, June 2, 1981, Part 5 (music: Keith Jarrett)
06. Munich, June 2, 1981, Part 6 (music: Keith Jarrett)
07. Mon Coeur Est Rouge (music: Keith Jarrett)
08. Heartland (music: Keith Jarrett)

[Links: Keith Jarrett]
keithjarrett.org (by Olivier Bruchez)
The ultimate on-line Keith Jarrett Discography (by Mirko Caserta)
Keith Jarrett Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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2005年05月16日

キース・ジャレット『サンベア・コンサート』

sunbearconcerts.jpg

一部の好事家向けのコンプリートものや通販なんかでよく見かけるアンソロジーならいざ知らず、たった1人のピアニストの、わずか数日間のソロ・コンサートの記録だけで、LP 10枚組の超重量級 BOX セットを発売しようというのは、偉業を通り越して、はっきりいって暴挙です。商売を考えたら、とてもじゃないけれど割に合わない。そう考えるのがふつうの神経です。でも、それを実際にやってしまった人たちがいます。そして、それがかなりの勢いで売れたというのですから驚きです。

キース・ジャレットがはじめて日本の地を踏んだのは1974年。アメリカン・カルテットを率いての来日でした(全国10回公演。最終日のみソロ・コンサート)。翌75年も同じメンバーで来日(12回公演。最終日のみソロ・コンサート)。そして、76年11月、ついにたった独りで全国を縦断するソロ・ツアーが実現します。

ツアーは京都を皮切りに、福岡、大阪、名古屋、東京(2回公演)、横浜、札幌の計7都市で行われ、そのうちアルバムに収録されたのは、11月5日の京都(@京都会館)、11月8日の大阪(@大阪サンケイホール)、11月12日の名古屋(@愛知文化講堂)、11月14日の東京(@中野サンプラザ)、11月18日の札幌(@札幌厚生年金会館)の5回の公演です。

この全国ツアーの模様をすべて録音しようという遠大な企画は、当時、ECM の日本販売代理店をしていたトリオ・レコード(現ケンウッド)のほうから提案されました。最終決定権はレーベル・オーナーのマンフレート・アイヒャーが握っていたとはいえ、いわば日本主導で実現した快挙(暴挙?)だったわけです。

ここらへんの事情は、このブログでも何度か紹介している 稲岡邦彌さんの『ECM の真実』でどうぞ。誕生したばかりの ECM をなんとか日本に根づかせようと、試行錯誤を重ねた当時の人たちの熱いドラマが、「プロジェクトX」っぽくてちょっと感動的です。

ちなみに、タイトルの「サンベア(Sun Bear)」というのは、「ヒグマ(羆=日熊=Sun Bear)」の言葉遊びからつけられたそうで(キースとアイヒャーがこの「Sun Bear」をえらく気に入ったらしい)、表紙に鎮座するカタカナの題字は、稲岡さんのお父様が書かれたとのこと。いやはや、いろいろあるものです(笑)。

この『サンベア・コンサート』は、やはり万人向きとはいえません。なにせこのボリュームですから、聞き通すだけでもひと苦労です。今回、このブログのために、この2日間ですべてのディスクを2回以上聞きましたが、正直かなり骨の折れる作業でした。

CD(6枚組)になって少しは買いやすくなりましたが、それでも1万円近くの出費。私もこれを買うまでは、それなりの逡巡がありました(だからこそ、手に入れたときの感慨はひとしおなのですが)。

結論をいいましょう。ふだん BGM のようにジャズを聞く人。あなたはこの CD を買う必要はありません。きっと後悔します。いくらキースが天才だとはいえ、同じ人間がやることですから、似たような展開は当然訪れます。冗漫だと思うところもあるでしょう。ピアノの音色以外の刺激がないソロ演奏ですから、BGM として聞くのであれば、『ソロ・コンサート』や『ケルン・コンサート』などの単品でじゅうぶんです。

逆に、新しい CD を手にしたら、まずはじっくりとジャケットを眺めまわし、おもむろにプレイヤーにセットして、何度もくり返し聞き込んで悦に入る人。あなたはぜひこのアルバムを買ってください。きっと損はしません。細部に耳を傾ければ、聞くたびに新たな発見があるのが、キースのソロの魅力です。ときに激しく、ときにゆるやかに、そしてときには集中力が途切れかけて破たん寸前までいくこともありますが、そういう微妙な感情のヒダを敏感にキャッチできる神経の持ち主に対しては、キースはきっと頬笑みを返してくれるでしょう。聞けば聞くほど、キースが好きになる。それがこの『サンベア・コンサート』がもつ魔力です。

それでも、『サンベア・コンサート』は重たすぎるという人。そんなあなたには、私のとっておきの楽しみ方をお教えしちゃいましょう。まず、重たい箱から CD を出してください。それをそのまま CD ラックに戻してください。ハイ、それでおしまいです(笑)。

『サンベア・コンサート』が重たいというのは、6枚1セットという意識があるからです。それを単体にわけて考えればいいのです。「今日はケルンでいこう」「今日はブレーメン(ソロ・コンサートの1枚目)がいいな」というのと同じように、「今日は京都にしようか」「今日は札幌って気分だな」というのもアリなわけです。

実際、京都や札幌での演奏は、「京都コンサート」「札幌コンサート」として単品で勝負できるくらい、充実しています。「パリ」「ウィーン」「名古屋」「大阪」「ブレゲンツ」「東京」と並べていけば、別に違和感ないでしょう? 

そういうふうにバラバラにして考えると、1枚1枚違った個性にも自然と耳がいくようになります。居住まいを正さないと聞けなかった「サンベア」が、日常生活に溶け込んでくれるんです。単体聞き、おすすめです。

 

Keith Jarrett "Sun Bear Concerts"
(ECM 1100)

Keith Jarrett (piano)

Produced by Manfred Eicher
Recorded by Okihiko Sugano, Shinji Ohtsuka
Recorded live in Kyoto; Nov 5, 1976 (Disc 1)
Recorded live in Osaka, Nov 8, 1976 (Disc 2)
Recorded live in Nagoya, Nov 12, 1976 (Disc 3, 6-3)
Recorded live in Tokyo, Nov 14, 1976 (Disc 4, 6-2)
Recorded live in Sapporo, Nov 18, 1976 (Disc 5, 6-1)

[Tracks: Disc 1]
01. Kyoto, Nobember 5, 1976, Part 1 (music: Keith Jarrett)
02. Kyoto, Nobember 5, 1976, Part 2 (music: Keith Jarrett)

[Tracks: Disc 2]
01. Osaka, November 8, 1976, Part 1 (music: Keith Jarrett)
02. Osaka, November 8, 1976, Part 2 (music: Keith Jarrett)

[Tracks: Disc 3]
01. Nagoya, November 12, 1976, Part 1 (music: Keith Jarrett)
02. Nagoya, November 12, 1976, Part 2 (music: Keith Jarrett)

[Tracks: Disc 4]
01. Tokyo, November 14, 1976, Part 1 (music: Keith Jarrett)
02. Tokyo, November 14, 1976, Part 2 (music: Keith Jarrett)

[Tracks: Disc 5]
01. Sapporo, November 18, 1976, Part 1 (music: Keith Jarrett)
02. Sapporo, November 18, 1976, Part 2 (music: Keith Jarrett)

[Tracks: Disc 6]
01. Encores, Sapporo (music: Keith Jarrett)
02. Encores, Tokyo (music: Keith Jarrett)
03. Encores, Nagoya (music: Keith Jarrett)

[Links: Keith Jarrett]
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2005年05月14日

キース・ジャレット『ステアケイス』

staircase.jpg

キースのスタジオ録音によるソロ作品としては、『フェイシング・ユー』(71年録音)以来となる作品です。フランスの短編映画『Mon coeur est rouge』(英語名:Paint My Heart Red。1976年作品。残念ながら未見です)の音楽を依頼され、パリのダヴー・スタジオを訪れたのが75年10月。その仕事をいち早く切り上げ、そのスタジオにあったピアノに惚れ込んだキースは、残った時間を使って、急きょソロピアノの録音を決意します。そうして生まれたのが、この『ステアケイス』(階段)です。

ほかの楽器と違って、ピアノは持ち運ぶことができません。そのため、プロのピアニストは、ライヴ会場やスタジオにおいてある、さまざまなコンディションのピアノと折り合いをつけながら演奏することを強いられます。当然、好みもあるでしょう。場合によっては、調律の狂ったピアノを演奏しなければならないことだってあるわけです。だからこそ、いいピアノと出会ったときの喜びはひとしおです。このアルバムでは、「これはどう?」「こうやるとどう鳴る?」と、まるで新しいおもちゃを与えられた子供のように、ピアノの一音、一音を楽しんでいるキースの様子を思い描くことができます。

ソロ・コンサート』や『ケルン・コンサート』が山あり谷ありの一大長編ロマンだとすると、4つの組曲(それぞれ2、3パートからなる)で構成されたこの作品は、さながら連作短編小説のような趣があります。

長編小説が人物描写や情景描写に時間(字数)をかけて徐々に盛り上げていくのとは異なり、短編には短編のよさがあって、いきなり核心をついて、いさぎよく切り上げる。したがって、余韻を楽しむには短編のほうが向いています。満腹になる前に終わってしまうからです。

「ステアケイス(階段)」「アワーグラス(砂時計)」「サンダイアル(日時計)」「サンド(砂)」と4つの題名がつけられたこの連作短編集が妙に心に引っかかるのは、その空腹感のせいじゃないかなと思います。

同じ構造が続く「階段」、区切られた時間を表す「砂時計」、逆に永遠にくり返す「日時計」、これ以上ないほどこまかく分解された「砂」。どういう意図でこのタイトルをつけたのかはよくわかりませんが、いずれも色彩感の乏しい理念的なお題のような気がします。そして、ここでくり広げられている音楽も、モノクロの絵画、もっというなら水墨画のような独特の味わいがあります。

一番好きなのは、「アワーグラス」ですね、やっぱり。美しいメロディーを瞬間的に創造できる才能こそ、キースがみんなから愛される理由だと思います。

 

Keith Jarrett "Staircase"
(ECM 1090/91)

Keith Jarrett (piano)

Produced by Manfred Eicher
Recorded at Davout Studio, Paris; May 1976

[Tracks: Disc 1]
01. Staircase, Part 1 (music: Keith Jarrett)
02. Staircase, Part 2 (music: Keith Jarrett)
03. Staircase, Part 3 (music: Keith Jarrett)
04. Hourglass, Part 1 (music: Keith Jarrett)
05. Hourglass, Part 2 (music: Keith Jarrett)

[Tracks: Disc 2]
01. Sundial, Part 1 (music: Keith Jarrett)
02. Sundial, Part 2 (music: Keith Jarrett)
03. Sundial, Part 3 (music: Keith Jarrett)
04. Sand, Part 1 (music: Keith Jarrett)
05. Sand, Part 2 (music: Keith Jarrett)
06. Sand, Part 3 (music: Keith Jarrett)

[Links: Keith Jarrett]
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2005年05月13日

キース・ジャレット『ケルン・コンサート』

thekolnconcert.jpg

前人未到、空前絶後のソロピアノによる完全即興コンサートの模様を収録した前作『ソロ・コンサート』は全世界で圧倒的な支持を得て、1974年のスイングジャーナル誌のジャズ・ディスク大賞金賞をはじめ(過去の受賞作については、JAZZ CD.JP で検索できます)、各国専門誌の賞を総ナメにしただけでなく、なんとニューヨーク・タイムスタイム誌のアルバム・オブ・ジ・イヤーまで獲得したそうです(でも、不思議なことに、キースはグラミー賞には一度も輝いていないんです。何かあるのでしょうか?)。

当然、次の作品に対する期待はふくらみます。プレッシャーも相当あったはずです。でも、キースとアイヒャーは見事にそれに打ち勝ちます。そうして生まれたのが、この『ザ・ケルン・コンサート』です。

作品としての完成度では、やはりこの『ケルン・コンサート』が一番だと思います。とくに〈パート1〉の美しさは筆舌に尽くしがたい。これが本当にその場で、その瞬間に生み出された即興芸術なのか。誰もが耳を疑うはずです。時間をかけ、試行錯誤をくり返し、いったんできあがった作品にもう一度手を入れる。そういう緻密な推敲を重ねて、ようやくたどり着くはずの完璧な構成美が、ここでは展開されています。

「インプロヴィゼーションというのは記譜による作曲を1000倍の速度で行うものだ」というキースの言葉がありますが、一方で彼は「私は自分で創造できるとは思いませんが、創造主とのチャネルになれると考えています。私は創造主を信じていて、事実このアルバムは、私という人間を通してあなたに届けられた創造主の作品なのです」と、前作『ソロ・コンサート』のライナーで告白しています(いわゆる「チャネリング」ってやつですね)。

おそらく、どちらも真実なのでしょう。これはあくまで私の印象ですが、『ケルン・コンサート』はかなりの割合で自己コントロールが効いたのではないかと思います。全神経を集中し、感覚を研ぎすまし、ものすごいスピードで頭をフル回転させて、次の展開を先読みする。そうでなくては生まれ得ない構成美だと思うのです。でも、『ソロ・コンサート』は自分のコントロールできる範囲を逸脱した。人智の及ばない領域で、誰かに導かれるように体が動き、物語をつむいでいった。まさに「神の存在」を身近に感じたのが、ブレーメンでのコンサートだったのではないかと思うのです。

みなさん、ナチュラル・ハイになったこと、ありますか? 私は何度かあります(私は酒もタバコもやりますが、ドラッグ関係に手を出したことはありません、念のため)。

職業柄、徹夜が多いのですが、締め切りが重なり睡眠不足が何日も続くと、ある瞬間から異常な集中力を発揮するようになります。アドレナリンが出まくり、極度の興奮状態に陥って、「オレってスゲエ」「オレってサイコー」とわめき散らしながら、ものすごい勢いで最後の追い込みをかけるわけです(笑)。もちろん、私のような凡人は、だからといって人を感動させるような作品が生まれるわけではないのですが、その瞬間は自分がふだんもっている力以上のもの、自分のコントロールを超えたパワーを発揮できるような気がします。

余談ながら、ドイツの古都ケルンは、ライン〜ドナウ川流域の多くの都市と同じく、古代ローマの植民市が発祥です。ケルンは植民市を表す「コロニア」のドイツ語読みで、「Koln」の「o」の上には2つの点が入ります。英語名は「Cologne」です(ネタ元は塩野七生さんの『ローマ人の物語』です)。

 

Keith Jarrett "The Koln Concert"
(ECM 1064/65)

Keith Jarrett (piano)

Produced by Manfred Eicher
Recorded by Martin Wieland
Recorded live at the Opera, Koln, Germany; January 24, 1975

[Tracks]
01. Koln, January 24, 1975, Part I (music: Keith Jarrett)
02. Koln, January 24, 1975, Part II a (music: Keith Jarrett)
03. Koln, January 24, 1975, Part II b (music: Keith Jarrett)
04. Koln, January 24, 1975, Part II c (music: Keith Jarrett)

[Links: Keith Jarrett]
keithjarrett.org (by Olivier Bruchez)
The ultimate on-line Keith Jarrett Discography (by Mirko Caserta)
Keith Jarrett Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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2005年05月12日

キース・ジャレット『ソロ・コンサート』

soloconcerts.jpg

久しぶりにキースのソロが出ましたね。どういうわけか、私のまわりにはキース・ファンの女性が多いようなので(笑)、『レイディアンス』の発売を記念して、今日からキースのソロピアノ作品を頭から順番に紹介する、というちょっと無謀な特集を組みたいと思います(途中で飽きちゃったらゴメンなさい)。

キース・ジャレットが、ECM のプロデューサー、マンフレート・アイヒャーの申し出によって、初のソロピアノ作品『フェイシング・ユー』を録音したのが1971年11月。マイルス・バンドのヨーロッパ・ツアー中、わずか3時間の出来事だったといいます(稲岡邦彌さん『ECM の真実』より)。

続く72年から、キースとアイヒャーは計18回にも及ぶヨーロッパ・ツアー(ソロピアノによる完全即興演奏)を敢行。その中から、73年3月のスイス・ローザンヌでの演奏と、同年7月のドイツ・ブレーメンでの演奏をピックアップして3枚組のLPとしてまとめたのが、この『<ソロ・コンサート』です。

それにしても、どえらいことを考えたものです。譜面なし、曲なしで、たった独り舞台に立ち、1時間以上も途切れなく演奏しつづける。ものすごいプレッシャーだと思います。全神経を集中して、感覚を極限まで研ぎすませないと実現できないことです。しかも、その音楽が聴衆を魅了し、世界中の人に感動を与えているなんて、この世の奇跡としかいいようがありません。

比べるのもどうかとは思いますが、私も人前で講義をする身です。2時間の授業に事前の準備なしでのぞむなど、想像しただけでも恐ろしい。しかも、それで生徒に感動を与えつづけるなんて。若い人は正直ですから、こちらがちょっと準備を怠っただけで、すぐに居眠りする生徒が出てきます(笑)。だから、よけいにキースのすごさが実感できるんです。

それだけプレッシャーのかかる行為ですから、やはり肉体も精神もボロボロになります。先のヨーロッパ・ツアー中、アイヒャーは自分で車を運転して満身創痍のキースを運んでいたそうですが、とくにブレーメンではひどかった。コルセットでなんとか体を支えて長時間ドライヴを乗り切ったキースですが、ホテルに到着と同時にベッドに倒れ込んでしまった。もうだめだ、このままではコンサートは中止するしかない。でも、キースは舞台に立ちます。そして、静かに鍵盤をつまびきはじめるのです。〈ブレーメン・パート1〉

稲岡さんは前掲書で、その音楽を「山の岩陰に端を発した小さな流れが、森を走り、山を下り、表情を変えながら川幅を増し、急流になれば蛇行して速度をゆるめ、やがて、とうとうと流れる大河になって海に流れ込む」と評されていますが、まったく同感です。実は私も、まさに「川の一生」を想像しながらこの音楽を聞いていたのです。今回、飯岡さんがまったく同じようなイメージでこの音楽をとらえていたことを知って、うれしくなりました。

もう1つ、〈ブレーメン・パート2〉の15分00秒から19分20秒あたりまで続く「桜吹雪」(と勝手に呼んでいます。桜の花びらが風に舞うなかを、桜の妖しさに魅入られた男が一人佇む。そんなイメージなんです)が私のお気に入りです。あまりの美しさにため息しか出てきません。

一連のキースのソロ・コンサート作品で、最初に聞くべきアルバムはやはり『ソロ・コンサート』だと個人的には思っています。というのも、この『ソロ・コンサート』では、まだキースもはじめてということで猫を被っていたのか、例のうなり声がほとんど聞こえないからです(笑)。

キースのうなり声については、実は私も気にならなくなるまでに何年か費やしたのですが、特効薬は目で見ること。

コンサートに足を運ぶもよし、映像作品を観るもよし(ビデオアーツ・ミュージックから何作か出ています)、とにかく一度でもキースのプレイを目の当たりにすれば、立ったり、座ったり、顔をしわくちゃにしたり、うなったり、という一連の行為が、キースの音楽表現と一体化していることがわかります。いったんそうとわかると、今度は音だけの作品を聞いていても、「ああ、ここでキースは例の渋面をつくっているだろうな」「ここで興奮して立ち上がったかな」などと想像する別の楽しみもあったりします。

 

Keith Jarrett "Solo Concerts"
(ECM 1035/37)

Keith Jarrett (piano)

Produced by Manfred Eicher
Recorded by Rolf Rockstroh (#1, 2), Pierre Grandjean, Alain Kobel (#3)
Recorded live at Radio Bremen, Kleiner Sendesaal, Losanna; Jul 12, 1973 (#1, 2)
Recorded live at Radio Suisse Romande, Studio Lausanne, Salle de Spectacles D'Epalinges; Mar 20, 1973 (#3)

[Tracks]
01. Bremen, July 12, 1973, Part 1 (music: Keith Jarrett)
03. Lausanne, March 20, 1973 (music: Keith Jarrett)

[Links: Keith Jarrett]
keithjarrett.org (by Olivier Bruchez)
The ultimate on-line Keith Jarrett Discography (by Mirko Caserta)
Keith Jarrett Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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2005年05月10日

レニー・トリスターノ『鬼才トリスターノ』

lennietristano.jpg Lennie Tristano - Lennie Tristano / The New Tristano

エディ・コスタの低音のロング・ソロを聞いていたら、急に思い出して、このアルバムを取り出しました。悪魔的な吸引力ということでは、ある意味、コスタの『ハウス・オブ・ブルー・ライツ』以上に圧倒される珍盤、邦題『鬼才トリスターノ』です。

いわゆるクール・ジャズを理論的に創造し、リー・コニッツやウォーン・マーシュなど、数多くの弟子を育て上げた文字どおりの鬼才、レニー・トリスターノの代表作ですね。1919年3月19日、イリノイ州シカゴ生まれ。1978年11月18日、ニューヨーク州ニューヨークで死去。

世間一般がそうであるように、ジャズの世界にも肉体派と知性派がいます。直感的に感情のおもむくままに行動する人たちと、頭で理解してから行動に移る人たち。「体で覚える」タイプと「形から入る」タイプといってもいいかもしれません。

ゴスペルやブルースに囲まれて育った多くの黒人にとって、ジャズのリズムは体にしみこんだものでした。だから、あえて「学ぶ」必要はない(トレーニングは必要ですよ、もちろん)。むしろ、楽器を操っていかに内なるエモーションを表出させるか。そのことに腐心してきたのではないかと思います。ジャズの歴史が、コード進行を極限まで複雑化させ、ついにはそれを乗り越えてモードに突入し、さらにリズムの制約も取り払ってフリーへと進化(?)したのは、それがエモーションの発露に直結するからじゃないかと思うのです。

ところが、そういう音楽的な背景をもたない人たちもいます(おもに白人ですね)。彼らはどうしたかというと、「理論」から出発するわけです。音楽を頭で理解し、分析して、自分なりに再構築していく。1940年代、黒人のビバップ革命を目の当たりにした白人の多くは、「この路線ではかなわない」と感じたのではないでしょうか(あくまで想像ですが)。そこで、それをいったん分解して理論化し、独自の解釈を加えて再構築していく。レニー・トリスターノが実践したのは、そういうことだったのではないかと思います。

それにしても、えらく濃密な音楽です。といっても、空気が淀んでいるわけではありません。むしろ、空気はチリひとつないくらい澄み渡っています、ただし、凍えるような寒さです。その寒さの中で、感覚を極限まで研ぎすまし、物音ひとつ立てただけですべてが台無しになってしまうような張りつめた緊張状態で演奏したら、こんな音楽になるのかもしれません。

「冷たい炎」と称されるトリスターノのピアノには、聞く者にもかなりの緊張感を強いる厳しさがあります。ドキドキしてしまうのです。この異様さが楽しめる人には、またとないアルバムになりますが、そうでない人には、ちょっとツライかも。私はたまに取り出しては圧倒されて、しばらく聞きたくなくなります。でも、いつかまたゾクゾクしたくて、取り出しちゃうんです。麻薬のようなアルバムです(笑)。

 

"Lennie Tristano"
(Atlantic 1224)

Lennie Tristano (piano)
Lee Konitz (alto sax) #5, 6, 7, 8, 9
Peter Ind (bass) #1, 4
Gene Ramey (bass) #5, 6, 7, 8, 9
Jeff Morton (drums) #1, 4
Art Taylor (drums) #5, 6, 7, 8, 9

Recorded at Tristano's home studio, NYC; 1954-1955 (#1-4)
Recorded at The Sing-Song Room, "Confucius Restaurant", NYC; June 11, 1955 (#5-9)

[Tracks] Lennie Tristano - Lennie Tristano / The New Tristano
01. Line Up (music: Lennie Tristano)
02. Requiem (music: Lennie Tristano)
03. Turkish Mambo (music: Lennie Tristano)
04. East Thirty Second (music: Lennie Tristano)
05. These Foolish Things (music: Jack Strachey, Harry Link / words: Holt Marvell)
06. You Go To My Head (music: J. Fred Coots / words: Heven Gillespie)
07. If I Had You (music+words: Ted Shapiro, James Campbell, Reg Connelly)
08. Ghost Of A Chance (music: Victor Young / words: Bing Crosby, Ned Washington)
09. All The Things You Are (music: Jerome Kern / Oscar Hammerstein II)

[Links: Lennie Tristano]
Lennie Tristano Experience
Lennie Tristano Discography Project (@ Jazz Discography Project)

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『ディス・イズ・タル・ファーロウ』

thisistalfarolow.jpg

日曜日は、静岡で今年度初めての講義をしてきました。最初というのはいつも新鮮で、ちょっぴり緊張するものです。受験生というのは毎年入れ替わるから、なおさらです(高2のときからとってくれた生徒もいますが)。彼らがこの1年でどれだけ伸びるか、今からすごく楽しみです。

タル・ファーロウはもともと看板描きを生業としていました。クラブやホールなどでよく出演者を紹介する立て看板が出てたりするでしょう。あれを描いていたわけです。ギターも弾くには弾いていたようですが、それはあくまで余技(実際、彼は最後まで譜面に強くなかったといいます)。そんな彼がジャズに目覚めたのは、1950年代当時のほかのギタリストたちの例に漏れず、ベニー・グッドマン楽団に在籍していたチャーリー・クリスチャンの演奏を聞いたからです。

プロとしてのスタートは21、2歳の頃というから、ずいぶん遅かったようです。今の感覚でいうと当たり前かもしれませんが、昔のミュージシャンの略歴を見ると、10代から、場合によってはロー・ティーンの時代からステージに立っていたという人が驚くほど多いんです。

下積み時代で印象に残るのは、スイング系のヴァイブ奏者レッド・ノーヴォのトリオへの参加でしょう。ノーヴォのヴィブラフォンにタルのギター、そしてチャールズ・ミンガス(!)のベースという変則的なトリオでの経験が、ドラムレスでも立派にスイングする、後のタルのスタイルの下地になったのかもしれません。彼らの演奏は、サヴォイ盤『ムーヴ』に記録されています。

タルとコスタの出会いが実現したのは1955年の秋、一通の電報がきっかけでした。ニューヨークにあった小さなクラブ「コンポーザー」のオーナー、サイ・バロンが、レッド・ノーヴォの元にいたタルに、エディ・コスタ、ヴィニー・バークと組んでお店に出演するよう依頼してきたのです。

これはあくまで私の想像ですが、ドラムのセットも満足に置けないほど小さな店だったのではないでしょうか。だからこそ、ドラムなしでもスイングする組み合わせが必要だったのではないか、と。だとしたら、このサイ・バロンの見識の高さは特筆ものです。天の配剤ともいえるタルとコスタの組み合わせを考え出したサイ・バロンに拍手!

こうして生まれたタルのドラムレス・トリオは、1958年に「コンポーザー」が店じまいするまで、同店で演奏を続けました。閉店後、トリオは解散。ついでにタルも引退してしまいます(ただし、68年のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルで復活)。ニュージャージーに引きこもったタルのもとを、ジム・ホールやバーニー・ケッセルら錚々たるギタリストが訪れてジャム・セッションに興じたという、心温まる逸話も残されています。

ディス・イズ・タル・ファーロウ』は、タル引退直前の58年2月に録音されました。残念ながらトリオでの演奏ではなく、ドラム入りのカルテットで、しかもベースがなぜか別人になっていますが、タルもコスタも健在です。数年後にコスタが亡くなってしまったことを考えると、なぜもっと録音を残してくれなかったのか。それが悔やまれてなりません。

 

Tal Farlow "This Is Tal Farlow"
(Verve MGV-8289)

Eddie Costa (piano)
Tal Farlow (guitar)
Knobby Totah (bass) #1-4
Bill Takas (bass) #5-8
Jimmy Campbell (drums)

Produced by Norman Granz
Recorded at WOR Studio, NYC; February 17 (#1-4), 18 (#5-8), 1958

[Tracks]
01. Lean On Me (music: Allan Green, Edwin Waldman)
02.Wonder Why (music: Nicholas Brodszky / words: Sammy Cahn)
03. Night And Day (music+words: Cole Porter)
04. Stella By Starlight (music: Victor Young / words: Ned Washington)
05. The More I See You (music: Harry Warren / words: Mack Gordon)
06. All The Things You Are (music: Jerome Kern / words: Oscar Hammerstein II)
07. How Long Has This Been Going On (music: George Gershwin / words: Ira Gershwin)
08. Topsy (music: Edger William Battle, Eddie Durham)

[Links: Eddie Costa]
The Official Site of Eddie Costa
Eddie Costa Discography (@ Tony King's Jazz Homepage)
[Links: Tal Farlow]
Tal Farlow: a Biography (by Guy Littler-Jones)
Tal Farlow (@ Dave Gould's Guitar Pages)

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2005年05月06日

『スウィンギング・ギター・オブ・タル・ファーロウ』

theswingingguitar.jpg Tal Farlow - The Swinging Guitar of Tal Farlow

同じ雰囲気の人間が自然に集まり1つの集団をつくるように、ギターのタル・ファーロウとピアノのエディ・コスタがお互いの匂いに引き寄せられるようにレギュラー・バンドを組んだのが1955年。以来、彼らはヴァーヴに3枚のアルバムを残します(その他、ザナドゥにも私家録音盤が2枚ある)。『スウィンギング・ギター・オブ・タル・ファーロウ』は、偶然というにはあまりによくできた彼らの出会いを記録した最初のレコードです。

「ピアノ+ギター+ベース」というのは今ではあまり流行らない形式ですが、昔はドラム抜きのトリオもまた市民権を得ていました。〈恋こそはすべて〉〈スターダスト〉など、とろけるような甘い歌声で一世を風靡したナット・キング・コール。彼はスゴ腕のピアニストでもあったのですが、その彼が採用していたのがドラムレス・トリオ。その形式は、同じくバカテクのピアニスト、オスター・ピーターソンにも引き継がれます。有名な「ザ・トリオ」結成以前は、ピーターソン (piano)、ハーブ・エリス (guitar)、レイ・ブラウン (bass) が固定メンバーでした。

ただ、ドラムスが生み出す多彩なリズムが、その後のジャズの発展において重要な役割を果たしたのはまぎれもない事実で、リズムの革新者がいないこの形式が、やがて廃れていくのは時代の必然だったのかもしれません。

タルとコスタのドラムレス・トリオは、そんな時代の趨勢に逆らうように登場した最後の名コンビでした。ドラム抜きというと、どうしても気の抜けた炭酸のような「しまりのなさ」を想像してしまいますが、タルもコスタも中低音を中心にドライヴしまくるタイプなので、演奏そのものは引き締まっています。さらにいうなら、タルの絶妙なバッキングがドラムの不在をほとんど意識させません。ヴィニー・バークの堅実なベースも一役買っています。

コスタ・ファンの私のおすすめは、3曲目〈ユー・ステップド・アウト・オブ・ア・ドリーム〉。急速調の演奏のなかにこそ、彼ら2人の最良の部分を聞きとることができます。

 

"The Swinging Guitar Of Tal Farlow"
(Verve MGV-8201)

Eddie Costa (piano)
Tal Farlow (guitar)
Vinnie Burke (bass)

Produced by Norman Granz
Recorded in NYC; May 31, 1956

[Tracks] Tal Farlow - The Swinging Guitar of Tal Farlow
01. Taking A Chance On Love (music: Vernon Duke / words: John Latouche, Ted Fetter)
02. Yardbird Suite (music: Charlie Parker)
03. You Stepped Out Of A Dream (music: Nacio Herb Brown / words: Gus Kahn)
04. They Can't Take That Away From Me (music: George Gershwin / words: Ira Gershwin)
05. Like Someone In Love (music: Jimmy Van Heusen / words: Johnny Burke)
06. Meteor (music: Tal Farlow)
07. I Love You (music+words: Cole Porter)

[Links: Eddie Costa]
The Official Site of Eddie Costa
Eddie Costa Discography (@ Tony King's Jazz Homepage)
[Links: Tal Farlow]
Tal Farlow: a Biography (by Guy Littler-Jones)
Tal Farlow (@ Dave Gould's Guitar Pages)

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2005年05月02日

タル・ファーロウ『タル』

tal.jpg

つい最近、桜の花を愛でたと思ったら、もう5月なんですね。季節の移り変わりは早いものです。GW の中休み、お仕事されているみなさん。今日は電車もすいているでしょうから、張り切っていきましょう(笑)。

タル・ファーロウは、白人ギタリストのソフト路線が中心だった1950年代のジャズ・ギター界にあって、スピードとテクニックをあわせもった傑出した才能の持ち主として、今でも多くのギタリストにリスぺクトされている存在です。1921年6月7日、ノース・カロライナ州グリーンスボロ生まれ。1998年7月24日、ニューヨーク州ニューヨークで死去。

中低音を中心に、強烈なドライヴ感でグイグイ引っ張る演奏というと、まるでエディ・コスタのピアノの紹介のようですが、実はこれ、タル・ファーロウにもあてはまる表現なんです。

そう、この2人の個性は実によく似ています。あえて「水と油」の2人を組み合わせて、両者の化学反応(ケミストリーですね)によって傑作が生まれる、というのもジャズらしくて楽しいのですが、もともと似た者同士の組み合わせで悪かろうはずがありません。そして、彼らの最高傑作として知られているのが、この『タル』なんです。

CDをプレイヤーにセットしたら、迷わず「5」を選択してください(頭から順番に聞くと、今の耳には少しゆるく感じられてしまうかもしれません)。5曲目の〈イエスタデイズ〉には、エディ・コスタの生涯最高のソロが記録されています。同じ曲を収録したザナドゥ盤『セカンド・セット』というアルバムもありますが、これはエド・ファーストという一ジャズ・ファンが記録した私家録音盤なので、音があまりよくありません。ただ、コスタのソロに関しては、こちらのほうが上だという意見も根強くあります。

ところで、タルやコスタの邦盤CDを買うと、だいたいジャズ評論家の油井正一さん(故人)の LP 当時のライナーが載っているのですが、これがなかなか味のある、いい文章なんです。油井さんといえば、ストーリー仕立てのアーティスト紹介が抜群にうまいのですが、淡々とした筆致のなかに、アーティストに対する愛が感じられます。私もこういう文章が書けるようになりたいと、日々思っています。



Tal Farlow "Tal"
(Norgran MGN-1102 / Verve MGV-8021)

Eddie Costa (piano)
Tal Farlow (guitar)
Vinnie Burke (bass)

Produced by Norman Granz
Recorded in NYC; June 1956

[Tracks]
01. Isn't It Romantic (music: Richard Rodgers / words: Lorenz Hart)
02. There Is No Greater Love (music: Isham Jones / words: Marty Symes)
03. How About You (music: Burton Lane / words: Ralph Freed)
04. Anything Goes (music+words: Cole Porter)
05. Yesterdays (music: Jerome Kern / words: Otto Harbach)
06. You Don't Know What Love Is (music: Gene DePaul / words: Don Raye)
07. Chuckles (music: Clark Terry)
08. Broadway (music+words: Henry Woode, Teddy McRae, Bill Byrd)

[Links: Eddie Costa]
The Official Site of Eddie Costa
Eddie Costa Discography (@ Tony King's Jazz Homepage)
[Links: Tal Farlow]
Tal Farlow: a Biography (by Guy Littler-Jones)
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